授業中は大変だった。
狂犬病の狼が乗り移ったみたいな女の子がずっと隣で呻いてるんだからな。
そりゃあ、アルトリアを一人にさせるなんてできない。その方がもっと大暴れするんだからな。
そしてアルトリアを大学の講義に連れて行ったおかげで、周りから白い目でみられるのは当然の結果だったんだ。
「なあアルトリア……もうちょと女の子らしく振る舞えないかなぁ。もう隣の人の消しゴム、食べちゃだめだよ?」
俺はアルトリアを連れて、大学の食堂に入っていた。
ガラスケースに入った食品サンプルに飛びかかろうとする彼女を抑えて、券売機に並ぶ。
「ぐるるぅ……」
「アルトリアにも食べさせないと、俺が食われるよな……。お金無いし……B定食でいいか」
俺が千円札を券売機に入れると、アルトリアがボタンに体当たりした。
「ああああ! 勝手に! ってかロースカツ定食!? 高っ!」
アルトリアがロースカツを食べてる横で、俺は卵かけごはん(200円。全学食中最安)を食べる羽目になった。
俺がしょぼんと卵をかき混ぜていると、後ろから誰かに背中を叩かれた。
「よっ、タケル」
「おお、山本か」
同じ学科の山本だった。山本は大学に入り初めてできた友人で、よく遊ぶ悪友だ。
「なんだ、また卵かけごはんかよ」
と笑う。
「うっせえ」
「あれ、……この人は?」
山本がアルトリアの方を見る。4人掛けのテーブルで2人で座っているのだから、勘繰られるのはしょうがない。
「えっと、その……彼女は……」
「え、もしかしてカノ……」
「いやっ、そういうんじゃなくて! なんていうか」
ボディーガードなのか、ペットなのか。
山本は流れるように自然にアルトリアの横に座ると、彼女の目を見て自己紹介を始めた。
「山本ですはじめまして。山Pって呼んでください。あなたのお名前は?」
「ふぅ?」
アルトリアは阿呆みたいな表情でみそ汁を飲みながら、上目遣いで山本の目を見た。
アルトリアは凄く清楚で気品があり、あんな女の子らしい目で見つめられたら恋に落ちてしまうだろう。
みそ汁をダバダバと白シャツの胸にこぼしていなければ。
「えーっと、フウちゃんだよ。俺の親父の妹の従兄弟の知り合いの息子のメル友で、今年から日本に留学してきたんだ」
「へーそうなんだ。なんだ彼女じゃないんだ! よろしくねフウちゃん!」
アルトリアはもう山本に興味を失ったらしく、ロースカツを手づかみで食べていた。
「ははは……、個性的な娘だね」
「だろー。剣からビームも出せるんだぜ」
話していると、いきなり俺のケータイの着信音が鳴り始めた。
誰だろう。
見ると、畔野巣終始と書いてある。クロノスからだ。
俺は少し席を立つと、電話に出る。
「はい、間森です」
『間森くん、今だいじょぶかい? すぐに来てもらいたいんだが』
「えーっと……」
俺はちらっとアルトリアの方を見る。話しかけてくる山本を、鬱陶しそうにご飯粒だらけの手で押していた。
「大丈夫ですよ。何かあったんですか?」
『ああ、敵との戦闘になるかもしれない。君のバーサーカーに援護してもらいたい。今から言う場所に来てくれ』
「はい」
俺はクロノスが言う住所を頭の中に書き留めた。
援護。戦闘。なにか凄い依頼をされたようで、気持ちが高揚する。
「わかりました。すぐに行きます」
俺は電話を切ると、アルトリアに声をかけた。
「アルトリア、そろそろ行こう。ごちそうさまして」
アルトリアは油まみれになった手をペロペロ舐めながら俺の言葉に反応する。
「え、もう行くの?」
困惑する山本を置いて、俺達はすぐに学食を出て行った。