ポケットモンスタードールズ   作:水代

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なんで遅くなったのかって?

俺マススレ読んでたんだよ(


原作的に考えて街一つ丸々商店街ってすごくね?

 夜の闇の中でもその明かりははっきりと見えた。

 街中に電灯が灯され、二十四時間営業の店も多いらしく。

 

 “眠らない街”なんて、前世で聞いたようなキャッチフレーズがまさしく似合う街。

 

 キンセツシティ。

 

 実を言えば。

 

 自身、キンセツシティをまともに見るのがこれが初めてだったりする。

 

「ふぁあああ?!」

「…………う…………わあ」

 

 ここまで連れてきてくれたエアも、思わず隣で声を漏らす。

 

 一言で言えば。

 

 ()()()()()()()()()()()だ。

 

 住人は全て中央の居住区画に住んでいるらしく、その居住区画を取り囲むように街一つを丸々改造した巨大なデパートが存在する。

 まさに、街一つを丸々改造しデパートにしてしまった仰天な街だ。

 

 見れば分かるが、ホウエンで最も商業が盛んであり、物品で言えば他地方との交流のあるミナモのほうが多種多様にあるかもしれないが、サービス業の種類ではカイナもミナモもぶっちぎってホウエン一位の大商業都市である。

 

 中に入ってみれば、人人人人人人人…………前世で言うところの、ゴールデンウィークの東京駅くらい人が混みあい、視界の中が人で埋め尽くされている。

 

「エア、ボールに戻っててくれる?」

「…………仕方ないわね」

 さすがにこれは酷い、と思ったのかエアも素直に頷き、ボールに戻る。

 

 人込みに流されるようにしながら進んでいき、道中いくつか見つけたお店に目星をつけておく。

 原作ゲームでは、たしか教え技屋やさかさバトルの店などもあったはずだ。

 まあそれは後にしておこう。とりあえず、まずはポケモンセンターを目指す。

 

「…………すごいな」

 

 こういう夜に電飾で彩られた光景はなんだか懐かしくて、少しだけノスタルジックな気分になった。

 

 

 * * *

 

 

 ポケモンセンターに着き、部屋だけ取るとすぐさま駆け込み、ベッドにダイブする。

「は~…………疲れたあ」

 とにかく広い。広すぎて、自分が今どこにいるのか分からなくなるレベルだ。

 自身だってそれほど方向感覚が悪いわけではないのだが、何せ街一つの規模だ。さすがに道も分からなくなってくると言うものだ。

 

「あ…………生き返る」

 

 ふかふかに整えられてベッドにダイブし、日干しされて良い匂いのする布団の香りをいっぱいに吸い込む。

 布団と言うのは歳と取るごとに抗えない魔力を発してくると思う。

 これがまだ子供の頃は良いのだ、エネルギーに満ち溢れているからとにかく体を動かして発散したがる。

 小学生、幼稚園児が昼寝を嫌がったり、やたら早起きだったりするが逆に大人になるにつれて活力が足りなくなり、頻繁に昼寝をしたり早起きが辛くなってくる。

 勿論生活習慣や運動でいくらでも解消できる範囲の問題ではあるが。

 

「あの快感を味わえないのは辛いよなあ」

 

 二度寝や寝過ごし、あの目覚めの快感は恐ろしいほど病みつきになる。

 この体はまだ十になったばかりの子供の物だが、布団にくるまってゆっくり寝るのが好き、と言うあたり前世の記憶の影響は確実に受けている。

 特に体が疲れを貯めている時は、他の十歳児よりもずっと眠りが長くなるのは完全に前世に引きずられた精神性のせいだろう。

 

「なんか…………おっさんくさい」

 

 ぎくり

 

 いつの間にかボールから抜け出していたエアがこちらを見つめ、ぽつりと呟く。

「だーいぶ!」

 一瞬の硬直の隙をついて自身のベッドに飛び込んでくるチークを受け止めながら。

「すやすや…………」

「ってもう寝てる?!」

 潜りこんですでに寝息を立てているシャルに驚愕する。

 

「もう、マスターに迷惑かけちゃダメよ?」

「んふふ~楽しそうだね~」

 

 そして止めに入ろうとするシアと、見守るリップル。

「マスター、お水もらってきましたよ」

「いつの間に?!」

 そして今部屋に入ったばかりのはずなのに、食堂から『おいしいみず』を人数分確保してきているイナズマ。

 

 いつもの賑やかな面々でその夜を明かし。

 

 

 

「わーっはっはっは」

 朝一番、ジムで受付をし、そして通された部屋で待っていたのがこのオッサンだった。

「…………またジムリーダー」

「わっはっはっは、いかにも! わしがキンセツシティジムのジムリーダーのテッセンじゃ!」

 楽だから良いのだが、トレーナー戦スキップか、と思っていると。

「朝一番からジム戦に来るとは中々やる気があるのう」

「いきなりジムリーダーが出てくるとは思いませんでしたけど」

「がっはっは…………なあに、面白そうなトレーナーがいるとミクリのやつから聞いてな、ホウエンのジムリーダー全員に連絡が回ってるぞ」

 何やってんだあの人オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?

「それにあのセンリの息子となれば、こりゃいっちょ遊んでやらんといかんだろ?」

 何がだろ? なのか分からないが。

 

「とは言え、ジム戦はジム戦じゃ、ちゃんとやるから安心せい…………こちらの手持ちは三体。そちらは六体まで使ってよい」

「…………ふむ」

 こちらのパーティに明確に『でんき』タイプと相性が良い、と言うポケモンはいなかったので、それは助かる。と言うか互いに本気で戦っても三体もの差があるならば、まず負けることはないだろうと思う。

 その辺がジム戦と言うことの考慮、と言うことだろうか?

 

 だが逆を言えば。

 

「だが特技どころか裏特性も仕込んであると聞いとるぞ、故にこちらも全力でお相手するぞい!」

 

 数の差以外は正真正銘、全力、と言うことだろう。

 

「それはつまり」

 

 つまり――――――――

 

「ジムリーダーの本気、と言うことで?」

 

 そんな自身の問いに、テッセンが頷く。

 

「見事勝ち取ってみせい、この『ダイナモバッジ』!」

 

 ――――――――ガチパの解禁、と言うことに他ならない。

 

 

 * * *

 

 

「いけい! ランターン!」

「行け、チーク!」

 

 こちらが出したのは、先発としてはオーソドックスなチーク。

 対して相手のポケモンは…………ランターン。

 

「…………不味いなあ」

 そもそも『でんき』タイプのジムで『マヒ』は狙えない。なのでチークの“なれあい”による『こうげき』のダウンと“特性”の変更なのだが。

 

「チーク“ボルトチェンジ”!」

「ランターン“らいうん”!!」

 

 チークが素早くランターンに接近し、ジャンプで加速をつけながらその身に電撃を纏いながらその体を蹴る。

 タイプ相性以前に体重に差がありすぎる…………見舞われた一撃にランターンが少し痛そうにするが、けれど大したダメージにはならず、そのままチークがボールの中へと戻って来る。

 

「ばるぅ!」

 

 直後、ランターンが上を向いて吼えると、ジムの天井に徐々に黒い雨雲が渦巻き始める。

 そして雨雲がフィールドを覆うほどに巨大に成長すると、ざあ、ざあと雨が降り始め、同時にゴロゴロと雷の音が鳴りだす。

 

「いきなり特技…………面倒そうな。なら次は…………リップル!」

「は~い」

 

 次に繰り出したのはリップル。

 リップルのタイプは『ドラゴン』単タイプ。『でんき』わざも『みず』わざも半減できる。

 

「ほう…………聞いていた通りのヒトガタ使いじゃな」

 

 それを面白そうにテッセンが見つめる。

 

「単純なあまごいじゃないな…………多分混ぜたのは…………」

「この局面で出てくるポケモン…………『でんき』と『みず』を半減できるとなれば同じ『でんき』『みず』の複合タイプかもしくは」

 呟きながらテッセンと自身が次の指示を出す。

 

「とけろ!」

「“れいとうビーム”!」

「ふぁ?!」

 

 テッセンの指示に、思わず変な声を上げる。

 その様子にテッセンが笑う。

 

「わーはっは、どうやら『ドラゴン』タイプのポケモンらしいな。相手の指示に一々動揺しておっちゃあ、バトルなんぞできんぞ!」

 

 “どくどくゆうかい”

 

 先手を取ったのはリップル。

 手が、足が、首が、顔がどろどろとその全身が溶けて、ぶすぶすと毒々しい色の液体へと変わって行く。

 相変わらず、自身で覚えさせておいてなんだが恐ろしくビジュアル的に良くない…………いや、最終的に元に戻るのは分かっているのだが。

「ぬう」

 そのインパクトにテッセンが僅かに唸る。

 

“れいとうビーム”

 

 直後、ランターンの“れいとうビーム”が放たれリップルへと刺さる。

 『ドラゴン』タイプのリップルに『こおり』タイプは抜群だ。

 故にかなりの痛手になる…………()()()()()

 

 “うるおい”

 

「ぬふ~ん」

 腹部に当たったれいとうビームを受けて、少し冷たそうにリップルがお腹をさすりながら、けれど平然とした顔で立っている。

「む?」

 当てが外れた、と言う感じでリップルを見るテッセンに、思わずしてやったりと笑みを浮かべる。

「リップル、“まとわりつく”」

「ふむ、ランターン“10まんボルト”じゃ!」

 

 リップルがその全身を溶かしながらランターンへと接近し、素早く体をしならせながらランターンを締め付ける。

「ばるぅ!」

 直後、ランターンの全身から電撃が発せられ、リップルを襲い…………。

「にゅわ!?」

 耐えるのは耐えたが、予想外の一撃と言った顔のリップル。

 想像以上に効いたようだ、まだまだ問題は無さそうだがそれでも珍しくリップルが驚いている。

「大丈夫か?! リップル」

「問題無いよ、マスター。思ったよりびりってしただけだから~」

 『ドラゴン』に『でんき』は半減のはずだ。リップルの飛びぬけた『とくぼう』で考えれば、今の攻撃だってカスダメくらいになるはずなのに。

 

 裏特性か?

 

 一瞬考えるがけれどそんな簡単には答えは出ない。

 だったらと思考を切り替える。

 幸い…………今のランターンは放っておけば倒れる状態だ。

 

「ば、ばるぅ?!」

 

 ()()()()になったランターンが突如苦し気に声を上げる。

「む、なんじゃ」

 テッセンがその様子に気づき…………それからリップルを見る。

「なるほどのう」

 さすがはベテラントレーナー、と言うことか。一瞬でそれに気づいたらしい。

 

 リップルの特技は“どくどくゆうかい”。

 

 合成したのは“どくどく”と“とける”だ。

 

 “とける”で全身を融解させながら溶かし液状化した体に“どくどく”を纏う。この状態で直接攻撃をするかされるか、とにかく相手と接触することで相手に“どくどく”を移すことができる。

 『ゴツゴツメット』“まとわりつく”と合わせて火力を捨てる代わりに、どんどん強固になって行き、割合ダメージで相手を削ることをコンセプトとしている。

 

「害悪最高おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 ヌメルゴンに“とける”で『ぼうぎょ』を上げた今、まさに鉄壁の城塞。

 そしてさらに。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 “うるおい”と、自身は名付けた。

 

 1ターンの間のみ弱点タイプの攻撃を()()()()()に自身のタイプを『みず』に変える。

 

 つまり『ドラゴン』の弱点が全て消える。

 代わりに『みず』の弱点が増えるが、だがシングルバトルで戦っている限り、リップルの二倍以上の『すばやさ』を持って動かなければリップルが弱点を突かれることは無くなる。

 

 少なくとも、シングルバトルに限って言えば、かなり凶悪な裏特性に仕上がったと言える。

 

 …………こいつの訓練ってほとんどプールで遊んでただけなんだがなあ。

 

 “みずびたし”と言うわざがある、相手を『みず』タイプにしてしまう、と言うわざだ。

 このコンセプトの発想の元はつまりそれだ。

 

 ただヌメルゴンは“みずびたし”を覚えないので多少苦労はした…………と言っても本人は(たの)しそうだった、と言うか(らく)そうだったが。

 

「そのまま絞め落とせ!」

「ランターン“10まんボルト”!」

 

 こうなれば後は互いに我慢のしあいである。

 

 そうして、行ける、そう確信した瞬間。

 

「やれ、リップル!」

「ぬーん…………えいや!」

 

 “りゅうせいぐん”

 

 リップルが真上に向かって投げたオレンジ色の球体が弾け、隕石が降り注ぐ。

 

「ばるぅぁ?!」

 

 ランターンが驚き、声を上げた瞬間そのランターンを真上に向かって投げ飛ばしながらリップルが後退する。

 

 そして。

 

 ズドドドドドドドドドドドォォォォォン

 

 降り注ぐ隕石に撃ち抜かれ。

 

「ば…………ばるぁ…………」

 

 ランターンが倒れた。

 

「いぇ~い」

 喜ぶリップルとは対照的に、むう、とテッセンが唸り。

「見事…………戻れランターン。よくやったぞい」

 ランターンをボールに戻し、次のボールを手に取る。

「さて…………では次じゃ、いけい!」

 

 そうしてテッセンの出した次のポケモンは。

 

 赤い。

 

 小型の。

 

 洗濯機。

 

 言葉にするならそれ。

 

 つまり。

 

「ウォッシュロトムウウウウウウウウウウウウウウウウ!?」

 

 キンセツジムに自身の絶叫が響き渡った。

 

 




裏特性:うるおい
弱点タイプで攻撃されそうな時、そのターンのみ自身のタイプを『みず』へと変える


特技:どくどくゆうかい 『どく』タイプ
分類:どくどく+とける
効果:『ぼうぎょ』を二段階上げ、『もうどくまとい』状態になる。自身か相手が直接攻撃を使うと相手を『もうどく』にする、この状態はボールに戻るまで続く

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