ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「もしもし?」
震えるスマホを取ると、スピーカーから聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。
「くっくっく……。天から追放されし堕天使ヨハネ、召喚に応じ参上した。問おう、貴方が私のマスターーー」
「あ、間に合ってますー」
「ちょ、ちょっとぉ!」
通話を切ろうとすると声の主が慌てて抗議の声をあげた。
「通話を切らないでちょうだい!」
「スイマセンね新聞屋さん、うち新聞はもう間に合ってるんですわ」
「今のがどう聞こえたら新聞の勧誘に聞こえるのよ! もうシドー、パートナーの声を忘れちゃったの?」
少し不安そうな声を聞いて、苦笑いしながら頭の中のスイッチをいれた。
「忘れる訳がないだろう? 永久なる愛の契約を結びし我が愛するパートナー、善子よ」
わかればよろしい、と善子はスンと鼻を鳴らした。以前なら「善子じゃなくてヨハネ!」と訂正しただろうけど、それはもう過去の話。ひょんなことからおれと恋人になってから、彼女はおれにだけ善子という真名(そう本人は自分の本名を呼んでいる)で呼ぶことを許可してくれている。
「それで、どうしたんだ善子?」
「あ、あのねシドー。明日私の家に泊まりに来ない?」
「明日?」
視線を壁に貼られたカレンダーに向ける。明日は7月の12日。更にその翌日は善子の誕生日だ。
「べ、べつにね、予定があるならいいの。誘うの急すぎたかなーって思ってたし」
そう言う善子の声はどこか寂しそうで。
「その日は特に予定ないぞ。それに、善子からの誘いなら喜んで受けるさ」
「っ!! ありがと!」
嬉しそうな声にこっちの頬も緩む。こういった素直な所は、年下の女の子なんだなと思える。
「じゃあ明日沼津駅集合でいいかしら?」
「そっちは練習があるんだろ? おれが迎えに行くよ」
「いいの? シドーにも学校あるでしょ?」
なんだかんだでおれことを心配してくれる、その気持ちだけで嬉しくなってしまう自分がいた。
「おれは帰宅部だしな。そっちに行く位なんともないさ。それに、より長く善子と一緒に居たいからさ」
「シドー……、ありがとっ!」
「それじゃあ練習終わる頃に連絡するから。楽しみにしてるぞ、善子」
「さようなら私のリトルデーモン。また明日会えるのを楽しみにしてるわ」
「ああ、おれもだ」
そう言って通話を切ろうとするが、善子からは何も反応がない。
「善子?」
「シドー、その、あのねっ、あの言葉、聞きたいな……」
ああ、そうだったな。電話の最後にはあの言葉を返すんだったな。最近忙しくて善子に電話出来なかったせいか忘れていた。ちょっと恥ずかしいけど、善子が喜んでくれるならいいか。
「愛してるよ、善子」
「うんっ! 私も、愛してるわ、シドー」
互いに愛の言葉を囁いて、おれ達は通話を終えた。そしてその後恥ずかしさがこみ上げるのと同時に体温が上昇したのだった。
「シドー!」
善子の通う学院の校門で待っていると、善子の声が走ってきた。彼女に手を振ろうとするのよりも早く善子はおれに抱きついてきた。
「シドー! 会いたかった!」
「いつも電話とかで話してるだろ」
「だって、最近テストとかで全然会えなかったし……。シドーは私に会えて嬉しくないの?!」
おれの胸元から顔を離すと、善子は拗ねた顔を見せた。その顔が可愛らしくて、優しくその頭を撫でた。
「嬉しいに決まってるだろ。こうしてぎゅっと抱きしめてたいくらいにな」
「ふふっ、なら良かったっ!」
嬉しそうに頬を緩ませる善子をぎゅっと抱きしめようとしたが、不意に学院の方向から千歌達の声が聞こえてきた。
「おーい、善子ちゃーん! おっかしーなー、どこ行っちゃったんだろー」
「善子ちゃん着替え終わったらすぐに出てっちゃったもんね」
「よっちゃん何か用事とかあったんじゃないかな?」
曜や梨子、二年生達の声が校門近くに近づいてくる。すると善子は「やばっ!」とおれから身を離し、堕天使なポーズを取り始めた。
「ふっ、ここで会おうとは本当に奇遇ねリトルデーモン。こんな所までのこのこと、何の用かしら?」
声色を低くしておれを指さす善子。そこにはさっきのおれの胸元に飛び込んできた可愛らしい彼女はいなかった。
「あれ、かいだー」
「あら、カイ。久々ねー!」
「紫堂せんぱい、お久しぶりずらー!」
善子の声を聞いて、他の面々もこっちに気づいてこっちに近寄ってきた。
「さぁシドー! 答えなさいっ! あなたは何の目的でここにいるのかを!」
善子はつき合う前のノリでおれに詰め寄ってくる。少し寂しい気もするけど、まぁこれはこれで久々で悪くない。おれも彼女に付き合うべくスイッチをいれた。
「フッ、しれたことよ。この学院を我が支配下におくためよ!」
「なんてこと、シドー。貴方、ここはヨハネの支配する土地と不可侵の条約を結んだじゃないの!」
善子もそれに乗り、周囲がまたかと苦笑いと呆れの視線を送る。つき合ってから善子は今まで以上におれに堕天使的なノリで接するようになった。おそらく照れ隠しとしてなんだろうけど、そんなに照れなくてもいいと思うんだけどな。
「まーた善子ちゃんとせんぱいの夫婦漫才が始まったずら」
「ずら丸! 夫婦漫才ゆーなっ! くっ、シドーっ! 誰があなたを堕天使として覚醒させたと思うの!」
「下克上だよ、堕天使ヨハネよ! お前は自ら育てた闇に食われて滅ぶのだ!」
「そんな理屈!」
「それが堕天使だろう! 隙あらば育てた者でさえ寝首を掻く! 互いに妬み、食い合う! わかっていたハズだ!」
「それでも! それでもーー……」
そこで善子がぴたりと止まった。おれも違和感を感じて辺りを見渡すと、さっきまでおれ達の寸劇(?)を見ていた千歌達がいない。もう彼女達は坂を下りていた。
「行きますわよルビィ。見てはいけません」
「まぁ、ここはかいとよしこ、若い二人でゆっくりってやつで」
「果南さん、ルビィたちまだそこまで歳じゃないよぉ・・・」
坂を下る8人。おれ達は互いを見て笑い合った。
「じゃ、おれ達も行こうぜ」
おれが差し出した手をゆっくりと握って満面の笑顔を見せる善子。
「うんっ!」
その笑顔が可愛らしくて善子の手をきゅっと握るおれだった。
千歌達と別れてバスに乗る。別れ際、善子は彼女達に「シドーは私が再調整しておくから!」と言っておれをバスに押し込んだ。おれは強化人間か何かか。
そんなおれの気を知らず、善子はおれの腕に寄りかかっている。
「なあ善子、もう他のメンバーにもつき合ってるってバレてるんだからさ、皆の前であんなノリでいることもないんじゃないか?」
「うっ、それはそうだけど……」
少し顔を赤らめておれに腕に顔を埋めた。
「こうしてシドーにべたべたなの皆には見られたくないっていうか……。し、シドーのせいなんだからね! こんなにも私をメロメロにさせたんだから……」
「おれのせいなのかよ」
「それとも、シドーは皆の前でもこうであって欲しいの?」
善子が顔を上げて不安そうにおれを見つめる。その上目使いがまたとても可愛らしくて。
「いや、今のままでもいい。善子がしたいようにすればいいさ」
「じゃあ、このままがいいっ」
そう言って善子は嬉しそうにぎゅっとおれの腕を抱きしめた。他のメンバーの前では見せないであろうこの表情をおれだけが見れる。それはそれで役得だからいいか。
「ねぇシドー。家に着くまで、こうしててもいい?」
善子が体重をおれに預けながら上目遣いでおれを見つめてくる。くそ、おれの彼女はどうしてこう一々可愛いんだ。
「あぁ、いいぞ。練習で疲れたろ? バス停着いたら起こしてやるから少し休んでろよ」
「そーするっ♪」
身体にかかる善子の重みがどこか心地よくて、おれも軽く身体を預けた。それを受けて善子は小さく笑いながら目を閉じたのだった。
「ただいまーっ」
「おじゃまします……」
バスから降りて沼津市内を歩くこと数分。おれは善子の家にあがりこんだ。つき合ってから何度かお邪魔したことはあるが、緊張するな。
「何を緊張してるのよシドー。私のリトルデーモンとあろうものが、情けないわよっ」
「リトルデーモンだろうと、彼女の家にあがる時は緊張するもんだっての」
「そう?」と首を傾げる善子はそのままリビングへと通じるドアを開けた。
「あら、おかえりよっちゃん」
リビングには善子と同じ髪の女性が一人。善子の母親だ。
「ただいま、ママ」
「あら、よっちゃんの恋人の紫堂くんも。いらっしゃい」
「はい、お邪魔してます……」
実は津島家には一度ご挨拶に行っているのだ。善子は母親との二人暮らし。父親は単身赴任で中々こっちに帰ってこれないらしい。うちとはある意味逆の家庭でもあったせいなのか、善子の母親は快く受け入れてくれたのだ。
「あらあらよっちゃんったら紫堂くんをお持ち帰り? ふふ、隅に置けないんだから」
「ちち、違うわよっ!」
「はい、お持ち帰りされちゃいました」
「シドーものらない!」
「紫堂くん、いつでも『お義母さん』」って呼んでいいからね? 私お赤飯炊いちゃうから」
「ま、ママってば気が早すぎよ!」
「はい、ありがとうございますお義母さん」
「だからシドーも乗らないでよー!」
善子が顔を真っ赤にしてわたわたしている。ああ、おれの彼女は本当に可愛いな。ほっこりしていると、お義母さんとも目があった。すると彼女は何かを察したのかぐっと親指を突き立てた。なるほど、彼女も慌てふためく善子を愛でるのが好きらしい。あらあらうふふと嬉しそうに笑っていた。
「改めて紫堂くん、いらっしゃい。お泊まりのことは善子から聞いているわ。今日はここを居城だと思ってちょうだいね。あ、よっちゃんと同じ部屋でいいのよね?」
「ありがとうございます。はい、それでお義母さんが問題ないなら」
何か今変な単語が出た気がするが、気にしないでおこう。蛙の子は蛙、つまりはそういうことなんだな。
「し、シドー、こ、こっちよ。我が間へと案内してあげるわ」
恥ずかしさに耐えきれなかったのか、善子はおれの手を取ると再び廊下へと引っ張っていった。
「よっちゃん~。紫堂くんとのリトルデーモンも、期待してるからね~」
お義母さんの言葉に耳まで真っ赤にすると、善子は更にずんずんとおれを引っ張るのだった。
「もうママったら……」
自分の部屋のベッドに善子はため息をつきながら腰掛けた。おれもその隣に腰掛けてさっきの光景を思い出す。
「夕飯食べた後風呂に入ることになった時も「「一緒に入るの?」」とか聞いてきたもんな……」
「素で聞いてきてるから恐ろしいわね……。全く、自分の娘がお風呂でそういうことになったらどうするのかしら?」
「お、そういうことって何なのさ善子?」
「そっ、そういうことって……」
おれの質問に顔を紅くする善子。少し戸惑うと、視線を逸らして小さく呟いた。
「ぎっ、儀式よ、儀式っ。聖なる、ね」
「聖なる、か。それって漢字違うんじゃーー」
続きの言葉を、善子はおれの顔に枕を押し当てて遮った。
「うっさい、ばか!」
こういった面でウブな善子も、また可愛らしい。今日はもう寝ようか、と切りだそうとすると、善子は携帯ゲーム機を取り出した。
「それより、ゲームしましょっ! またシドーと一緒にゲームしたいからっ!」
その嬉しそうな表情に、おれは心の中で自分をブン殴った。そうだよな、そういう行為だけが善子との絆を深める手段じゃない。彼女が求めるやり方でもっと仲良くなっていけばいい。
「よし、つき合ってやるよ。おれを驚かせてみせろっ」
「フフフ……、このヨハネの新型を甘く見ないことねっ!」
こうしておれ達はゲーム三昧としゃれこむことになった。あんまりムードとかないかもしれないけど、これはこれでいいか。
そして気がつけば日付が変わろうとしていた。おれ達はベッドの縁に寄りかかっていた。善子はと言うと、おれの肩に頭を乗せて、うとうとと船を漕いでいた。
「ん……」
「善子、寝るんならちゃんとベッドに寝ないと」
「まだ……、起きてる……」
そう言うが善子の瞼は9割は閉じられている。眠そうにする善子が可愛らしくてその頭を優しく撫でる。
「そろそろ善子の誕生日が来ちゃうぞー。明日はそれこそ皆でお祝いするんだろ?」
「だから、こそよ……」
「え?」
善子は眠気を引きずりながらゆっくりと喋った。
「誕生日に、なる瞬間を……、大好きなシドーと、迎えたいのよぉ……」
「善子……」
誕生日という自分が生まれた特別な日を、おれと迎えたい。その善子の気持ちが嬉しくて、彼女の肩を抱いた。
「ありがとう善子。おれ、善子と恋人になれて良かった」
「ん……、私も、よ……。私を受け入れてくれて……。好きだって言ってくれて……」
互いに寄り添って体温を感じあっていると、時計の針は12時を示していた。7月13日。善子の誕生日だ。おれは少し彼女から離れると、自分のバッグから小さな箱を取り出した。
「善子、誕生日おめでとう。これ、誕生日プレゼント。黒いペンダントとか探すの苦労したんだぞーー」
視線を善子に戻すと、善子は自分のベッドに頭だけを乗っけて眠っていた。
「くぅ……。すぅ……」
「耐えきれず眠っちまったか……。これも不幸体質のなせる業か……」
善子はおれと誕生日になる瞬間を迎えられなかったかもしれない。でも、おれにとってはちょっと幸運かもしれない。こんなに可愛い善子の寝顔を見れるんだから。プレゼントは朝に渡すとしよう。喜んでくれるよな?
おれは彼女を抱き抱えてベッドに横たえる。そして敷かれた布団に潜ろうとして、ふと考えた。そうだ、折角だしサプライズなプレゼントをしよう。
おれはそのまま善子の布団に潜り込んだ。起きたら善子の寝顔をもっと拝めるし、起きる瞬間も見れるかもしれないからな。もし逆でも善子はおれの寝顔を見れるという訳だ。どんな反応をしてくれるだろうか。楽しみだ。
「おやすみ、善子」
彼女の唇に軽くキスをして、おれも瞼を閉じた。今日が、善子にとっていい誕生日でありますように。
因みに寝起きの善子が驚いておれに張り手をかまし、午前中は拗ねてしまったことはまた別の話だ。
善子とは甘え甘えられな関係を書いていきたいなと思う今日このごろ。構成も大分出来ているので、今のルートが書き終えたら善子ルートを書こうと思ってます。
その為にも曜ルートを終わらせなくちゃ。
感想お待ちしてます。