ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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鞠莉さん回。彼女は惚れた男には一直線に好意を伝えるタイプと見抜いた。
そんな彼女の一途さが伝わればいいな。


9話 襲撃は笑顔と共に

「またここに着いてしまったか……」

 トラックの助手席から流れる景色を見ながら呟く。視線を目の前に戻せば見えてくるのは大きなホテル。

「そう言わないで下さいよ坊っちゃん。これも跡取りとしての立派な仕事の一つですよ」

 運転しているのはオヤジの側近、各務さん。俺の家は内浦の漁船を取り仕切る役職にあり、各務さんはオヤジの補佐をしている。

 トラックの荷台には大量の魚介類。これから目の前のホテルに搬入するのだ。

「淡島ホテルがウチの魚を高値で買ってくれるのも、坊っちゃんのお陰ですからね」

 俺がこの一番のお得意様との搬入に付き合わされている理由。それはこのホテルのオーナーのご令嬢様が俺を気に入ってくれたからだそうで。つまり俺は彼女の接待を任されている訳で。

「でも、頭は『本当に嫌なら行かなくてもいい』って言ってくれてるじゃないですか。毎回行くってことは満更嫌でもないんでしょ?」

 にこりと笑顔を向けてくる各務さん。俺が幼い頃からの付き合いなだけあって、俺のことは何でもわかっちゃうんだな。この人には勝てる気がしないな。

「否定はしないよ」

「それじゃあお勤め、お願いします」

 各務さんの言葉に覚悟を決めるのと同時にトラックは淡島ホテルに到着した。

 

 

「搬入こちらにお願いしまーす」

「了解しましたー!」

 ホテルの従業員さんの指示に従い、発泡スチロールに包まれた魚を積んでいく。各務さんは書類の手続きをしていた。俺たちがそうやって仕事をしていく中――、

「カーイ!!」

 その声は響いた。俺が振り向くのと同時に金髪の少女が俺の胸に飛び込んできた。

「来てくれたのね! 待ってたんだから!」

 黄土色の瞳が宝石の様にきらきらと俺を見つめる。この人は小原鞠莉さん。俺を気に入ってくれている人。俺に会えたのがそんなに嬉しいのか、俺の胸元で頭をぐりぐりと押し当ててくる。その、女性特有の柔らかさが心地良いけど、そうじゃなくて!

「ま、鞠莉さん! 他の人が見てますから!」

 俺の言葉に顔を上げ、上目遣いで首を傾げてくる。

「どうして? ワタシとカイはケッコンの約束だってした仲じゃない」

「してませんよ! 記憶を捏造しないで下さい!」

「小原さん、毎度ありがとうございます。こちらが今回の納品書です」

 跡取りが困惑しているのに各務さんは平然と書類を鞠莉さんに差し出す。鞠莉さんはそれをすらっと流し読みすると、胸元の判子をそれに押した。

「カガミ、いつもありがとう☆ じゃあカイは借りていくわね♪」

「はい、では夕刻に坊っちゃんを迎えにあがりますね」

 そう言うと各務さんはさっさと車に乗ると去っていった。もうちょっと、俺の現状に対して何か言ってくれても良かったんじゃない?

「さ、ワタシの部屋に行きましょ! 丁度いいからtea timeにしまショ!」

 俺の右腕に半ば強引に身体を絡ませる鞠莉さん。この人に恥じらいはないのか?

 でも嬉しそうに俺の手を引く彼女を、俺は引き剥がすことが出来なかった。

 

 

「さァ、入ってちょうだい」

 通されたのは一番豪勢なスイートルームかと思いきや、普通の個室だった。

「やっぱりこの部屋なんですね。鞠莉さんなら一番大きなスイートルームが似合うと思うんですけど」

「わかってないわねカイは」

 ふふん、鞠莉さんは鼻で笑った。

「ここはお客様をもてなす場所よ。オーナーである私をもてなしてどうするのよ」

「それは確かに……、ってオーナー?!」

 今この人、自分の事オーナーって言った?

「あぁ、言って無かったっけ? ワタシ、パパからこのホテルのオーナー任せて貰ってるの」

 そんなお茶を用意しながら軽く言う話じゃないぞ。この人、卒業後の進路が決まってるようなもんじゃないか。

 俺の思惑を察したのか、彼女は軽く笑ってみせた。

「将来お店を経営することもあるだろうからその予行演習だと思えばいいってパパが言ってくれたの。もちろん演習だと思わず、出来ること精一杯やってるわ」

 そう言いながら彼女はティーカップを俺の前に出した。俺は一礼してそれを喉に通した。程よい紅茶の香りに癒されながら彼女に質問した、

「お店って鞠莉さんは何かやりたいお店があるんですか?」

「んー、今のところはまだ決まってないけど……」

「けど?」

 俺をチラと見て意味深に口元を歪める鞠莉さん。

「それはモチロン、カイと一緒にお店を開けるなら何だってイイわ!」

 曇りのない笑顔でここまで好意をぶつけられるのは正直照れくさい。

「はは、ありがとうございます」

 だから俺は照れ隠しで流してしまう。鞠莉さんはもう、と鼻息をつくと思い出したように切り出した。

「あ、そうそう。ワタシ、スクールアイドルに誘われちゃったのよ」

「ぶっ!!」

 思わず紅茶を吹いてしまう。スクールアイドルという言葉に、幼馴染の千歌の顔が浮かんだ。

「ちょっと、大丈夫?!」

「いえ、平気です。それより、そのスクールアイドルに誘われたって……」

「うーん、どうしようか迷っているのよねぇ」

 彼女は悩ましげに腕を組む。

「ワタシ、音楽はどっちかって言うとパンクでロックなのが好きなのよね。ちょーっとアイドルには向いてないんじゃ……」

「でも、鞠莉さんなら似合うと思いますよ。スクールアイドル」

 俺の言葉に彼女は瞳を輝かせた。

「Really? じゃあワタシ、スクールアイドルになっちゃおうかしら?」

「でも、自分に合わないと思うなら無理にやらない方がいいですよ。俺の為じゃなくて、自分が本当にやりたいかどうか、考えて下さいね」

 千歌の為もあるし、実際彼女は似合うと思っているが、音楽性が合わないのに無理にやっても誰の為にもならない。

「解っているわ。アリガトウ、心配してくれて。なんだかんだでワタシのことを考えてくれる貴方がダイスキよ!」

 俺が自分の事を考えてくれたのが嬉しいのか、俺に抱きつく鞠莉さん。俺はなんとか彼女を引き剥がす。

「も、申し訳ないけど! 今の俺は、鞠莉さんの気持ちには、まだ応えられません」

「カイ……」

 少し悲しそうな顔をするが、すぐさま晴れた表情に変わる。

「でも、『今はまだ』なのね? じゃあワタシに応えてくれる可能性はあるのね!?」

「え、えぇ……。まぁ……」

 俺の曖昧な答えでも、彼女は更に眩い笑顔を俺に向けてくれる。

「じゃあ、ワタシもっと頑張るわ! カイが振り向いてくれるまで、カイの気持ちが確かなものになるまで!」

 その笑顔に思わず俺の頬も緩んだ。俺がこのホテルに来る理由が少しだけ解った気がした。

「さーてカイ! ここからはゲームして、遊びまショ!」

「いいですよ、今回は何して遊びます?」

「これ、ショーギってのをやりたいの! でも遊び方が解らなくて……」

「動かし方程度なら知ってますよ。一緒にやりましょうか」

「ええ!!」

 

 

 それから俺たちは各務さんが迎えに来るまでひたすらに遊びまくった。




 鞠莉さん、地味にダイヤさん並に扱いが難しいですね。
 ここでまずは各ヒロインの紹介パートは終わり。次からは各キャラの掘り下げを一回ずつ、そして合宿編に続く構想になっております。出来るだけ早く更新したいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

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