ポケットモンスタードールズ   作:水代

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全く関係無いけど、グラブル、アーカーシャと黒騎士倒しました。
まじ辛かったけど、なんとかノーコン初見クリアだぜ。
風パはあと二か月くらいで全マグナ銃3凸完成だし、上級者の仲間入りできるんじゃないだろうか、とか甘い予想をしている。


未来編プロローグ

 

「…………明日、か」

 

 西日の差す道場。

 かつて()()が座っていた場所に腰を下ろし、ふと呟いた。

 すでに引っ越しの準備は整っていた。例え今日突然向こう側に向かうことになったとして、問題ないと言えるくらい。

 荷物の大半はすでに業者に預けてあるため、本当に持っていくのは鞄一つで良い。

 

「…………明日、か」

 

 再度呟いた言葉に込めた想いは何だったのだろう。

 懐かしさ? 嬉しさ? それとも、もどかしさ?

 それも全部、明日になれば分かることか、と一つ嘆息し。

 

「あ…………こんなとこに居た」

 

 とん、と木板の床を叩く音が響いた。

 視線を向ければ、そこに居たのは、真っ白な綺麗な長髪に紅と白のツートンカラーのフリルの付いたドレスを着た十五、六歳くらいの少女がいた。

 

()()()()()()()()

「セーくん、こんなところで黄昏てて、明日の準備終わってるの?」

「うん、終わってるよ」

 

 だから大丈夫、と返すと、そっか、と少女が破顔して。

「よしよし、偉い偉い」

「…………お姉ちゃん、それ止めてよ」

 そんな風に口では否定しながらもそれを払いのけれないのは、幼少の頃からずっと可愛がられてきた名残だろうか。

「そっか…………セーくんももう十歳なんだね」

「そうだよ…………だから、来週から()()()()に通うんだよ」

 寂しくなるね、と本当に寂しそうな表情で呟く姉の姿に、胸が締め付けられるような思いになる。

 多忙な両親に変わり、幼少のころからずっと面倒を見てくれていた姉だ。そんな表情されると、心苦しい想いがある。

「まあ、向こうから電話するから…………さ、それで許してくれないかな」

「…………むう、そうだよね、仕方ないよね」

 嘆息一つ吐きだし、姉が唇を尖らせた。

「何と言うか…………トレーナーになるのに学校に通わないといけないなんて、昔はそんなこと無かったのにね」

「昔って…………それってまだ父さんが現役だった頃でしょ? 二十年近く前の話なんだけど」

 

 準トレーナー規制令。

 

 確か発布されたのは十年前だったはずだ。

 全国のポケモン協会が協議を重ね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()法令。

 逆に言えば十二歳未満の子供は正規トレーナーとして認められない、ということだ。

 正規トレーナーとは、ポケモン協会によって認められた()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを保証するトレーナー資格を与えられたトレーナーを指す。

 正規トレーナーにならないと『ポケモンセンターの回復用途以外での利用』や『公認ジムへの挑戦』などが出来なくなる。実質的にトレーナー業に深刻な問題を発生させる。これらの法令の制定と同時に『地方リーグ』への挑戦に公認バッジを必要とするようになったため、余計に、だ。

 

 法令制定以前の場合だと、ポケモン協会で管理されている戸籍が十歳になると『小学校卒業みんなが大人法』によって自動的に成人認定される。冗談みたいな名前だがこれが正式な名前である。通称は『小卒大人法』などとも呼ばれるが、とにかく十歳になるまでは子供全員小学校に()()で通う。

 全国どこでも小学校があるわけでは無く、そのためある地方は通えば良いし、無い地方は通わなくても良い、などと区別すると不公平になるため、親が責任を持って子供に必要最低限の教育を施すならば小学校は基本的に通う必要は無い。両親共に忙しい家庭の子供などが午前午後と子供を預かってもらえるため通わせる家庭もあるが、基本的にこれは()()だ。

 とは言え、六歳から十歳までの五年間、どの地方の子供も一番近くの小学校に在籍の『登録』はされる。そのため通おうが通うまいが、十歳になると同時に卒業認定がされ、同時にそれがポケモン協会に通達、晴れて成人認定となる。

 ここから正規のポケモントレーナーとなるためには、半日ほどの講習と簡単なペーパーテストを受ければ良かった。一日もあれば正規トレーナーとなるのは容易だった。公認ジムの認可があればこれら講習やテストすら跳ばせるのだから、本当に最低限誰でも取れる認可、だったのだが。

 

 準トレーナー規制令が発布されてからはこの認可のための講習やテストも難易度を増した。

 実際、これが解けるならそのままエリートトレーナーにだってなれる、と言われるほどの難関と化したのだ。

 十二歳の子供がそんな難関な試験を通るはずも無く、ポケモン協会としてはもう一つ、同時に出した法令で子供たちの行く先をコントロールしたのだと思う。

 

 年少トレーナー健全育成令。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という当時大きな反響を生んだ法令だ。

 モンスターボールには一つ一つに『おや』となるトレーナーの情報がインプットされている。

 それによって捕獲したポケモンの『おや』と決定し、ポケモンの『所有権』を決定するのだが。

 十二歳未満の子供は『おや』として認めるには()()()()が欠如している、という理由でこれを禁止された。

 最初は反対の大きかった法令だが、実のところ簡単な抜け道が存在する。

 『おや』を他人に任せてポケモンだけこちらで預かればいいのだ。

 『おや』の変更と言うのはある程度手続きを踏めば可能だ。故に、両親などにポケモンをゲットしてもらい、十二歳になると同時にポケモン所有資格を取り、『おや』の変更手続きをすればそれで正式に自身のポケモンとしてゲットできる。

 こう言った他者に代わりにポケモンをゲットしておいてもらう『キープ』が増えてたのは確実にこの法令の影響だろう。

 そしてこの法令にはもう一つ、内容がある。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 過去よりポケモンスクールというのは存在していた。トレーナーになるための事前準備というべきか、知識だけでも今の内に身に着けておくための場所、と言った様相の場所だったのだが。

 

 ポケモン協会の設立した公認スクール、というのは全国各地に建てられた。

 

 最大の目玉は二年課程のこのスクールの卒業生は()()()()()()()()()()()()()()()()という点だろう。

 そして公認スクールでは本来十二歳以上にならねば保有できないはずのポケモンを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という例外ルールがある。

 

 父さん曰く。

 

『十歳で地方リーグ制覇&チャンピオン就任とかやっちゃった馬鹿が全国で二人くらいいたんだけどさ、さすがに年齢低すぎなんじゃね? って話合われたんだってさ。んで、そのチャンピオンに影響受けた子供たちが無鉄砲に旅に出て怪我して帰って来る事態が多発しちゃったからさすがにこれ不味いだろってなって、こんな法令が敷かれたらしいよ』

 

 因みにそのやっちゃったチャンピオンの片割れが自身の父だと知った時、思わずドロップキックした自分は悪く無いと思う。

 まあそんなこんなで、さすがに全国を旅するのに年齢が低すぎることを問題視されたことにより全体的なトレーナーの年齢層といったものが引き上げられ、スクールに通うことで旅に必要な知識を取得する必要性が生まれた。

 

 実際のところ、普通に試験を受けて通る自信は無くは無い。難関と言ったって、旅をしているトレーナーからすれば前提問題のようなものばかりだ、だがそれを旅を経験したことの無い、或いはこれから旅をするトレーナーからすればやはり分からない問い、というだけの話なのだ。

 スクールでは座学だけでなく、実際に野外での合宿などを行って、実践的な経験を積ませる授業などもあり、そう言った意味で卒業までに充実した()()を積むことができる。資格試験をパスできる絡繰りはこう言った部分にある。というか、資格試験はパスできても、卒業試験というものがあるわけで、実際にはそれが資格試験の代わりとなっているので、本当は全然パスできていない。

 

 じゃあ普通に十二歳で資格試験受けるのと違いなど無いじゃないか、と言われると全然そうではないのだ。

 

 スクールに通った場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことができる。

 これが何よりも大きく、それが何よりも自身には魅力的だった。

 六体がシングルバトルの最大数、その半分を揃えれば大まかなパーティのカタチを作ることができる。

 トレーナーを()()()()()パーティの構想が完成している、というのはそれだけで他のトレーナーから一歩も二歩も抜きんでたアドバンテージとなる。

 何よりも最初の一匹に関しては、スクール側で用意してもらえる。在学期間中にしっかりと戦いの経験を積めば、卒業までに進化させることだって可能だ。

 十二歳になって零から始めるよりも、トレーナーもポケモンも多くの経験が積める。これが皆がスクールに通おうとするメリットだ。

 

 在学期間は二年しかない。その期間にどれだけの物を得られるかは人それぞれ。

 二年というと、長いと思う人も短いと思う人もいるだろう。

 実際のところ、長くて短いという、両方の意見が正しい。

 トレーナーとして大成するならば二年と言う期間は短すぎるし。

 けれど十二歳からトレーナーになる他のトレーナーたちから一歩先んずる意味でならば二年と言う期間はとても長い。

 

 自身の父はチャンピオンとして大成するまでに五年の歳月を費やした。

 

 最年少チャンピオンと言われる父でさえそうだったのだ。

 まあ父の場合、最初の年齢が五歳とかいう狂いっぷりのせいで、どうにも分かりづらいが。

 その中の二年を他に先んじることができる、そのメリットは上を目指すトレーナーにとってはとてつもなく大きい。

 

 法によって十歳の少年少女が公認スクールに通うことは認められている。

 

 だが皆が皆、スクールに通うわけではない。

 

 まず第一に学費というのが馬鹿にならない。

 トレーナー育成の専門的施設、というだけあって、座学や実戦のみを教える非公認スクール(非公認と言っても別に違法ではない、要するに私塾のようなもの、今まではこれしか無かった)の十倍近い学費がかかる。

 

 第二にスクールへの入学試験というものがあり、これがまた難易度が高い。

 通う権利は保証されても、スクール側が受け入れるのはまた別問題というのか。公認スクールはポケモン協会が()()しているだけで()()しているわけではない、というのが問題で。

 有り体に言って、座学のテストがあって、それで一定以上の点数を取らなければお断りされるのだ。

 一応補欠という制度もあるのだが、これは今は関係ないので置いておく。

 

 割と第一条件で躓く子供も多い。

 通常のスクールの十倍とは言ったが、決して法外と言うほどの金額ではない。

 一般家庭だと少し厳しい、無理すれば行けなくも無い、と言う程度だが、大成するかどうかも分からないトレーナー業というある種ギャンブル要素の強い職種に、そこまで金をかけてくれる理解のある親がいるかどうかというのが問題だ。

 両親がプロトレーナーだった、とかポケモンバトルのファンだ、とか、そういう理由が無いと簡単には手を出せない程度の金額ではある。二年のディスアドバンテージを許容すればロハになるのだ、たった二年の教育のためにそこまでの金を出すのは、本気で子供を将来的にプロトレーナーにしようと考えている親くらいだろう、もしくはよっぽど金がある親か。

 

 そして金銭面での条件を満たしたとしても、今度は試験で躓く。

 

 とは言っても、公認スクールは言ってみれば()()()()()()()()()()()なのだ。

 協会公認の正規トレーナーにならなくても、野良バトルはできるし、大半の大会には参加できる。ポケモン保有資格さえ取っていれば所有することはできるし、そちらの資格は大して難易度も高く無い。以前と同じ、講習と簡単なテストだけであり、過去は六、七歳の子供でも取れるくらいの簡単な問題だ。

 故に、単純にトレーナーに、というかポケモンが欲しいだけなら十二歳になってから、講習とペーパーテストを受けて資格を取れば良い。もしくは親に『キープ』してもらったポケモンでも良いし、方法はいくらでもある。

 トレーナーになってポケモンバトルを楽しみたいだけならば、勉強しながら資格を取れば良い。何も知らない子供が取れるような資格ではないが、実際のところ、ちゃんと勉強をすれば合格点くらいは取れる。

 

 つまりエリートトレーナー…………今で言うプロトレーナーとしてやっていこうとしない限り、公認スクールというのは必要が無いのだ。ここまで散々言っておいてなんだが。

 

 それをわざわざ高額な学費を払ってまで、勉強して難関な試験を突破してまで、公認スクールに通うのは。

 

 プロトレーナーとして生きていくという覚悟に基づいていた。

 

 当然、自身も。

 

 

 * * *

 

 

 道場を出て行った姉の後ろ姿を見送りながら苦笑する。

「ホント…………お姉ちゃん心配性なんだから」

 ヒト、ですらないというのに、けれどヒトよりも人らしい。

 何より嘘が無いのが良い。幼い自身が彼女に一番懐いたのは、彼女が一番純粋で、純心だったからなのだろう。

 

 昔から私は人には見えない物が見えていた。人には聞こえない物が聞こえていた。

 

 波長がどうのこうのとよく分からない説明を親から受けたが、要するに自分の見えている物は、聞こえている物は、決して他人にも見えるわけでも、聞こえるわけでもないらしい。

 そんなこと子供心に分かるはずも無く、見えた物をそのまま口にして、良く嘘吐き呼ばわりされた。聞いたことをそのまま口にして、怖がられた。

 

 私は嘘なんて一つも吐いていないのに、私は嘘吐きだった。

 

 ――――セーくん、一緒に遊ぼうよ。

 

 忙しい両親は良く家を留守にしていた。それでも晩には帰ってきて一緒にご飯を食べていたのは、彼らなりの家族団欒だったのだろうと今にして思う。

 けれどやはり、一番長く接してくれたのは、可愛がってくれたのは、白と赤の()()()()()()()()()()だった。

 

 擬人種。

 

 かつてヒトガタと呼ばれていた、人の形をしたポケモンの総称だ。

 ヒトモドキ、モドキなどとも呼ばれることもあるが、やや蔑称だという理由で使われることはほぼ無い。

 一般的には擬人種、やや年嵩のある人からは未だにヒトガタと呼ばれている。

 数十年前から少しずつ現れ始めていたと言われる擬人種は、この十数年の間に数を大きく増やした。

 世界に流出したエネルギーがどうとか父が言ってたが、正直専門職でも無いのにそれを理解するのは無理だとすぐに諦めた。

 彼ら、または彼女らは原種(擬人種ではない本来の姿のポケモン)と比べると非常に人間に近い性質を持つ。同時にポケモン本来の性質も持ち合わせており、両者の中間存在と言えるかもしれない。

 

 まあそれはさておき。

 

 自身もいよいよトレーナーとしての第一歩を踏み出すことになる。

 

「まずは…………スクール」

 

 二年の間に実力を高める。仲間を見つけ、育てあげる。

 

 卒業までにどれだけの力をつけれるか、それは自分次第。

 

 そして二年の過程を終え、卒業をすれば。

 

「ジム巡り…………それから」

 

 リーグ挑戦が待っている。

 

 いくらなんでも気が早すぎる、とは思うが、けれど心が逸っていけない。

 

「楽しみ…………だな」

 

 ああ、今夜寝られるだろうか。

 

 ふとそんなことを考えた。

 

 




スクールについて一切言及しないままトレーナー案を募集していたことに今更になって気づいた。
未来編のプロローグの『半分』くらい抜粋したけど、これでおおよその世界観は分かるだろうか。

要するに。

①協会公認のスクールはプロトレーナー育成施設である。
②この時代には公認トレーナーになるハードルが非常に上がっている。
③さらに12歳になるまでポケモンを『所持』することが禁止されている。
④スクールに通えば最大3体までは所持できる。
⑤スクールに通う子供たちはプロトレーナーを目指す未来のポケモンマスター候補たちだ!
⑥サクラちゃんは二十年経って成長したよ。
⑦結局セーくんの母親誰?


ということを抑えておけばいい。

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