あ、個ラン98000位でした。勲章うまうま。
何気に初めて貢献度1億行ったわ。
当たり前と言えば当たり前の話だが。
人間とポケモンでは身体能力が大きく異なる。
外見的には非常に小柄なチークでも子供の自身より筋力は高く、瞬発力は大人よりも高い。
さらにその全身から発せられる電撃は、下手をすれば人を殺傷できるほどの威力があり、危険としか言いようが無い。
とは言え『でんき』タイプのポケモンが自身の体から発せられる電力を調整できないはずが無い。
故に。
「ほい、一人目さネ」
小柄なチークがさらに身を低くし疾走する。
そうして周囲を威嚇するように立ちふさがるポケモンたちを置き去りに、道路に立っていたロケット団員に傍に寄るとその背に一瞬触れ、ぱちん、と弾けるような音が鳴ると同時に黒ずくめの男が崩れ落ちる。
「二人目」
そのことに驚き固まる他の団員たちを他所にさらに速度を上げて再びその手の中に電気を生み出し。
触れた瞬間また一人崩れ落ちる。
と同時に驚きに固まっていた団員たちが動き出し。
指示を出す、途端ポケモンたちがチークのほうへと向く、と同時にチークが逃げ出す。
見たところレベル上限に達した個体はいないかもしれないが、六体も七体もポケモンに囲まれれば数の利で負ける。何せ相手の使っている『どく』タイプのポケモンたちとチークは基本的に相性が悪いのだ。
逃げ出したチークを追うが、純粋なレベル差と種族値の差で追いつかれることは無い、無いがそれでも一瞬で二人も仲間を気絶させたチークを逃すまいと団員たちはポケモンを追わせる。
「さて……いつまで持つやら」
最初の問題はクリアした。
咄嗟の判断だった、間違っているかどうかを確認する間も無いので即断した。
今見えている六人ほどのロケット団の団員たち。
何をやるつもりかは知らないが、絶対に面倒なことをやらかすつもりに違いは無い。
故に行動する前にこちらに注意を引き付ける。
チークを放置して事を起こせば障害になる、そう思わせなければならない。
稼いだ時間が長いほどに事態の解決にトレーナーたちが駆けつけてくる。
故に、次なる問題はどれだけの間引き付けていられるか、だが。
「あと一体いればなあ……」
チーク以外の誰でも良い、誰かいれば引き付けている間にトレーナー側を制圧することも可能だった。
いや、アタッカー勢ならば逆に正面から相手を全滅させることも可能だったかもしれないが。
と言っても今いない仲間のことを考えても仕方ない。
今ある手でどうするかが問題なのだ。
「一体いれば、良いのかい?」
振り返った先にいたのはロングコートを着た女だった。先ほどまで店内のカウンター席で新聞を読んでいた人物だ。
歳の頃二十代前半と言ったところか、編んだ紫色の髪を垂らしながら不敵に笑みを浮かべていた。
「……行けるの?」
事態が切迫しているため余計な前置き無く尋ねればくつくつと笑ってボールを構えた。
「問題無いさ……私はあいつらの
女が投げる、そうして出てきたのは。
* * *
空に暗雲が渦巻く。黒く、暗く、空が染まり。ざあ、と途端に雨が降り出す。
「クワックォ!」
ロケット団の団員たちの前に現れたゴルダックが空に向かって吼えた途端に降りだした雨に、それが『あまごい』であることに気づき。
先ほどのヒトガタらしき少女を追って、自分たちのポケモンが離れた場所に行ってしまったことを今更ながらに思い出す。
つまりポケモンを前に自分たちは無防備であることを認識し……。
咄嗟にボールを投げる。
さらに追加で出てきた数体のポケモン。
いざ、と言う時のために取っておいたポケモンたちだが、今使わねば終わる、その直感に従って最後の『切り札』を切った。
“あまもり”
一瞬焦らされたが数の利は明確だ、相手が一体ならば問題無いと考えて。
“シンクロノイズ”
直後に響いた不協和音に顔を顰める……と同時にダメージを受けてバタバタと『ひんし』になって倒れていく『切り札』のポケモンたちを見て驚愕する。
何をされたのか、そんなことを考えたが答えが出るはずもなく。
一つ分かっているのは、今自分たちの手元には戦えるポケモンがいない、ということ。
そして。
「クワァ!」
目の前で戦意を昂らせた危険な存在がいる、ということだ。
詰んでいる、そのことに気づいたのは直後のことで。
やがて戻って来たポケモンたちも同じように一瞬で『ひんし』に追いやられ、団員たちが完全に降参するまで数分もかからなかった。
* * *
実のところ、いくら犯罪者相手とは言えポケモンが人間を攻撃する、というのはかなりグレーゾーンな行為である。
先ほども言ったように人間とポケモンでは保有する危険性というものが段違いである。
である以上、軽々しくポケモンの牙を人間へと向けるのは
対応としては間違いではないが、けれど決して正しくはない。
だからグレーゾーン。
とは言えチークが加減して相手を動けないように痺れさせるだけに留めていたこともあり、ジュンサーからの注意喚起だけに留まった。
状況だけ考えれば俺たちの行動は十分な正当防衛であり、さらに言うなら実質的な被害はゼロな以上はそれ以上どうこうは言えない、というのが実際のところなのだろうが。
とは言え今回の件は俺としても反省するところもあった。
今回はヴィオ(後で聞いた女性の名前)さんがいてくれたから良かったものの、誰もいなかったならばどうなっていただろう。
少なくとも、今度からは最低一人はアタッカーを連れてくるようにすると心がける。
まさか街中でこんな騒動が起きるとは思わなかった……よく考えれば実機ストーリーでも割と街中で事件とか起きている気がするし、案外気が抜けないのかもしれない。
「お疲れ、チーク」
帰りの船の上。
朝早くから起きた事件だったので、なんとか昼の船までに間に合って良かった。
ごたごたのせいで家に連絡ができなかったが、まあ最初から今日帰ると伝えてあるので問題は無いだろう。
「ホント、疲れたさネ」
揺れる船の甲板で風を浴びながら珍しく疲れた様子のチークに船内でもらってきたジュースを渡す。
早速開封し、こくこくと中身を飲むチークを横目に見ながら珍しいなと零す。
「そんなに疲れたか?」
自分で言っておいてなんだが、チークのスペックを考えればあの程度で疲れるか? という疑問もあった。だから目の前で消耗している様子の少女を見て、本当に珍しいと思ったのだ。
そうしてそんな自身の内心を知ってか知らずか、少女が苦笑いして告げる。
「だから言ったさネ……歩きづらいって」
台詞の後半、か細くなっていく声にチークが照れているのが分かってしまい、こちらまで赤面してしまう。
そんな自分を見て、キシシ、とチークが笑った。
「戻ろっか……ちょっと風が冷たいヨ」
「ん……そうだな」
上気した頬をひんやりとした風が撫でる。
十二月の海上はとにかく冷たい。先ほどまでは気にしていなかったが、言われると確かに体が冷えていることに気づく。
船内の自室に戻ると断熱された室内は仄かに暖かく、ほっと息を吐いた。
ベッドの上にぴょこんと座ったチークに苦笑しながら部屋の片隅に置かれたポッドでインスタントコーヒーを淹れる。
湯気立つ珈琲を一口含み、喉を通る熱の塊に肺腑が焼けるような感覚すらあったが、けれど風ですっかり冷やされた体には内側からじんわりと滲む熱が心地よかった。
「チークもいる?」
尋ねながらもう一つ淹れて、チークに渡す。
ありがとうを言いながらそれを受け取り、ふうふうと何度となく息を吹きかけて。
「……あち」
まだ熱いらしい、それをちびちびと飲む。
そんな姿を可愛らしいなと思いながらもう一つのベッドに腰掛ける。
「……ん? アチキの顔に何かついてるかナ?」
「え、何が?」
「笑ってるよ、顔」
言われ、思わず頬に手を伸ばす。
触れてそこで初めて自分が笑っていたことに気づいた。
「……いや、その」
少しだけ躊躇する。きっと以前までの自分なら何の躊躇いも無く言えていたのだろうが。
今はそれを気恥ずかしく感じる、冷えた頬がまた僅かに上気して。
「可愛いなあって……見惚れてた」
告げる言葉にチークが一瞬、何を言っているのか理解できないとぽかんとして。
「……な、なな、にゃにを言ってるんだヨ」
顔を真っ赤にして台詞噛み噛みでそんな言葉を返した。
よく見れば全身ぷるぷる震えているし、ちらちらと何度もこちらを見ているのに視線が合いそうになるとすうと逸らされる。
そんな愛しい少女の姿を見て、また可愛いと思っている自分は、随分と変わったのだと今更実感した。
「はあ」
珈琲を飲み、嘆息する。
この短かった旅行もようやく終わりを告げるのだと思うと。
「……大変な旅行だった」
博士号だけもらってさっさと帰るつもりだったのに、実験記録取ったり、チークとアレなことしたり、テロリストに襲われたり。
本当に大変な旅行だった。
「次回からはもう一人誰か連れてこよう」
それは本当に反省だ。
世の中何が起こるか分からないという証左でもある。
ホウエンはすでに比較的平和ではあるが、それでも犯罪というものが起こるし、いつそれに巻き込まれるやもしれない。
そういう意味で自衛手段は必須だろう、今回のことでそれが良く分かった。
そう思って告げた言葉だったが、気づけばチークが苦笑していた。
「どうかした?」
「いや、そのネ」
先ほどの自分と同じように、少しだけ言いずらそうにしながら、それでも困ったように笑みを浮かべて。
「
どきん、と胸が弾んだ。
鼓動が早くなる。
「そ、そっか」
なんてそれだけしか返せないくらいに動揺してしまっていた。
正直その不意打ちは卑怯だ。何の心の準備もできていなかったからもろに受けてしまった。
けれどふと見やった少女の顔は自分と同じくらい真っ赤で。
「ぷっ……恥ずかしいなら言わなきゃいいのに」
「……それをハルトが言うのかなあ」
思わず吹き出し、笑ってしまった。
笑ってそんなこと言ってしまったけれど。
ああ、なんてことはない。
「ん、確かにそうだね……そうだよね」
ああ、そうだ、本当になんてことのない話。
「言わないと伝わらないことだよね」
絆はある、今もこの瞬間も、確かにチークとの強い繋がりがこの胸の中にはある。
昔はそれが全てだと思っていた。それさえあれば良いのだと思っていた。
けれどそうじゃないんじゃないか、と今は思っている。
この絆はたくさんのことを教えてくれる。大切なこともたくさん知っている。
でも、全てを教えてくれるわけじゃない。
伝えられないことだってあるし、隠したいことだってあるんだ。
だから、だから、だから。
「ねえ、ハルト」
「……どうした?」
言葉にしなくても全て伝わるなんて、幻想なんだ。
「本当に……私で良かったのかな」
ただ思い合ってれば好きあっていれば、ずっと一緒にいられるなんて、夢物語なんだ。
「……そんなこと今更に聞くの?」
今更でも、何でも、不安な物は不安で。
特に自信の無い彼女だから、伝え合った言葉にすら時間を置けば不安が滲みだしてしまう。
「それでも……もう一度、ううん、何度でも聞きたいから」
言って?
そう告げる彼女の表情にくすりと微笑む。
そんな少女に対して少しだけ逡巡しながら、それでも。
「好きだよ……チーク」
告げた言葉に少女が反芻するように、目を閉じ、何度もこくりと頷き。
「本当に?」
「ああ、本当だよ」
きっと無意識なのだろう、こちらへと伸ばした少女の手を掴み。
「本当の本当に、私なんかでいいのかな?」
「昨日だって言っただろ……なんか、なんて言うな。俺は、
告げる言葉、触れた手の温度が熱いくらいに感じていて。
きっとこの先、何度も言うだろう台詞、目の前の少女が自分に自信が持てるまで、何度だって告げるだろう台詞だが。
それでも……きっと。
何度告げようと、この胸の高鳴りは続くのだろう。慣れることなんて考えられないほどに、心臓が痛いくらいに早鐘を打った。
それでも、この鼓動のほんの僅かでも、目の前の少女に伝わって欲しいと、何度も何度も、手を握り言葉を繰り返すのだろう。この先もずっと、ずっと。
「お前が自分の自信を持てるまで、何度でも言ってやる」
何度でも、何度でも。
「俺は、お前が良い、ってな」
告げる言葉にチークが短く頷き。
「……うん、ありがとう、ハルト」
薄っすらと、けれど、ほころぶような笑みを浮かべた。
そのまま立ち上がり、目の前の自分へと抱き着くように倒れ掛かって。
「大好きだよ」
耳元で呟かれた一言に、笑みを零した。
いい加減面倒になったきたので、後日談適当なとこで切り上げます。
具体的にはあとイナズマとリップル、シキだけは確実に書いて、そこから後は思いついたら気まぐれに投稿みたいな形にする。
すまんな、正直仕事が忙しくて中々執筆時間も取れない、このまま最後まで書いてたらカロス編がまた来年になりそうだし、イズモ編とかまじで十年後になりそうだ。
というわけであとメインヒロインの三人だけ書いたらカロス編に移行します。
大雑把には話も決めてあって全50話くらいになる予定。
ただ最初旅させようかと思ってたけど予定変更してシティアドベンチャーになりそう。
因みに今回出てきたヴィオさんとか前回のセレナちゃんとか全員出てくるよ。