ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 選択肢回です。やっとここまでこれました。


60話 9つに分かれた道に立つ

「勉強会ですわっ!」

 部室にダイヤさんの声が響く。千歌は涙目で目の前の用紙を見つめ、善子は白目をむいて倒れ伏す。梨子とルビィちゃんがそれぞれに「千歌ちゃん、しっかりして!」「よしこちゃん、だいじょうぶ?!」と声をかけている。かく言うおれも無事ではなく、押し寄せる数学の問題の波状攻撃を受け、意識が朦朧としている。

「かーいっ、倒れるにはまだ早いよ」

「そうだぞ紫堂一等兵! 貴様それでも軍人かーっ!」

「学生だよ……」

 おれの力ないツッコミを余所に鞠莉さんが「ちかっちもヨシコもカイもファイトーッ!」とチアガールの服を着込んでぽんぽんを振っている。

「さぁ紫堂さん、まだまだいきますわよ!」

 どこから持ってきたのかメガネをくいっとあげるダイヤさん。どうやらまだまだ彼女のシゴキは続きそうだ。

「どうして、こんなことに……」

 おれは弱々しく天井を仰ぎ見たのだった。

 

 

 思えば、千歌のあの一言から始まった大惨事だったと思う。

「お泊まり会だよっ!」

 ライブを二日後に控えていた昨日、千歌が部室で提案したのだ。

「お泊まりって、この学校でですか!?」

「イイじゃない、みんなでお泊まり! 楽しそう!」

 驚きの声を出したのはダイヤさんだった。その後に賛成の意を示したのは鞠莉さんだ。

「確かに準備はもう殆ど出来てるし、明日はゆっくり休んで万全の状態でライブに挑むつもりだったからね。ちょうどいいかも」

 果南姉ちゃんもどうやら賛成みたいだ。曜もうきうきと楽しそうな表情を浮かべている。

「皆でお泊まりって鞠莉ちゃんのホテル以来だったよね!」

「えへへ、また皆でお泊まりしたいなぁ……」

「まるも大賛成ずら!」

「くっくっく……、夜の校舎を堕天使の居城にしてくれるわ……」

 一年生組も大賛成みたいで、視線が生徒会長であるダイヤさんに集中する。ダイヤさんは大きくため息をつくと、苦笑いした。

「まあ、千歌さん辺りがそう言うんじゃないかと思っていたので一応書類は作っておきましたわ」

「やったーっ!」

 千歌が嬉しそうに跳び跳ねる。周りも嬉しそうにしている。一つ屋根の下で絆を育む、いいじゃないか。思う存分やるといい。

 なんて微笑ましく思っていたら曜がおれに声をかけてきた。

「何自分は無関係ー、なんて顔してるのさ櫂。櫂も参加するんだよ?」

「え?」

 今コイツなんて言った? おれも参加する? 女子9人とお泊まり会? 正気か?

「いやいや曜さん、ちょっと待って下さいよ。おれ男よ? 女子校に泊まるのは流石にまずいっしょ?」

「じゃあこの間みたいにダイヤの制服借りて女装すればイイじゃない!」

「なるほどそっかー、そうすれば女の子としてここにお泊まり出来るよねーっておバカ! っていうかみんなは怖くないわけ? 男のおれが泊まるってことがどんなにマズいか」

「どう、マズいずら?」

「それは……」

 花丸ちゃんの質問に口ごもってしまう。もしも万が一の過ちがあるかもしれないじゃないか。

「その顔は、えっちなこと考えてるずら。せんぱいはやっぱりすけべさんずらっ」

「すけべー!」

 おいそこの渡辺、同調するんじゃない。おれが反応に困っていると、善子が口を開いた。

「もしかしてシドーは誰かがシドーのことを襲うってこと考えてるんじゃない?」

「えっ! せ、先輩誰かに襲われちゃうの?」

「二人とも何勘違いしてるのかな? 逆だよ逆! おれはーーあっ」

 善子がにやりと笑っている。こいつ、かまかけやがったな。

「やっぱりすけべさんずらーっ!」

「全く、紫堂さんったら……、でも心配なさそうですわね」

「今の会話のどこに心配ない要素があるのかなダイヤさん!」

 心配するおれに梨子が優しく語りかけてきた。

「大丈夫、みんな紫堂くんのこと信じてるから」

「そーだよかい。それにこういうことはメンバー全員で楽しまないと」

「メンバー全員?」

「そーだよ櫂ちゃんっ!」

 千歌がおれに近づき手を握った。よく見れば他の皆もおれを見ている。

「櫂ちゃんも立派なAqoursのメンバーなんだよ! 一人でも欠けちゃダメなんだから!」

「千歌……」

 千歌の言葉に心臓がぽっと暖かくなるのを感じた。そうか、みんなおれのこと信頼してくれてるからおれをお泊まり会に誘ってくれてるんだ。おれはこの信頼に応えてやらないとな。

「わかった。でも、おれ専用に部屋を用意してくれよな?」

 おれの言葉に9人がぱあっと笑顔を咲かせた。

 

 

 なんて感動もつかの間、お泊まり会は勉強会と代わってしまった。「スクールアイドルたるもの、学校を代表するもの。勉学にも励んでいる姿が必要なのです!」と生徒会長たるダイヤさんの言葉からこれは始まってしまった。

 最初はおれも傍観者だったのだがダイヤさんに勉強は出来るのかと聞かれて目を逸らした所、勉強する側の席に座らせられるのであった。

「もう、櫂ったら仕方ないなぁ。この曜ちゃんが勉強を教えて差し上げよう」

 そう言って曜がおれの隣の椅子に座った。確かにこいつ、意外と勉強出来たよな。テストの時期になると学校が違うのにテストの結果をよくおれに自慢しに来たっけ。

「櫂、なにか失礼なこと考えてない?」

「何にも考えてないであります、曜教官」

「ふふん、よろしい。それでどれがわからないの?」

 おれが数学の問題を見せた所、ふむふむと読み解く曜。そして直ぐに顔を上げて笑顔を見せた。

「なーんだ、こんなの簡単じゃんっ! いい? ここにぴゃっと代入したらぱぱっと展開して、ずばばと解いちゃえばいいんだよ」

「……」

 ははーん。さてはおめー、教えるのがへたくそだな? あまりにふわっとした教え方で全然参考にならん。

「曜」

「何かな紫堂君っ」

「チェンジで」

「えぇーっ!? どうしてさ!?」

 困惑する曜を放っておいて、今度は梨子に教えを請うことにしよう。

「梨子、ここの問題なんだけど……」

「うんっ、わたしでよければ教えるよ」

 にこりと笑って引き受けてくれた。梨子の解説は丁寧で、おれの頭でも理解出来た。

「どう? 解りやすいといいんだけど……」

「いや、本当に解りやすいよ。ありがとう。梨子は家庭教師とか向いてるかもな」

「そ、そうかなぁ……?」

「梨子ちゃーん、千歌のことも助けてよぉ……」

 千歌が机に力つきて倒れ伏した。

「はいはい、千歌ちゃんは何がわからないの?」

「どうしてこの世界から争いが無くならないのか」

「それ勉強関係ないよね!?」

「ふっ、それは人が人である限り起こってしまうものなのよ……」

「よっちゃんまでつられて来ちゃった!!」

 千歌の現実逃避に同じ勉強する側であった善子が同調し始めた。

「人が変わらない限り争いが無くなることはないわ。だからこのヨハネが粛正しようと言うのよっ!」

「そんな、人を裁くなんて、そんな権利善子ちゃんにはないよっ!」

「ヨハネっ! 争いを無くすには誰かが業を背負わなければならないの。その業、この堕天使であるヨハネが背負うのよっ!」

「エゴだよそれはっ! でも、それを善子ちゃん一人が背負う必要はないよ。私も一緒に背負うから……」

「千歌ちゃん……」

「さぁいこう善子ちゃんっ、私たちの歌で世界を救うのだー!」

「ええっ!」

「よーしこちゃんっ!」

「いだっ!」

 善子の頭にぽかり、と手刀が炸裂した。あきれ顔の花丸ちゃんが善子を睨んでいた。

「妄想してる暇があったら問題を解くずら。おらとルビィちゃんの教えを無駄にするつもりずら?」

「うっ、だって堕天使に勉強なんてふさわしくーー」

「ふさわしいふさわしくないは関係ないずら。耳元でお経を唱えてあげるずら」

「そ、それは勘弁してちょうだいっ! おトイレいけなっ、ヨハネが堕天使でいられなくなっちゃうっ!」

「お経で成仏しちゃう堕天使なのっ!?」

 おれがつっこみたい所をルビィちゃんがつっこんでくれた。善子は花丸ちゃんとルビィちゃんがいれば平気かな。わいわいと騒ぐ皆を見て休憩も出来た。もう一踏ん張りしますか。

「ほら、千歌。現実逃避してないで勉強すっぞ」

「えー……」

「梨子先生ならちゃんと教えてくれるから安心だ」

 そう言って梨子に視線を向けるとーー

「家庭教師梨子ちゃん、かぁ……。えへへ、なんかいいかも。そうすればもっと近くで……、ひゃー、恥ずかしいよぉ……」

 梨子先生は家庭教師の響きが大変気に入ったのか、夢の世界へと旅だっているようだ。おれと千歌は顔を見合わせて笑った。

「自習するしかないな」

「そうだねっ」

「おっ、ここで曜ちゃん先生の出番だね?」

「「遠慮します」」

「何で千歌ちゃんまで言うのさーっ!」

「ちょっと皆さん、少し騒がしいんじゃありませんの!?」

 ダイヤさんの声が部室に再び響きわたった。

「これでは勉強にならないじゃありませんのっ! いいですか? いずれ来るラブライブの大会の為には学校を代表するアイドルだと示す必要があります。赤点などをとることがないようにこうして勉強会を開いているのではありませんかっ!」

「だ、ダイヤ、少し落ち着いて……」

 果南姉ちゃんが制止すると少し落ち着きを取り戻したダイヤさん。ふと周囲を見渡すとある違和感に気づいた。

「あら? 鞠莉さんはどちらに?」

 彼女の指摘におれ達も鞠莉さんが部室にいないことに今更気づいた。そんな中、おれ達のスマホが震える。Aqours共有lineからだ。

「「勉強なんてまっぴらごめんなので暫く学校をうろついてマス。終わったら連絡ちょうだいね! チャオー」」

「まぁりさぁーん!!」

 ダイヤさんは般若のような顔で部室から飛び出していった。その様を見て誰かが吹き出した。

「ぷっ……」

 それを皮切りにおれ達は大いに笑うのであった。

 

 

 陽も沈み、夕暮れ空が徐々に藍色に染まっていく。おれは人気のない廊下を歩いていた。

 勉強会も終わり、自由時間になったので校内をぶらついていたのだ。そしておれの足は調理実習室の前で止まった。

「曜」

「あっ、櫂! どうしたの?」

 室内では曜が調理道具を使って夕食の支度をしていた。夕食の相談をしていた時に「この渡辺 曜に任せるであります!」と10人分の夕食を作ると自ら進み出たのだ。

「ほんとに平気か? 10人分って結構きつくないか?」

「大丈夫だって。むしろ腕がなるであります! 櫂も皆みたいにどこかで時間潰してれば? 出来たらlineで呼ぶから」

 曜の様子を見る限り無理はしてないようだし、楽しんでるみたいだ。おれは曜を手伝ってもいいし、手伝わなくてもいい。

 さて、どうするか……

 

・曜を手伝う

・せっかくなので近くの海岸に行く

・音楽室に行く

・コンビニでジャンプを読みに行く

・教会を覗いてみる

・屋上で外の空気でも吸いに行く

・ステージの様子を見る

・プールに行く

・生徒会室に行く




 今回はここまで。次回からは以上の選択肢ごとのシナリオを書いていきます。今回を投稿した一日後にこれら9つを同時に予約投稿していくつもりです。全員分読むも良し、自分の推しだけを読むも良しです。
 どの選択肢も気合いいれて作ってある(と思いたい)ので読んで頂けると嬉しいです!

 ご意見ご感想、お待ちしてます。

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