緋咲が手を伸ばす。
シンジはその手を取ると、立ち上がった。
「死ぬかと思った……。ごめん、ありがとう」
シンジが服の砂を払う。
緋咲がそれを見ながら、腰に手を当てながら不満を洩らした。
「本当はサーヴァントがマスターを助ける役目があるんだけど」
そんな事を言われても、とシンジは頭を掻いた。
「いい? わかってると思ったけど、私が死んだらおしまいなんだからね。あなたはいくら傷ついても魔法で直せるし、あなたが死んでもマスターさえ残っていれば、まだ聖杯戦争を続けられるんだから」
「いやいや! 俺が死んだら俺が終わりだって!」
「あなたは死んでもいいじゃない。もう死んでるんだから」
シンジは一旦考えて、聞き返した。
「………………えっ?」
緋咲も何が「え?」なのかわからずに、聞き返していた。
「え?」
「いや、え? じゃなくて。もう死んでるって、どういう事なの??」
「だってあなたは英霊なんだから、過去か未来で死んだ人の魂なんでしょ?」
「えっ……ちょっとまって」
シンジは視線を外すと、頭を抑えて考えた。
理解が追いついていない。
「だから、あなたは幽霊なのよ。前世がどんな人だったのかわからないけど。まさか自分が死んだ事まで忘れちゃってたなんてね」
「まじで……?」
(そんな……。まさか。……俺が死んでいたなんて)
シンジはあまりのショックに頭が混乱しているのを感じた。
「ミリアのサーヴァントがアーチャーだったし、あなたはアーチャーじゃなさそうね。バーサーカーにも見えないし。なんなんだろう」
緋咲の言葉がシンジの頭を上滑りしてゆく。
自分が本当に闘わされる為だけに召喚され、緋咲のお陰で現界しているだけなのだと実感する。
「ミリアも事故現場を探っていたって事は、犯人はアーチャーじゃないのかも。もう少し探ってみる必要がありそうね」
シンジが頭にこめかみに両手をあてて、固まったまま動かなくなっている。
「……シンジ。どうかした? 次のところに移動するわよ」
「あ、うん。……はい」
死んでいた事はショックなのに、生前の未練も何も思い出せない……。
シンジは何か分からない複雑な気分になっていた。
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