エア、そしてシアの両者をボールに納め、コトキタウンへと戻ってくる。
ボール? 事前にフレンドリィショップで買った。ヒトガタがいると分かっている時点で自身の仲間の可能性があったし、もらったお小遣いの半分が消えたがまあ必要経費だろう。
ポケモンセンターに行くと、中はトレーナーで賑わっていた。
この世界ではゲーム時代に見たよりもずっとトレーナーの数が多い。と言っても当たり前の話、まず人口からして違い過ぎる。
ゲームで登場した人数で数えると、ミシロタウンなど人口十人弱の限界集落である。
そもそも主人公の家、お隣さん、研究所しかない時点で、他の人の家どこ行った、と言う話であり、実際はもっと家の数は多い。と言っても、それほど多いわけでも無いが。
コトキタウンも例に漏れずそれなりの数の家やそれに伴う店々が存在する。
そして人口が多い、と言うことはそれだけトレーナーになる人間の数も増えると言うことである。
ミシロタウンは年齢層の関係からか、トレーナーと言うのは居ない。正確にはトレーナーを専門に生きている人間は居ない。研究所の人たちが多少トレーナーの真似事ができるくらいである。
あそこは交通的な意味で言えば閉所、コトキタウンにしか繋がってない上に、周辺で出るポケモンもゾロアやヨーテリーが多少珍しいくらいで、それ以外に特徴と言った特徴も無い。
逆にコトキタウンは東に行けばキンセツシティやカイナシティへと繋がり、西に行けばポケモンジムもあるトウカシティに繋がる。そう言う意味ではミシロタウンよりも人、と言うかトレーナーの行き来は多い。
そしてトレーナー必須の施設が街に二つある。
一つがフレンドリィショップ。
言わずもがな、道具を買いそろえるための場所。
そしてもう一つが、ゲームなら誰も最もよくお世話になるだろうポケモンセンターである。
「ではポケモンをお預かりしますね…………ふふ」
「…………よろしくお願いします」
五歳児ショタに微笑ましい…………と言うか、怪しい視線を送る受付のお姉さんに寒気を覚えながら、エアとシアの二人を預ける。
そしてカウンター脇にパソコンがあるが、当たり前だが預りのボックスを開いても何も入ってはいない。
「…………いっそ最初から全員ここに入ってたら楽なんだけどな」
探す必要すら無くなってくれるのだが。
まあ居ないものは仕方ない、地道に探すしかないだろう。
「…………取りあえず、どうしようかな?」
ポケモンセンターはゲームだと預けてすぐに全員全回復してくれたが、現実だと一晩くらいは時間がかかる。故に二階が宿泊施設になっているのだが、時間的にはまだ昼過ぎと言ったところ。
ミシロタウンを出たのが朝、昼前にはコトキタウンに着いたので、実はそんなに時間は経っていないのだ、そもそもシアとの戦闘も一撃必殺のぶつけ合いと言った感じで、戦闘自体は数十秒の話だったし。
ポケモンが全滅している以上、街の外に出るのは普通に自殺行為だし、街の中でとなると。
情報収集でもしてみようかなあ、と考える。
シアの例を考えてみると、後四匹も意識の無いままに暴れている可能性はある。
だがそもそも考えたいのは、何故このタイミングで? と言うのがある。
自意識が無いままに暴れているのならば、五年前からでもおかしくはない。
だがエアを伴って自身がこの街に来る直前のタイミングから、と言う都合の良さに首を傾げる。
無意識的にこちらの存在を感知した、とかそういうことなのだろうか?
だがそれは少しご都合的過ぎないか?
そうして分からないことに推測を巡らせていると。
「そこのキミ、ちょっといいかい?」
ポケモンセンターの椅子に座りこみ、考えている自身に背後から声がかけられた。
振り返るとどこか見覚えのある青年…………確か街に来た時にシアの存在を呼びかけていた人がそこにいた。
「…………えっと、何か?」
「キミだよね、あのヒトガタを捕まえたトレーナーさんは。実はこっそり見てたんだ、あんまり若いトレーナーさんが向かうのが見えたからね」
瞬間、警戒の色を浮かべた自身に、青年が慌てたように言う。
「いや、文句とかそう言う話じゃないから安心して欲しい。僕はポケモン協会の一員なんだ」
そう言ってポケモン協会職員の証であるバッジを見せてくる。
父親が関係者と言うだけあって、実際に見た事があるそのバッジは確かにそれが嘘ではないと言うことを証明していた。
「…………だとしたら、ポケモン協会の人が何の用ですか?」
最悪珍しいヒトガタを寄越せとか、奪ってやるとかそう言う展開を警戒していたが、ポケモン協会の一員と言うことならばそう言うことも無いだろう。あそこはポケモンを管理する側、有り体に言ってポケモンリーグを開く側であって、挑む側のトレーナーではない。
そもそもポケモン協会と言う組織がそういう性質ではない。
ポケモン協会と言うのは、人とポケモンの共存を円滑にするための組織と言ったら良いだろうか。
現在のこの世界には国家と言う枠組みが存在しないのだが、代わりにポケモン協会が法に近いものを出している。と言っても実効力と言うのはそれほど無い。と言うか義務付けているのはポケモン協会関係者のみではある。
だが言ってみればそれは、トレーナーとしてのマナーであり、最低限守らなければならない程度のルールであるため、大半のトレーナーにとってそれは
ロケット団含めた一部の
そのため、意外かもしれないがポケモン協会自体にトレーナーと言うのは少ない。あくまでトレーナーにルールを示す機関であり、職の分類的には事務職のようなものである。
正確にはポケモンジム、などはポケモン協会の下部組織のようなものなのだが、実際のとこジムとポケモンリーグくらいなのである、ポケモン協会がトレーナーに関与する部分と言えば。
で、そのポケモン協会の一員が目の前にいるわけだが。
まあポケモン協会の人間がいるのは不自然ではない。
「僕はポケモン協会の中でも、ポケモン被害のほうの部署にいてね」
例えばポケモンは人間の良き隣人とされているが、自身や博士がポチエナに襲われた一件を見ても分かる通り、野生のポケモンと言うのは容赦なく人間を襲う。その辺りは野生生物と言うことには変わりない。
故に、時折だがポケモンによって引き起こされる事件や事故などがある。
大半が住処を追われたポケモンや普段の住処から迷って出てきたポケモンなどが引き起こすものだが、時折どうしようも無く強大なポケモンが割と洒落にならない事件を引き起こすことがある。
ゲームだとそんな事件無かった、まあ割と対象年齢が低いゲームなのであまり残酷な描写などは描かれていなかったのは当然かもしれないが。その割に、歳を重ねると分かってしまうブラックな話なども盛り込まれているのがゲーフリの遊び心なのかもしれないが。
とにかく、ゲーム本編だとポケモンは人類にとって“仲の良い生物”としてされていたが、現実を見れば時にはとんでも無い害獣となることもある。
おくりびやまからゴーストポケモンが大量に降りてきて、ミナモシティが大参事になった大分昔の事件だとか…………まあそう言う類の事件が本当に極々稀にだが、あるのだ。
そう言った時に真っ先に対処するのは付近のトレーナー。そしてそう言った事件の危険度を見極めながらトレーナーに協力を呼びかけたり、手に負えない場合、ジムリーダーやポケモンリーグのメンバーに協力を要請するのがポケモン協会の仕事の一つとしてある。
ジムリーダーである自身の父親もまたその義務の一つとして緊急時の協力を要請されることがあるのでそう言った類の話は聞いたことがある。
そして、目の前の青年はつまりその部署の人と言うことらしい。
「いやー助かったよ。まだ若い、と言うか幼いのに凄いんだねキミ。今日中に片付かなかったら、トウカジムの人に来てもらわないといけないと思っていたんだけど」
自販機で買ってきたらしいミックスオレとサイコソーダを並べてどっちが良い? と尋ねてくる。炭酸は少し喉が痛くなるのでミックスオレを受け取ると青年がサイコソーダを手に取った。
「いやいやそれにしてもその若さであのヒトガタポケモンを倒してしまうなんて、キミは凄いトレーナーになりそうだね」
名前聞いてもいいかい? そんな青年の言葉にハルト、と名乗る。
「ハルトくんかい、今回は協力ありがとう。ポケモン協会の一員として感謝するよ」
「それはまあ、良いんですが…………一つ聞いても良いですか?」
「ん? 何かな?」
「ポケモン協会の人、ってことは全国飛び回ってたりとか?」
「まあ、職業柄そうだね、僕だけじゃない、僕の部署の人はみんなポケモンによる被害が無いか調べるために全国を歩き回ってるよ」
ビンゴ、これは都合が良いと内心で呟きつつ。
「なら、最近…………いや、ここ五年くらいで起こったヒトガタのこと、ないし、事件のこと何かありませんか?」
そんな自身の問いに、ふむ? と青年が思案顔になり。
「そうだね…………ヒトガタ、と言うのはそもそも滅多に出ないからね。出てもすぐにトレーナーに捕獲されるし、ここ五年くらいだと…………ゲンガーとかフシギバナのヒトガタが見つかったくらいかな?」
どっちも違う…………そのことに安堵する。少なくともすでに四匹がすでに捕獲済み、と言うことは無さそうだ。
「それと事件かあ…………今回みたいな大きな事件は取りあえず無いね」
小さなものならいくつか、と言われたのでそれらの詳細を聞いては見たが、どれも恐らくは違うだろうと推測できる程度のもの。
つまり手がかり無しか、と今度は逆に落胆してしまう。
「あはは、ごめんね、あんまり役に立てなかったみたいで」
「いえ…………まあ最初からそう簡単に分かるとは思ってなかったので」
青年が苦笑いしながら謝って来るが、自身のような子供相手にそこまで教えてくれただけでも感謝と言うものだろう。
と、その時、青年がふと思い出したように、あ、と呟く。
「何か思い出しました?」
「事件…………ってわけじゃない、噂程度の話なんだけど」
「正直手がかりも無いのでそれでも良いです」
それならば、と青年がぴん、と人差し指を立て。
「一つ、妙な話を聞いたことがあるよ」
そんな前置きの言葉に目をぱちくり、とさせた。
* * *
預けていたエアとシアは少なくとも今夜一晩はかかりそうだ、と言う話を聞き。
なら晩御飯でも探しに行くかとポケモンセンターを出る。
昼食をセンターで取ったのだが、内容量は五歳児なのでともかくだが、味が微妙すぎる。
もしかしてこれは…………ポケモンフード?!
とか思ってしまうくらい、微妙だった。あれ本当に人間用の食事なのだろうか。
食事だけは当てにしてはならない、と言う父親の言葉の正しさを思い出す。
確か近くに軽食が食べれる喫茶店のようなものがあったはずだ。
普通の人からすれば軽食でも、五歳児の胃の容量を考えれば十分過ぎる。
と言うわけでお店に入り、店員からのなんだろうこの子、と言う視線に耐えながら軽食を頼み、一人で偉いねーと頭を撫でまわされながら店員のお姉さんの怪し気な視線から逃げるように出された食事を掻きこみ逃げるようにお金を払ってお店を出る。
なんだこの街、ショタコンの巣窟か何かかよ?!
はぁはぁ言うな、息を荒げるな、舌を舐めまわすな!
エアとシアさえ万全ならすぐにでも出て行きたくなるレベルだが、残念ながら今晩一晩は動けないのが辛い。
取りあえずはもうポケモンセンター行って寝よう。空を見ればすでに薄暗い。
今から寝てもう明日の早朝にさっさとこんなところ出てしまおう。
そう決意した…………瞬間。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
絶叫とでも呼べる声と共に強烈な衝撃が全身を襲う。
抱き着かれていた、何かに。
そして。
「ハルトオオオオオオオオオオオオオオ」
じょりじょりじょりじょり
頬刷りされた…………髭面に。
「ぎゃあああああああああああああああ、いてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
思わずその顔面に思い切り肘打ちする。
「ぐはっ」
髭面が衝撃に仰け反り…………その人物が目に入る。
「と…………父さん?」
街中でショタを襲った変態の正体は。
マイファザーであった。