執筆妖怪から聞いて「え、まじで?!」ってなったわ。
基本的に、特技は二種類の技を合わせて作り出す合成技である。
だが例外的にそれを無視することもできる。
つまり、リソースの問題なのだ。
ポケモン側に技3つ+2種特技までしか受け入れる余裕が無いからこそ、そうなっているだけで。
技の数自体を減らしてしまえば三種のわざを混ぜることが可能になる。
あのエテボースはつまりそういうことなのだ。
しかもしっかりとテクニシャンを乗せてきている…………熟練度を上げて本来乗るはずの無いテクニシャンを乗せるように訓練してきているのだろう。
半面…………あのエテボースの持っているわざは恐らくその特技一つだけなのだろう。
こだわりハチマキを持たせていることからもそれが分かる。
死に出しからの一手、それだけに特化させたエテボース。
いよいよセンリも手札を切りだした、と言うことか。
「…………大丈夫か、エア?」
ボールの中でかたり、とエアが揺れる。
かなり厳しそうだが『ひんし』にはなっていないようだ。
メガシンカしたお蔭か…………だが本当にギリギリのところのようだ、感じる意気が弱々しい。
次に何を出そうか、迷う。
センリはすでに決めているようだ、ボールを一つ手に持っている。
この辺りがトレーナーとしての経験の差だろうか。
センリはぶれない。一手も迷わずに意思を持って指示を出している。
反対に自身は迷い続けている。
これで大丈夫なのか、本当に大丈夫なのか。
そんな不安が心の奥底にある。
フィールドに“わたはじき”の効果はまだ残っている。
と、なれば…………。
「頼む、シャル!」
「行け、ブル!」
こちらはシャルを、相手はドーブルを出す。
「ブル、“スケッチ”!」
「シャル、“シャドーフレア”!」
高速で宙に何かを描いていくドーブルの影が引き寄せられ、シャルの足元へと延びていく。
そうしてシャルがその影を踏んで。
「えっ」
声を漏らす。
「ブル、“キノコのほうし”!」
同時に放たれる黒い炎がドーブルを襲う。
「…………『ぼうじんゴーグル』か」
「当たり前の警戒でしょ?」
ほうし降り注ぐフィールドで、けれどシャルは平然と動く。
燃え盛る炎の中で、ドーブルもまた再び尾筆を掴み。
「シャル…………終わらせろ“シャドーフレア”」
「ドーブル“ひかりのかべ”」
ドーブルが目の前に半透明の壁を張ると同時。
二発目の黒炎がドーブルを燃やしつくし、ドーブルが倒れる。
「…………これで残り三か」
『ひんし』になったドーブルをボールに戻しながら、ぽつり、とセンリが呟き。
「強くなったな」
「……………………」
その言葉に、けれど何も答えず、笑みを浮かべる。
そしてそんな自身をセンリが笑い。
「中盤戦だ…………行け、ボス!」
再び出てきたのはあのエテボース。
「…………最悪だ」
最悪過ぎる。どう考えてもおかしい、理屈に合わない。
『ゴースト』タイプのシャルに『ノーマル』タイプわざしか打てないエテボース?
死に出しが基本と言っても、相性が悪いどころの話ではないことは理解しているはずだ。
それでも出してきた、と言うことは。
当てれるのだろう…………たった一撃でエアを『ひんし』直前まで追い詰めたあのバカげた一撃が。
「悪い、シャル」
完全にミスった、ドーブルを倒したらすぐに戻すべきだった、この状況に至るまで戻し損ねた自身の思慮不足だ。
ドーブルを倒した時に派手に炎を巻き上げたせいで、すでに綿毛は燃え尽きている。どう考えても『すばやさ』の差で負ける。
シャルにあの一撃を耐えるのは無理だと確信してしまう。
「…………いいよ、頑張って、マスター」
シャルがこちらを向き、微笑し。
「ボス“うらみのビンタ”」
「シャル“トリックルーム”」
ボールに戻さない…………恐らくこれだけのことで威力は半減するはずだ。
それでもシャルが耐えるのは無理だろう。半減しても威力が高すぎる。
「きゅい~!」
“うらみのビンタ”
バシイイイイイイイイイン、と派手な音を立てて、エテボースの尻尾がシャルを殴りつける。
裏特性だろうとは思うが、やはり『ゴースト』タイプにも当たるらしい。
「シャル!!!」
「う…………あ…………」
シャルが目を回しながら、ごろん、と地を転がり…………。
“トリックルーム”
技の発動と共に、地面に光の線が入って行く。
「…………発動されたか」
センリが苦々し気に呟く。
トリックルームと言うのは、変化技の中でも一際特異な効果を持つ。
『すばやさ』が高いほど行動が遅くなる、と言う不可思議な空間を生み出すわざ。
これから出てくる相手はあと三体。
エテボース、ケッキング、そしてメガガルーラ。
どれもこれも『すばやさ』が高い相手ばかりだ。
メガガルーラはマヒしているが、確率で痺れて動けないと言う大きなハンデを抱えている以上、そう簡単には出せないだろう。
故に、ここで出してくるのは。
「来い…………キング!」
「ぐごおおおおおおおおおおおおお!」
ケッキング。やはり現れたかと思う。
そしてそれを読んでいたからこそ、こちらの手は。
「イナズマ!」
「はい!」
イナズマvsケッキング。
ただし、シャルがやられたので。
「さあ、一人ずつ倒すぞ、キング」
「ぐがあああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおお!」
センリの言葉にケッキングが胸を叩いて咆哮する。
意気高揚、と言ったところか。やはり条件が緩すぎる。いや、厳しいと言えなくも無いが、やはり6vs6でバトルしている以上、二匹か多くて三匹、使い捨てるポケモンと言うのは出てくる。例えば自身の手持ちで言えばチーク、アタッカー勢も攻撃特化で防御性能には一切振ってないので先ほどのように強烈な一撃を受ければ耐えきれない場合も多い。
相打ちでもいいのだ、それだけでガンガン能力値が上がって行く。
サポートが居ないのではない、受けが居ないのではない。
そんなもの必要ないのがセンリのパーティ。
「キング“ねむる”」
「イナズマ“じゅうでん”」
ケッキングが目を閉じ、眠りに落ちる。
イナズマが自身の指示に従い“じゅうでん”を行い、全身に電気を貯めていく。
もごもご、とケッキングの口が動いたかと思った瞬間。
「ぐごおおおおおおおぉぉぉ!!!」
ケッキングの目をぱっちりと開き、雄叫びを上げる。
「出たな……………………イナズマ“10まんボルト”!」
ケッキングが目を覚まし動こうとする…………だがその動きが鈍い。
トリックルームの効果がまさしく現れているのだ。
ケッキングの『すばやさ』の種族値は100。そこにさらに能力上昇が1段階上がっている現状、イナズマの約二倍の速度と考えても良い。
そしてだからこそ、トリックルームの中において、イナズマはケッキングの
“10まんボルト”
“じゅんでん”によって威力を大幅に増した電撃がケッキングを襲う…………だがそれほど効いた様子は無い。
同時にイナズマの動きが徐々に鈍って行く。
“でんじかそく”によって『すばやさ』が上がるほどにトリックルームが仇になっているのだ。
だがそれでも『とくこう』を二段階上昇させた今ならば。
「イナズマ“きあいだま”!」
「キング! “きあいパンチ”」
イナズマの“きあいだま”が放たれ、ケッキングを捉える。
「ぐごおおおおおおお!」
だがさすがのタフネスか。『とくこう』を二段階も上昇させたイナズマの放つ弱点技を受けて、僅かに顔を歪めるがまだまだ問題無いと拳を固め。
“きあいパンチ”
ズダアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ
恐ろしいほどの『こうげき』種族値と特異個体故の巨体から放たれた一撃は、イナズマを正確に射抜き。
その体を軽々と吹き飛ばし、道場の壁へと叩きつける。
「ぐ…………あ……………………」
その攻撃を…………
「イナズマアアアアアアアアアア!」
“きあいだま”
「いってええええええええええええ!!!」
絶叫しながら拳から“きあいだま”を放つ。
「ぐごおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
迫りくる“きあいだま”を全身で受けつつ…………ぐらり、とケッキングの体が揺れる。
だがまだ倒れない…………巨体故の呆れるほどのタフぶり。
素早く接近し放たれるケッキングの攻撃でイナズマが倒れ。
「ご、ごめんなさい…………マスタ…………」
目を回して動かなくなる。
「お疲れ…………イナズマ」
イナズマをボールに戻すと同時、センリが叫ぶ。
「これで二体目…………さあもっともっと行くぞ!!!」
「ぐごおおおおおおおおおおおお!!!」
ケッキングが叫び、さらに戦意を高揚させる。
やはり面倒くさい…………これでケッキングを倒したとして…………。
能力上昇効果が次のポケモンにもその次のポケモンにも続く。
害悪過ぎるトレーナースキルに、思わず顔が歪む。
「…………リップル、任せた」
「はーい…………お任せだよ」
いくらか逡巡したが…………選んだのはリップル。
「溶けろ」
「落とせ! “きあいパンチ”」
“どくどくゆうかい”
トリックルームのお蔭で、先手を取ったリップルが全身を溶かしていき、一瞬遅れてケッキングの“きあいパンチ”がリップルへと突き刺さり…………。
「ぬううう~~~~!!!」
苦悶の表情で、けれどリップルがそれに耐える。
同時に、ケッキングの顔色も変わる。
「ぐうごおおおお?!」
持っていたゴツゴツメットの削りでの手痛いダメージに加え、リップルに直接触れたことで『もうどく』状態へと成ったケッキングがうめき声を上げる。
ここでチークに変えて“なれあい”でもしたいところだが…………。
それをやるとシュッキングの特性がどうなってしまうのか予想できないのが怖い。
“なまけ”は生半可な特性への干渉技では上書きできなかったが、“やるき”ならばどうだろうか。
うっかりここで“やるき”を上書きしてしまうと、この先ずっと“ほおぶくろ”のケッキングが暴れ回ることになる。
イナズマの“きあいだま”二発分、そして今『もうどく』。
恐らく“かいみん”の裏特性が終わったら即座に“ねむる”を使ってくるだろうことは予想できている。
そうなればダメージも状態異常もひっくるめて回復される。
恐らく早期ターン…………ゲーム風に言うならば最小ターンの2、3ターンで起きるように訓練されているだろう。そうなればエアを出しても恐らく真正面から蹂躙される未来しか見えない。
だとするならば…………。
「リップル…………“りゅうせいぐん”!」
もうすぐトリックルームの効果も消える、その前に僅かでも大きなダメージを通さねばならない。
リップルは受けとみられがちだが、ヌメルゴンの『とくこう』種族値と言うのは存外高い。
故に。
“りゅうせいぐん”
「ぬうう~~~やああああああ!」
リップルの手の中からあふれ出したような光が天井で弾け、流星となってケッキングを撃ち抜いていく。
「キング! 落とせ! “きあいパンチ”だ!」
「ぐがああああああああああああああああああ!」
“きあいパンチ”
流星に撃たれながら、ケッキングが拳を固め
轟、と唸り上げながら振り下ろされた一撃がリップルを吹き飛ばし…………。
「う、があああああああああああああああああああああ!」
タスキも無ければ、ハチマキも無い。ゲームならば絶対に倒れている状況で。
ただの気合い、根性、そんな精神論で耐え抜く。
と言っても、ただ立っているだけだ。
ただ『ひんし』ではないのでセンリのトレーナーズスキルには適応されない、それだけのこと。
たが。
「ぐ………………が…………」
イナズマの“きあいだま”二発に、猛毒ダメージ二回分、そしてゴツゴツメットの接触ダメージ二回分と全力の“りゅうせいぐん”一発のダメージ。
それだけ加え続けて、ようやくケッキングが崩れ落ちる。
本当に…………ドーブルの“ひかりのかべ”にしっかりと仕事をされてしまったと言ったところか。お蔭でリップルももう『ひんし』直前だ。
「良くやったぞキング…………後は二人に任せろ」
「戻ってリップル…………一旦休んでて」
互いにボールへと戻す。
確かに倒れてこそ無いが、リップルはもう死に体…………恐らくわざを放つほどの体力も残っていないだろう。
4vs2の状況だが、こちらのアタッカーは実質エア一人。あちらは両方まだまだ健在。
エアもまたほぼ死に体でHPも残り少ない…………もう一度は耐えれないと思ったほうが良いだろう。
次に出てくるのはまず間違いなく…………ならば。
「行け! シア!」
「頼んだぞ、ボス!」
互いにボールを投げ合い。
そしていよいよ終盤戦の幕が開けた。
特技:くうそうスケッチ 『ノーマル』
分類:スケッチ+スケッチ
効果:わざ以外の『ステータス』『タイプ』『特性』などもスケッチできる
裏特性:スケッチブック
自身の覚える“スケッチ”の数だけわざを習得し、“スケッチ”したわざを戦闘時に使用できる
裏特性:ちょとつもうしん
捨て身系のわざの威力を3倍にするが、反動も2倍になる
戦況
ハルト
エア ダメージ極大 食いしばり状態 メガストーン
シア 無傷 ????
●シャル ひんし ぼうじんゴーグル
チーク ダメージ小 ????
●イナズマ ひんし きあいのタスキ
リップル 残りHP1 ゴツゴツメット
センリ 全能力+2
メガガルーラ ダメージ小 マヒ メガストーン
●カビゴン ひんし たべのこし
●ドーブル ひんし ヨプのみ
●ケンタロス ひんし とつげきチョッキ
エテボース 無傷 こだわりハチマキ
●ケッキング ひんし カゴのみ
タグ実装! タグ実装!! タグ実装ひゃっほおおおおおおお!!!