Fate/Scramble   作:DF946

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殺し合い

 柱の向こう側で、階段を上がりきった侵入者の気配を感じた。

 

 それを感じたらしいアルトリアが俺の手を振りほどこうともがく。

 

 体重の軽い方の足音が近付いてくる。

 もうすぐそこだ。

 

 ーーーーーー。

 

「今だ!」

 

 クロノスは俺に頷くと、柱の陰から飛び出した。

 それに続き俺もアルトリアを手放し陰から身を乗り出す。

 

 そこには、ブロンド髪の女が居た。

 その後ろには金髪で背の高い外国人の男。

 2人とも俺達の突然の出現に目を見張っている。

 

「やれ、セイバー!」

 

 命令と共にセイバーが剣を持って飛びかった。

 その先にはブロンドの髪の女が、強襲に身構えた。

 

「危ない!」

 

 女の後ろから金髪の男が飛び出し、セイバーの剣劇を受け止めた。

 男の武器は見た事も無い形のハンドガンだ。

 

 

 獲物を前にしたアルトリアはうなり声をあげ、全身に光を纏いはじめる。

 かと思うと一瞬にして青いドレスに、胸と腕と足の装甲がついた戦闘用の姿になった。

 

 アルトリアが女に襲いかかる。

 

「っ!」

 

 身構えたブロンドの女が、持っていた銃でアルトリアを迎撃する。

 

 アルトリアは突然取り出した黄金の剣を一薙ぎすると、その衝撃で全ての銃撃を弾き飛ばしていた。

 

「マスター危険だ!」

 

 横から、セイバーと対峙していた金髪の男がアルトリアを銃撃する。

 

 突然アルトリアの肩装甲に撃ち込まれた銃弾は爆発を起こし、その爆煙がアルトリアの視界を覆った。

 

 アルトリアはまとわりつく黒煙を掻き飛ばし、逃げ出そうとする女の方へ跳躍する。

 そして女の頭上を飛び越えると、階段へ逃げようとした女の前に立ちふさがった。

 

「くっ……」

 

 女は逃走経路を断たれたと悟り、瞬時に踵を返すと、

 今度は俺の方に飛びかかって来た。

 

 ドンッ! という地面を蹴った強烈な音と共に、俺との間合いを一気に詰める。

 

〈うそだろ、早過ぎるっ!〉

 

 女は拳を握り込むと、俺の顔面を狙いもの凄い勢いで叩き込んできた。

 

 バゴン!

 

 ガードした腕に加わった衝撃波で俺の身体が吹き飛ぶ。

 俺はコンクリート剥き出しの床に背中を引きずって倒された。

 

「ぐっ」

〈なんだこの強さ!〉

 

 女の腕と脚には、血管のように浮き出た模様が光を放っていた。

 魔力で身体能力を強化しているのか!

 

 女が窓の方へ向って走って行く。

 まさか、四階の窓から飛び降りるのがあいつの逃走ルートか!

 

 そう思った俺の頭上を、アルトリアが飛び過ぎた。

 

 直後、猛烈な勢いをつけたアルトリアの飛び蹴りが、女の背中に突き刺さっていた。

 

 女が突き飛ばされ、対面の壁に激突する。ぐしゃっという生々しい音が響き渡った。

 背中の骨が、折れる音だ……。

 

 女が床に倒れ込む。

 壁が血で汚れる。

 

 俺は愕然と、その光景を見つめるしかできなかった。

 俺の知らない女の人が、敵のマスターというだけで狩られている。それだけの光景だった。

 

 でもあの女の人にも願いがあって、

 はっきりとした願いなんて持たない俺が召喚したバーサーカーが、意味も無くのその人をただ殺す。

 これは、……そういう光景だった。

 

 

 ブロンドの女が立ち上がった。

 

 身体はボロボロになり、頭と口から血を流している。

 何本も骨が折れているはずなのに、それでも魔術で治しているのか、ふらふらと窓へと向って脚を引きずって行く。

 

 アルトリアは殺戮の愉悦に目を滾らせると、持っている剣を振りかざした。

 

 剣が光を放ちだす。

 女との距離が離れているが、あの剣で放たれる光はあの女の人を確実に仕留めるだろう。

 

 剣が光を増す。

 アルトリアが剣を振り上げる。

 そしてーー

 

 

 

 

 

「やめろっ!」

 

 

 

 

 俺は咄嗟に叫んでいた。

 アルトリアが振り返る。

 

 その一瞬をついて女が銃弾を放った。

 

 弾倉全てを使った魔弾の連撃がアルトリアに撃ち込まれ、とたんに爆煙と炎に飲まれ彼女はうずくまった。

 

 

 ブロンドの女は最後の力を振り絞って窓際へと向う。 

 

 そして、 

 

「えっ……」

 

 

 

 女が目を見開く。

 

 

 女の前には、いつの間にか現れていた、見知らぬ男が立ち塞がっていた。

 

 謎の男は白いフードを目深にかぶり、肩や腕やベルトに甲冑のような装甲を付けていた。

 

 

 両腕には、手首にナイフの仕込まれた篭手が装着されている。

 

 男はその両腕を前方に交差して、女の頚元に当てていた。

 

「!!」

 

 女が何か叫ぶよりも早く、フードの男は両腕を真横に引いて開いていた。

 

 

 ブシュ、と肉の切れる音と共に、女の首から鮮血が迸る。

 

 女は声を上げる事もできずに地面に倒れこんだ。

 

 セイバーと闘っていた金髪の男が、それを見て叫んだ。

 

「ミリア!!!!!」

 

 金髪の男がセイバーとの戦いから離れ、フードの男に銃を向ける。

 

 フードの男が顔を守る為に腕を上げると、

 腕の装甲に銃弾が炸裂し、フードの男を吹き飛ばした。

 

 フードの男はそのまま背にしていた窓の外に弾き出されると、その場から退場するように居なくなった。

 

 何が起こったのか理解出来ない俺の横を、金髪の男がかけていく。

 

「ミリア!!!」

 

 

 駆けつけた金髪の男が、血溜まりの上でうつ伏せる女の元で膝をついた。

 

 

「そんな、うそだろ、ミリア」

 

 男が、ミリアと呼ばれた女を抱き起こす。彼は彼女のサーヴァントだったのだろう。

 男はマスターの死を確認し、愕然としていた。

 

 

 

 それを見ながら、クロノスが呟く。

 

「セイバー。やれ」

 

「はい」

 

 うそだろ!?

 仲間の死を見て戦意を失っている相手に対して、非情にもクロノスはセイバーをけしかけた。

 

 双剣を構え、セイバーが飛びかかる。

 金髪の男はそれに気付くと、憤りをあらわに銃口を向けた。

 

「糞が!」

 

 男が放った銃弾はセイバーの剣で弾かれて爆発する。

 

 セイバーが攻撃をしようとしたときには、既に金髪の男も窓から飛び降りていた。

 

 女の死体を残し、フードの男と同じように逃げてしまったのだ。

 

 

 

 あとに残されたのは俺と、クロノスとセイバーとアルトリア。

 

 そして血まみれで横たわる、女の死体だけだった。

 

 


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