ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
鞠莉回です。さて、彼女の回を書いたはいいが、今度は分岐ルートで彼女をどう扱うのが迷いどころ。
「確かここにあったと思うんだけど……」
強めの日差しが照りつける屋上。おれはあるものを探しに一人ここにいた。練習後だったのでAqoursのメンバーは誰もいないはず、だった。
「あれがないと……」
「あれってもしかして、これのこと?」
屈んで床を見ていたおれに差し込む突然の影。視線を上へと向けるとそこはピンク色の――
「カイのエッチ♪」
「うわぁ!?」
突然の鞠莉さんの襲来に驚いて後ろへと下がった。もしかしておれが見たのって――
「ふふ、カイったら何かを探してスキだらけだったんだもの。ちょっとイタズラしてみちゃった♪」
「ま、鞠莉さん……、ちょっと悪戯がすぎるんじゃないですか?」
おれが非難の視線を向けても彼女はきょとんとしていた。
「ワタシ、カイになら見られてもいいけど?」
「わーっ! スカート上げないで下さいよ!」
「ジョーダンよ。カイってばからかうとカワイイわね。曜がからかうと面白いっていうのもわかるわね」
「曜のやつ……」
あんにゃろ、なんちゅーこと教えてやがる。あとでとっちめてやらんと。
「それで、捜し物ってこれじゃないの?」
そう言うと彼女は一冊のノートを取り出した。ノートの表紙にはおれの名前が書かれていて。それを鞠莉さんは広げて読み始めた。
「ふむふむ? 『千歌:今日も元気よく踊っている。朝の寝坊っぷりが嘘のようだ。ルビィちゃん:昨日溺れたのが響いていたのか少し動きが鈍い気がする。あとでケアが必要か』これって、皆の状態の観察記録?」
「よ、読まないで下さいよ恥ずかしいから!」
取り上げようとするおれの手を躱しながら鞠莉さんの音読は続く。
「『曜:何時も通り。特に心配することなし』ダメよ? 幼馴染のことはよーく見ておかなくっちゃ。案外気づいてないかもしれないよ?」
「ご忠告どうもっ!」
「全然当たらないよ~? 『梨子:性格のせいか、どこか動きが控えめな気がする。あとで話してみようか。果南姉ちゃん:踊るのが楽しいのか、表情に出ている。あと胸が凄い揺れる。花丸ちゃん:体力面に自身がないと言っていたにも関わらず皆についてきている。あと胸が凄い揺れる』もう、カイってばやっぱりエッチなのね?」
「健全な青少年ですみませんねっ!」
くそ、ひらりひらりと躱されてしまう。千歌の家での練習でも見たけど、この人飄々とした態度とは裏腹に、身体能力高いんだよな。また避けられた。
「おぉ、おっしぃ~♪『ダイヤさん:舞踊などを嗜んでいるからか、やっぱり綺麗だ。所作の一つ一つが美しい。善子:堕天使的なアレンジでもいれるんじゃないかと思ったが、以外と真面目にこなしている。驚きだ』もうこれ、皆の感想になってない?」
「否定出来ないですねっ!」
「ワタシは……」
そこで鞠莉さんの動きが止まった。少し驚いたように目を開き苦笑いすると、ノートを開けたままおれに差し出した。
「ホント、良く見てるんだね」
「まぁ、マネージャーですから」
開かれたページには鞠莉さんのことが書かれていた。
『鞠莉さん:どこか様子がおかしい。練習中は集中しているが、間々に視線をグラウンドに向けたりしてる。その時の表情がどこか、暗い?』
「誰にも悟られないようにしてたんだけどなー」
「練習してる皆とは違う視点で見れるのがマネージャーの利点だと思いますから」
確かにこの学校での練習になってからどこか彼女の様子に違和感を覚えていたのだ。丁度いい機会だし、聞いてみよう。
「鞠莉さん、何かあったんですか? メンバーに話せないことならおれが聞きますよ?」
「カイ?」
「困ってる女の子がいたら手を伸ばす、そんな性分ですから。今の鞠莉さんを放ってはおけないです」
「そう、ね。カイになら話してもいいかな」
そう言うと彼女は視線をグラウンドへ落とした。そこには彼女たちが立つであろうステージが完成しつつあった。
「もうステージが出来てるのを見て、『ああ、ワタシ達があそこで踊るんだ』って改めて思ったの。それと同時に、ちょっと怖くなっちゃったの」
「怖くなった?」
「うん、もしも失敗したらどうしようって。もしワタシがステップを踏み違えたら、ワタシじゃなくても他の誰かがーーって考えると怖くて、ね。どこかで雨降って中止にならないかなって思っちゃってるの」
振り向いた鞠莉さんは苦笑いした。
「ワタシったらイヤな子ね。自分だけでなく皆が失敗するんじゃないかって疑ってる。ホントに、イヤな子……」
苦笑する彼女の声はどこか涙声で。そんな彼女を助けたくて、力になりたかった。だからおれはそんな彼女に――
「ていっ」
「いたっ」
デコピンを一発お見舞いした。鞠莉さんは驚いて額を押さえておれを見つめる。
「今のはメンバーのことを疑った分です。そしてこれはーー」
「あたっ!」
「自分自身を疑った分です」
「つつ、随分とカワイイオシオキね?」
「基本女の子に暴力はふらない主義ですから」
「ジェントルマン、なのね」
くすくすと、笑う鞠莉さん。うん、さっきよりは表情から堅さが和らいだかな。
「鞠莉さんなら、千歌達なら大丈夫ですよ。あれだけ練習してたんですから。それを誰よりも近くで見てたおれが言うんです。それとも、おれの事も信じられませんか?」
「そんなことっ!」
「なら、信じて下さい。おれを、メンバーの皆を、鞠莉さん自身を」
「自分自身を……」
「よくマンガで言うでしょ? 自分自身を信じられないものには道は開けないって」
おれの言葉に鞠莉さんはくすりと笑った。
「ごめんなさい、ワタシあんまりマンガ読まないもの」
「ありゃ、ダメでしたか」
「でも、元気が出たわ。ありがとね、カイ」
鞠莉さんのいつもとはどこか違う笑顔に、少しドキリとして。
「なら良かったです。鞠莉さんには元気で、笑顔でいて欲しいから」
「じゃあ、もっと元気でいるために、皆を信じるために、少しワタシに勇気をくれる?」
「くれるって、どうやってーー」
その疑問はすぐに解決された。鞠莉さんがおれに抱きついてきたのだ。胸元に彼女の豊満なボディの感触が伝わりおれの体温は急上昇した。
「ちょっ、鞠莉さん!?」
「困ってる女の子がいたら助けちゃうんでしょ? じゃあこんな時にはどうすればいいかぐらい、解るんじゃない?」
「……」
おれは彼女の背中を子供をあやすように優しく叩いた。ぽんぽんと一定のリズムで叩いてやると、鞠莉さんはふっと大きく息を吐いた。
「ふふ、カイにやってもらうとなんだか落ち着くわ。これも愛の力かしら?」
「リラックス出来るなら何よりでございます」
「あれ、強く否定しないのね?」
「う……」
彼女の言うとおり、否定出来ないでいた。聞き出す形になったとはいえ、他の誰にも言えなかった悩みを打ち明けてくれたことが嬉しかったし、ちょっとしおらしい鞠莉さんが可愛らしく思えたからだ。
「ようやくカイもその気になってくれたのね。嬉しいわ。じゃあ、もっとその先へ、ステップアップしてみない?」
少しとろんとした表情でおれを見つめる鞠莉さん。改めてみると金髪が映える整った顔をしていて、そのキレイさに視線を逸らせない。徐々にその顔を近づけてくる彼女におれは身体を離すことが出来なくて。
「ま、鞠莉さんダメですってこんな――」
ぴしっ。
額に広がるちょっとした痛み。もしかしておれ、デコピンされた?
「さっきのデコピンのお返しよ。なぁに? キスでもされちゃうと思った? やっぱりカイってばエッチなのね」
「そ、そんなことはーー無いと言いたいです……」
「それ、ただの願望じゃないの。でもそんなエッチなカイもスキよ?」
「ありがとうございます……」
なんて抱き合っているのにふさわしいとは言いにくい内容の会話をしていると、鞠莉さんがおれから離れて身体を伸ばした。
「んーっ、カイに洗いざらいブチマケたらスッキリしたわ。ありがとね、カイ。これ返すわね」
ノートを返す鞠莉さんの表情は、いつもの明るさを取り戻していた。
「吹っ切れたようで何よりです。どういたしまして」
「今度お礼をさせてくれるかしら」
「お礼なんて、おれはマネージャーとしてやるべきことをやってるだけですから」
「ワタシがしたいのよっ。だから、楽しみに待っててちょうだいね。いい!?」
「は、はい……」
鞠莉さんは手を振って階段への戸に手をかけた。
「カイ、ありがとね! ワタシ頑張ってみるわね! だからちゃんと見て頂戴ね?」
「はい、楽しみにしてますよ」
「それじゃ、チャオー!」
そう言って彼女は階段を降りていった。再び一人になったおれは返してもらったノートに視線を落とした。
「とりあえず書き直しておくか……」
鞠莉さんのことが書かれたページに修正を施す。
「鞠莉さんの件、解決」
「これでよしっと」
笑顔が戻った鞠莉さんの表情が脳裏を過ぎった。あれだけ魅力的な笑顔を向けてくれる鞠莉さん、そんな彼女がライブではどんな輝きを見せてくれるのか。
「ライブ、楽しみだな……」
おれは一人、屋上で呟いた。
ふと考えた。
・この作品、存在しないハズの内浦~沼津間に電車が通ってる。
↓
・そもそも櫂自身が特異点じゃね?
↓
・んじゃ特異点ってことでFGOとコラボ的な話かけんじゃね?
ということでもしも需要があればサンシャイン×FGO、内浦聖杯戦争なんてものを別枠で書いてみてもいいかなーって考えてます。
ご意見、ご感想お待ちしてます。