ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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花色の約束

「お邪魔、しまーす……」

 大きく重たい木の扉を開け、教会に入る。浦の星はミッション系のスクールということで、教会があるのだ。それがなんとなく興味を惹いて、思わずおれは中に入った訳だ。

 怒られないよな、と思ってると聖堂の奥からキレイな歌声が聞こえてきた。聖堂に続く内扉に耳を当てるとそれはより鮮明に聞こえてくる。誰が歌っているんだろうとこっそりその扉を開けた。

「♪――」

 大きなパイプオルガンの前には花丸ちゃんがいた。目をつむり、聖歌を歌っている。いつもとは違う花丸ちゃんに、おれは気がついたら歩み寄っていた。聖堂に点々とあるろうそくの光が彼女を弱く照らす様は、なんとも絵になっていた。少しづつ近づくおれに気づかず、花丸ちゃんは歌っている。

「♫――」

 その表情は練習で歌ってる時と同じで、楽しそうだった。一通り歌ったのか、胸に手を当てて深く深呼吸をする花丸ちゃん。おれは思わず彼女に拍手を贈った。

「ずらっ!?」

 その突然の拍手に花丸ちゃんはびっくりしてこっちを向いた。が、おれだと解るとほっとした様子を見せた。

「なんだ、せんぱいかぁ。変態さんならどうしようって思ったずら」

「綺麗な歌だったから思わず、ね」

「えへへ、ありがとうずら」

 片づけをしておれに近寄る花丸ちゃん。が、すぐにジト目でおれを見つめた。

「でも、音もなく現れるのは頂けないずら。まる、びっくりしちゃったずら」

「あー、ごめんね」

「まだまだせんぱいはじぇんとるめんには程遠いずら。お詫びにのっぽぱんを所望するずら!」

「今、あげられるお菓子はないよ?」

「むぅ、ならなでなでを欲するずら!」

「なでなでって、頭を撫でればいいの?」

 おれの問いに「ずら」と頷く花丸ちゃん。

「と言うか他にどこをなでなでするずら? もしかしてまたえっちな事を――」

「考えてないから!」

 これ以上躊躇ってると更に余計な誤解を生み出し兼ねないな。おれは花丸ちゃんの頭に手を置くと、その頭を撫で回した。

「ずらぁ♪」

 花丸ちゃんは目を閉じて嬉しそうにおれのなでなでを受けてくれている。それが何だかこっちも嬉しくなって、ぽんぽんと頭を軽く叩いてやる。

「おぉう、アレンジを入れてくるとは、せんぱいも中々やるずらねぇ」

「お褒めに預かりまして、光栄です」

 ふにゃっとした表情がどこか犬っぽくて可愛らしかった。それから花丸ちゃんが「も、もういいずらっ」と顔を紅くして離れるまでおれは撫で続けるのであった。

 

 

「花丸ちゃん、聖歌が得意だったんだね」

 二人で教会の長椅子に腰を下ろして話し合う。

「元から歌うのが大好きで、ちっちゃな頃はよくお寺のお庭でよく歌ってたずら。音楽の先生からのスカウトで聖歌隊に入ることになって……、お寺の子が聖歌隊ってやっぱり変かなぁ?」

 視線を落とす花丸ちゃんの頭を、もう一度手を置いて撫でてやる。

「そんなことないと思うよ。お寺の子だからって聖歌を歌っちゃいけないなんてルールもないさ。親御さんは反対とかはしなかったの?」

「むしろ大賛成だったずら。じっちゃんなんかは大喜びで発表会があるといっつも来るずら」

「なら、問題ないでしょ。それにしても発表会かぁ。ちょっと面白そうかもな」

「興味あるずら?!」

 途端に花丸ちゃんが身を乗り出すように近づいてきた。おれの視界いっぱいに花丸ちゃんの嬉しそうな表情が映る。

「ライブから一ヶ月後に聖歌隊のコンクールがあるんだぁ。だからもし、せんぱいが良かったら来て欲しいんだけど……、どうずら?」

「へぇ、コンクールか。いいねぇ、花丸ちゃんの聖歌、もっと聴いてみたいし。聴きに行くよ」

「やったぁ♪ 絶対、ぜーったいに来て欲しいずら!」

 ぐいぐいと更に整った可愛い顔を近づける花丸ちゃん。さ、流石に恥ずかしいな。

「は、花丸ちゃん、わかったから。顔、ちょっと近いって」

「あっ……」

 途端に顔を真っ赤にして花丸ちゃんはおれから離れた。両膝に手をおいてもじもじとしている。

「や、やっちまったずら……。これじゃおら、せんぱいのことどーこー言えないずらぁ……」

「べ、別にイヤって訳じゃなかったから! むしろ可愛いっていうか、役得っていうか……」

「せんぱい……、ありがとずらっ」

「お互いに接し方とかを学んでいけばいいんじゃないかな。それこそ交換日記のネタになるだろうし」

「それもそうずらね。お互いまだまだ若いってことずら」

 ふう、と息を吐いて悟ったようなことを言う花丸ちゃん。そんな彼女がまた可愛らしくて、その頭を撫でた。

「コンクール、楽しみにしてるよ。でもその前にライブを頑張らないとな」

「はいずらっ! ちゃんとライブの方の歌もさっき練習してたずら!」

「偉い偉い。でもこれ以上歌いすぎて喉傷めるのはマズいからもう辞めとこっか」

 おれの提案に、花丸ちゃんは何か思いついた様に長椅子から立ち上がった。

「あ、せんぱい。良かったら明日のライブの歌、聴いて欲しいずら。最後の調整ってことで、いい?」

「うん、おれで良ければ」

 花丸ちゃんは嬉しそうに頷くと、再びパイプオルガンの近くに立ち、目を瞑った。後で喉のケアとお礼も兼ねてのど飴でも奢ってあげようかな。

 

 

●●

 目を瞑って精神を統一する。コンクールの時はたくさんの人がいるけど、今この教会にはせんぱいだけがいる。

 紫堂せんぱい。図書館でまるで少女漫画みたいな出会い方をしたせんぱい。それからせんぱいとちょくちょく顔を合わせる機会があって、仏様のお導きなのかせんぱいはおら達Aqoursのマネージャーになってたずら。他の皆とも知り合いで、気がつけば皆の輪の中心にいる、不思議なせんぱい。

 そんなせんぱいのことを、いつの間にかまるは目で追うことが多くなった。せんぱいに頭を撫でてもらうと、ぽっと胸の奥があったかくなることがあるずら。この気持ちはなんだろう。ここで会ったのも何かの縁ずら。もっとせんぱいに大接近して、この気持ちが何なのか確かめるずら!

 

 でも、それ以上にせんぱいにまるのことを良く知ってほしいって思う。だからせんぱい、明日はまるの、まる達の歌をしっかり聴いて欲しいずら! 約束を込めて、今歌います。

 

「君の心は――」


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