彼ーーーーシンジは大きなバイクの上で、緋咲の腰にしがみついていた。
轟音とともに風を切り車道を疾走する。
「緋咲さん早いよ! ちょっと! うわーーーー!!」
目的の場所に到着したときにはシンジはヘトヘトになり、バイクから降りてへたれ込んでいた。
「ついたわよ」
「はぁはぁ……緋咲さん、運転荒すぎ……はぁはぁ……」
「サーヴァントがあのくらいの早さに耐えれなくてどうすんのよ。いいから行くわよ」
緋咲がヘルメットを置いて歩き出す。
シンジも慌てて後をおった。
2人が到着したのは今朝テレビで映されていた事件の現場だった。
道路沿いにあるパン屋らしいが、今は店員もその場に居た客も全員昏睡し病院へ送られている。今は営業中止中だ。
「ここね」
店の中ではガス会社の職員らしき人達が点検をしている。
「なにか、サーヴァントが残した形跡があるかも……」
「なるほど……」
しばらくシンジ達が店の周りをうろついていると、突然バイクのエンジン音が近付いて来た。
「?」
彼らの居るパン屋の前で止まったバイクに乗っている運転手が、じっと彼らの様子を窺っていた。
シンジがそれに気付き、緋咲を呼び止める。
「緋咲さん」
「え?」
緋咲と、そのバイクの人物とが、目を合わせて止まった。
バイクの人物はヘルメットを被っていて顔が見えないが、緋咲はじっとその人物を睨みつけている。
何者なのか、考えていると、唐突にバイクの人物が言葉を発した。
「ーー緋咲、煉? ……ふん、そういうこと。あなたも聖杯戦争に参加してたんだ」
聖杯戦争の事を知っている!?ーーシンジは身構えた。
「あなたは……まさか、ミリア?」
緋咲が驚いた声を出すと、ミリアと呼ばれた女がヘルメットを外した。
「まさか同じ事を考えているなんてね。おどろいたわ。……ふふふ、あなたも魔術の痕跡からどのサーヴァントが犯人なのか探りにきたんでしょ」
ヘルメットを外した女は、緋咲と同い年くらいだった。ブロンドの長髪を靡かせる、西洋風の顔立ちの女だ。
「それにしても、あなたまで聖杯が欲しかったなんてね」
「うるさい」
緋咲は突然コートから拳銃を取り出すと彼女へと突き付けていた。
「私も遭えて嬉しいわ。聖杯戦争を名目にあなたを殺せるんだものね!」
シンジは突然の事に動揺して緋咲をなだめた。
「えっ!? ちょっ、緋咲さん?! そんなの出しちゃダメだって! 人に見られちゃうよ!」
銃を向けられたミリアは、怯みもせずあざ笑うかのように言った。
「あらあら、凶暴なお姉さんですね。まさかこんな所で闘ったりしないでしょ? 警察に捕まるわよ」
「あなたを殺せるなら関係無いわ」
「……本当に、殺せると思ってるの?」
「!?」
突然、空気の中から実体を現したかのように、ミリアの前に男が現れた。
金髪で長身の外国人。妙なデザインのジャケットを着ていて、ーー銃を緋咲に向けていた。
「殺さなくていいわアーチャー。ここは人目があるから」
アーチャーは緋咲の前に立ちはだかったまま銃を向け続けている。
アーチャーの後ろで微笑みながら、ミリアがシンジに目を向けた。
「そういえば、そのお兄さんは誰なの? ……まさか、あなたのサーヴァントだったりする?」
ミリアは半分冗談のつもりでシンジの事を聞いてくる。そのとおりサーヴァントだが、シンジはどう答えていいのか分からなかった。
「そんなはずないでしょ。仲間のマスターよ」
「へぇ……」
ミリアが品定めするようにシンジを見つめていた。
「4対2よ。逃げた方がいいんじゃない?」
緋咲に言われ、ミリアはとんでもないという顔をする。
「私は戦う気はないわ。すぐ帰るもん。……お店を見てからね」
緋咲は銃を下ろすと、ミリアに背を向けた。
「行くわよシンジ。早くしなさい」
ずんずんと歩いて行ってしまう。
「え、ちょっと、まってよ」
慌ててシンジも、少しだけミリアに会釈をしたあと、駆け足で緋咲の後を追って行った。