もじゃもじゃ髪の男が、大学食堂の中を見渡した。
1時限目の時間だというのに、席がほとんど埋まっていて座れない。
男は眼鏡を上げると、頭を掻いて困った。
「あかんわ、なんやねんこれ。今日何の日や」
一足早く学校に来て朝食を食べようと思っていたが、座るところがない。
しばらく食堂内をぐるぐると歩いていると、一つだけ席が空いていた。
「お、あそこでいいか」
端っこのテーブルで知らない少女が座って、もぐもぐとパンを食べている。そこの前が空いているようだった。
「ここ、相席いいですか?」
金髪の少女が反応して顔を上げる。言葉は通じないようだ。
彼は彼女の答えを待たずに座ることにした。
すると彼の頭の中に、低い男の声が響いてきた。
「マスター。敵のサーヴァントが近くにいるようです」
声はアサシンのサーヴァントのものだ。霊体化し調査してきたアサシンが報告に来たのだ。
「マジか」
アサシンのマスターである彼は小声で呟き、考えた。
「もう少し調べててや。俺は下手な動きしてバレないように学生に紛れ込んどくわ」
「了解」
マスターを残し、姿の見えないアサシンが、またその場を離れて行った。
*
山本がやられたんだ。
何かしないと、どんどん犠牲者が増えていく。
俺はもどかしく下を向いて考えながら歩いていた。
すると
どん。
と俺の肩が通行人とぶつかる。
「ごめんなさい」
慌てて目を上げると、キャップ帽を被った赤髪のお姉さんが俺を見ていた。
「あ、たけるさん。おはようございます」
「えっ、あ。クロノスのセイバーさん!」
俺は驚いて立ち止った。
「何してるんですか?」
セイバーさんはいつもの肌が見える鎧ではなく、普通のジョギングしてる人みたいな恰好をしている。ポケモンGOのトレーナーみたいだ。
「たけるさんはここの学生だったのですね。私は敵の動向を探るために調査していたところです。……知っているかもしれませんが、ここの敷地内でサーヴァントの仕業とみられる集団昏睡が起こったんです」
「ああ、みんな知ってるんだな……」
「まだこの学内に敵がいる可能性が高いと思います。気をつけてくださいね」
「うん、ありがとう。俺はアルトリアのところに戻るよ。がんばってね」
言うと、セイバーは怪訝な顔をした。
「そんな呑気でいいのですか? 私はマスターに止められていますが、もし私が敵のサーヴァントだったら、貴方を殺していましたよ」
俺は一瞬だけ垣間見えた、彼女が巧妙に隠していた敵意を感じてぞっとした。
「う、うん……、俺も頑張る……」
セイバーと別れ、俺は食堂に向かった。