お、教えてくれ……一体いつ、いつになったこの物語は終わるんだ(
―――
「飛べえええええええ!!!」
“デスウィング”
絶叫。
同時にその黒翼から放たれるのは『破壊の風』。
一対の羽ばたきから赤黒い風が吹き荒ぶ。
一瞬の差でレックウザが飛びあがり、とは言え先ほどとは違う……一度降りたからか今現在人の形をしているせいで掴むところが少ない。
必死になって片方の手でレックウザの手を握りしめ、もう片方の手ではシキの手を掴む。
風の抵抗は凄まじい……だが後ろからイベルタルが追ってきている故に速度を緩めるわけにも行かず、ただただ落ちまいと縋りつくようにレックウザの手を握った。
「まず……いな、これ」
レックウザもイベルタルも本来空こそが主戦場である。
だが俺やシキは空を飛ぶことができない。さらに言うならば先ほど仲間にしたばかりのレックウザとでは連携が不十分だ。簡単に言えばこうして傍にいないとまともに指示ができない。
これが例えばエアだったなら地上からだって以心伝心に指示が出せる。
言葉にしなくとも絆が伝えてくれる。
だがレックウザとそこまでの絆があるか、と言われば残念ながらノーだ。
けれどレックウザを元の姿に戻してイベルタルと空中戦……というのも中々に難しい話だ。
先ほどまでは探索がメインだった。つまり戦闘を避けて進んでも問題無かった。そうなるとレックウザの速度で振りきれないほどの敵というのも早々居ないし、距離を開けていれば攻撃が当たることも無かった。
思考を巡らそうとする。
だががくん、がくんと上へ下へとアップダウンを繰り返すような状況でまともな思考などできるはずも無い。
とは言えそれに文句を言うこともできない、今まさに現在進行形で自分たちの後ろを追うイベルタルから攻撃が次々と飛んできているのだから。
とは言え。
「……なんだ?」
そこに僅かな違和感を覚える。
だが覚えた違和感が一瞬で消し飛ぶような飛行に思考は再びかき乱されてしまう。
「ああ、くっそ!」
イラつきを吐き出すように、舌打ちし。
「レックウザ、こっちも反撃だ!」
「―――任された」
くるり、と空中で反転。
人型の状態での飛行が一体どういう原理なのかは謎過ぎるが、取り合えず振り向いても慣性は続くらしい。足を止めているはずのレックウザの体は勢いのままに引かれて空をかき分けていく。
片方の手は俺とシキを引っ張っている故に空いているもう片方の手を握りしめて。
“かみなり”
放たれた電撃が空を走り真っすぐこちらへと突き進むイベルタルを直撃した。
―――キュォォォァァァァ!
短い悲鳴を上げて、けれど確かに一瞬イベルタルが怯む。
恐らくあのイベルタルも『ダーク』タイプなのだろう、とここまで出会った敵とのことを考えて結論づけるが、それを差し引いてもあのダメージ。
同じ超越種という括りの中で、やはりレックウザが一段飛び抜けている、それを確信する。
だからこそ、余計に思うのだ。
―――
と。
* * *
ポケモンのタイプ、とはとても不思議な物である。
世界には18種類のタイプがあって、それぞれのタイプごとに色々なポケモンがいる。
これがゲームだった頃はRPGなどでよくある『属性』というものなのだろう、と納得できたわけだが、これが現実となると途端にそれは不可思議な物となる。
ポケモンのタイプとは基本的に種族ごとに不変だ。
例えばエアの種族たるボーマンダは『ひこう』と『ドラゴン』タイプ。
シアの種族たるグレイシアなら『こおり』タイプ。
シャルの種族たるシャンデラならば『ほのお』と『ゴースト』タイプ。
もし他のボーマンダがいたとしてもそのボーマンダは同じ『ひこう』と『ドラゴン』タイプだし、他のグレイシアがいてもそのグレイシアは『こおり』タイプ、シャンデラなら『ほのお』と『ゴースト』タイプとそこに『個体差』というものが無い。
基本的には。
だが不思議なことにこのタイプというのは割と簡単に変化してしまう。
先ほど不変である、と言ったばかりではあり矛盾しているようだが、一度決まったタイプというのを変更するのは容易なことでは無い。
それこそ規格外の育成力を持ったブリーダーならば或いは……と言った風に世界中見渡しても後天的タイプの変更が可能な存在など片手で数えることができる程度になるだろう。
だがそんなことしなくとも、生まれる前の状態。
つまり『タマゴ』の時点で『環境の変化』を与えることでポケモンはそれに『適応』して生まれる。
地方が違う、それだけで同じ種のはずのポケモンのタイプがまるで別物に変化したりするのだ。
それはある意味もう別の種類のポケモンと言える。
ポケモンの『タイプ』とは単純にバトルにおいて弱点の有無や技の威力の上昇のためにあるのではない。
ポケモンの『タイプ』とはある意味そのポケモンの『本質』であり、『適性』であると言える。
実機をやったプレイヤーなら誰しも一度は考えるのではないだろうか。
このポケモンがこんなタイプじゃなかったらだったらもっと強かったのに、とか。
このポケモンはこのタイプを持っていればもっと強かったのに、とか。
けれど現実的にはそれは無理なのだ。
ポケモンのタイプとはポケモンの本質である以上切っても切り離せない。
水の中で生きるポケモンたちは『みず』タイプを捨てられないし、体内に内燃機関を持ったポケモンには『ほのお』タイプがある。発電器官があるならば『でんき』タイプになるし、石質の体を持ったポケモンは『いわ』タイプとなる。
その中でも『ひこう』タイプの本質とはつまり飛行……『飛ぶ』ことである。
ポケモンの技でも『そらをとぶ』を覚えるポケモンはたくさんいるが、『ひこう』タイプとそれ以外ではやはり飛行技術に大きな差がある。
例えば先のダークレックウザの飛行能力が本来の物よりも劣っていたように、空を飛ぶポケモンの中でも『ひこう』タイプを持っているか否か、というのは飛ぶことに対する適性のようなものが大きく変わる。
タイプ変化とはつまりそのポケモンの本質の変化に近い。
この森のポケモンたちはどれもこれも『ダーク』タイプへと変化し、恐ろしい力を秘めてはいるが、けれど肝心の姿形が変わっていない。色合いだけは変わっていても、結局ウォーグルもバルジーナもイベルタルも。
―――本来飛ぶことが生態のポケモンなのだ。
誰も彼も地上で生きることを前提にしていないのだ。
確かに『ダーク』タイプは優秀なタイプ相性だ。極めて優秀なタイプ耐性だ。
全てに『ばつぐん』を取り、全てを『いまひとつ』にする。
極めて攻撃的なタイプであり、極めて防御的なタイプでもある。
だが『飛ぶ』ことを前提に生きるポケモンたちから『ひこう』タイプが喪失する、というのはそのメリットを差し引いて有り余るほどのデメリットをもたらすのだ。
* * *
空を舞う二体のポケモンを眺めながら、嘆息する。
「情けない」
「仕方ないわよ」
肩を落とす俺に、シキが慰めるようその肩を叩く。
けれども上空を見上げ、そこで悠々と空を泳ぐレックウザの姿を見て、再びため息を吐く。
一瞬イベルタルを怯ませた隙にシキを連れて二人で地上に降り、後はレックウザの好きにさせてみると良く分かる。
「俺はレックウザの力を全く引き出せていない」
それどころか、俺を守らせるために力を裂かせている分だけ足を引っ張っているとすら言える。
実際、レックウザの力は凄まじいの一言だった。
自在に空を舞い、あらゆる角度から
かと思えば『しんそく』で距離を離して『かみなり』や『ハイパーボイス』で攻撃し、イベルタルがそれに対抗せんと大技を放つために隙を晒せば再び『しんそく』で近づいて一撃を見舞う。
『ひこう』タイプを失ったイベルタルはレックウザほど自在に空を飛ぶ力を喪失している。
代わりに『ダーク』タイプという優秀な耐性を手に入れたのだろうが、残念ながら
先ほどまで逃げの一手だった相手に。
俺たちというお荷物が消えただけでこれである。
協力を頼んだのは俺だし、ボールに入れたとは言え一時的なものであって正式に仲間になったとは言えない相手なので仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「せめて絆が結べればなあ」
エアたちほどで無くても良いのだ、ある程度で良いので絆が結べたならば『メガシンカ』だってできる。
残念ながらこの世界、ゲーム時代のようにメガストーンとキーストーンがあれば捕まえたばかりのポケモンでもメガシンカできる、なんてお手軽チートはできない。
トレーナーとポケモンの間に絆が無ければキーストーンの共鳴が足りずにシンカに失敗するし、不確かな絆ならばメガシンカしても暴走してしまう危険性を孕む。
「ああ、くそっ」
同じ伝説種を相手に圧倒し続けるレックウザを見やり、今日何度目かになるかも分からない悪態を吐いた。
* * *
実際のところ、両者の差はそれほど大きかったわけでは無い。
結局のところそれは以前ハルトたちが伝説を倒すためにやったことと同じなのだ。
一方的に攻撃し続け、相手の力を封殺し、抵抗を許さないままに倒す。
ハルトたちはそれを数で行ってカイオーガとグラードンを倒したが、レックウザはそれを飛行能力の差……つまり機動力でもって行っている。
確かに『ダーク』タイプ化によって『ひこう』タイプが失われたイベルタルと『ひこう』タイプを持ったままのレックウザの機動力の差は歴然だ。
だが逆に考えれば実際に殴り合えば『ダーク』タイプという極めて凶悪なタイプ相性は途端にレックウザに牙を向くことになる。
先ほど戦ったセレビィたちならばまだ圧倒的なレベルの差で押しつぶすことができた。
だがイベルタルは同じ伝説……超越種だ。
それでも尚、レックウザのほうが強い。だがその差は決して埋められないほどのものでは無い。
故に、レックウザも同じことを思うのだ。
メガシンカできれば、と。
放たれる『ぼうふう』を躱しながらお返しと『しんそく』の一撃を叩き込む。
だが
一瞬空中での制動が効かなくなるレックウザ、その隙を逃すまいと『デスウィング』を羽ばたかせるイベルタルだが、突如空から『りゅうせいぐん』が降り注ぎその体幹を揺らす。
イベルタルの態勢が揺らいだ僅かの間でレックウザが態勢を立て直し、虚空を泳ぐようにして移動していく。
逃がすまいと追って来るイベルタルを突き放さんと『ハイパーボイス』を放つ。
だがそれを見越していたとばかりにその翼から羽を弾くように飛ばしてレックウザへ『ふいうち』をする。
結果は両者相打ち、だがタイプ相性の分だけイベルタルのほうが余裕があるようには見えるし、けれど根本的な体力の差でレックウザもそれほど効いた様子は見せない。
再び始まるドッグファイトにレックウザが目を細める。
「弱いな」
それがレックウザの正直な感想だった。
何度も言うが、レックウザとイベルタルの差というのはそれほど大きいわけではない。
小さくも無いが、ひっくり返せないほどのものでは無い。
だが、だ。
弱い。
単純な強い弱いというより『意思』が無い、というべきか。
まるで勝手に動く人形を相手にしているような感覚がある。
だがおかしいのだ、あの黒い色……『ダーク』タイプとは生に敵する殺意の色なのだ。
全ての生に対する突き抜けて強烈な殺意こそが『ダーク』タイプというイレギュラーを生み出す。
なのに『意思』が無いというのはおかしいのだ。
あるはずなのだ、そこには『殺意』という名の意思が。
なのにイベルタルからはそれが感じられない。
思えばセレビィもそうだった、シェイミ-も、ジラーチも、誰も彼も操り人形がごとく『意思』を感じない。
それが何なのか、レックウザには分からない。
だが、少なくとも。
―――こんな人形に負けるつもりはさらさらない。
キリュゥゥアアアアァァァァァァァァ!!!
龍の咆哮が響き渡る。
“りゅうのまい”
踊るように空を舞う龍へとイベルタルが羽を広げる。
“デスウィング”
自らが必殺の一撃を見舞わんとした攻撃を、けれどレックウザは避けようとする素振りも無く受け止める。
大きく
「終わりだ」
虚空を蹴るようにして炎を纏って突き進む。
『ガリョウテンセイ』に並ぶ、レックウザが誇る必殺の一撃、その名を。
“ V ジ ェ ネ レ ー ト ”
『ほのお』タイプ最大最強の一撃がイベルタルから放たれる
「―――ォォォォォ」
絞り出すような悲鳴を上げながら、イベルタルが地上へと堕ちていき。
実際のとこ実機基準で言うとVジェネとガリョウテンセイの威力に差はありません(レックウザが使う限り
じゃあ最後ガリョウテンセイでも良いのでは? と思った読者。
だってVジェネかっこいいじゃん、決め技に使いたくなるよ。
というわけであっさりと倒されたイベルタル、だってこれ前哨戦だからね(
因みに言うと、これはイベルタルであってイベルタルじゃないからね。
カロス編でイベルタル出ないわけがないので出ると言っておくけど、カロス編のイベルタルはちゃんとイベルタルなのでイベルタルしてる(ゲシュタルト崩壊
というわけでデータ。
【名前】■■
【種族】イベルタル/超越種
【タイプ】ダーク
【性格】――――
【特性】■■■■■(未発動)
【持ち物】――――
【技】デスウィング/はたきおとす/ふいうち/ぼうふう
【裏特性】『■■■■■』
????
【技能】『■■■■■■■■』
????
【能力】『■■■■■■■■』
????
【禁忌】『■■■■■■■』
自分の攻撃技が、相手の現在HPと最大HPの両方にダメージを与える。最大HPが0になったポケモンは『■■■』する。
え、ほとんど分かってないじゃんって?
だってほとんど使ってないもん、今回のバトルで。正確には使えなかったんだけど。