ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 お久しぶりです。遅れた理由はあとがきにて。


4話:船室を片づけと思い出と

「渡辺さんお疲れさま!」

「うん、おつかれー!」

 水泳部の部員仲間に手を振って別れを告げると、私は櫂から借りた自転車に跨がった。坂を一気に駆け下りると空気が流れていって、プールで濡れた私の身体を冷やしてくれる。午後二時という太陽が高い時間にこんなに気持ちよく帰れるなんて、櫂に感謝しなくっちゃ。

 そのまま自転車をこぎ続け、櫂の家へとたどり着いた。いつもの場所に自転車を戻して扉の前に立つ。チャイムを押そうとした手が止まった。ふと昨日の櫂の言葉が脳裏を過ぎって、自分がいうべき言葉が自然と決まった。

「ただいまーっ!」

「おぅ、おかえり」

 私の帰宅に気付いたのか、リビングの奥から櫂が段ボール箱を抱えて姿を現した。珍しくその頭にはバンダナが巻かれている。

「片づけはどんな感じ?」

「んー、四割片づいたってとこだな」

「まだ四割なの?」

 しかたねーだろ、と櫂は苦笑いした。櫂と一緒に暮らすことになって三日程経って、櫂がこう提案したのだ。「曜の部屋を作ったほうがいい」と。私は無くても平気だし、申し訳ないからいいって言ったんだけど、「そうでもしないとおれが持たない」と必死に言うから、その言葉に甘えることにした。

 櫂の家は倉庫として使ってる部屋が多く、片づければ一部屋くらいは空きが作れそうだったので、櫂がその片づけをしてくれているのだ。

「よーし、ここからは私も手伝っちゃうからね!」

「今日は部活の練習があっただろ。着替えてからでいいから、少し休んでおけって」

 む、それもそうかもね。櫂のお言葉に甘えることにしよう。洗面所で櫂に買ってもらった部屋着に袖を通す。櫂が私の為に選んでくれた服。そう思っただけでちょっと頬がニヤケた。

 さて、着替えてる間に片づけは少しは進んでるかな? そう思って戻ってみると。

「……」

 櫂は段ボールに囲まれた状態であぐらをかいて座っていた。さっきの部屋の様子と見比べた所、片づけは全然進んでないみたいだ。

「ちょっと、櫂ー? 何休んでんのさー」

「お、曜。お前もこっち来て見てみろよ」

 楽しそうに笑う櫂の隣に座って、彼が見てたものを見る。櫂が持ってたものは、アルバムだった。沢山の写真が貼られている。

「これってーー」

 その写真には、三歳から四歳と思える子供が二人写っていた。それはどこか私たちに面影が似ていて。その写真の二人は、いっつも笑顔で写っていた。

「これって・・・、小さい頃の私たちだね」

「ああ、掃除してたら出てきたんだ。つい気になってな」

「あー、掃除あるあるだねー……」

 そう言う私も、そのアルバムに引き付けられていた。早く、次のページ、と櫂を急かして見ることに熱中してしまう。気がつけば互いの肩は密着していて。

「ほんと、二人で写ってる写真が多いよねー」

「それだけ二人でいる時間が多かったってことだよな。変わんねーな」

「ホント、変わらないね。今も、昔も」

 櫂の肩に体重を預けようとして少し躊躇ってしまう。櫂は、今までの関係のままでいいと思ってるのかな。櫂がそう望んでいたら、私はーー

「数年後、おれ達はどうなってんのかね」

 櫂の言葉にどきりとして。そのつぶやきに、問いかけてしまう。

「櫂は、どうありたいの?」

 私の質問に、視線をこっちに向ける櫂。櫂の瞳の中に、私が映り込んでいる。その表情は、少し不安げで。

「おれはーー」

「ううん、何でもない」

 でも答えを聞くのが怖くなって、話題を打ち切ってしまった。もし、今ここで答えを聞いたらこれまでの関係が終わってしまう気がして。それ以上の関係になりたいと思ってるはずなのに、変わってしまうのが怖くて。櫂に自分のことアピールするんだって意気込んでたのに、情けないよね。

「曜?」

「さ、片づけするよ! このままだと今夜も私、櫂の部屋で寝ることになるんだからね?」

「それは困る! 曜も帰ってきて早々悪いが手伝ってくれ!」

「ヨーソロー!」

 私は笑顔を向けて、彼に敬礼で応えたのだった。

 

 

◇◇

『櫂は、どうありたいの?』

 曜が質問を打ち切ってくれて、少しホッとしてる自分がいた。答えに困っていたからだ。曜のヤツ、なんつーこと聞いてくるんだ。

 答えはYesでもNoでもない。今まででさえかなり近い距離感だったけど、スクールアイドルの活動を手伝うことになってから曜との距離はもっと近づいた気がする。そうなれば嫌でも曜のことを意識してしまう訳で。これ以上の関係になるのも悪くないと思いながら、今までの二人でいられなくなることが、少し怖い。望みながら、その望みへと至ることを怖がっている、我ながら情けない話だ。

 少なくとも、このなんちゃって同棲生活が終わるまでは今までの関係でいよう。この特殊な環境が曜のことを意識させているのかもしれないし、それでは曜に失礼だ。これが終わってから、それでも尚曜のことを想っていたら――

「櫂ー? ぼっとしてどうしたのー?」

 思考を遮る声に我に返ると、視界いっぱいに曜が映っていた。ち、近いって。

「な、なんでもねえよ」

「変な櫂。いいから片付けるよー」

 そして二人で段ボールを運び出す。部屋から出した段ボールは親父の部屋の前に置いておこう。

「いいの? おじさんの部屋の前で?」

「こうやって突然のことで息子を苦しめるからな、その仕返しってことで」

「相変わらず仲良いね」

 苦笑いする曜に、まぁなと返した。唐突に飲みに行ったり、船旅に出ていくことが多いが、それは隣の曜や曜の両親がおれの面倒を見てくれると踏んでの行動だ。信用してるんだか、甘えてんだかよくは解らないが。少なくとも親父は曜のことを悪くは思ってない訳で。これなら曜が彼女でも親父も文句は――

「ッ!!」

 思わず、段ボールに頭を突っ込んでしまう。今おれ、何を考えていた? 考えないように、と言っておきながらこの様だ。全く、情けない。

「櫂、どうしたの?」

 曜は驚いた様子でおれを見る。おれはなんでもない、と返すと頬を叩いた。しっかりしろ、紫堂 櫂! この同居状態が終わるまでは普通に接しなければ・・・

「なんでもないって。急がねえとまた同じ部屋で寝られる羽目になっちまう」

「じゃあ遊んでないで片づけてよー」

「うっせ」

「じゃあぱっぱと片づけよっ! 今日中にはここを曜ちゃんの根城にするんだから!」

「根城って……。善子の影響でも受けたか?」

 おれがその手を取ると、曜はへへっと笑った。その笑顔が可愛らしいと思うのだった。




 遅れて申し訳ない。睡眠環境が劣悪になり、疲労が取れない状態が続いたせいか、全然小説が纏まらずにここまで遅くなってしまいました。曜ちゃんどう書きゃいいのかもうわかんねぇ。
 次は、曜ルート続きか、善子ルートか梨子ルートを併設していこうと思ってます。

 感想お待ちしております。

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