ポケットモンスタードールズ   作:水代

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みんなが待ってた幼女回。


おくびょうドラゴンは人恋しい

 

 

 ミナモ旅行も三日目。

 特に日程を組んでいたわけではないので居ようと思えばまだ一週間でも滞在可能だが、そろそろ残してきた家族のことも心配なので今日か明日には帰ろうと思っていた。

 

「まあ初日からバタバタしてたけど……潮時よね」

「うん。だからまあ次の船の確認をして、今日か明日の便で帰るってことで良いよね?」

「こっちは構わないわよ」

 

 量子化によって道具をパソコン一つで移送できるような世界なので、旅の荷物などは簡単に実家のPCにでも送ることができる。

 よって手荷物は極めて少なくなるし、帰ろうと思えばそのままふらりと帰れるのは非常に便が良いと言えるだろう。

 

 朝食のサンドイッチを食べながらナビを片手に操作する。

 そうして調べてみるがどうやらカイナ行の便が出るのは今日の日没後か明日の朝になるらしい。

 日没後だとカイナに着く頃には夜中である。

 結局カイナで一泊することになるだろうし、明日の朝の便で良いだろう。

 シキに確認しても同じことを言ったのでそのままナビで明日の朝の便を二人分予約しようとナビを操作する。

 

「んゆ?」

「あ、ちょっ、見えない見えない」

 

 その途中で少女の白い髪が俺の視界を遮るので片手に持ったサンドイッチを少女の口に押し込めると、少女の髪をさっと払う。

 そうしてナビの操作を終えて、顔を上げると……シキが何とも言えない表情でこちらを見やり。

 

「どうかした?」

「どうかした……っていうか。寧ろハルトがどうしたのよ」

 

 そのまま視線を()()()()()()()()()()へと向ける。

 

「……んゆ?」

 

 サンドイッチを頬張る少女はシキの視線に気づき、首を傾げた。

 

 

 * * *

 

 

 まあこれに関して俺に責任が無いわけでも無かった。

 俺と俺のポケモンたちは『絆』で繋がっている。

 だがダークフーパによってあの『空間』に連れていかれた結果、一時的にだが俺はこの世界から居なくなった。

 

 結果どうなるか。

 

 見事に『絆』は切れた。

 少なくともこのホウエンのどこに居ても薄っすらとでも感じることのできていたはずの感覚が消失してしまった。

 当然俺のポケモンたちは皆ざわついた。

 俺に何かあったとすぐに気付き、動き出そうとして。

 

 けれど空間を超えた向こう側に居るなんて予想だにするはずも無い。

 

 結局手がかり無しのまま半日過ぎて。

 そこに俺が電話をかけた。

 

『心配させるんじゃないわよ。バカ』

 

 とエアは嘆息し。

 

『ご無事で何よりです、ハルトさん』

 

 とシアは安堵し。

 

『ごごごご、ご主人様?! 生きてる? 生きてる?!』

 

 とシャルは動揺し。

 

『あぁ……うん、良かったよ、無事で』

 

 とチークが苦笑し。

 

『はぁ……ご無事でしたか、安心しました』

 

 とイナズマが胸をなで下ろし。

 

『うん、無事で……良かったよ、ハルト』

 

 とリップルが声を震わせた。

 

 他にもアースは無事だったか、と鼻を鳴らしたし、ルージュは心配したと怒られた。

 伝説二人くらいだっただろう、泰然としていたのは。

 

『アハハ、アタシに勝つくらいなんだからちょっとやそっとでどうにかなるはず無いよ』

『テメェ、このオレに勝っておいてぽっと出の他のやつに負けるなんて許さねえからな』

 

 それを信頼と呼んで良いのか分からないが、まあ今は信頼としておくとする。

 

 で。

 

 今回の旅行に連れてきていた二人。

 アクアのほうは問題無い。

 船が突然消えた後、散々探し回ってくれたようだが。

 

『まあ無事ならばそれで良い……主が戻って来て良かったよ』

 

 ほっと息を漏らし、安心したかのように告げてボールに戻って行った。

 で、問題は。

 

「サクラ? 着替えるからちょっと離れてくれない?」

「や!」

 

 朝からべったり俺にくっついたこの幼女(サクラ)である。

 いや、分らなくも無いのだ。

 サクラは以前にも実の兄を失いかけたことがある。

 ハルカちゃんのお陰で辛うじて命を繋ぐことができ、今ではもう元気にはなっているが目の前で兄を失いかけたサクラにとってはトラウマ級の出来事だったことは想像に難くない。

 

 だからこそ、サクラは『家族』が失われることを極端に恐れている。

 

 それが今回、目の前で俺の乗った船が消失した挙句、ずっと繋がっていたはずの『絆』が喪失されて……。

 まあトラウマが刺激されたのだろう。

 

 挙句昨日はシキとデートするのにさすがにサクラを連れて行くのもなあ、と言うことでボールの中に入れていたせいで夜にボールから出した時からもうべったりである。

 問題はそのべったりが、かなり物理的な点だろう。

 

「軽いのは軽いんだけど」

 

 寝る時はベッドの中に潜り込んで引っ付いてくるせいで2月なのに暑さで夜に目が覚めるし、朝も寝汗をシャワーで流そうとしたら一緒に入ろうとしてくるし、着替える時もくっついてきて剥がすのに苦労する。

 朝食も人の膝の上で食べようとするし、移動中など常時俺の背中に負ぶさって来る。

 

 赤ん坊かな?

 

 と思うが、厄介なことに『念動(サイコキネシス)』で自分を浮かしているせいで重さ自体はそれほどないのだ。肉体的な負荷にはほぼなっていない辺りが妙な知恵を付けている。

 と言っても心配してくれたのは素直に嬉しいし、心配させてしまったのは俺のせいでもある。

 だからまあついつい少しくらいなら良いかなと思ってしまうあたり、何だかんだ俺もサクラに甘いのだろう。

 

 

 * * *

 

 

 実機時代余り無かったことだが、この世界においてポケモンバトルの大会というのは各地で結構頻繁に行われている。

 この世界で生きるにあたりポケモンは切っても切り離せない存在であるし、そのポケモン同士を戦わせるポケモンバトルは最もポピュラーで最もエキサイティングなスポーツのような扱いなのでまあ当然と言えば当然の話。

 

 とは言えどっかその辺で適当に、とは行かないのはポケモンバトルだ。

 

 ポケモンコンテストにランクというものがあるように、ポケモンバトルの大会にもグレードというものがある。

 初心者同士のバトルならまだしも、多額の賞金を設定しそれを目当てにプロが集まるようなグレードも最上位の大会だと当たり前のようにレベル上限……レベル100のポケモンを繰り出す激しいバトルになる。

 『じしん』を起こしたり、『なみのり』で水浸しになったり、『まきびし』がばら撒かれたり、『だいばくはつ』で地形が抉れたり。

 強い技というのはそれだけ周りへの影響も大きい。そんなポケモンの技に耐えることのできるだけのフィールドを設置し、それを見る観客への安全を配慮し、同時にトレーナーたちの邪魔にならず、どんなポケモンにも平等である。

 そんなフィールドを作ることのできるだけの土地と資金が必要になるし、それを作ったとして観客の入りで採算が取れるような場所。

 

 つまりホウエンだとカナズミ、キンセツ、ミナモくらいだ。

 

 

「てことでミナモポケモンバトルトーナメントのチケット取れそうだけど行かない?」

「今日やってるの?」

「うん、今日がちょうど本選だって」

「ふーん……まあ良いんじゃない?」

 

 本選は今日から三日かけて行われるらしい。

 つまり見ることができるのは初日だけだが、まあ別にがっつり見るつもりも無いので良いだろう。

 こういう大会は有力なトレーナーを探すチャンスでもあるので、見る人は見ているかもしれないが、別に俺はもうトレーナーとして食っていく気は無いのでそこまで興味も無い。

 シキはまだこの地方で上を目指すならこういう大会も注目するはずなのだが、余り興味も無さそうだった。

 はっきりと聞いたわけではないが、シキはもうリーグを目指す気は無いのかもしれない。

 

 或いは……。

 

「まあ良いか、そんなこと」

 

 呟きながら、チケット購買を済ませる。

 最上のグレードの大会のチケットなどあっという間に売り切れる類の物かもしれないが。

 

「ま、こういうのは殿堂入りトレーナーの特権だよね」

 

 これでも元チャンピオンである。

 

 

 * * *

 

 

 ―――迷った byシキ

 

「うっそだろ?!」

 

 ホテルの入口から出て数十秒。

 ナビに届いたメッセージに思わず絶叫した。

 ロビーまで一緒に来ていたのだ。

 二人分のチェックアウト処理をするためにカウンターに行き、先に表に出ていてと言って別れてからほんの二、三分足らずの合間。

 

 その二、三分でシキが入口前から消えていた。

 

「迷子ってレベルじゃねえぞ?!」

 

 ほとんどワープである。

 どうやったらロビーから見えている入口前へ行くのに迷うのだろう。

 シキだけまたダークフーパの異次元に飛ばされてないか、とか思いつつ周囲を見渡してみるがシキらしき少女の姿は無い。

 

「え、どうするのこれ」

 

 Q.旅先で同伴者が迷子になりました、どうすればいいでしょう?

 

 A.諦めなさい。やつはミシロから歩いて『あさせのほらあな』へたどり着く迷子の異能者です。

 

「いやいやいや、それはさすがに」

 

 とは言いつつ、これ見つけるのとか無理じゃね、とか、今本当にこのミナモにいるのか、とか色々考えしまう。

 取り合えずシキへメッセージを入れる。

 

「現在地どこ? あとクロを出すようにも言わないと」

 

 あのやたらおかん力の高いきょうぼうポケモンならこれ以上ややこしい事態になる前にセーブかけてくれるはずだ、と期待をかけてメッセージ。

 そうして了解、という返信と共に送られてきたのはどこか街中の景色。

 

「これ……どっかで」

 

 どことなく見覚えのある景色。

 少なくとも街中だ、実は『あさせのほらあな』だったり『りゅうせいのたき』だったり『おふれのせきしつ』なんて行ってたりしないかと冷や冷やしていたのだが、どうやら街中だ。

 

「あ、これって……」

 

 大会の開催されるバトルスタジアムのすぐ近く、つまりほぼ目的地だ。

 すぐにナビでそこで待っててとメッセージを送ると、背中に負ぶさったままのサクラの頭のぽんぽんと叩いて歩き出した。

 

「行くよ、サクラ」

「おー」

 

 

 * * *

 

 

 ―――視線が突き刺さる。

 

 街中を幼女背負って歩いているのだから仕方ないのかもしれないが。

 と言ってもこっちだってまだ十二歳児だ。

 変質者を見るような視線、では無く精々妹を背負った兄と言ったところか。

 まあサクラが俺のこと『にーちゃ』と呼んでいるのも原因かもしれない。

 

「そろそろ降りない?」

「やー」

 

 言ってみるものの即答で拒否。

 そんなことをしているとサクラが落ちそうになるのでしっかりと足を持って背負い直すと嬉しそうに背中に頬を擦りつけてくる。

 猫みたいだな、と思っていると。

 

「んゆ? ねこさん?」

 

 思い描いたイメージが何となくでも伝わってしまったのか、サクラが首を傾げる。

 何でも無いよ、と言いながらまた落ちそうになっているサクラを背負い直す。

 多分わざとなんだろうなあと思いつつも、苦笑してしまう。

 サイコキネシスを使って浮かび上がれるサクラがわざわざこうして背負い直さなければ落ちそうになってしまうのは結局のところこうやって背負い直してほしいからなのだろう。

 

 分かりやすく言うと、甘えているのだ。

 

 子供が親に甘えるように、まだ幼いサクラにとって俺は『甘える』対象なのだろう。

 そう思えば……まあ可愛いものだ。

 

 まあとは言え。

 

「サクラー」

「どしたの、にーちゃ?」

「暑いわ、ちょっと前に来て」

 

 いくら二月とは言え、燦々と輝く太陽の下で子供だからか体温がやたら高いサクラが朝からずっと引っ付いているいのだ、いい加減暑い。

 とは言え引きはがすのも可哀そうだし、妥協案として前に持ってくる。

 

 つまり抱っこである。

 

「んにゅー」

「何その鳴き声」

 

 おんぶした時もそうだが一々俺の首に両手を回さないと気が済まないのだろうか。

 

「にゅ~♪」

「……まあいっか」

 

 機嫌良さそうだし。

 ついついその頭に手が伸び気づいたら撫でている。

 小動物っぽいんだよな、こいつ……なんてその実態はこのホウエンでも最強クラスのドラゴンなわけだが。

 

「あんまはしゃいで落ちるなよ?」

「あーい!」

 

 返事だけは元気良いよなあ、と思いつつもけれど実際には落ちることも無いだろうと確信している。

 そもそも自力で飛べるし、何よりサクラは見た目ほど幼くも無い。

 いや、精神的に幼いのは確かだが、思考のほうはもう大人と同じレベルに語れる程度に育っているというべきか。

 

「こいつ将来どうなるんだろうな」

 

 出会ったのが旅の終わり頃だったため、こうしてサクラと二人で歩く機会というのも中々無かったから今まで考えることも無かったが。

 

 かつてアオバが言った通り、サクラは天才だ。

 

 6Vのラティアス。

 

 トレーナーなら発狂し、喉から手が出るほどに欲しいと思うだろう逸材だ。

 

 けれどこのまま俺のところに居ればこいつはこの先バトルの場に出ることも無く埋もれてしまう。

 それで良いのだろうか、と思わなくも無い。

 サクラに今最も足りないのは実戦経験であり、戦えば戦うほどにサクラの才能が磨かれていくのが分かるからこそ、勿体ないなと思ってしまわなくも無い。

 

 とは言えそれがサクラの幸せなのだ、と俺が決めつけてはならないとも思っている。

 

 サクラの幸せはサクラ自身が選ぶものであり、だからこそサクラにはもっとたくさんのことを知って欲しい。

 

 

 ―――誰か、こいつを広い世界に連れて行ってくれるトレーナーが居ないだろうか。

 

 

 そんなことを考えて。

 

「まあ今はまだ良いか」

 

 呟く。

 

 まだサクラの情緒はそこまで育っていない。

 精神性の幼さが無くなれば自然と外にも興味を持つようになるだろうし、その時誰か良いトレーナーがいるのならば俺はサクラを譲っても良い。

 

 別にそれで俺とサクラの絆が無くなるわけじゃない。

 

 俺とサクラは確かに仲間だし、同時に同じ家に住む家族なのだから。

 

「……ま、全部お前は次第だな」

 

 呟きながら腕の中のサクラへと視線を向けて。

 

「……寝てる」

 

 静かだと思っていたらはしゃぎ疲れて眠っていた。

 

「ふふっ」

 

 含むように笑って、その髪を梳く。

 

「……んゆ」

 

 くすぐったそうに身をよじるサクラの背をぽんぽんと叩いて。

 

「未来のことは未来の俺とサクラに任せようか」

 

 取り合えず俺は大会の観戦だ、と遠くに見えてきたスタジアムに視線を向けた。

 

 




そしてセイ君が学校行くまで家にいることがすでに確定してるのでこの後二十年弱は幼女は旅立たないのだ。
でもこうなるとセイ君PTに入れるのはありありのありだなあって思う。

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