ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「櫂、はやくーっ!」
「そんなにせかすなっての……」
バスから降りるなり曜はショッピングセンターへと駆けていく。まぶしく陽光が照りつける中、元気一杯だ。反対におれは大きく欠伸をした。瞼も重く、気分が上がらない。
「どうしたの? 寝不足?」
「まぁそんなとこだ」と答えると曜が不適な笑みを見せた。
「ふっふっふー、もしかして櫂ってば隣に私がいると意識しすぎて眠れなかったなー。すっけべー」
「うるせえ」
「きゃー、櫂が怒ったー!」
楽しそうに曜は走っていく。悔しいが曜の言った事は本当だった。前に泊まった時は曜は自分の着替えを持ってきていた。が、今回は事情が事情故に彼女には就寝用の衣服がなかったのだ。仕方なくおれがシャツやらなんやらを貸したのはいいが、それがいけなかった。女性らしい盛り上がりの身体を見てなんだかいけない気持ちになるし、そんな曜がおれの隣で寝てるもんだからいつも以上に緊張してこの様である。服とか買ったらあいつ用の部屋つくってやらんとな。そうでもしないとおれの理性が持たない。
「でもいいの? 洋服代櫂が持つって?」
「気にすんな。元はといえば親父達の不始末が原因だ。あとで親父に請求するから」
「じゃあ、めーいっぱい買っちゃおうかなっ」
「数日間過ごす用でいいんだからな」
「わかってるって! ほら、行こう!」
曜は嬉しそうにおれをショッピングセンターへ引っ張っていくのだった。
「じゃーんっ! これどうよ!?」
「おー、いいと思うぞー」
嬉しそうに笑うと、曜は再び試着室の中に戻る。そして暫くしてそのカーテンが再び開かれる。姿を変えた曜がノリノリでポーズをとる。
「じゃあじゃあ、これは!?」
「最高に素敵だね」
「もーっ、櫂ってばさっきからそればっかじゃんか」
曜は頬を膨らませてカーテンから首だけを出す。
「別に家で過ごす普段着なんだから、なんだっていいだろうが」
「私は櫂に選んで欲しいんだよぅ……」
「そうは言ってもおれは服とかのセンスとか無いからなぁ」
「センスとかあんまり期待してないから」
ずばっと言うね君は。おれが苦笑いしていると、曜は優しく微笑んだ。
「私に似合いそう、着て欲しいって思った服でいいんだよ。それを着てみるから。だから、選んで? ね?」
そんな幼なじみの表情に、どきりとして。ここで応えなきゃ男が廃る、そう思って店の中をぐるりと見て回ってみる。その中で曜に似合いそうなものを見繕ってみる。
「ほら、これ。ちょっと着てみろよ」
「うん!」
笑顔でそれを受け取るとカーテンを閉める。そしてさっきよりもゆっくりとカーテンが開かれた。
「どう……かな?」
「あぁ、似合ってるぞ。曜」
「……っ!」
頬を少し朱に染めてはにかむ曜。自分で選んだ服を着るよりも嬉しそうな表情に、こっちの頬も緩んだのだった。
「あー、だいぶ買ったなー! 櫂が変な服選んでくることもなかったし」
「お前な、おれがどんな服選ぶと思ったんだよ」
「んー、バニーさんとか?」
「コスプレじゃねーか」
なんて二人で会話していると、何かに気付いた曜がおれを追い越して制した。
「櫂、ここからは私一人で買い物するから……」
「どうしてだよ? ここまできたんだ、おれも選ぶよ」
「そーじゃなくてっ……!」
曜は店の看板を指さした。指さした先に書かれた文字は「ランジェリーショップ」。下着を売る店だ。そのことを理解したおれの身体は急激に体温を上昇させる。
「櫂のスケベ……」
「っ! ちょっと外で待ってるな!」
曜のジト目を余所におれは店から離れるのだった。
そんなに時間がかかることなく、曜は店から出てきた。右手には買ったであろう袋が。
「い、意外と早かったな」
「……」
ぷい、とそっぽを向いて置いていこうとする。おれは慌ててその後を追いかけた。
「ごめんって、曜。一緒に買い物するのが案外楽しくってさ」
「……」
「ほら、ちょっと疲れたろ? どこかで休憩しようぜ。飲み物奢るからさ」
ぴたりと足を止めて、曜は「みかんフロート」と呟いたのであった。
「んー、冷たくておいしーっ!」
ベンチに腰掛けて一通りみかんフロートを堪能したのか、曜の機嫌はすぐに治ってくれた。
「満足してくれてなにより……」
おれは苦笑いしてストローをくわえて自分のフロートを飲み込んだ。うん、コーヒー味の苦みが美味い。
「櫂、そっちは美味しい?」
「ああ、なかなかのもんだぞ」
「へぇー、どれどれっ」
言うや否や、曜はおれのストローをくわえる中身を吸い出した。って、それ間接キスじゃないのか!? おれが指摘する間も無く、曜は離れていった。
「うん、ちょっと苦くてそれでいて美味しいねっ」
「よ、曜、お前……」
曜はにっこりと笑うと、目を輝かせた。
「あーっ、ゲーセンあるよ! 櫂、遊んでこーよ!」
おれの同意も聞かぬ間に手を掴んで引っ張る。
「ちょ、曜!」
「シューティングゲームしよ! 得点が低かった方がアイス奢るってことで!」
「まだ食べる気かよお前!」
「とーぜんっ! 櫂の財布をすっからかんにしてあげるんだから!」
まぁ曜が楽しそうならいいか。それにしても曜の奴、おれと間接キスしたこと全然気にしてなかったな。おれが意識しすぎるだけなのか? もしかするとおれは、そういう対象として見られてないだけなのか?
ちくりとした胸の痛みを気にしないように、おれはゲームを楽しんだ。
●●
うわ、やっちゃった。櫂が口付けたストローに、か、間接キス、しちゃったよ……。思わずゲーセンの方に櫂を引っ張っていっちゃった。櫂、迷惑に思ってないよね?
実を言うと、私も寝不足だったんだ。前に一緒に寝た時よりもドキドキして。あー、あの時よりも櫂のこと好きになってるんだなーって改めて思っちゃった。櫂に悟られないようにしてたんだけど、バレてないよね?
「――う、曜」
突然櫂の言葉が聞こえてきて目を開いた。夕暮れの陽の光がバスの窓から差し込んでくる。そっか、私バスの中で遊び疲れて寝ちゃったんだっけ。
「ずいぶん寝てたな。はしゃぎすぎだぞ」
頭上から櫂の声が聞こえてきた。視線を上へと向けると、櫂が優しく微笑んでいた。もしかして私、今櫂の肩に頭を乗っけてる!? 慌てた様子を悟られない用に櫂から離れた。
「そうかも。二人で遊ぶの久々だったからね」
「楽しんでもらえたなら何よりだ。ま、これがライブお疲れさまの労いってことで」
「えへへ、ありがとっ」
調子に乗ってまた肩に頭を乗っけてみる。すると、櫂は黙ってぷいっと視線を逸した。あ、ドキドキしてくれてるのかな? そう考えるとこっちまでドキドキした。
櫂の家に着くと、ちょっと緊張してきた。また、この家にお世話になるんだ、そう思って言葉が勝手に出た。
「お邪魔、します……」
「曜」
櫂の言葉に顔を上げると、櫂はにやりと笑っていた。あ、笑顔も素敵だなぁ。なんて考えていると。
「『お邪魔します』じゃなくて『ただいま』だろ? 今はここが曜の家でもあるんだし」
「櫂……」
嬉しさが胸の中から溢れて、ぽっと温かくなった。こういうこと言える櫂だから、好きになったんだよねぇ。彼の笑顔に、私は精一杯の笑顔で応えたのだった。
「うん、ただいま!」
「ところで櫂、私の家でもあるのに私の部屋がないのはどうしてなのかな?」
「あー、すまん。明日は部屋の片付け手伝ってくれるか?」
「ヨーソロ~!」
さて、次回はちょっと番外編、ヴァンガ回を書きたいと思います。一年生メインでファイトしたいなーと考えてます。ご意見ご感想お待ちしております。