ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
おれは曜の隣に立ち、Yシャツの袖を捲った。
「櫂?」
「流石に10人分を一人でやるのはキツいって。おれも手伝うよ」
「櫂……。もう、一人で大丈夫って言ってるのに」
そう言う曜の顔は迷惑そうではなく寧ろ嬉しそうで。その後小さく「ありがと」と呟いたのを、おれは聞き逃さなかった。
と、カッコつけたはいいものの、おれの料理スキルはそんなに高くないことを全く勘定にいれてなかった。
「曜、ハンバーグはこれくらいでいいか?」
おれがこねたハンバーグを見せれば「空気がまだ入ってる!」と厳しく言われ、ゆで卵をゆでれば「茹ですぎて固いよ!」と却下された。
「これじゃ手伝うっていうよりも足を引っ張ってる気がしてきた……」
「もう、手伝うならそれなりの技術を持ってよね?」
「おっしゃるとおりで……。どうする? 誰か呼んでおれと交代させる?」
「それはだめ」
「なんでさ」
「なんでもっ」
そう言う曜はどこか嬉しそうで。そんな彼女の顔に目が離せないでいると沸騰した鍋がふきこぼれた。
「うわやべっ! ってあっつ!」
その鍋の柄を手づかみしてしまい、とっさに手を離す。う、熱くてひりひりする。そんなおれを曜はけらけら笑って包丁を一定のリズムを奏でながら野菜を刻む。
「もう、櫂はおっちょこちょいだなー。そんなんじゃ一人になった時食べていけないぞー?」
「そんときは曜がおれに飯作ってくれよ」
「えっ……」
突然包丁のリズムが止まった。視線を曜に向けると顔を紅くして固まってしまっている。
「曜? どうかしてーー」
そこまでいいかけておれは自分の言ったことの意味を理解した。「おれに飯作ってくれ」ってこれプロポーズのようなもんじゃないか!
「いい、いや、その、あれな! 今後おれ一人でも飯作れるように見本として作ってくれって意味だから! 決してそんな意味じゃないっていうか!」
おれの言葉に固まっていた曜が慌てたように再起動した。
「な、なーんだ! そーだよねー! もー、櫂ってばー! この曜ちゃんじゃなかったら本気にしちゃうとこだったぞ! もうちょっと言葉には気をつけないとー!」
曜はバンバン、とおれの背中を叩いた。練習とかで鍛えたせいか、その力は妙に強かった。
「あはは! わっりー!」
なんておれの言葉を最後に、互いに黙ってしまう。ちらと曜の方を見ると顔を紅くしたままこっちをちらちらと見ている。う、なんだか変な空気に。話題を変えるとしよう。
「いよいよ明日だな、ライブ」
「――っ、うん。そうだね」
「会場席から見てるからな」
「うん」
「はりきりすぎてドジるなよ?」
「しないよ!」
見つめ合って、自然と笑顔になって笑い合った。よかった、さっきみたいな雰囲気もうどこにもない。
「櫂。私たちのことちゃんと見ててよね。めーいっぱい輝いてみせるから!」
「ああ。曜達がどんな輝きを見せてくれるのか、この目に焼き付けておくぞ」
「ありがと。あ、あと、さ……」
曜がおれに向き直った。
「今度、櫂の家に料理作りに行って、いい? ほら、櫂が一人でも料理出来るように教えたいから……」
そんな幼なじみの言葉にドキリとしてしまって。おれはその動揺を悟られないように、答えた。
「あ、ああ。よろしくお願いしますよ、曜先生」
「ヨーソロー! 曜ちゃん先生の料理教室は厳しいぞー?! ちゃんとついてくるように!」
おれの返事にぱあっと表情を輝かせ、敬礼のポーズをとる曜。その笑顔は、今日一番輝いて見えたのだった。
●●
櫂のやつー! なんてこと言うんだよぅ……。「飯作ってくれ」だなんて……。それってぷぷ、プロポーズみたいじゃんかさ……。ただでさえ最近フツーに接するのキツくなってるのに、あんなこと言われたらもっと意識しちゃうよ……。
でも、千歌ちゃんや他の皆に行かずに私を手伝ってくれたの、すっごく嬉しかったよ。ちょっとは期待しても、曜からぐいぐいいっても、いいんだよね?
おっといけない、櫂のことも大事だけど、今は明日のライブに集中しなくちゃ。千歌ちゃん達と、一緒に輝きたいから! だからさ、櫂。それを一番に見て欲しいな。櫂がいれば、もっと渡辺 曜は輝いていけると思うから! ヨーソロー!