ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 はい、花丸ちゃん誕生日回です。一番難産だったのは、サブタイだったというのはここだけの話。


Dream World:言葉を交わしてはなまる笑顔

「せんぱーいっ!!」

 バス停で立っていると、花丸の声が聞こえてきた。デートの集合時間が近いせいか走って向かってきている。おぉ、めっちゃくちゃ揺れてる。どことは言わないけど。

「ま、待った……?」

「い、いいや、今来た所だよ」

「そっかぁ、良かったぁ……」

 息を絶え絶えにしながらにこりと微笑む花丸。そんなおれの視線は呼吸を整える彼女の胸に行ってしまう。

「む、せんぱいからやらしい視線を感じるずら」

 流石お寺の娘、そういうものにも鋭いか。どう言い訳しようか考えていると花丸がにやりと笑った。

「そんなエッチなせんぱいにはーー、こうずらっ!」

 ぎゅっと身体を寄せてくる。うわ、花丸の胸の感触がっ。

「あ、あのー、花丸ちゃん?」

「せんぱい、すっごーくきんちょーしてるずら。どっきんどっきんいってる」

 花丸がおれの胸板に耳を澄ませる。ふわりと彼女の使っているであろうシャンプーの香りが、花丸が女の子だってことを嫌でも意識させる。

「あれれ、せんぱい、こっちのほうもドキドキしてるずら?」

 花丸は少し顔を赤らめながら上目遣いでおれを見つめてきた。そして視線を下半身の方へ落としていく。

「やっぱりせんぱいはすけべえずら」

「っ、ちょーしに乗るなっ」

 べし、と弱めにその頭に手刀をお見舞いしてやる。すると彼女は頭を押さえて離れた。

「うう、暴力彼氏さんずら……」

「そっちが変に誘惑するからだろ」

「元はといえばせんぱいがまるのことをいやらしい目で見たのが悪いずら」

「う……」

 否定出来ないのが悲しい。恋人になって解ったのは、花丸が想像以上のからだつきをしてたってことだ。

「ふふー、またせんぱいの顔が紅くなってるずら。可愛い♪」

「先輩を誂うもんじゃありませんっ」

「先輩でもせんぱいはまるの彼氏さんずら。大好きな彼氏さんのことを誂いたくなるのは摂理ずら」

 花丸と付き合ってから、殆ど舌戦で勝てたことが無い気がする。流石本の虫なだけあるな。今回もおれの負けだ。

「ほらバス来たから乗るぞ」

「あ、逃げたずら」

「うっさい」

 そう言いながらおれは花丸の手を握ってバスのステップを踏み込んだ。

 

 

「着いたずらー!!」

「おお、中々大きいな」

 沼津の大きな図書館に着くと花丸は興奮した様子でその建物を見ていた。彼女がどうしてもここに行きたいという願いに、おれはデートと称して連れてきたのだ。

 早速中に入ると、本棚がビル街のようにおれ達を迎えた。

「わーっ、すごいずらー!!」

「花丸、図書館では静かに、だぞ?」

「えへへ、そうだったずら……」

 学校で図書委員をやってる花丸が感嘆の声をあげる位、この図書館は本がいっぱいある。

 二人で並んで歩いていると、花丸がふと足を止めた。

「あ、この本っ夏目漱石の『こころ』ずらっ!」

 本棚に駆け寄りそれに手を伸ばそうとするが、如何せん身長が足りないのかつま先立ちになる。それでも届かないのを見て微笑みながらも彼女の後ろに立ってそれをとってあげた。

「えへへ、ありがとずら」

「届かないなら素直におれに言えばいいのに」

「こーゆーものは自分で取るのがオツなんだよ?」

「そーゆーのは背が足りてから言うもんだぞ?」

「むむぅ……」

 少し顔を赤らめて本を開く花丸。お、もしかしておれ、花丸に舌戦で勝った? ちょっとした充実感が湧いてくる。

「そう言えば、せんぱいは前にもこうやって本をとってくれたよね」

「花丸の学校で、だったよな」

「思えばそこからまるはせんぱいの事を意識し始めたずら」

「そうだったんか?」

「そうずら。大切な、思い出だよっ」

 そうはにかむ花丸を見てると、愛おしさが湧いてきてしまう。ある程度読んだのか花丸は本を閉じるとそれを本棚へと戻そうと背を向けた。

「借りなくていいのか?」

「だって返すときもまたこっちに来なきゃいけないし、そもそもまるはここのカード作ってないから。ここで少し読めただけでも充分ずら」

 そうやって微笑む花丸の表情は、少し名残惜しそうで。

「あ、そうだ先輩。じゃあ今度は先輩が本棚に戻して欲しいずら」

「おれが?」

「まるじゃ背が足りないから……」

 苦笑いする彼女を見て、ふとあることを思いついた。

「そうだな、じゃあ――っと!」

「ふわっ!?」

 花丸を後ろから抱きしめて持ち上げる。丁度いい高さになっただろう。これで花丸でも本を戻せるはずだ。

「花丸、これなら自分で戻せるだろう?」

「ず、ずらぁ……」

 彼女が戻すのを確認するとゆっくり下ろした。次の瞬間、花丸はおれの胸をぽかぽかと叩いた。

「もう、いきなり女の子を持ち上げるなんてヒドイずらっ」

「悪い悪い、でも自分で本を戻すのがオツなんだろ?」

「もう……」

 頬を膨らませて抗議の視線を向ける花丸。だが身長差もあって上目遣いのそれは、可愛さを含んでいて。思わずその頭を撫でてしまう。

「むむ、そんな意地悪なせんぱいには――っ」

「むぅ!?」

 両肩に手を置いたと思うと、軽くジャンプしておれの唇を奪った。おれが反応せずにいると、花丸は顔を赤らめながらにかりと笑った。

「こうずら♪」

 全然敵わないな、花丸には。

 

 

「おぉ、こんなとこにまるが」

 図書館を出て、おれ達はゲームセンターに足を運んでいた。何やらAqoursとのコラボで花丸がイメージガールに選ばれたらしい。スタッフの格好をした花丸のパネルが入り口に立っていた。恋人がこんな風に有名になるのは、彼氏としては複雑な反面、嬉しいな。

「正直、こういうゲームセンターのイメージガールに就任するなんて思ってもなかったずら」

「似合ってないと思ってるの?」

「もっと相応しい子がいると思うずら。善子ちゃんとか、千歌ちゃんとか」

 花丸の意見も解らなくはない。でも、あいつらにはない魅力があるっておれは思う。

「ま、ここまで来たんだし、遊ぼうぜ。花丸は何がやりたい?」

「まる、クレーンゲームやりたいずら!」

「おし、花丸が欲しいものなんでもとっちゃるぜ!」

「ホント!? せんぱい頼もしいずら!」

 それから操作を変えたり二人で仲良く遊んだ。花丸は見てる時も、操作してる時もコロコロと表情が変わった。アームが景品の所に動く時は真剣で、アームがそれを掴んだ時はぱぁっと明るく輝いて、景品が運ばれてる時はハラハラドキドキして失敗した時はしゅんと落ち込む。クレーンゲームだけじゃなく、他のゲームでもこんな感じで、見ていて飽きなかった。この姿を、皆魅力的だと思ったんじゃないかな。実際おれもそう思ってる。

「はーっ、たっくさん遊んで大満足ずら……」

 花丸は景品のぬいぐるみをぎゅっと抱きかかえて嬉しそうな顔をしていた。

「うん、楽しんでくれて何よりだ」

 そんな彼女の頭にぽふ、と手を置いて撫でた。それを受けながら花丸は首を傾げた。

「どうして頭を撫でるの?」

「おれの恋人さんが可愛くてしょうがないから」

「っ!?」

 それを聞いた花丸は顔をぬいぐるみに隠した。そしてチラと目線だけを向けた。耳まで真っ赤だ。

「せんぱい、そーゆーのズルいずら……」

「さっきのキスのお返しってことで」

「ずらぁ……」

 花丸はゲームセンターから出るまで、ぬいぐるみから顔を出さなかった。

 

 

「シメはやっぱりここずら」

 落ち着いた花丸が案内してくれたのは、大きな本屋だった。

「ここにはよくお世話になってるずら。今日は何買おうかなぁ……」

 目を輝かせて店に入る花丸。が、次の瞬間店の空気がピリッとしたものに変わった気がした。店の人を見るとどうやら視線の先は花丸のようだ。

「なぁ花丸、この店はいつも行ってるのか?」

「うん、沼津に来た時は寄ってるよ♪」

「因みに一回の買い物でどれくらい買ってる?」

「んー、ハードカバーのを20冊位かな?」

 その量に少しクラっとした。こりゃ荷物持ちかなこりゃ。

「あっ、あの本!」

 なんて思ってたら花丸はさっさと歩いてしまった。本当に本の虫なんだな。なんて思っていると。

「ん? あれって……」

 一冊の本に視線が吸い込まれた。

 

 

「あー、楽しかったずら。満足な買い物だったなぁ……」

「それは何よりでございます、姫」

「でも大丈夫? 一人でその本を持って?」

 おれ達はバス停でバスを待っていた。おれの両の手には大きな紙袋が。ざっと見て30はある。おい、さっき言ってた数よりも多いじゃねえか。

「ごめんね。まる、張り切って買いすぎちゃって……。半分持つずら」

「いや、いいよ。これこそ彼氏冥利に尽きるってもんですよ」

「でも……」

「じゃあ代わりにこれを受け取ってくれるかな」

「ずら?」

 バッグから包装で包まれた一冊の本を取り出す。

「開けていい?」

 おれが頷くとその包装を解いて中身を見て目を丸くした。

「せんぱい、これって……」

「読みたそうにしてたろ、それ」

 夏目漱石の『こころ』。さっき花丸が図書館で読みたそうにしてた本だ。さっきの本屋で見つけてこっそり買っておいたのだ。

 嬉しそうにぱらぱらと中身を見る花丸。が、ちょっとその表情が曇った。

「せんぱい、これ、小学生向けのヤツ……」

「えっ、嘘っ!?」

 おれも内容を確認すると確かにひらがなが多い、どう見ても高校生が読む代物じゃなかった。

「ごめんな花丸。よく確認してなかった……」

「でも、嬉しいずらっ」

 にこりと笑ってその子供向けの本をぎゅっと抱きしめる花丸。

「まるの誕生日に、だーいすきな人から本を貰う、こんなに嬉しいことはないずら!」

 そんな花丸が愛おしくて、彼女を抱きしめた。花丸もおれの首に手を回す。

「誕生日おめでとう花丸」

「ありがとずら、せんぱい♪」

 更に身を寄せ合い、おれ達は口づけを交わした。

 

 

「それにしても小学生用の本を買ってくるとは思わなかったずら」

「それに関しては本当に申し訳ない……」

「もっとせんぱいにはまるのこと知ってもらわないとダメずら」

「うん、おれももっと花丸のこと知りたいし、花丸一色に染まりたいって思うよ」

「だからぁ、ズルいずらぁ……」

 顔を背けて顔を真っ赤にする花丸。うーん、今日は2勝2敗の引き分けかな。

 こうして、花丸との誕生日デートは終わったのだった。




 花丸ちゃんを書くにあたって一番難しいのは語尾のずらのバランス。親しくない人間には変に見られないように基本少なめ(少なく出来るとは言ってない)の敬語、親しくなるとずら多め、恋人関係になるとずらとタメ口の混同。そんなさじ加減のつもりで書いている。今回は誕生日回ということで本編よりも二人の関係が進んだ状態。まだそこのさじ加減が難しいです。そもそもまだ彼女の攻略の道筋見えてねーし。でもいつか必ず幸せにします。

 ここだけの話、R18なシチュは浮かんでるのよね、彼女。でもまだ書かねーからな!

 ご意見ご感想、お待ちしてます。

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