ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 はい、曜編突入です。推しの方々に、楽しんで貰えると嬉しいな。


1話:二人だけのFirst Voyage

「暑い……」

 午後三時に浦の星女学院の前で自転車と共に待ち人を待つ。じりじりと陽光はおれ達を照らし、汗を出させる。自転車の黒いシートもすっかり熱を帯びて、これから漕ぐということを考えただけで気がまいってしまう。それでもそこから動かずに待っていると。

「櫂ーっ!」

 元気な声に振り返ると、曜が全速力で走ってきた。おれの目の前で止まると、膝に手をついて呼吸を整える。

「はぁっ、はっ、待った?」

「シートが熱くなるくらいには待ったかな」

「どれどれ……、うわっあっつ!」

 シートに触った曜は一瞬で手を引っ込めた。そして申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんね櫂……。だいぶ練習が長引いちゃって。ここに長く待たせることに――」

 しゅんとする曜の頭を撫でる。プールに入った後だからか、髪の毛が湿っていた。気にせずくしゃくしゃと撫で続けた。

「気にすんなよ。付き合い長いとこれくらい慣れっこだ。それに、今日は料理教えてくれるんだろ?」

 高熱のシートに跨がり、座るように彼女に促す。すると曜はぱあっと顔を輝かせ、抱きつくように後ろに跨がった。

「ありがとっ、櫂」

「乗ったな、じゃあ行くぞっ」

 ぎゅっと曜の身体の柔らかさが伝わってきて、ドキッとしたのを悟られない様に地面を蹴った。それと同時にプールの塩素の香りがふわりと香るのだった。

 

「うわー! はやーい!」

 坂を自転車で降りる中、後ろで曜のはしゃぐ声が聞こえてきた。風がおれ達を吹き抜けて一瞬で熱を持った身体を冷ましてくれる。

「もっと速くはしれーっ!」

「ちょ、曜!」

 腰に抱きついた曜の両腕が更に抱擁を強めた。そして背中に柔らかい二つの何かが更に密着する。

「なーにー!?」

「くっついてる! 密着しすぎだって!」

「風が強くて聞こえないー!」

 そういって更に強く抱きしめてきた。そんなに強い風は吹いてない。こいつ、おれが反抗出来ないからってからかってるな。よし、ならこっちがからかってやる。

 両手に力を込めて、ハンドルを思いっきり引いた。すると自転車は勢いよく浮いた。

「きゃっ!!」

 曜の小さくない悲鳴を聞いておれはにやりと笑って後ろを振り返ってみる。

「どうした曜? まさかあれくらいでびっくりしたか?」

「す、するわけないじゃん!」

「じゃあーー」

「ちょ、きゃぁっ!」

 何度も力を込めて自転車を跳ねさせる。その度に曜の悲鳴が後ろから聞こえてきた。

 坂が終わり、平らな道を走る。すると、背中を連打される感触が。

「もーっ! 櫂のバカ! びっくりしたじゃんか……」

 普段はあんまり聞かない声色に、ちょっとドキッとした。

「普段からかってくるお返しだ」

「べ、別にからかってないし……」

「ほう、じゃあおれの目を見て『からかってません』って言えるのかよ?」

「今自転車乗ってるから出来ませんー!」

 べーっと舌を出す曜。最近二人っきりで長い時間がなかったせいか、新鮮に感じるな。自然と笑みがこぼれた。

「へへっ」

 それは曜も同じらしく、後ろから笑い声が聞こえるのだった。

 

 

「とうちゃーくっ!」

 近くのスーパーにたどり着くと曜は元気よく後部席から飛び降りた。

「ではこれからハンバーグの食材を購入する! 準備はいいか紫堂訓練兵!」

 おれが「あいよー」と気の抜けた返事をすると頬を膨らませて指さしてきた。

「ばかもーんっ! 最初と最後に『サー』をつけないか!」

「サーお前の場合は『マム』ではないのではないですかサー」

「細かいことは気にするな! それと気合いが足らんぞー!」

「気合いって……、そういうお前はなんでそんなに元気なんだよ」

 すると曜は頬を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。

「だって、こうやって二人でご飯の材料買うの初めてだし……」

 そんな彼女の表情に見惚れてしまうのをなんとか我慢して、おれはスーパーへと足を向けた。

「んなの、いつもの買い物してるのと変わらんだろ。ほら、暑いからさっさと行くぞ」

「ヨーソロ~」

 曜は敬礼しながらおれの後ろへと続くのであった。

 

 

「えへへー、いっぱい買っちゃったね」

 おれ達二人の両手にはスーパーの袋。ハンバーグの材料を大量に買い込んだのだ。

「流石にこれ買いすぎじゃないか?」

「何言ってるのさ櫂。櫂が失敗してもいいように大量に買ったんだから?」

 感謝してよね?としたり顔でおれを見つめてきた。

「言ってくれるな。必ず曜の満足いく出来のハンバーグ作ってやるよ」

「期待しないで待ってるよー」

 にししと笑って流される。曜のくせに生意気な。高校に上がってからか、曜は妙におれをからかうようになった。こいつの煽りにはどうしてか頭にくることはない。長いつきあいだからだろうか。

 袋を自転車に載せてサドルに腰を下ろした。それに併せて曜も後ろに座った。

 スーパーからおれと曜の家はそう遠くなく、すぐに到着した。おれは買い物袋四つを持ち上げる。

「じゃあこれ全部台所持ってくな」

「わたしも手伝うよ」

「これくらい持てるっての。それにお前は部活の練習で疲れてるだろ? 少し位休めよ」

「ありがとっ。じゃあそうさせてもらおうかなー」

 曜は手をひらひらと振ると、自分の家へと向かった。さて、おれも荷物の搬入しなくちゃ。

 そんな時、スマホが震えた。親父からのlineだ。

「なになに――っ!?」

 内容はこうだった。曜の両親と暫く船旅に出るそうだ。どうやら曜の親父さんと意気投合したらしい。そして母親もそれに同意したらしく、三人での旅となったらしい。

 ちょっとびっくりしたけど、親父と曜の親父さんも仲がいいからな。それに母親も着いていくとは思わなかったけど。まぁ今までもどっちかの親が居ない時にもう一方の家にお世話になることもあった。でもおれと曜も今は高校生。一人で数日生きる位出来る筈だ。

「櫂……」

 驚いた様子で曜がスマホを持って近づいてきた。

「お、その様子じゃお前も今聞かされたクチか。でもまぁなんとかなるだろ――」

「私、その話聞かされてなくて、鍵を家に置きっぱにしちゃった……」

「は?」

 その言葉を聞いて、即座に彼女の家の扉のドアノブを動かす。が、開く様子を見せない。

「櫂、私……、どうしよう……?」

 少し涙目になっておれを見つめる曜。そんなこいつを、おれは放っておけるはずもなく。

「両親が戻ってくるまで、おれの家で過ごせよ」

 こう言うことしか出来なかった。それがどんな意味を持っていたのかを、おれはこの時知らなかったのだった。

 

 

●●

「両親が戻ってくるまで、おれの家で過ごせよ」

 櫂からその言葉を聞いた時、一瞬理解が出来なかった。最悪千歌ちゃんちに泊めてもらおうと思ってたから余計にびっくりしちゃった。

 だって、親がいない家で二人っきりだよ!? 意識するしないのベクトルの問題じゃないよ! イヤでもドキドキしちゃうって! 何フツーに言ってるのさバカ櫂は!

 でも、目の前に困ってる女の子がいたらとりあえず助けちゃうのは、やっぱり櫂の良いところだよね。つまり、私を女の子として見てるってことで……。

 うわー、すっごく恥ずかしくなってきた。お、落ち着くんだ渡辺 曜! 逆に考えるんだ、櫂の事をもっと好きになれるチャンスだって! 私の事も櫂にアピール出来るかもだし!

「はい、お世話になります……」

 ドキドキとワクワクを抑えながら私は返事をするのでした。




 中々書くのが難しいと思っていた曜ちゃん。が、とても面白いネタが降りてきてくれました。これならイケる、満足して貰えるって思えました。忘れない内に書きたかったので個別ルートトップバッターは曜ちゃんです。ここからは曜ちゃんオンリーで行きますよ。どうかお付き合い下さいね。


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