シンジは、緋咲が調査を終えて帰るまで、ずっとついていった。
緋咲邸に帰り着いて与えられた自室で時間を潰し、夕食を作ってもらうまで待機する。
シンジはただの穀潰しになっている事を自覚していた。
どうして知らない女性に養ってもらう事態になったのか見当もつかない。
突然、気が付いたらこの屋敷の食客なっていたのだ。いや、彼女のヒモだった。
シンジは思い出せてはいないが、小さくても実力のある会社に勤めていて、その仕事に誇りをもっていたはずだった。
でも今は、呼び出されたはいいが何も出来ない、彼女の迷惑になってただ生きているだけの存在に成り下がっていた。
「いや、だめでしょ。なんかしないとな俺!」
緋咲が料理をしていると、調理場にシンジが入ってきた。
「どうしたの」
「いやー、暇だったからさ。なんか手伝う事ないかなって!」
緋咲は一人で料理がしたかったが、無碍にするのも悪いので、野菜の皮むきをやらせた。
「……今日は大変だったよね。お友達も、殺されちゃって」
シンジは無言が怖くなって話しかけた。
緋咲は鬱陶しく思いながらも、憮然と答える。
「ええ。敵同士が潰し合ってくれたお陰で、アーチャーのマスターが倒せたわ」
「そんな言い方……。あの人、緋咲さんの友達だったんでしょ?」
「関係無いわ。サーヴァントと契約した時点でみんな敵よ」
「でも」
「うるさい」
シンジが黙り、また沈黙が続いた。
「あのアーチャーも死んじゃったのかな」
悪びれずシンジがまた口を開く。
「あいつはまだ生きてると思うわ。でもマスターを失ったから、魔力供給がなくなっていずれ消滅するでしょうね」
「聖杯戦争で敵を倒すときって、サーヴァントを倒せばいいんじゃないの? サーヴァントって幽霊なんだし、殺しても大丈夫なのはサーヴァントの方でしょ?」
またシンジが馬鹿な質問をしたように緋咲が返した。
「それはサーヴァントなら殺しても罪悪感が少ないっていうだけの、あなたの価値観でしょう。
確かにサーヴァントは概念みたいなもので、人間の集団的認知で生み出された原型から、聖杯によってコピーされて出来た借りの人格よ。殺しても罪にはならないでしょうね。
でもそれゆえにサーヴァントは人間より強いし、倒すのも困難なのよ。本気で聖杯戦争を勝ち抜きたい者なら、倒しやすいのはマスターの方でしょ。それが合理的な考え方よ」
シンジは反論したくて考えたが、出来なかった。
「でも、そんなの俺は認めないよ! 絶対こんな戦い止めてやる。緋咲さんも俺が守る。俺は、みんなを守る為だけに聖杯戦争に参加するから」
緋咲はフッと鼻で笑って、言った。
「その安っぽい正義感で何が出来るかしら」
「っ! 俺は……痛てっ」
シンジは皮むき中に手を切ってしまい、ジャガイモを落とした。
「あわっ」
慌てて拾おうとして頭がテーブルにぶつかる。
その衝撃でテーブルの上にあった高級そうな陶磁器の器が落ちて割れた。
「わぅ……」
シンジが申し訳無さそうな目で、ゆっくりと緋咲を見上げた。
緋咲は呆れた顔で、はぁ……と溜め息をついて自分の額をおさえた。