Fate/Scramble   作:DF946

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召喚失敗?

 とりあえず彼を応接間に連れて行き、話をした。

 

 ここは緋咲家の談話室である。

 外は夜の帳が降り、暖炉の炎が赤々と燃えている。

 

 話しをするうちに、彼には記憶が無くなっている事がわかった。

 

 

「記憶もないのに家に帰ろうとしたわけ」

 

「あれ……。うーん、なんでだろう。名前も思い出せない」

 

 困ったのはこっちだ。と緋咲は思った。

 ただの一般人だったのなら追い返して、もう一回サーヴァントを呼び出せばいいだけの話だ。

 

 

 しかし、彼を呼び出してしまった自分の右手の甲には、はっきりと、マスターの証である〈令呪〉が刻まれていたのである。

 

 

「いい? あなたは英霊として召喚されたの。なら名のある戦士なんでしょう。何か、自分のクラスでもいいから、思い出せる事はないの?」

 

「戦士? ……いやー、ただの会社員だったような気がするんだけど……」

 

 話にならない。

 だが令呪をさずけられただけの一般人など、聖杯が英霊として選ぶはずがないのだ。

 

「最初から説明しなきゃいけないのか……。

 ええと、あなたはわたしが聖杯戦争を戦う為のパートナーとして召喚したの。

 聖杯戦争っていうのは、その名の通り聖杯を求めて奪い合う戦争の事よ。

 6人の参加者全員を倒し、最後の一組になった2人だけが、その聖杯を手に入れ、己の願いを一つだけ叶える事ができる。

 あなたはわたしが勝つ為に、他の魔術師を殺す戦士よ」

 

 男はその話に顔をしかめた。

 

「は? 何言ってんだよ。自分の願い事の為に人を殺す? ダメだろ!」

 

「ダメって……、じゃああなたは何の為に召喚されたと思ってるのよ」

 

「嫌だよ。俺、そんな事の為に手伝う気ないから。あんたもやめよう!」

 

 はぁ。と緋咲は溜め息をもらす。話にならないどころではない。

 

「わたしだって、あなたのような役に立たない英霊はお呼びじゃないわ。いいから早く真名とクラスを思い出しなさい」

 

「……クラス?」

 

「聖杯戦争に召喚される7体の英霊には、それぞれクラスっていうのが割り振られてるの。

 剣士のセイバー

 槍兵のランサー

 弓兵のアーチャー

 騎士のライダー

 暗殺者のアサシン

 魔術師のキャスター

 狂戦士のバーサーカー

 

 このなかであなたに思い浮かぶものとか、共通点のあるものはない?」

 

 

 男が考える。

 

「いや、別に。弓道も剣道もやってなかったし……。あ、でも小型二輪免許なら……」

 

 スクーターには乗れるらしい。

 

「まあいいわ、少しづつ思い出してるみたいだし……。とにかく早く、身を守れるくらいまでには魔力を使えるようにしなさいよね」

 

 男は釈然としないようだった。

 本人としては突然拉致され、強制労働をさせられようと言うのだ。緋咲の願いの為に。

 

「なぁ。……あんた、その聖杯の力で願いを叶える為に殺し合いをしに行くんだろ?」

 

 男の問いに、緋咲は顔を向けた。

 

「そうまでして叶えたいあんたの願いって、なんなんだ?」

 

 緋咲はまた顔を背けると、呟いた。

 

「なんでもいいでしょ。……下らない事よ」

 

 

 


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