ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
Dream World:輝ける時を、君と
『櫂ちゃんはそれでもいいの!?』
「いいもなにも、仕方ないだろうが」
夕陽が窓から差し込む中、おれは身支度をしながら千歌と電話越しに会話している。これから今は会えない恋人の為のプレゼントを買わなければならない。
『今日は鞠莉さんの誕生日なのに?』
「鞠莉は今日ホテルで関係者を含めたパーティをするって話だったろ。恋人とはいえそういう催しに出ちゃいかんだろ」
面識のない人が大勢出るパーティに行っても面白くないでしょうし、というのが鞠莉の意見だった。正直おれもそう思う。そう言った人達に変な目で見られたくないし。鞠莉にも嫌な思いはして欲しくないからな。
「とにかくこれは二人で話し合って決めたことなんだ。それに今おれは内浦にはいないからな」
おれの言葉に千歌は「あ、そっか」としゅんとした。今おれは恋人である鞠莉ともっと一緒にいられるように勉強するために大学へと進学した。内浦から離れての一人暮らしは少し寂しくあったけど、これも彼女と共に暮らすためと思えば苦ではなかった。
『まぁ櫂ちゃんが納得してるならいっか』
「そう言うこと。心配してくれてありがとな。千歌達は千歌達で明日盛り上がればいいさ」
「うん、じゃあね」と千歌が通話を終えた。少し寂しさがこみ上げるのを誤魔化すようにおれは身支度を急いだ。
アパートのドアに鍵をかけて階段を降りる。おれはひょんなことで鞠莉と恋人関係になった。ホテル経営を夢とする彼女の力になりたくて内浦から少し離れた場所で勉強をしているが、寂しくないと言えば嘘になる。千歌に言った言葉は半分強がりだ。仕方ないと言いつつも内心は鞠莉の誕生日に一緒にいられないことが、たまらなく辛かった。
「ま、だからこそ今からプレゼントを考える時間があると思えばいいか」
と自分に言い聞かせようと一人呟いた時だった。
「あら、誰のプレゼントを買うつもりなのかしら?」
今ここにいるはずのない声に驚いて、振り向いた。するとその声の主であろう人物がおれに抱きついてきた。
「カイー! 会いたかったーっ!!」
「ま、鞠莉!? どうしてここに!?」
「どうしてって、当たり前でしょ?」
少しおれから離れた鞠莉は優しく微笑んだ。
「大好きなダーリンに会いに来たに決まってるじゃないの!」
「なるほどそれは嬉しい……ってパーティはどうしたんだよ」
おれの言葉に鞠莉はんー、と考えると再びにっこりとした表情を見せた。
「バックレた!」
「バックレたって、おいおい……」
心配するおれを余所に、鞠莉はおれの腕にぴったりとくっついた。
「さ、行きましょ!」
「行くってどこに?」
「決まってるでしょ!? バースディデートよー!」
そう言って彼女はおれの腕を引っ張っていく。突然の恋人の来訪に驚きを隠せず、彼女に問いかけた。
「いや、抜け出してきて良かったのか? 次期経営者がパーティー抜け出してきてさ」
街中を二人寄り添って歩く。流石に気になったので聞いてみた。
「ああ、それならノープロブレムよ。カゲムシャをたてたから」
「影武者? ホントにそれで誤魔化せるのか?」
「ふふ、小原の財力を嘗めないでちょうだい、カイ」
「もっとお金の使い方を考えたほうがいいと思うよおれは」
「でもそういうのは、カイが将来仕切ってくれるんでしょ?」
そう言うと彼女はおれの肩に頭を乗せてきた。おれが頷くと鞠莉は嬉しそうに笑った。
「じゃあ今はそれでいいのっ。カイにお財布の紐を握られる前のゼータクってことでっ」
さぁいきましょと笑う彼女に、おれは体重を預け返した。
「はい、社長」
「まだ社長じゃないでしょ? それにカイ? スルーしてたけどワタシの呼び方忘れちゃったの?」
物欲しそうにおれを上目遣いで見つめてくる。それはおれ達が付き合う時に決めたんだった。恋人になった彼女への愛称を。
「忘れるわけないだろ、マリー」
そう呼ばれた彼女は、うっとりとした表情でおれの腕をぎゅっとするのだった。
が、そんな表情をしていたのは30分前の話。鞠莉はおれの腕にくっついたまま頬を膨らませていた。
「でも流石に誕生日のプレゼントを買ってないのはナンセンスじゃない?」
「うっ、おっしゃるとおりで……」
まさか鞠莉が今日こっちに来るとは思わなかったし。後日渡せばいいやと考えていたのが仇となった。
「まぁ連絡も無しに会いにきたワタシも悪かったわ」
ごめん、と言おうとした口に人差し指を当てられる。
「謝らなくていいわ。でもその代わり、今日はめーいっぱいデートしましょ♪」
「ありがと。今日はおれが奢るから」
「ワタシも出すわよ。二人で割り勘した方がいいでしょ?」
「いいのか? せっかくのデートなのに?」
「こっちはいきなり来たんだし。そのお詫びも兼ねて、よ」
ふにゃっとした笑顔を向けてくる鞠莉。まあ実際そうしてくれた方が助かる。一人で暮らしてるからお金にあんまり余裕なかったし。ここは彼女の好意に甘えるとしよう。
そんなおれの金銭的心配を知っているのかいないのか、鞠莉は少し興奮気味だった。
「それにね、ワタシは割り勘とかやってみたかったのよ!」
「ああ左様ですかお嬢様。でも、今からレストランとかの予約出来るかなぁ」
ああ言うのって一週間位前から予約しないと駄目だと思うし。どうしたものかと考えていると。
「別にいいわよ、そんなに豪勢なものじゃなくて」
「え、いいの?」
鞠莉は「イェーッス!」と元気に答えた。
「たまには庶民的なものも味わってみたいのよ。それに、その方がカイのお財布的にも助かるんじゃない?」
「あ、やっぱりわかる?」
やっぱり鞠莉はおれの懐事情を理解していたみたいだ。破天荒かと思えば、実は周りのことを考えてくれている。それが鞠莉という恋人の良いところだ。
「わかるわよ。大好きなカイのことだもの……」
「鞠莉……」
大好きな恋人が、自分のことをここまで考えて理解してくれている。それがたまらなく嬉しかった。
「早速だけど、そろそろいい時間だしまずはディナーにしない? カイがよく行ってるご飯とかと食べてみたいわね!」
「ん、よしきた。じゃあ案内するよ」
そしておれは彼女を行きつけの定食屋に案内するのだった。
「あー、お腹いっぱいっ!」
「満足して頂けて何よりです」
定食屋の暖簾をくぐり出て、鞠莉は伸びをした。
「まさかマスターからサプライズがあるとはね」
鞠莉はんふー、と満足げだ。定食屋の親父さんが鞠莉が誕生日だと知ると「話に聞く坊主の恋人さんならお礼をしなくちゃな」と小鉢やらデザートを追加してくれたのだ。日頃行っておいて良かった。
「でもホント驚いたさ。おれもサプライズしてくるなんて思ってなかったし」
「でもそれってカイがよくここに通ってて、ワタシのことを話してくれてたからでしょ? すごく、嬉しい・・・」
頬を少し紅く染めておれを見つめる鞠莉。その表情が愛しくて彼女の手を握る。
「うん、おれもすごく嬉しいよ。マリーが恋人になってくれて。今はあんまり会えないけれど、マリーと一緒にいる為ならって思うと苦にならないし」
「カイ……」
二人で見つめ合う。が、周囲の空気を察して互いに身体を離した。
「さ、つ、次はどこいこうか!」
「ゲーセン! ワタシゲーセン行ってみたい!」
「了解。おれの行きつけに案内するよ」
おれ達は互いに笑いあって、再び歩き出した。
「ワタシ、あんまりゲーセンって行ったことないのよね」
ゲーセンの騒がしい音の中、鞠莉はおれの耳元で呟いた。
「そうだったのか? 他のメンバーと行ったことあると思ったけど」
「んー、どうしてか周りから行こうって話になったことないのよ」
確かに。あの9人だとゲーセンに行こうって言い出すイメージないもんな。淡島のホテルならゲームもありそうだが、経営者の立場である以上鞠莉はやりそうにない。
「カイ? 何か失礼なこと考えてなーい?」
目を細めておれを睨んでくる鞠莉。おれはなんでもないよ、と彼女の頭を撫でた。
「さて、何をしようか?」
「マリーね、あれやりたい!」
そう言って彼女が指さしたのはクレーンゲームだった。ガラスケースの中には海の生き物のぬいぐるみが入っている。そこへ鞠莉は近寄るとコインを入れた。
「覚悟しなさい、キュートなぬいぐるみちゃん~ マリーのベッドに連れて帰るんだから!」
そう意気込みながらアームを操作していく。ここだと決めるとアームは下降してアシカのぬいぐるみを掴んだ。
「オゥケィ、いい子ね。そのままそのまま……」
が、途中まで動くとぬいぐるみはアームから外れて落ちてしまった。それと同時に鞠莉が「オゥ!」と悶絶した。その後も何度もやるが悉く失敗してしまう。
「カイ~……」
珍しく目をうるうるさせてこっちに助けを求めてくる。そのあまり見れない表情がおれの頬を緩ませた。
「おれがやるよ。マリー」
すると鞠莉の表情がぱあっと輝いた。おれは指をほぐしてコインを投入した。実はおれ、あんまりクレーンゲームやったことないんだよね。主にレースゲームかアクションゲームしかやらないし。ま、千円位でなんとかとれるだろ。そう思っておれはボタンを押し始めた。
「まさか二千円ももってかれるとは……」
やっとぬいぐるみが下に落ちた。侮っていた訳じゃなかったけど、ここまで搾り取られるとは。何度か諦めようとしたけど、後ろで少しはらはらしながらおれを見つめる鞠莉を見ていたらここは男を見せなきゃと思った訳で。二千円でぬいぐるみを買えたと思うことにしよう。
「はい、マリー」
おれが彼女にぬいぐるみを差し出すと、鞠莉は一度は受け取ろうとするがその手をぴたりと止めた。
「マリー?」
「ごめんなさいね、カイ。マリーの我が儘でだいぶお金を使わせてしまって……」
しゅんと落ち込む鞠莉の頭を優しく撫でた。
「カイ?」
「マリーの為に使ったお金だ、何も惜しくはないさ」
「カイ……」
「おれとしては、マリーには笑って欲しいからさ。その為の努力なら、何の苦にもならないよ」
おれが優しくぬいぐるみを渡すと鞠莉はおれに抱きついてきた。
「ありがとう、カイ! これはそのお礼ーー」
そう言って、鞠莉はおれの頬に唇を押し当てた。付き合う前から誘惑と称してここにキスされてきたっけ。でもその時とは意味合いは違っている気がして。驚きよりも嬉しさの感情が勝っていた。
「マリー……」
「さぁカイ! もっと遊びましょ! ワタシ今度はあれやりたい!」
おれの腕を引いてくる鞠莉におれは苦笑いしながらもついていくのだった。
「あーっ、楽しかったっー!」
おれの家までの帰り道に、鞠莉は伸びをしている。あれからけっこうゲーセンで遊んだな。
「シューティングにレースゲー、どれも上手かったなマリーは」
あまりの上手さに少し人だかりが出来た位だ。ホントに初見だったのか?
「ああ言うのは直感で動くものだからかしらね。気がつけばいいスコアいってたわ!」
「けどその反面クレーンゲームは苦手だったな」
「む、言わないでよバカ……」
少し頬を膨らませておれに寄りかかる鞠莉。いじける彼女が愛しくておれの方からも少し体重を預ける。
そうして歩いていると、おれのアパートにたどり着いた。
「ねぇ、カイ。今日は素敵なバースディプレゼントをありがとね」
鞠莉はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。
「ごめんな、ちゃんと用意出来なくて。本来ならアクセサリでもと考えてたんだけど」
「ワタシが連絡もなしにいきなり来たんだもん、しょうがないわよ。それにカイがくれたものなら何だって嬉しいわ」
「鞠莉……」
鞠莉は少し顔を紅くしておれに抱きついてきた。胸元から彼女の柔らかさが伝わって、どきりとする。
「ねぇ、カイ。ワタシ、あと一つ欲しいものがあるんだけど?」
「ん、何が欲しいのさ?」
恥ずかしそうな顔を近づけて、彼女は耳元でささやいた。
「カイとの、赤ちゃん♪」
「っーー!」
その言葉に体温が一気に上昇した。顔を離すと、鞠莉も顔を真っ赤にしていた。そして「だめ?」なんて甘えた声で首を傾げてきたらこちらの理性も吹き飛んで。
「駄目な訳、ないだろーー」
「カイーー、んっ、ちゅ……」
アパートの前で盛り上がったおれ達は、そのままおれの部屋で一夜を共にするのだった。
さて、僕はアニメを一話見て以降、このシリーズを執筆してきました。沼津、内浦の地理も特に考えずに書いてます。千歌の家と曜・櫂の家は自転車で行ける程の近さですし、内浦には駅があったりと本当になんちゃって内浦なので、このまま通すつもりです。
ですが、一つだけマズい点が。鞠莉登場回で櫂とその各務さんは、車で淡島ホテルへと向かっているのです。島にある淡島ホテルに。流石にこれはアカンやろと感じ、ここで弁明させて下さい。
魚を卸した場所は淡島ホテルへと繋がるホテル専用の小さな港(?)。そこで櫂と鞠莉は専用船で淡島へと渡り、鞠莉の部屋に移動したということにして下さい。
今回ばかりはこういった解釈で見て頂けると幸いです。実際に沼津観光しちゃったから今後はこういった部分は少しずつ修正していきたいですね。
感想お待ちしております。