エド「真理の扉は肛門にあった」   作:ルシエド

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原作スカーVSエド&アルの初戦をちょっとリスペクトしました


クソ科学読本

 鈴とタナカがISを纏い、激突する。

 タナカは専用の改造が為されたラファールの装甲の厚みにあかせた籠手の拳撃、鈴は専用機・甲龍の青龍刀による斬撃を振るう。

 拳撃と斬撃が衝突し、鈍い金属音が響き渡った。衝撃波が二人の少女の髪を揺らす。

 だがその一交で両者は何かを悟り、タナカは笑って、鈴は口元を歪めた。

 

 タナカは鈴を蹴り飛ばし、その隙にエドと鈴から離れるように飛翔する。

 

「逃げた!?」

 

「……違う。今の一瞬で、悟られたのよ」

 

 二人はタナカの後を追うが、どうにも追いつけない。

 エドは逃げたのかと思ったが、悔しげに呟く鈴にはタナカの思考が理解できているようだ。

 

「あたしにほぼ確実に勝てること。

 それでも時間はかかるだろうってこと。

 あたしの役目が時間稼ぎだってこと。

 だからタナカさんは、会長達に先んじて奇襲を仕掛けて先に片付けるつもりなのよ!」

 

「"目を見れば分かる"ぐらい一般人には理解不能なことしてるなこの野郎!」

 

 実は今、"自分達が追い詰めたタナカがISを使用した時点で彼女をスカーと認定して下さい"とエドが事前に根回しをしていたことで、ここに更識楯無を初めとする数名が向かっていた。

 タナカはそれを感知したのだろう。

 あるいは鈴の様子から感づいたのかもしれない。

 

 鈴と戦っていて足止めされ、包囲されたらそれこそ勝ち目がない。

 それなら鈴に背を向けこの戦闘から離脱し、会長達に先制の奇襲を仕掛けて全滅させる可能性に賭ける方がまだマシだ。

 エドは会長に警告しようとしたが一手遅かったようで、応答が返ってこない。

 

(通信が繋がらない……!)

 

 エドとアルがタナカを再度見つけたその時には、援軍はタナカの奇襲で全員やられており、対象の腹を壊す破壊の右腕のせいで見るも無残な醜態を晒していた。

 

「クソ、遅かったか! クソだけに!」

 

「エド、はっ倒されたいの?」

 

 各操縦者達の人としての尊厳と等価交換で辺りに発生した異臭が漂う。

 エドは一瞬で目配せし、それぞれの被害状況を把握した。

 

A(アナル)I(イン)C(クラッシュ)……

 いや、P(パンツ)I(イン)C(クラッシュ)か。

 肛門で押し留められなかったために……可哀想に……)

 

 腹を壊しても外に出していない状態がAIC。

 外に出てしまったものをパンツがなんとか押し留めてくれた状態がPIC。

 全てのISが持つ搭乗者保護機能により、彼ら彼女らは皆ISスーツの外側にまで漏らすことなく、人としての尊厳を全て失わずに済んでいた。

 人の尊厳すら守ってくれるIS、有能。世界を変えたロボに相応しい安全性能だ。

 

「ってあれは、会長! 大丈夫ですか!」

 

「……な、なんとか、ね……」

 

 そしてエドはタナカだけでなく、タナカと対峙していた更識楯無(男)も視界に入れた。

 楯無は足が震え脂汗こそ流しているものの、オソマの一切を漏らしておらず、IS学園最強の生徒の名に恥じない勇姿を見せつけている。

 

「私のご先祖は時の将軍家光公に

 『くのいちって尻穴弱そうだよな』

 と言われて以来、その屈辱にずっと耐えてきた。

 『くのいちのアナルを攻めるロマンはあっても、くのいちのアナルが弱いなんて事実はない』

 ということを証明するために! 屈辱を晴らすそのために!

 更識家の女は代々、アナルを鍛えてきたのよ……! 私も、妹も……!」

 

「まあ今は男ですけどね」

 

「だまらっしゃい!」

 

 エド達の到着に少し安心したのか、楯無はこの場を二人に任せてトイレに行こうとする。

 彼女が戦うべき相手はタナカではなく、彼女が戦うべき戦場はここではなく、彼女の求める勝利はトイレにしかない。

 

「気を付けなさい……やつは、新しい技を身に付けて……うっ……!」

 

「あ、アナルストロング会長……!」

 

「私に構わず早く奴を……!」

 

「……分かりました! オソマのご武運を!」

 

 エドは格好つけて楯無を送り出し、鈴と共にタナカに立ち向かう。

 いつの間にか彼は、何かカッコいい名前とちょうつよい機能を搭載した倉持技研の専用機を身に纏い、鈴に先んじて攻撃を仕掛けていた。

 

「はいはい無駄無駄」

 

 だが、タナカは右手の上で転がしていたパンやおにぎりを右手で消して、左手をエドに向ける。

 すると突然、エドの腹に激痛が走る。

 "あの右手に触れなければ大丈夫"と思い込んでいたエドは、突然の激痛にその場で膝をついてしまった。

 

「ふぅう!?」

 

「エド!?」

 

 便意という名の零落白夜がエドの腹に突き刺さる。

 肛門に圧力をかけるシーリドエネルギーは今にも尽きてしまいそうだ。

 便意が思考を加速させ、エドにこの攻撃の正体を解明させる。

 

「錬金術の基本は理解・分解・再構築……

 錬金術はAからBになるという当たり前の変化しか再現できない……

 まさか、破壊の右腕で食べ物を分解!

 再構築の左手を使い、敵の腸の中でオソマに再構築しているのか!?」

 

「ご名答。頭は悪くないみたいね。腹の調子は悪いみたいだけど」

 

 タナカの能力は対人において無敵に近い。

 だが、断食をこなしてきた敵には無力という弱点があった。

 その弱点を誰かに突かれる前に彼女は研究に研究を重ね、弱点を埋めるための新技の開発に成功していたのである。

 

「エ――」

 

「アル! これ以上近付くな! 能力の射程範囲内に入っちまうぞ!」

 

「――ッ!」

 

 鈴はエドを助けようとするが、エドの声に踏み留まる。

 エドだけがこの能力を食らっているのは単純な話で、エドの後に続いていた鈴が、まだタナカの能力の射程外に居るからだ。

 鈴はエドを助けたい。

 だがエドを助けようと動けばタナカの能力を食らってしまう。

 真っ当な女の子としての感性を持っている鈴からすれば、それは自殺した方がマシなくらいに嫌なことだった。

 

「くっ、うっ……!」

 

 あまりに大きな腹痛に、エドはとうとう膝をついてしまう。

 オソマを抑え込むシーリドエネルギーも、もう尽きる。

 

「エド!」

 

(俺は、こんなところで、死ぬのか……社会的に……)

 

 エドは腹痛に一瞬意識を手放し、その一瞬が彼に走馬灯を見せていた。

 

 

 

 

 

 真っ昼間にオソマを漏らすということは、社会的な死を意味する。

 死を前にしたエドの脳裏に走ったのは、走馬灯だった。

 あれはそう、彼が中学生の頃。

 エドの家に鈴が遊びに来て、二人でぐだぐだと映画を見ていた時のことだ。

 

 二人は"Fate Another 信長のシェフ"という映画を無言で眺めていた。

 

『ケンは料理人だから戦っちゃダメだ!』

 

『しかしですね、衛宮さん……』

 

『大丈夫よ衛宮くん。最優のセイバーだし、名前が剣だし、剣持ってるし大丈夫大丈夫』

 

『あれは剣じゃなくて包丁だ遠坂! しっかりしろ!』

 

『いえ、私の名前はケンであっていますが』

 

『ケンのことを言ったんじゃない! いや剣のことを言ったんだけどさ!』

 

『うむ、これは楽しそうじゃの。この聖杯戦争、主役はワシじゃ!』

 

『この真名バレバレの赤いアーチャーどうしましょう……』

 

 信長が冬木の寺を燃やし始めたところで、二人は映画の再生を止めた。

 

「Fate? っての知らないからつまんない」

 

「奇遇だな。俺も信長のシェフ分かんねえからつまんねーわ」

 

「次はこれにしない? 『ゴジラVSリーマン・ショック 世界経済SOS』」

 

「面白そうだから最後にしようぜよ」

 

 二人は適当にその辺から『劇場版アムドライバー』『劇場版ゼーガペイン』『劇場版マシュランボー』『劇場版PSYREN』などを引っ掴み、何も考えずに再生していく。

 すると、その内の一作品の一幕を見ながら、鈴が気の抜けた口調でぼやきだした。

 

「あー、こういう守られる女の子ポジションってロマンあるわよね……」

 

「なんだ、守られたいのか? お前の性格的に守る方だろうに」

 

「うっさい。女の子のロマンなのよ、ロマン!」

 

「頑張って王子様探せよ、応援してるから」

 

「そこは『俺が守ってやるぜよ』とかでしょ?」

 

「お前ガチで俺よりつえーじゃねーか、生身でもISでも」

 

「分かってないわねー、問題は力の有無じゃないのよ」

 

 守って欲しいのか。守ってくれれば誰でもいいのか。守られたという事実があればそれでいいのか。いや、違う。

 

「自分のピンチに、誰かが自分を庇ってくれたら、誰だって少しは安心するでしょ?」

 

 女の子(アル)が本当に憧れているものは、守られるという単調なシチュではない。

 

「『この人は自分を見捨てない』って確信なのよ、欲しいのは」

 

 守ってくれた誰かに惚れるのならば、自分を守ってくれた異性なら誰でもいいという事になる。

 そうではない。そうではないのだ。

 欲しいものは安心であり、自分を守ってくれたその人物が自分の絶対的な味方である、という確信なのだ。

 それは赤ん坊を幼い頃から愛し、赤ん坊の信頼を勝ち取る親に似ている。

 妻への愛を行動で示し、妻からの愛を勝ち取る夫にも似ている。

 

「そういうもんかね。あ、これ面白いぞ。

 俺は見終わった映画返して新しいの借りてくるから、一人で見てろ」

 

「あいあい。面白い映画なら、一人でも退屈はしなさそうね」

 

 が、鈴が何を言っているのかイマイチ分からなかったエドは、天使の微笑みで鈴を地獄に引きずり込む行動を取って、部屋から出て行く。

 

 手渡されるはメタルマンのDVD。

 

 あ、俺が嘘ついたってのここか、とエドは思い。メタルマンのパッケージを見ながら、彼の意識は現実に復帰した。

 

 

 

 

 

 そうだ、せめてあの時悪いことをした分くらいは、鈴を守らなければ。

 走馬灯の光景から帰って来るなり、彼はまだ正常に戻り切っていない意志のままに、タナカに突っ込んだ。

 

「何!?」

 

 エドはこのまま漏らして終わり、と思っていたタナカは虚をつかれてしまう。

 肛門の状態を無視したエドが、タナカの両腕を掴んだまま倒れ込む。

 二人してうつ伏せに倒れた状態で、エドは叫んだ。

 

「アル! 今だ!」

 

「! 分かったわ!」

 

 エドの言葉を信じ、鈴は踏み込む。

 タナカの能力が飛んで来ないのを確認し、鈴は一気にタナカとの距離をゼロにする。

 剣もダメ。衝撃砲もダメ。それではエドを巻き込んでしまうし、一回しか攻撃を叩き込めないこの状況で、一撃で倒せないであろう攻撃をチョイスするのは最悪すぎる。

 選ぶべき攻撃は一つ。

 ゆえに鈴は、うつ伏せになったタナカの背中にまたがり、タナカの首に両手をかけた。

 

「ゲェー! これは中国国家代表IS操縦者ラーメンマンの得意技、キャメルクラッチ!」

 

 ISの防御の上から窒息させてやる、という鉄の意志を込めて。

 

「な、何故あなたが……!?」

 

「忘れたの? 私も中国の代表候補生なのよ……!」

 

 中国国家代表IS操縦者ラーメンマンが、時に防御機構の隙間を突いて敵を倒し、時に絶対防御を発動させて敵を倒すIS関節攻撃(サブミッション)の達人であることは、誰でも知っていることだ。

 だが、鈴がそれを使うなどと、誰が想像できようか。

 "ISの絶対防御も完璧じゃないのよ"という鈴の声が聞こえてくるようだ。

 

「くっ……この、離せエドモンド!」

 

「やはり、基本は触れること。

 両の腕に別のものが触れている限り、別の対象を腕の効果対象に選ぶことはできない……!」

 

「なら、お前に徹底してこの腕の力を使うだけよ!」

 

「覚悟はあるぜよ」

 

 このまま行けば確実に漏らされる。

 だが、エドにタナカの腕を離す気はない。

 覚悟はある。彼は『初心』を思いだしていた。

 

 凰鈴音を守るためなら―――公衆の面前で、真っ昼間から、好きな子の目の前で、オソマを派手に漏らしても構わない。彼は男の覚悟を決めていた。

 

「こいつを守れるのなら、俺の尊厳くらいいくらでもくれてやる……!」

 

「……エド」

 

 もうこれで、社会的に終わってもいい。だから、ありったけを。

 エドはありったけの力で、タナカの腕を抑え込む。

 

「じゃ、漏らせ」

 

 そして、尻に爆音が響き渡った。

 ビキニ環礁でゴジラが生まれた瞬間に発生した爆音と、どこか似た響き。

 ゴジラを生み出してしまった時のように、人類史に刻まれた人の罪がまた一つ増えた。

 核爆弾は命を奪うが、その爆発はエドの人としての尊厳を奪う。

 

「……ッ!」

 

 だが尊厳を奪われてなお、社会的に死んでもなお、彼はタナカの腕を離さない。

 鈴を守る、その一心で離さない。

 仮に彼がその心臓を剣を一突きにされたとしても、彼が鈴のためと自分に言い聞かせたならば、きっとこの手は離さないだろう。

 

「離せ!」

 

「離さない!」

 

 爆音が響く。

 爆発が一度起きるたびに彼の尊厳は削れ、涙が流れ、心も抉れる。

 どんなミサイルよりも深いダメージを当たる爆発が連続する。

 それでもエドは手を離さず、タナカの首に鈴の手が食い込んでいく。

 

「この手は、絶対に離さない……!」

 

 そして、エドの醜態が、それを引き起こしているタナカの行動が、鈴の怒りに火をつけた。

 

「エドいじめんなあああああああああああッ!!!」

 

 タナカの首に指が食い込み、体が海老反り、眼球が白目に裏返る。

 そして先程までもがいていたはずのタナカの動きが、ピタリと止まった。

 

「やったか!?」

 

「……」

 

「よし、やってる! 虫の息だわ! やった、やった、エド!」

 

 勝利を掴んだ鈴が、笑顔でエドに話しかける。

 だがエドは、その笑顔をまっすぐに見ることができなかった。

 PICが発動した服の内側が、やけにぬるぬると生暖かったからだ。

 数秒後には情けなさすぎて不潔過ぎて嫌われてるな、とエドは絶望的な気持ちになり、思わず顔を逸らしてしまう。

 

「……っ」

 

 顔を逸らしたエドを見て、鈴は一瞬きょとんとした顔をしてから、すぐに呆れた顔になる。

 エドの気持ちを分からないアルなど居るものか。

 彼の内心が手に取るように分かっていた鈴は、涙に濡れたエドの頬を袖で拭って、情けない顔をしている彼の頭を撫でてやる。

 

「大丈夫、あたしはあんたのこと嫌いになったりしないから」

 

「え?」

 

「よく頑張ったわね、エド。本当によく頑張った、褒めたげる!」

 

「……!」

 

「見直したわよ! カッコいいじゃない!」

 

 聖母か、とエドは思う。

 前よりもっと彼女のことを好きになっていた。流れる涙が更に勢いを増していた。

 不快感を覚えていないはずがない。ちょっと引いても居るはずだ。

 だが彼女は"そういう行動を取れば傷付く人が居る"という深い思いやりから、笑って彼に優しくしてあげていた。

 その優しさがどれほど彼の救いになったか、彼女自身ですら分かってはいまい。

 

 優しさを使うべき時、使うべき相手に使うことができる。

 それこそが本当の意味で優しい人間であり、いい女の資格である。

 

「アル……鈴……!」

 

「歩ける? 歩けないなら運んであげようか?」

 

「……いや、いい。大丈夫だ。ただ……涙が止まるまで、待ってくれ……」

 

「ん」

 

 彼女の優しさが、彼の目から止めどなく涙を流させる。

 

 オソマも涙も止まらない。ただ流れるままに、彼の体の外へと流れ出していた。

 

 

 




第1世代型ISクソ桜

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