というわけでコラボ? クロス? まあそんなの。
毎回聞いてくるやつがいるので言っとくが、ちゃんと許可もらって書いてます。
「やあ、お久しぶり」
ソレ以外誰もいないはずのその空間で、ソレはどことも言えぬ虚空に向かってそう呟いた。
宇宙がごとく暗く静かなその場所でソレは独り笑っていた。
「うんうん、ようやくこちらも一段落と言ったところだよ……うん? そっちは……」
数秒、珍しいことにソレが硬直する。
まるで信じがたいものを見たとでも言うように、笑みが引き攣り。
「あは、はは……何だか随分と妙なことになってるね。いやいや、でもそっちの仕事はもう終わったみたいだし、中々羨ましい状況だよ……え? いやいや、こっちはそんなことできないけどね」
誰にともなく、ソレは語り掛ける。
「うんうん、それにまだまだ見ていたい、そういう気持ちもあるんだ……不思議だよね? え、そっちも? うん、じゃあそうなのかもしれない……そういうものなのかもしれない。うん、
語り掛ける、語り掛ける。
「え……? いやいや、そんなことのために開いたわけじゃないんだよ? ちゃんと要件ならあるさ、いや……提案と言ったほうが正しいかな?」
語り掛ける。
「そう……そちらの彼と、こちらの彼を引き合わせてみようかと。何故? 何故なんて、理由が必要かな? 必要? そうかもしれないね、
語り掛ける。
「―――まあ、強いて言うなら」
語り掛ける。
「面白そうだよね?」
* * *
あ、これ夢だわ。
目を覚ました瞬間、
明晰夢、とでも言うのだったか?
ふわふわとした、どこか現実感の無い感覚。
僅かに重い思考を、頭を振って切り替え。
「……ん?」
ぼやけた視界が明瞭になっていくと同時に見えてきたのは、闇だった。
真っ暗な世界、曇天の夜よりも、新月よりも尚暗いその世界は。
一言で言うならば、無だった。
本当に何も無い。
奥行、いや、距離という概念があるのかすら怪しいその場所にいつの間にか立っていて。
まあ夢ならこんなものだろうか、と首を傾げる。
何だろうこの夢と、腰に手を当て、がしがしと頭を掻き。
「……あれ?」
当てた腰に感じる感触に視線を落とし。
腰に巻かれたベルトに取り付けられた六つのボールを見やる。
光源など一切ないはずのその場所で、よく考えれば自分の姿だけははっきりと見えることに、今になってようやく気付き。
「……まあ夢だし」
それで納得する。
そうして取り付けられたボールに触れ。
とくん
感じる感覚に再び首を傾げた。
* * *
「あ?」
声を出す、という行為を明確に意識した……いや、させられたというべきか。
夢だ、不思議とその確信があった。
何も無い真っ暗なこの世界、いつかのやぶれた世界を少しだけ思い出すが、また違う。
傍らに手を伸ばし、そこに居ない相方を少しだけ寂しく思い。
「……ん?」
そこでようやくいつもの服装であることに気づいた。
否、いつもの、というには語弊があった。あの人にもらったボルサリーノ帽も無ければスーツも着ていない。視線を落とせばそれでも確かにそれは見慣れた……着慣れたゴーグルやジャケットで、
「……ふん」
鼻を鳴らし、即座に意識を切り替える。
目下の問題として、どうやったらこの夢から覚めるか、だ。
先ほどから確認はしているが、五感による刺激で目覚める様子はない。
これを夢と認識している、つまり明晰夢というやつか、とも思うがそれにしてはこんなにもはっきりと思考し行動できるものだろうか。
まるでこれでは起きているかのようではないか、と考え。
「またダークライでも来たか?」
やはり殺しておくべきだったか……確殺以外は糞だな、と次に出会った時に確実に殺すことを誓いながら思考を加速させていく。
夢、と言われるとダークライの仕業であると思いたくなるが、それにしては以前の夢と全く様相が違うことが気になる。
第一、これが悪夢か、と言われるとやはり首を傾げざるを得ない。
真っ黒で何も無い……本当に何も無いこの場所で、一体どうしてこんな夢を見ているのか、そしてどうすれば目覚めることができるのか。
「ヒントはこれか」
何故今自分が過去の服装になっているのか。
そして腰のベルトに取り付けられたボールが六つ。
手を伸ばし、それに触れ。
「……ああ、なるほど」
納得した。
* * *
こつん、と。
闇の空間に物音が響いた。
「―――」
「―――」
いつからそこにいたのか。
気づけば、視線の先、闇の奥に一人の男がいた。
見覚えの無い男。けれどこの空間において初めての他人。
これは夢だ。
それは分かっている。
そして、だからこそ、何が起ころうと夢だから、の一言で納得できる。
だからこそ、湧き上がるこの思いにも、同じ理由で納得ができる。
これは夢だ。
腰にセットされたボールに手を伸ばす。
男もまた同じことをしていた。
つまり、同じ人種だ。否、そんなことは目と目が合ったその瞬間から分かっていた。
トレーナー同士目と目が合えば―――。
それは結局、自分たちのような人種の根底に染み付いた性質であり、例えこの不思議空間だろうと、夢の中であろうと変わりは無い。
そして同時に、今自分たちがここにいる理由が、そして何をすべきなのか、それが何となくで理解でき。
なんだ、やることは変わらないじゃないか。
何の躊躇いも無く、互いが手に取ったボールを投げた。
「チィィィク!」
「黒尾!」
「いつでもどこでもお元気アタイさネ!」
「また良く分からないことになっていますが……まあやることは変わりませんね」
互いの場にポケモンが現れ。
「おや……?」
相手の場に現れた黒い狐尾の少女が一瞬首を傾げる。
同時に―――。
“よるのとばり”
闇が払われ、夜へと移り変わる。
「空が……」
「これは……そういうことか」
フィールドが……天候が変化した、その効果は分からずともそれだけは理解する。
同時にチークから伝わってくる感覚に、一瞬戸惑いを覚え。
「あ……そういうことか」
それを理解する、と同時に相手の呟きの意味を悟る。
端的に言えば
感覚としてはチャンピオン戦の時と同じだろうか?
あれから二年以上経っているわけだが、チークから伝わる感覚は二年の逆行を示していて。
「まあ夢だからな」
結局その一言で片づけ。
“つながるきずな”
「やることは変わりない……いつも通りにいこうか」
「あいあいサ!」
視線を相手へと移し、指示を出す。
「走れ!」
「了解さネ!」
「きつねび!」
「はい」
互いの指示と同時にポケモンが動き出し。
“きつねび”
先手を取って黒い少女……あの尻尾を見る限りキュウコンだろうか? 何故黒いのかは分からないが、恐らくそうだろう……がその両手に炎を灯し。
そこに突っ込むようにしてチークがキュウコンへと接触し。
“ほっぺすりすり”
「びりっとするヨ?」
「っ……やることは終わりましたので、これにて失礼します」
『マヒ』状態を抱えたキュウコンが相手の元へと戻っていく。
「チーク」
「はいサ」
そうして男が次のボールを手に取り……投げる。
「潰せ、蛮ちゃん!」
「
出てきたのはバンギラスであり。
“すなおこし”
登場と同時に砂塵が巻き起こる。
けれど砂塵の嵐は夜を晴らすこと無く。
“二律背反”
「最初のは天候じゃ無かったのか?」
ソレが何なのか分からない自分にとっては、結局目の前で見たものをそのまま受け入れるしかない。
この『すなあらし』の状況化でバンギラスをまともに相手にするのは面倒だ。
だったら。
「戻れチーク……行け、シア!」
チークをボールに戻し、シアを場に出す。
「何かまた妙なことになっていますね……まあ今は良いですか」
一瞬周囲の景色に目を細めたシアだったが、目の前で気炎を吐くバンギラスの姿に意識を切り替え。
「あつっ」
キュウコンが去り際に残したともし火がシアに触れ、その身を僅かに焼く。
「……やけど、か」
設置効果で『やけど』とは中々やばい技だ。
とは言えこちらとて黙ってはいない。
“ゆきのじょおう”
天候を『あられ』に書き換える。
見上げれば、やはり『すなあらし』が消え『あられ』が降り注ぎ始める。
これでバンギラスにも隙が生まれた。
だが同時に夜闇は消えない……やはりこれは天候ではないのか、と考え始め。
「ゴギャァァァ!」
「っ?! シア!」
「はい!」
思考を遮るようにトレーナーの指示も無く、バンギラスが走る。
声以外で指示していたのか、それとも予めそうするように仕込んでいるのかは不明だが、先手を取られたことは事実であり。
どん、どん、とその巨体に見合わぬ軽やかさでバンギラスがシアとの距離を潰し。
“ばかぢから”
バンギラス渾身の拳がシアを突き刺さり、その姿を軽々と吹き飛ばす。
“こおりのかべ”
弱点技を軽減する薄氷がその威力を削ぎ、さらに絆によって上げられた能力がその大技を受けきる。
そうしてお返しとばかりにシアがその指をバンギラスへと突きつけ。
“アシストフリーズ”
凍ての輝きがバンギラスを包み……一瞬でその全身を凍り付かせる。
『すなあらし』の補正も抜けた上でそれでもその一撃で倒れないタフさに目を見開きながらも、それでもこれで一体無力化完了。
そう、思った瞬間。
ぴきっ
「行くぜ、蛮ちゃん」
―――ッッッ!
男の……トレーナーの呟きに応えるかのように、氷漬けにされたバンギラスの全身に力が籠められ、
メ ガ シ ン カ
ぴきり、と……再び氷が軋み。
ぴきり、ぴき、ぴきぴき、ぴき……軋む。
ぱきん、ぴき、ぴき……軋み。
そうして。
「ゴギャァァァァァァォォォ!」
光が割れ、全身を覆う氷を怒張した筋肉で無理矢理に砕きながらメガバンギラスが咆哮を上げる。
“すなおこし”
同時に、再び『あられ』を塗り替えて『すなあらし』が吹き荒び始め。
“ストーンエッジ”
岩の刃がシアを抉り。
―――きゅうしょにあたった
「ぐっ」
急所を抉った一撃がランク補正を無視してその
それでも尚、倒れまいとシアが表情を歪めながらも震える膝で立ち上がり。
「戻れ」
その身がボールに吸い込まれる。気力で立ちはしたが、あれ以上は無理だろう。
夢だからその辺なんとかならないかな、とも思うが、まあ夢だろうと無理はさせたくない、実質これで『ひんし』と考えて良いだろう。
そうして思うのは。
「やっばいなあ……あのバンギラス」
特異な能力があるわけではないが……純粋に強く固く、そして鍛え上げられている。
やや小柄なのかとも思ったが、通常のバンギラスよりもよっぽど硬質化した筋肉のせいで『こうげき』も『ぼうぎょ』も上がっているし、あの鈍重な種族とは思えないほど『すばやさ』も高い。
そして『すなあらし』で『とくぼう』にも補正がかかっており、さらにはメガシンカしてさらにその凶悪さを増している。
あれ単体でエースを張っても通用するレベルの怪物に、一瞬どうしようかと悩み。
がたり、と腰のボールの一つが震える。
まるで暴れさせろ、と彼女が吼えているかのようであり。
行かせるか? と考え視線をあげれば未だにフィールドに漂う灯火。
物理アタッカーがあれに触れるのは正直遠慮したいところである。
とは言え設置技なら、どうにかできる……それはダイゴとの戦いで散々苦労させられたから。
「先にお前だ、リップル!」
「はいはい、っと……お任せだよ」
“スコール”
雨が降り始める。
ざあざあと降りしきる雨が『すなあらし』をかき消し、徐々にフィールドの水位をあげていく。
「戻れ、蛮ちゃん」
「リップル!」
「はーい!」
男がバンギラスをボールに戻し。
「受けろ、ナイト!」
「
“りゅうせいぐん”
場にブラッキーが現れると同時に降りしきる流星がブラッキーの体を撃つ。
絆によって強化された一撃がブラッキーの体力を大きく減らし。
「
呟きを残してボールへと戻っていく。
「もう一度だ、蛮ちゃん!」
戻したボールを入れ違いに、見事なボール捌きで男がボールを投げ。
「ゴガァァァァォ!」
メガバンギラスが現れる。
“すなおこし”
雨がかき消させ、三度砂塵が吹き荒れる。
とは言え、洪水がごとき雨がフィールドを漂っていたともし火をかき消している。
「ご苦労様、リップル……」
役目を果たしたリップルを手元に戻し。
行かせろ、行かせろ、と先ほどから揺れるボールを手に取り。
「じゃあ、行ってみようか……アース」
その意を汲むように、ボールを投げる。
投げられたボールから光が放たれ、くの一のような装束の少女、アースがフィールドに降り立つ。
「く……くく、何だよ、何だよ……アタイ抜きで面白そうなことしてんじゃねえよ!」
楽しそうに、アースが笑い。
“じしん”
どん、と足元を蹴ると同時に衝撃が広がっていく。
ごうん、ごうん、と足元……果たして砂も土も無いはずの闇が鳴動し、バンギラスの体力を削り。
「ゴ……ギャァァァ!」
先ほどのシアの一撃と合わせて致命的なダメージを受けたバンギラスが咆哮を上げ。
“ばかぢから”
その拳を振り上げ。
「うるせえ、寝てろ」
“きっておとす”
瀕死の傷に鈍った体の隙を突いて振り下ろした一撃がバンギラスを撃沈した。
というわけで『てんぞー』さんからキャラお借りしての『ドリームマッチ(文字通りの意味で)』です。
まあ擬人化アリで、データ作ってて、完結してるポケモン作品なんて他にほぼ無いし、読者の中にも察しの良いやつが多かったな(
一話じゃ終わらなかったので、次回で終わりかな?
一応、本作には無い、向こう様オリジナルの技の解説。
きつねび:『どくびし』のやけどバージョン。場に出たら『やけど』する糞技。
よるのとばり:天候を『よる』にする。『よる』になると回避率が上がったり、『ゴースト』『あく』タイプの技の威力が上がったりする。
二律背反:天候や状態異常など本来システム的に一つしか受けない効果を重複させる、とは言え一応2個までの制限はあるらしいが(妖怪談