Fate/Scramble   作:DF946

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あの子じゃなかったら死んでた

 もじゃもじゃ髪の男が、大学食堂の中を見渡した。

 1時限目の時間だというのに、席がほとんど埋まっていて座れない。

 

 男は眼鏡を上げると、頭を掻いて困った。

 

「あかんわ、なんやねんこれ。今日何の日や」

 

 一足早く学校に来て朝食を食べようと思っていたが、座るところがない。

 

 しばらく食堂内をぐるぐると歩いていると、一つだけ席が空いていた。

 

「お、あそこでいいか」

 

 端っこのテーブルで知らない少女が座って、もぐもぐとパンを食べている。そこの前が空いているようだった。

 

「ここ、相席いいですか?」

 

 金髪の少女が反応して顔を上げる。言葉は通じないようだ。

 彼は彼女の答えを待たずに座ることにした。

 

 すると彼の頭の中に、低い男の声が響いてきた。

 

「マスター。敵のサーヴァントが近くにいるようです」

 

 声はアサシンのサーヴァントのものだ。霊体化し調査してきたアサシンが報告に来たのだ。

 

「マジか」

 

 アサシンのマスターである彼は小声で呟き、考えた。

 

「もう少し調べててや。俺は下手な動きしてバレないように学生に紛れ込んどくわ」

 

「了解」

 

 マスターを残し、姿の見えないアサシンが、またその場を離れて行った。

 

 

 

 

 

        *

 

 

 

 

 山本がやられたんだ。

 

 何かしないと、どんどん犠牲者が増えていく。

 俺はもどかしく下を向いて考えながら歩いていた。

 

 すると

 どん。

 と俺の肩が通行人とぶつかる。

 

「ごめんなさい」

 

 慌てて目を上げると、キャップ帽を被った赤髪のお姉さんが俺を見ていた。

 

「あ、たけるさん。おはようございます」

 

「えっ、あ。クロノスのセイバーさん!」

 

 俺は驚いて立ち止った。

 

「何してるんですか?」

 

 セイバーさんはいつもの肌が見える鎧ではなく、普通のジョギングしてる人みたいな恰好をしている。ポケモンGOのトレーナーみたいだ。

 

「たけるさんはここの学生だったのですね。私は敵の動向を探るために調査していたところです。……知っているかもしれませんが、ここの敷地内でサーヴァントの仕業とみられる集団昏睡が起こったんです」

 

「ああ、みんな知ってるんだな……」

 

「まだこの学内に敵がいる可能性が高いと思います。気をつけてくださいね」

 

「うん、ありがとう。俺はアルトリアのところに戻るよ。がんばってね」

 

 言うと、セイバーは怪訝な顔をした。

 

「そんな呑気でいいのですか? 私はマスターに止められていますが、もし私が敵のサーヴァントだったら、貴方を殺していましたよ」

 

 俺は一瞬だけ垣間見えた、彼女が巧妙に隠していた敵意を感じてぞっとした。

 

「う、うん……、俺も頑張る……」

 

 

 セイバーと別れ、俺は食堂に向かった。


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