あれは嘘だ。
起動して初めて気づく。
あ、これYだ(
ミクリがボールを投げる。
現れたのは。
「いけ! イラ」
「グララァァァァ!」
キングラー。クラブの進化形。初代からいる由緒あるみずポケモンの一体。だが通常よりもハサミが一回りくらい大きい。元のサイズからしてけっこうな大きさがあったが、ミクリのキングラーのそれは、最早巨大と呼んで差し支えないサイズを誇る。
キングラーの目玉がぎょろり、と動き…………目の前のカビゴンを見つめる。
直後その大きなハサミでばん、ばんと地面を叩きながら。
「グラララララァァァァァ!!!」
絶叫し、飛び出す。
素早い動き、とても横走りとは思えない速度でカビゴンへと接近していき。
ク ラ ブ ハ ン マ ー
その巨大なハサミをカビゴンへと叩きつける。
ダァァン、と横殴りにカビゴンが吹き飛ばされる。
だがかくとうわざでも無い攻撃で一撃で倒されるようなやわな体はしていない。
例え、ホエルオーを止めるために自身も大きなダメージを受けていても、だ。
だが動かない、否動けない。
ギガインパクトの反動で、カビゴンはまだ動かない。
そしてまだ動く敵を見据え。
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
もう一度、その巨大なハサミを振りかぶり。
ク ラ ブ ハ ン マ -!!!
「守れ! ゴンスケ!」
ま も る
カビゴンが守りを固め…………そうしてクラブハンマーに吹き飛ばされる。
「ぐぉぉぉぉん!」
だががっしりと守りを固めたその巨体にさしたるダメージは無かったらしく、地面に腹が反発してぼよんぼよんさせながらも起き上がる。
そうして。
「グラララララララアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
* * *
「裏特性だ」
呟いた言葉に、隣のシアが首を傾げる。
「え? どれですか? 今のカビゴンのほうでしょうか?」
「違う、あのキングラー…………攻撃が失敗…………じゃないな…………あれは」
恐らく、程度の推測ではあるが。
「攻撃して
攻撃すればするほど怒りを増していくキングラーの姿に、恐らくそんな感じだろう、と当たりをつける。
最初のクラブハンマーと次のクラブハンマー、トレーナーの目線で見ていれば明確なほどにその威力の違いが理解できた。
何せ、完全防備を固めたカビゴンを吹き飛ばし、さらに僅かとは言えダメージを与えたのだ。
二発目の威力の恐ろしさが理解できる。
そしてその切欠は恐らく、あの激昂。
「次の互いの一撃が決着をつける…………そんな予感がするよ」
呟き、再び画面に見入った。
* * *
キングラーが激高する。これで二度目。
そこで、ミクリが初めて動く。
「イラ! ばかぢから!」
対応するように、センリが声を上げる。
「ゴンスケ! ギガインパクト!」
互いに指示を受け、ポケモンたちが動き出す。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「グラァァァァァァァァ!」
ギ ガ イ ン パ ク ト !
ば か ぢ か ら !
カビゴンの両手から放たれる一撃と、キングラーの片鋏の一撃がぶつかり合い。
ダァァァァァァァァァァァァァァァァン
轟音が響き、ステージを爆煙が覆い尽くす。
そして、煙が晴れるよりも先に。
「グラララララララララアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
そして、瞬間、ミクリが動く。
「イラ! トドメを刺せ!」
「…………っ!? ゴンスケ! まもれええええええ!」
煙の中の状況が確認できず、一瞬センリの指示が遅れる。
けれどミクリの指示で状況を察したのか、即座に指示を出した辺りはさすがと言えるかもしれない。
だが。
ク ラ ブ ハ ン マ ー!!!!!
ドゴォォォン、と衝撃音が響くと同時に。
「ごぉぉぉぉぉぉぉん」
ごろん、ごろん、と転がりながらやがてその速度を落とし。
「ごぉ…………ぉ…………」
目を回し、気絶するカビゴンと。
「グラララララアアアアアア!」
土煙が晴れ、勝利の歓喜を現すかのようにその巨大なハサミを高く掲げるキングラーがいた。
* * *
「これで一、一か…………でも情報的に考えれば父さんのほうがやや有利、かな?」
呟きつつ、父さんの次のポケモンに注目する。
* * *
「…………行け、ブル」
センリが投げたボールから現れたのは。
「ぶるん」
ドーブル。尻尾が長く、尾の先が筆のようになっている犬のようなポケモン。
ドーブルが覚える技はたった一種類だ。そしてその一種類が無限にも等しい汎用性を持つからこそ、このポケモンは有名である。
「ブル…………リフレクター」
センリの指示によってドーブルが透明な壁を目前に張る。
物理技のダメージを半減させるこのわざによって物理攻撃に特化したキングラーが不利になるのは明白。
だとかそんなこと、お構いなしにキングラーが殴りかかる。
ク ラ ブ ハ ン マ ー!
リフレクターの上から殴られた一撃は、けれどドーブルにさして大きなダメージは与えなかった。
「…………何?」
その様子に、ミクリがぽつり、と呟く。
だがそれ以上に何も言う様子は無く、バトルが続く。
「ブル、キノコほうし」
ドーブルが尾の先の筆を振り回し、
直後、空間に浮かび上がったキノコの絵が、震えだし、胞子をばら撒きだす。
微細な胞子がステージにあふれ出し、躱しきれなかったキングラーがその動きを鈍らせて。
そうして眠る。
「く、起きるんだ、イラ」
ミクリが声を上げるが、キングラーはその体を地に伏せたまま動かない。
「ブル、コットンガード」
その間にドーブルが指示を受け、
書き終わると同時に、綿が空間から浮かび上がり、ドーブルの体に纏わりつく。
キングラーは目覚めない。
「ブル、ちょうのまい」
ドーブルが
「イラ!」
直後、ミクリの声を受けて、キングラーが目を覚まし。
「キノコほうし」
目を覚ました直後、再び胞子が空間に充満していく。
目を覚まし、即座にドーブルに殴りかかろうとしていたキングラーだったが、そのハサミが振り下ろされるよりも先に全身の力が抜けていく。
「ちょうのまい」
ドーブルが積む。
「ちょうのまい」
積む。
そして。
「はらだいこ」
ぽん、ぽんと腹を叩くドーブルの姿に、ミクリが目を見開く。
「何だと…………」
* * *
「はあ?!」
思わずテレビ越しに叫び。
だが仕方ないだろう、ミクリもまた同じように目を見開いているが、それも当然だろう。
リフレクター、コットンガード、キノコほうし、ちょうのまい。
そしてはらだいこ。
ドーブルの
戦闘時に使える技は四つだけだ。
それは戦闘と言う一秒を争う中で、ポケモンがトレーナーの指示で条件反射レベルで出せるまで詰め込める個数、つまりポケモン側にとっての
五つ以上のわざを仕込んでも、最初に覚えたものから忘れていく。戦闘で使えるレベルまでわざを仕込むならば、何かを忘れせる必要がある。
そう言う大原則が…………ゲームではシステム的な都合。現実では生物としての能力の都合で確かに存在する。
だからこそ、驚く。
今父はその原則を軽く一蹴したのだ。
* * *
驚くミクリを他所に、戦いは続く。
「ブル…………バトンタッチだ」
呟いた言葉に反応し、ドーブルが尾の筆で空間にバトンを描きだし…………実体化したそれを握る。
そして、そのまま光となってセンリの掲げたボールへと消えていき。
「…………仕上げだ、来い、ケンタ」
三匹目…………センリの最後のポケモンは。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオァァァァァ!」
ケンタロス。初代ポケモンから現れ、伝説のポケモンを除けば、問答無用で最強の称号を欲しいがままにしていたあばれうしポケモンだ。
しかも、ドーブルからのバトンにより、こうげき、ぼうぎょ、とくこう、とくぼう、すばやさの全てが大きく上がっている。
つまり。
「じしんだ」
ごうごう、とケンタウロスが大地を踏み鳴らす、踏み鳴らす、踏み鳴らす。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド
大地が揺れ、キングラーが上に下にと大きく揺さぶられる。
「グララララララララ」
キングラーが叫びを上げながら、もがくが抵抗虚しく。
「ぐら…………らあ」
ケンタロスが足踏みを止めると、後には気絶し、目を回すキングラーだけが残された。
* * *
「け、ケンタロス!?」
しかもドーブルがはらだいこで4倍だし、コットンガードとちょうのまいでぼうぎょ、とくこう、とくぼう、すばやさは2.5倍。
ちょっともうタスキで食いしばってみちづれかけるくらいしか勝てる未来が見えないのだが。
「…………これで、決着か?」
そう思える…………だが、ミクリの目はまだ死んでいなかった。
* * *
「…………なるほど、追い詰められたのは私のほうか」
ミクリが呟く、状況はかなり悪いことは自覚していた。
けれど、諦める気もさらさらない。
「最後だ…………ルリ!」
そうして現れたのは。
胸元に黒いリボンを結んだ水色のセーラー服と水玉模様の短パン、そして内側が赤く外が水色の耳のようにも見えるリボンを付けた、水色のショートカットの少女だった。
「ヒトガタポケモン?! なるほど、やるな」
センリが僅かに驚いたように呟くが…………すぐ様平静を取り戻す。
確かに珍しい、驚きもする、だが。
息子が六匹も連れて帰ってきた時ほどの衝撃は無い。
センリの数十年の人生で、あれよりも驚いたことはさすがに無い。
それに比べればこの程度、驚きはしても動揺するにも値しない。
「ルリ…………頼んだよ」
「まかせて! ますたー!」
ルリ、ことマリルリのヒトガタが元気よく返事を返し。
ぽん、ぽん、とお腹を叩く。
はらだいこ
マリルリにぐんぐんと力が溢れていく。
そして。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
と っ し ん !
猛スピードで迫り寄って来るケンタロスがマリルリへと狙いを定め。
ドォォン、と。
まるで暴走するダンプカーにでも撥ねられたかのような勢いで、マリルリが吹き飛ばされる。
数メートル、滞空しながら地面に叩きつけられ…………。
「ルリ! 頼むよ」
「ケンタ、勝て!」
互いのトレーナーが叫び。
「やああああああああああああああああ!!!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ば か ぢ か ら
ギ ガ イ ン パ ク ト
互いの持てる力の全てを振り絞り、叩きつけ合い。
そして。
* * *
「…………なんでもあり、だなあ」
テレビを消しながら、思わず呟く。
今回のジムリーダー同士の戦いで、確認できた裏特性は二つ。
さらにはっきりとしたことは分からないが、恐らく裏特性じゃないだろうか、と思われるものが三つ。
それら全てが裏特性なのだとすると。
「…………本当に、なんでもありなんだよなあ」
技術、と言われれば確かに技術だ。
ほとんど反則染みたものではあるが、現実的に考えて、無理じゃないだろ? と言われると無理じゃない、と思う。
だから、本当に父さんの言った通りなのだ。
裏特性に必要なのは、明確なイメージだ。
裏特性は技術である。
そして。
父さんが本当に難しいと言っていたのはこれだ。
空想ばかりのチートを思いついたって、それを実現するための訓練方法が思いつかなければ机上の空論にしかならない。
そして訓練方法まで思いついたとして、それで本当に覚えるかどうかは分からない。
結局その方法でポケモンが裏特性を閃くことができるかどうかは、ポケモン次第である。
今頭の中にいくつか候補のようなものはある。
そしてそれを実現するための方法も。
「…………取りあえず一つ、試してみるか」
ちらり、と振り返ってみたのは、ソファに沈み込む竜の少女。
「…………はてさて、どうなることやら」
ぽそりと呟いた一言は、残念ながら少女の耳には届かなかったようだった。
イラ(キングラー) 特性:かいりきバサミ 裏特性:ブチギレ
ブル(ドーブル) 特性:マイペース 裏特性:スケッチブック
ケンタ(ケンタロス) 特性:いかりのつぼ 裏特性:ちょとつもうしん
ルリ(マリルリ) 特性:ちからもち 裏特性:きようぶきよう
裏特性の詳細は秘密、と言うことで。
多分三章くらいで判明する。
取りあえず。
バトル楽しい。