東方迷狼記 ――亡霊に仕えし人狼―― 作:silver time
そして、すいまっせんしたァァァ!!
全くの無更新でかれこれ三ヶ月ほどお待たせしました
苦しい言い訳ですが後書きにちょこっと謝罪コーナーをば
それでは気を取り直してどうぞ!
「何でこうなったんだっけ……」
元人間の少年比企谷八幡は現在、白玉楼にて西行寺幽々子のお世話係として住み込みで働く事になった
この事に庭師である魂魄妖忌は難色を示していたものの、人手が増えるのならまあいいかと思う事にした
「お世話係か……」
元々、専業主婦を目指していたのは伊達ではなく、大体の家事は何の問題も無くこなせた。
料理や洗濯、掃除等を淡々とこなしてゆき、そんな毎日を送っていた
そして今は全ての家事が一段落し、やる事が無くなり暇を持て余していた所である
「……何やってんだろ」
白玉楼の縁側で一人黄昏て、いや、その気力が失われた本当に
身体が小学生ぐらいまで縮んだ事
記憶がハッキリと残っている事
この場所が冥界である事
自身が仕える事になった主が亡霊である事
自身が妖怪になった事
少し前に知った多くの情報を頭の中で整理していく。それくらいしか彼の暇を潰せるものはなかったのだ
もう、彼にとって価値を見いだせる物は何も無いのだから
「…………大丈夫かしら、あの子」
「幽々子様、今更ですがあの妖怪を引き入れてよかったのですか?」
陰から比企谷の様子を伺っている二人の影、
比企谷の様子を見守る桃色の髪を持つ亡霊幽々子と未だに警戒を解かない白髪の庭師妖忌
「妖忌、八幡はもう家族も同然なのよ?」
「しかし……」
正直の所、妖忌はまだ比企谷を受け入れられずにいた。家事の腕は別として、素性の知れぬ妖怪を主の傍に置いておくのは危険だと考えていた
「……ねぇ妖忌、あの子に何かしてあげられないかしら?」
「……難しいと思いますぞ、あの妖怪の、いえ、あの小童の目には何も写ってはおりません。あの小童に一体何が起こったかは私の知る所ではありませんが、恐らく私達に出来る事は無いでしょう」
白玉楼の縁側で虚ろな目で空を見上げている比企谷を、妖忌はもぬけの殻、魂が入っていないように感じた
実際、ここ数日の間比企谷の挙動はゆっくりとし、何処か無気力さを感じさせた
少しでも目を離せばそのまま消えてしまいそうな程に
「……幽々子様。あの小童を私に任せてはくれませぬか?」
「……一応聞くけど、どうするの?」
「なんて事はありませぬ。あの小童に活を入れてくるだけの事」
白玉楼の縁側で比企谷は唯々空を見上げ続けている。
何も写していない虚ろな瞳を、自身の心を表しているような空っぽな冥界の空
このまま消えてしまいたいと、何も感じたくないとさえ願うようになってしまった
ひょっとしたら、空を見上げていたのは理不尽な神様に訴えていたのかもしれない
死んだ後、生前の記憶を有したまま新たな生を迎える所謂転生といった、彼からしたら迷惑以外の何者でもない贈り物をしてくれた神様に、あのまま死なせてくれれば良かったのに、と
「邪魔をするぞ、比企谷」
後ろからここ最近になって聞きなれた、老人の威厳のある声が後ろから投げかけられた
「何をしておったのだ?」
「……別に、何も…………」
「ずっと空を見ていたのか?」
「…………」
比企谷にそう言葉を投げかけるも、何も返っては来なかった。
まるで関わりたくないと、他人を拒絶するかのように
「全く、妖怪とはいえ可愛げの無い
「……さっきからずっと見てたろ」
「……ほう?気付いていたのか」
「……生憎、他人からの視線には敏感なんだ。悪意ある視線には特にな……」
それと、西行寺さんも見てたろ、と続け縁側の端の方へ視線を移すと、白玉楼の壁から隠れきれていない桃色の髪が小さく揺れた
「それで何だよ。もう仕事は終わらせたぞ、何も無いなら独りにしてくれ……」
再び、比企谷は視線を何も無い空っぽな空へと移した
そのすぐ後に、比企谷の足元からカランと乾いた音が聞こえた
「……?」
音の正体を確かめるべく下を向くと一本の木刀が転がっていた
生前、大抵修学旅行先で売ってある男子が買っていきそうな普通の木刀だ
「取れ」
いつの間にか正面には妖忌が立っておりこちらを見下ろしている
「……何で?」
「私が稽古をつけてやる。取れ」
「……取る必要が無い。というか、その稽古に付き合う理由もない」
一際大きなため息をついて、比企谷は立ち上がるとその場を後にしようとした
だが、
「……待て」
「………………」
比企谷は歩みを止めた。その理由は至極明解、比企谷の喉元に刀の切っ先がギリギリ触れるところで止められていたのだ
「……何がしたいんだ?」
「私としては貴様を今この場で斬り殺しても良いと思っている。何故幽々子様が貴様を家族も同然と認めああも気になされているのかは私にも解らぬ。
そしてこの所、いや、貴様が此処に来たその時から貴様はまるで魂が入っていないようだった。その事を幽々子様は心配なされたのだ。幽々子様はどうしたものかとお悩みになられていた。私はそれを解決するためにこうして貴様と剣を交えようとする訳だ」
「ちょっと待て、何故それで剣の稽古なんだ」
「それは剣を振れば解る」
「意味が分からん……」
割と本気で訳が分からない比企谷を余所に木刀を取れと妖忌は促す
別に生きたいとは思っていない、むしろ死にたいと、殺してくれとまで思っている。
故に、此処で斬り殺してくれるのならばそれもまた良いだろう
「………………」
だが、比企谷は地面に転がっていた木刀を拾い上げた
死にたいとまで思っていた彼が何故応じたのかは分からない
それは比企谷自身も同じだった
(……拒否していればあのまま殺してくれたのに、何故俺はこんな無駄なことに付き合うんだ)
無意識に木刀を手に取った自分が分からなかった。
そう思考するのに反して、体は木刀を正面に構える
「…………その意気や良し」
そして妖忌も比企谷に向けていた刀を鞘に戻し、左手に握っていた木刀を構える
「さあ、打って来い。ワシが見定めてやろう」
「ああもう、どうにでもなれ!」
比企谷は半ばやけくそに駆け出して木刀を振るい、妖忌はそれを木刀で受け止めて応じた
(……本当に大丈夫かしら?)
影で見守る主の心配を余所に
「がっ……は!」
妖忌の振るった木刀を腹に受け、比企谷は地面を転がっていく
身体中には砂が付着し唇の端が血で滲んでいる。木刀で打たれたのか、着ていた着物の裾から覗く人肌には打撲の痕が浮かび上がっていた
「はぁ…………はぁ……」
「ふむ、こんなものか……妖怪の割には呆気ないものだな。まあ、産まれたばかりならばこんなものだろう」
仰向けで地面に転がり、どうにか気道を確保し新鮮な空気を肺に送り込む
流石にここまでになると、幽々子も傍観することは出来ない
「……妖忌、流石にやり過ぎよ」
「……本当にこの妖怪を此処に置いておくのですか?剣を交えましたが此奴は未だに何も観ようとしておりませぬ。いっその事楽に死なせた方が良いのでは?」
「ダメよ。絶対にダメ」
「何故そこまでこの妖怪に拘るのですか」
あの妖怪にどうしてここまで拘わるのか、妖忌には理解出来なかった。
不確定な要素程恐ろしいものは無い。あの妖怪がいつ牙を剥くかも分からない
そして何よりも、瞳に何も映していない者ほど予想出来ないのだ
「……」
幽々子は何も言わなかった。無言で、生気を宿さない瞳で妖忌を見据えていた。
口では何も語らなかったが、その目は如実に訴えかけていた
あの子殺さないで欲しいと
妖忌は呆れたような顔をし、我儘な子供を諭すように語りかける
「……幽々子様、あの童をここに置いていても、あの童が変わらなければ意味が――」
そこまで言いかけ、口を止めた
背後でザッ、と砂を踏みしめる音が聞こえてきた
「……まだ立つのか」
後ろを振り向くと、そこには木刀を支えにして立ち上がった比企谷の姿があった。着物の裾から見える素肌にはいくつもの打撲痕が痛々しく、その目には相変わらず何も映ってはいなかった
「……」
妖忌は無言で木刀を構えると、比企谷に一瞬で迫り木刀を横薙ぎに一閃する
妖忌の木刀は比企谷の身体に到達する前に比企谷の持っていた木刀によって阻まれた。
「……!?さっきまでとは力が違う……」
先程までの比企谷は、妖忌の木刀を辛うじて防いでも、力の差で押し負け大きく体制を崩していた。
だが今はどうだ、さっきまでとは違い妖忌の振るった木刀を完全に受け止めていた。
「………ぁぁ」
くぐもった呻き声を上げ、力任せに木刀を振り妖忌の木刀を弾く。
「――!」
「……ぃ…ぁぁ……ぁ」
そこからはひたすらに剣の応酬が続く。獣のように力任せに木刀を振るい、妖忌はそれを的確に弾き、受け流していく
本能のに従うが如く、一本の棒切れを振るう姿は、まるで獣そのものだった
いつの間にか再び始まったこの稽古とは程遠い打ち合いを、幽々子は静かに見守っていた。
本当に、何故あの子を、あの妖怪を迎えたのかは未だに自分自身にも分からない
きっとそこには明確な理由なんてないだろう。もしかするとただの気まぐれに過ぎないのかもしれない
だがあの時、比企谷を見つけたその時、今にも消えてしまいそうな彼を見た時
幽々子はその姿を美しいと感じた。
朧気で儚い、幻想の如く
何物にも変え難い美しさを幻視した。
「――そこ!」
先程までの一方的な戦いとは一変し、妖忌が放つ斬撃を全て叩き落としていった。
それは獣ように鋭い勘と、常人離れした怪力によるものだ。
時に足で木刀を蹴り上げたりしながらも妖忌の剣速になんとか食らいつく
そして
「――!」
顔へと振るわれた妖忌の木刀は、比企谷の大きく開けた口に収まっていた。
犬歯を剥き出しにし、木刀を噛み砕かんばかりに顎を締めるその姿は、いや、
「そうか……それがお前の本当の姿……人狼か……!」
「…………!!」
比企谷の口元は狼のそれに変貌していた。着物の裾から見えた素肌は黒ずんだ灰色の毛に覆われ、その背から一本の尾が波打つように揺れていた。
そして更に顎を締める力を強めていき、木刀に突き刺さった牙が亀裂を広げていく。
(理性を失っているのか……?クッ、このままでは幽々子様にも……)
そして、木刀が完全に噛み砕かれその牙が妖忌へと襲い掛かる。
「……甘いわ!」
腰に差している刀、楼観剣の柄で比企谷の顎を思いっきり打ち上げる。
その隙に妖忌は距離を取り楼観剣を鞘から抜き放ち、構える。
そして比企谷は後ろへと大きく仰け反り、体制を立て直すと小さく唸り声を上げ睨みつける。
(……仕方があるまい。こうなってはもう手のつけようが無い。元々此奴を稽古に付き合わせた私にも責任がある。)
楼観剣
妖怪が鍛えたとされる刀で、妖忌が所持している二振りの内の一本。
一振りで幽霊を十匹殺傷(消滅?)出来るという楼観剣の切っ先を比企谷へと向ける
霞の構え
相手の目を狙うように、刀を顔の真横に構え、銃の照準を合わせるように切っ先を向ける。
――先に動いたのは比企谷だった。
木刀とは違う、明確な殺傷能力を持った真剣が己に向けられているというのに。
比企谷は気に留めた様子もなく妖忌へと一直線に駆け出す。
(――獲った!)
妖忌は霞の構えのまま楼観剣の切っ先を前方へと押し出す。
その速度は並の人間、人外でも捉える事が出来ないほど疾く、精巧に比企谷の脳天へと突き刺さるべく殺到した!
次に瞬きした瞬間には串刺しになっている事だろう。この一瞬、妖忌は幽々子に対してどう言おうかについて考え始めた――
その一撃が当たっていれば、の話である。
「───ッ!!??」
楼観剣の切っ先が目の前の狼へと突き刺さり、肉を切り裂く感触がしたはずだった
しかし、楼観剣は見事に半分狼の貌をした比企谷の眉間へと突き刺さった。
そう、
しかし手応えはなかった。
その手に残る筈の肉を断った感触すらしなかった
その手で命を奪ったという実感が無かった
さらに言えば、楼観剣が刺さっているのにも関わらず、顔色どころか眉一つ動かさないでいた比企谷に対して物凄い違和感が――
「――ッ?!まさか!」
それに気づいた時、目の前の比企谷の姿がピントが合っていない写真のようにぼやけ始め、そのまま霧散した。
そして――
「――後ろか!!」
瞬時に後ろの方へと体を向けつつ、後方へと下がろうとした。その瞬間
妖忌の左胸を比企谷の木刀が直撃した。
「ぐッ……!」
後方に下がろうとしたのが幸いし、妖忌の肺に溜まっていた空気が押し出された程度ですんだ。
妖忌は後方へと大きく下がると、呼吸を整えて再び正眼の構えをとる。
しかし、もう刀の打ち合いが始まることは無かった。
「────────」
ドサりと、比企谷の体が電源を切られた機械のように止まり、その場に崩れ落ちた。
いつの間にか半人狼化が解けたのか、イヌ科のそれを思わせる大きな口から人間の口元へと変わり、その肢体を覆っていた灰色の毛は消えており、打撲痕が目立つ元の素肌へと戻っていた。
「――危なかった……」
取り敢えずの所妖忌は安堵したと同時に、妖怪として産まれたばかりにも関わらず、理性を失っていたとはいえ自分をここまで追い詰めた比企谷に畏を抱き、興味を持った
「――妖忌、もう一回言うけどやり過ぎよ」
稽古から殺し合いへと発展した事の顛末を見届け、幽々子は怒っているというよりは困ったような顔を浮かべ、妖忌に言う
「申し訳ありません、幽々子様。年甲斐も無く本気を出してしまいました」
「そういう問題じゃ無いわ。妖忌ったら、途中からこの子の事殺そうとしてたでしょう?」
「……やはりこの童は少々危険かと。目を見張るものはありますが、
「……」
幽々子は少し考えるように胸の下で腕を組み、くぬぬと唸ると意を決したように小学生程の比企谷の体を持ち上げ、妖忌に話す
「それなら妖忌、貴方が八幡に稽古を付けてあげて。今日よりも優しく」
「稽古ですか?しかし……」
「目を見張るものがあるんでしょう?」
「…...………」
暫しの間、妖忌は無言で思案し、幽々子に答える
「……分かりました。私が此奴を鍛えましょう。これから先どうするかは此奴自身が考えることでしょう」
幽々子はそれを聞くや否や比企谷を抱えて中へと戻り、妖忌は一際大きな溜め息を吐いて後に続いた
▼
「さあ、剣を構えよ」
「妖忌、今日はアレがアレでアレだから休みたいんだが」
「仕事は一段落しただろう。やる事もないだろう。ならば剣の修行をするしかあるまい?」
「いや、1日中寝ているという選択肢は――」
「そんな暇があるなら修行に打ち込めい!」
初めて剣の稽古とやらを受けさせられてからもう既に何週間以上も経った日のこと
妖忌に打ちのめされてからあとの記憶が無いわけだが、あれからも剣の稽古、というか修行を続けさせられていた。
心なしか、初めの時よりはそう厳しくはなくなった。
面倒だとも思うが、この修行自体は嫌いではない。
……それにしても、妖怪になってから最初の頃は何もかもがどうでもよかったのに、今はこの白玉楼で過ごす時間がとても心地良いのだ。
手の掛かる白玉楼の主である西行寺幽々子
今では俺の剣の師匠でもある魂魄妖忌
飯を作って、掃除をして、剣の修行をして
早くも当たり前と化してきているこの日常を享受するのもいいと思えてきた
「さあ、打ってこい!」
「……今回は絶対一本取ってやる」
今の俺は人狼として、幽々子様に仕えて生きている。
人間ではなくなってしまったが、生前、俺が人間であった頃の記憶は忘れないだろう
――もし、もう一度だけ家族に、小町に会えたなら俺は――
「……ッて!?」
「剣に迷いがあるぞ。集中せんか」
「……ぜってぇ取ってやる」
――いや、もう会えないだろうな。
だから、ゴメンな小町。お兄ちゃん早くに死んじゃって
そう心の中で締めくくり、手に持った木刀を強く握りしめる
今日の夕飯を何にするかを考えながら
皆様本当にスイマセンでした!
D×Dの方もそうですが、現在作者はスランプに陥っています
だからなんだよ、あくしろよ。という声もあると思います。いや、絶対ある。
そんな訳でD×Dも現在半分までしか書き上がっておらず
テストも近く、というか明日からテストでますます時間が掛かりそうです。
それでも暇を見つけては何とか書いていきたいと思っていますのでどうかこれからも作者の拙い作品達を、
よろしくお願いしまぁぁぁぁぁす!!!
某チャットアプリにて
友人「いい加減続き上げろよ」
silver「なんにも思いつかないんだよ……(泣き)」
友人「話の大筋は出来てんだろうが」
silver「繋ぎの会話とかが思い浮かばないんだよ!(怒)」
友人「ダメだコイツ早く何とかしないと(哀)」