月の見える夜。
フードを目深に被った男が、アパートの壁をよじ登っていた。
男はアパート4階のベランダに飛び移ると、手すりから部屋の中に飛び込んだ。
部屋の床に着地すると、中で寝転がっていた男がそれに反応する。
「マスター。今帰りました」
男がフードを外すと、部屋の中でマスターと呼ばれた男が寝転がってテレビゲームをしていた。
男のマスターはもじゃもじゃのパーマで、メガネを掛けた大学生だった。
「おかえりー。どだった?」
マスターがゲームをしたまま、笑いながら彼に聞く。
アサシンのサーヴァントである彼は膝を衝き、マスターと対等の目線になって進捗を語った。
「アーチャーのマスター暗殺に成功しました。暗殺対象になっていた入月ミリアです。……しかし、そこに他のサーヴァントが居て妨害があり、アーチャーは取り逃がしました」
「え。おぉ。やったやん」
彼のマスターが飄々と言葉を返す。
「アーチャーはいいんちゃう。マスター殺したんやったらアレやし」
マスターがコントローラーを操作すると、画面の中で銃撃音が響き、人が死んだ。
「で、アーチャーとか他の奴は誰やったん?」
マスターはアサシンの顔を見ず、質問だけを投げかけた。
「はい。アーチャーはサングラスをかけ、皮のジャケットを着た金髪の西洋人男性。武器は小銃のようでした」
「小銃? そいつ、未来の英霊とかちゃうん。……てか、そっか。銃ってアーチャーなんやな」
ボタンを押す。操作キャラクターがまた人を殺す。
「後2体のサーヴァントが居ましたが、両方とも女で甲冑を纏った剣士のようでした。一人は赤髪の双剣使い。もう一人は金髪碧眼で金色の剣を振り回していました」
「金色の剣……?」
その言葉にマスターが反応を示す。
「……なぁ、もしかしてそれって、アレちゃうん? セイバーちゃうん!? ちょっと聞くの嫌なんやけど、そいつって青いドレスみたいなん着てなかった?」
アサシンが答える。
「あぁ。着てた気が」
マスターがゲームから目を離しアサシンの顔を見た。
「絶対ぇそれアレやんけ! やっぱそうやー! うわもう嫌やー!! アルトリアやん!! うわーもうマジかっ」
「ご存知で?」
「あたりまえやろ! アルトリアって、アレやぞアレ、あのー、第5次聖杯戦争の。めっちゃヤバいやつや!」
「……どうするんです?」
マスターはまたゲームに戻ると、簡単そうに言った。
「決まってるやん。ーーーーマスターを殺せば楽やろ」
ニヤリと笑う。
ゲーム内で、銃声が鳴る。