緋咲は苛ついたような足取りで、路地裏を進んでいた。
シンジがはぐれないように後を追ってついていく。
2人は手掛りを求め、別の事故現場へ向って行くところだった。
「待って下さいよ。緋咲さん、なにがあったんすか? さっきの人達は」
シンジが聞くと、緋咲は、はぁ……、と溜め息をついて答えた。
「なんでもない。私のライバルみたいなもんよ。あなたにとっては殺すべき敵よ」
「敵って……でも、友達じゃないのかよ! なにがあったのかしらないけど、闘うなんて間違ってる! 同じ目的を持って闘ってるんだしさ、話し合って強力すればいいんだ」
緋咲は呆れたように「はぁ?」、とシンジを見た。
「あなた、本当に分かってないみたいね。殺し合って最後に残らなきゃ聖杯の力は使えないのよ。聖杯戦争に参加した時点で、私たちが殺し合うのは必然でしょう?」
「そんなの……絶対間違ってる。俺が止めてやるよ。聖杯戦争なんて」
緋咲は綺麗な眉根を寄せて、シンジを睨む。
「……馬鹿じゃないの」
「え」
「手駒に過ぎないあなたに、私の願いは邪魔させない。……あなたやっぱり、私のサーヴァントに向いてないわ」
シンジはそれを聞いて、ぼそっと呟いた。
「……馬鹿なのは、あんたの方なんじゃないのか」
「?」
「最後の一人になったら願いが叶うなんて、誰に教えられたのか知らないけど。それに踊らされてるだけなんじゃないのって事」
「……」
その時、突然背後に感じた気配に、緋咲は「はっ」と振り返った。
シンジもその反応に気付き目を向ける。
彼らの背後には、突然姿を現した男が、こちらを見据えているところだった。
「ミリアのアーチャー……」
男は金髪長身、ヘッドギアのようなサングラスをかけている、若い外国人。ーーさっきの戦いで緋咲に銃を向けていたサーヴァントだ。
「何の用?」
緋咲が懐の拳銃に手をかけ、身構える。
気付くと、周りに人は誰も居なくなっていた。
アーチャーが爽やかな笑顔で口を開く。
「マスターに、ひとけの無いところで殺して来いって言われてね」
「!?」
その瞬間、緋咲は銃を引き抜きその男へ向けていた。
しかしその直後、ノーモーションで緋咲との間合いを詰めていたアーチャーによって腕を掴まれる。
瞬く間に緋咲は突き飛ばされ、近くにあったコンクリートの壁へと押し倒されていた。
「緋咲さん!」
「ごめんねお嬢さん」
壁に押し付けられた緋咲の顔と、アーチャーのハンサムな横顔が近付く。
アーチャーが耳元に口を近づけると、「くっ」っと目を瞑って緋咲は顔をそらした。
「倒せって命令されたのは君じゃないんだ」
アーチャーは緋咲を離すと、シンジの方へ身体を向けた。
後ろで緋咲が倒れ込む。
「お前、サーヴァントだろ? なんのクラスか知らないけど、ーー……死んでもらうぞ」
「!」
アーチャーは言い放つと、シンジに銃を向けた。
シンジが間一髪でゴミ捨て場のフェンスの裏へ隠れると、銃弾の当たったゴミ捨て場が大爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。
「うわぁっ! ちょっと! ヤメロ!!!」
もう一発発射された銃弾がシンジをかすめ、背後で同じ大爆発がおこる。
「わかったから!! 負けた! 話し合おう!!!」
尻餅をついて逃げ回るシンジを見て、アーチャーは苦笑いをした。
「お前、本能にサーヴァントか? まあいいや。さようなら」
アーチャーが狙いをつけ、引き金に指をかける。
その瞬間。
「うっ!……?」
アーチャーの動きが止まった。
後ろを振り向くと。
アーチャーの背中に、ナイフが刺さっていた。
「おまえ……」
アーチャーが緋咲を睨む。緋咲が背後からナイフを投げたのだ。
「サーヴァントがこの程度で倒せると思うなよ」
アーチャーは背中に刺さったナイフを抜こうとして、
ガクッと膝をついた。
「マスターがその程度だとも思わない事ね」
緋咲の嘲笑にアーチャーが目を見張る。
「毒?!」
「残念、それは
それを聞いてアーチャーは悔しそうな顔をしたあと、苦笑いした。
「あーあ。ちょっと、マスターに怒られてくるか。……またなお嬢さん」
言い残すとアーチャーは。フッと掻き消えるように居なくなった。
シンジは腰が抜けていた。