フエンタウンジム、ヒートバッジ。
カナズミシティジム、ストーンバッジ。
ムロタウンジム、ナックルバッジ。
キンセツシティジムでの戦いに勝ってから、さらに三日かけて三つのバッジをゲットした。
「これで七つ」
旅を初めて一週間でバッジを七つ。
普通のトレーナーならば旅をし、レベルを上げながらゆっくりとジムに挑戦するのだろうが、生憎自身はこの日までにすでに全員のレベリングも育成も終えている。
まあ移動にかかる時間を考えれば順当、と言えるだろう。
「それにしても、圧倒的だったなあ」
フエンジムも、カナズミジム、そしてムロジムも。
全てエア一人に任せて勝ち続けた。
戦い続ける中で一つ気づいたことがある。
自身が思っているよりもずっと6V個体と言うのは圧倒的だ。
力も、守りも、速さも。全ての面に置いて隙が無く、そして他を凌駕する。
この世界には実機時代には無い、特技や裏特性、トレーナーズスキルと言った強いポケモンと弱いポケモンの差を埋めるような技術があり、それを元とした固有戦術が存在するが。
元のスペックの違い、と言うのはゲームにおいても、そして現実においてもかなり致命的な差であるのだと今更になって気づき始めた。
この世界に努力値の概念は無い。正確には努力値でなく、基礎ポイントと呼ばれている。
ただそれを知っている人間はかなり少ない。
知ろうとすれば実は簡単に分かる。
当たり前だ、そもそもマックスアップやタウリン、リゾチウムなど努力値を上昇させる道具が存在するのだから、それを知っている人間がいるのも当たり前。
ただ具体的な部分について知っているのは、世界中探しても恐らく自身だけなのだろう。
あれらのドーピングアイテムだが、一般的には使うとちょっとだけ強くなれるアイテム、くらいにしか思われていない。
実機もそうだが現実でもあれらはドーピング、過剰摂取はさせれない。
ドーピングアイテムによる努力値の上限は100。つまり10回分。
値段にすれば九万八千円。少なくとも低ランクのトレーナーが簡単に手を出せる領域の値段ではない。
そしてジムリーダーやトップトレーナーたちなどからすれば当たりまえのように使われる道具ではあるが。
その上限が252、ないし255まであるだなんて、知っているはずが無い。
つまりジムリーダーたちのポケモンと自身のポケモン、同じステータスに努力値を振っていても152もの差がある。ステータス数値にすれば38。V個体で種族値が120以上とかでもない限り、300あれば十分過ぎるステータス数値である。残念ながら現実にそれを詳細に知ることはできないが、頭の中には入っている。
エア…………ボーマンダの『すばやさ』の種族値は100だが、V個体でもギリギリで300到達しない、と考えればそこからさらに努力値252、実数値にして63もの上昇がどれほどに大きいか分かるだろう。
努力値の振り方は廃人たちにとって必須にして不可欠、最早前提条件とでも呼べるものである。
確かに戦術や指示、などでは実際にこの現実で戦い続けているジムリーダーたちには未だ一歩及ばない。
それでも、それを覆すことのできる圧倒的な肉体的性能とポテンシャルを自身たちの手持ちは秘めている。それを今再認識した。
「まあ相手がまだ未熟だったり、衰えてた部分もあるけどね」
トウカシティのポケモンセンターの一室でベッドに腰かけながら呟く。
実際のところ、テッセンやミクリなど、四年ないし、五年以上もの間ジムリーダーをやっている相手ならば性能差はあれど戦術と指示で対抗されただろう。
フエンタウンジムのジムリーダーはまだアスナでは無かった、別の老人がジムリーダーをやっていたのだが、肉体的な衰えが隠しきれていないのか、バトル中指示が遅れることが多くあり、そこを突いて一気に突き崩した。
恐らく二年後にジムリーダーがアスナに交代しているのはつまりそう言うことなのだろう。
カナズミシティジムのツツジは幼過ぎた。自身と同じか少し上くらいだろうか。
あり得ないほど若いジムリーダーだが、それでも任されられているだけのことはあるらしい、徹底的に鍛え上げられたポケモンたちに、タイプでメタを張ればその弱点タイプに逆にメタを張っていると言う、所詮はトレーナーズスクールの生徒と甘く見たトレーナーたちを幾人も泣かしてきた確かなジムリーダーとしての素質を持ってはいたが。
エアが“らせんきどう”で放つ『ひこう』わざの数々で真正面から殴り合われたのはさすがに予想外過ぎたらしい。
『ノーマル』『ひこう』わざが『いわ』ポケモンをいともたやすく打ち砕くその姿に、さすがに絶句していた。そしてその動揺がそのまま戦いにも現れ、一番苦戦しなかったジムでもある。
そしてムロタウンジム。
使うタイプは『かくとう』。エアの『ひこう』とは抜群に相性が良く…………。
「開幕いきなりの“れいとうアッパー”は凄かったな」
全員の裏特性が同じと言う凄いジムで、裏特性を“かくとうぎ”と言う。
アッパー系はそらをとぶ、やとびはねるを無視して攻撃を当てる上に『ひこう』タイプと特性“ふゆう”を相手に威力が増し。
フック系は相手の『まもる』『みきり』『みがわり』『リフレクター』を無視して攻撃できる。
ストレート系は威力を上昇させ、さらに『こらえる』や特性“がんじょう”『タスキ』などを無視する。
ハイキック系は『ひこう』タイプに『かくとう』わざが半減されず。
あしおり系は当てた相手の『すばやさ』を半分にする。
まわしげり系はわざを範囲攻撃にする。
全て
手ならアッパー、フック、ストレートから。
足ならばハイキック、あしおり、まわしげりの中から
裏特性としての完成度はかなり高い。
そしてパーティ全員が覚えている上に、全員これを生かして戦ってくるのでエアが危うく落ちかけた。
それでも落ちなかったのはメガボーマンダの高い『ぼうぎょ』とVの個体値あってのことだろう。
ただ一つ、問題があるとすれば。
「…………はっけいアッパーは無いよな、はっけいアッパーは」
わざの名前+使う裏特性の名前、を叫ぶのが基本らしいのだが。
パンチ系はまだいいのだ、れいとうアッパー、ほのおのフック、かみなりストレート。まあ多少違和感はあっても悪くは無い。
だがどう考えてもそれは無い、と言った感じの名前もある。
からてフック…………取りあえず空手なのかボクシングなのか絞れ。
ローキックハイキック…………下なのか上なのか。
とびひざまわしげり…………最大の問題児。
とにかく、名前以外は凄まじい裏特性であった。
「…………これで七つ…………七つか」
そうこれで七つ。
ホウエンジムは全部で八つ。バッジも八つ。
故に、残り一つ。
それが。
トウカシティジム。
ジムリーダーの名は。
「…………勝負だよ、
* * *
トウカシティジムは『ノーマル』タイプのジムだ。
実機時代『ノーマル』タイプのジムなんて珍しい、と思った。
『かくとう』と言う弱点を持ちながら、どのタイプを相手にとっても抜群を取れない『ノーマル』と言うのは普通に考えれば不利なはずなのに。それでもそんなジムがあることに驚いた。
ルビーサファイアの第三世代には初代、や金銀で出てきたノーマルの大半が出ず、特に『ガルーラ』『ラッキー』『ケンタロス』など有名な『ノーマル』タイプのポケモンが出ないことから、一体このジムのジムリーダーは何を使ってくるのだろう、と思ったものだ。
そうして実際に戦ってみればケッキングと言う種族値の怪物、そこから放たれる“きあいパンチ”によって自身の手持ちが次々と沈んでいき、初めて戦った時はあっさりと全滅した記憶がある。
『ノーマル』と言うタイプに正直言ってあまり目立った印象を持っていなかった自身にその凶悪さを刻み込んだものだ。
そのトウカシティジムの前に立っている。
しかもここはゲームじゃない…………現実で。
「…………さあ、みんな」
―――――――――行くぞ。
告げた声に、全員のボールがかたりと震えた。
トウカジムは大分昔に一か月だけお世話になったことがある。
あれから新しいトレーナーも入ってきているだろうし、五年も経っているのだ、さすがに忘れられていたかと思っていたが。
「やあ、ハルトくん、いよいよジムに挑戦しに来たのかい?」
「あらハルトくんじゃない! 十歳になったのよね、てことはジム戦?」
「お、ハルト! お前すっかり来なくなって寂しかったぜ」
幾人か…………古参の人たちが自身を覚えてくれていたらしい。
入ってすぐにこちらに気づき、数人が自身を取り囲む。その後ろのほうで新しく入ったらしいジムトレーナーたちが誰だ誰だと首を傾げ事情を知る人に話を聞いて驚いている様子が見て取れる。
「はは…………どうも。ええ、はい…………
告げた瞬間、自身を取り囲むトレーナーたちが獰猛な笑みを浮かべる。
「そうか…………お前相手に手加減は一切無用だよな。奥で待ってるぜ」
「ハルトくん。後でね…………待ってるわ」
「おうハルト…………今度は勝たせてもらうぜ」
違う、違う、違う。そんじょそこらのトレーナーたちとはまるで違う、何よりも
勝つぞ、勝つぞ、勝つぞ、と言う意思、そして負けるものか、と言う根性。
そして何よりも自身が嬉しかったのは。
お前との再戦が楽しみだ。
全員が視線だけでそう告げていた。
「ふふ…………いいね」
やっぱりこうでなくではならない。
これぞポケモンバトルの醍醐味と言うものだろう。
試すのも、試されるのも良い。
だが、意思と意思のぶつかり合い、気迫と気迫の押し合い、根性と根性の粘りあい。
己の全てを賭し、互いにぶつかり合うこの感覚を何と言えば良いのだろうか。
受付を済ませ、指定された部屋へと向かう。
そこに居たのは先ほどの一人。
言葉も無く、視線を合わせた瞬間、互いがボールを構え…………投げる。
「エアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
いつかのように。
「オドシシイイイイイイイイイイイイイイ!」
互いの意地がぶつかり合い。
「エア!」
「プクリン!」
勝利への渇望を抱き。
「エア!」
「メタモン!」
バトルを精一杯に楽しみ。
「エアアアアアアアアアアアア!」
「ハピナスウウウウウウウウウ!」
そして。
その先に。
* * *
そこはどこかの道場か何かのようであった。
否、実機でも見た事があるはずだ。
板張りの床、そしてそこに敷き詰められた畳のフィールド。他のジムのようなそのジムを象徴するような模様も絵も無く、ルネジムやトクサネジム、フエンジムやヒワマキジムなどのようにフィールド自体が特殊なもの、と言うわけでも無く。
ひたすらに無骨で、飾り気が無く。
良く言えば実戦的、悪く言えばどこまでも愛想の無い。
それにけれど懐かしさを覚える。
この部屋にまで来たことなんて、一度も無いのに。
だってここは、部屋の主と挑戦者だけがやってくる場所。
ジムリーダーの間。
「………………………………来たのか」
四戦四勝。向かってくるトレーナーの全てを叩き伏せ、そうして案内された先に見知らぬ男がいた。
否、知っているはずだ。
何せ
その姿は見知った父親のものと同じのはずだ。
それでも、どうしてだろう。
「……………………ああ、来たよ」
振り返るその背中を、その表情を。
「……………………そうか」
自身はこれまで一度たりとて、見たことが無かった。
「使用するポケモンの数は互いに6体。道具の使用は認めない。ただし持ち物は許可される」
男が自身を見据える。
「…………異存は?」
来い、と…………その視線が訴えてきていた。
「無し」
行くぞ、と視線で訴えかけ。
「トウカシティジム、ジムリーダー戦をこれより執り行う」
ジムリーダーのセンリが勝負を仕掛けてきた。
裏特性:かくとうぎ 手や足を使ったわざに対し、以下の中から好きな効果を一つ付け加える
アッパー⇒そらをとぶ、やとびはねるを無視して攻撃を当てる上に『ひこう』タイプと特性“ふゆう”を相手に威力が増す。
フック⇒相手の『まもる』『みきり』『みがわり』『リフレクター』を無視して攻撃できる。
ストレート⇒威力を大きく上昇させ、さらに『こらえる』や特性“がんじょう”『タスキ』などを無視する。
ハイキック⇒『ひこう』タイプに『かくとう』わざが半減されない。
ロウキック⇒当てた相手の『すばやさ』を半分にする。
悲報:フエンジム、カナズミジム、ムロジム、オートモード(
いい加減書くのだるくなったともいう(
と言っても、ちょっと8つのジム全部はだれるので、三つ飛ばして。
三章前半最大のイベント「トウカジム」です。
もう三章始める前からここが最後ってのは決まってた。