ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 ダイヤさん誕生日記念回です。本編ではまだ恋人関係になってない櫂とダイヤさんの、少し進んだ未来です。


Dream World:あなたと共に跨ぐ年

「やっべ、間に合うかな……っ」

 空は真っ暗に染まり、歩道を点々と電柱の明かりが照らしている。おれはそんな夜道を走る。本当なら余裕でこの道を歩いているはずなのに、少し寝てしまったせいで走る羽目になってしまった。あの人の、大事な日になるっていうのに。

 おれは更に足を速め、人でごった返している神社へと急いだ。

 

「おっそいですわよ!」

 集合時間から五分遅れて待ち合わせ場所にたどり着くと、案の定神社の入り口でダイヤさんは仁王立ちして待っていた。鼻は紅く、寒い中おれを待っていてくれたことを物語っている。

「ご、ごめんなさいダイヤさん。歌番組の途中で寝ちゃって……」

「言い訳は聞きたくありませんわ。せっかくの初詣デートだと言うのに遅刻して、これも日頃の生活の乱れではなくて!?」

「返す言葉もございません……」

 彼女のお説教に自分の不甲斐なさを感じていると、ダイヤさんはコホンと咳払いすると小さく漏らした。

「こ、これでは楽しみで少し早く来すぎたわたくしが莫迦みたいじゃありませんか……」

 そっか、ダイヤさんも楽しみにしてくれてたんだな。おれとのデート。じゃあ楽しみしてくれてた分、満足させなくっちゃ。

「ダイヤさん、ほんっとうにごめんなさい! お詫びに何でもおごりますから!」

「本当、ですか?」

「はい、ですから機嫌直して下さい。ね?」

 ダイヤさんは満更でもない表情をしておれの腕に寄り添った。

「じゃあ後で甘酒をご馳走してもらおうかしら。わたくし、甘酒には少し五月蝿くってよ?」

「ええ、満足するまでご馳走させて下さいお嬢様」

「よろしい、ですわ♪」

 嬉しそうにおれの腕に頭を寄せるダイヤさんを連れて、おれは賑やかな神社へと入っていった。

 

 

「しっかし気がつけばもう今年も終わりですね。早かったなー」

「そうですわね、紫堂さんの告白からもう三ヶ月。あっという間の三ヶ月でしたわね」

 そう、おれは九月の半ばにダイヤさんに告白し、恋人になった。その事を思い出すだけで嬉しさで顔がにやける。

「ダイヤさんとこんな関係になるなんて。夢みたい――いひゃひゃっ」

 突然ダイヤさんに頬を抓られた。視線を彼女に向けると抓りを解いておれに微笑みかけた。

「夢じゃないでしょう?」

「ええ、それはもう痛いほどに」「紫堂さんと一緒にいて、こんなにも毎日が楽しかったことはありませんでした。それを『夢』なんて言葉で片付けられたくありませんから」

 ダイヤさんもおれとの関係を嬉しく思ってくれてる、それだけで胸がぽかぽかと温かくなる。だからおれからも彼女に体重を少し預ける。

「少し早いけどお参りしましょう。来年の抱負も兼ねて、ね」

「はい、ダイヤさん」

 互いに寄り添っておれ達はお参りの列に並び始めた。大分時間かかりそうだけど、ダイヤさんとならあっという間に過ぎるだろう。

 

 

 ちゃりんと賽銭箱に五円玉を投げると目をつむって願い事を脳内で反芻させる。

――来年もダイヤさんと一緒にいられますように――

 念じきって目を開けるとダイヤさんはまだ神様にお願いしているみたいだ。充分過ぎるほど祈るとゆっくりと瞼を開けた。

「随分と熱心にお願いしてましたね。何を祈ったの?」

 おれの問いにダイヤさんはにっこりと微笑んだ。

「うふふ、ヒミツです♪」

「えー、教えて下さいよぉ」

「だーめ♪」

 少し意地悪く笑うダイヤさん。よーし、こんな時は……。

「それじゃあダイヤさん、一勝負と参りましょう」

「勝負、ですか?」

 おれは頷くとおみくじを売っている場所を指差した。

「ルールは簡単です。相手よりも良いおみくじを引いた方が勝ち。負けた方はお願いしたことを言う。どう?」

「それは面白いですわね。今年最後の大勝負、わたくしの勝ちで締めくくらせて頂きますわ!」

 ダイヤさんは不敵に笑った。

 

 

「んあーっ! また負けましたわ!」

 ダイヤさんは頭を抱えて悶えた。これで三連敗だ。おれが勝ってはもう一回、もう一回と勝負を挑まれている。流石のおれもおみくじでは手の抜きようがない。ダイヤさんはひたすら敗北を重ねていった。

「もういい加減に観念して願い事言ったほうがいいんじゃ――」

「まだ、まだ終わりませんわ! このまま負けてはわたくしは紫堂さんに負けっぱなしで今年を終えてしまいますわ! それだけは!」

「もう、負けず嫌いなんだから。これで最後ですよ? どっちが先に引きます?」

「負け先で、わたくしから引きますわ」

 鼻息荒くみくじ筒を振るダイヤさん。おれもそれに続き、出た棒を渡して紙を貰う。

「覚悟はいいですわね?」

 彼女の問いに頷くと、ダイヤさんは紙を持つ手に力を込めた。

「せーのっ」

 ダイヤさんの掛け声と共に紙を開き、運を確認する。

「お、小吉。ダイヤさんは?」

「……」

 ダイヤさんは肩を震わせて紙を見せてくれた。そこに書かれているのは「大凶」の二文字。

「はぁ――ッ」

「ちょ、ダイヤさん!」

 力なく崩れ落ちそうになるダイヤさんをおれは抱きかかえた。

「もうお終いですわ……。今年は紫堂さんに負けたままで終わるのね……」

「しっかりして下さいよ。それに、もう今年終わるから!」

「でも……」

 そのままおれは彼女をきゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい、ダイヤさんが何をお願いしたのか知りたくて……。それで勝負事にして……」

「紫堂さん……」

 軽率だったと思う。彼女の願いを知りたいからと勝負事に持っていって、それで負けが続けばダイヤさんは気分が悪くなるかもしれないのに。

 そう自分を責めていると優しく背中に両手が添えられた。

「紫堂さんは何も悪くありませんわ。些細なことで熱くなりすぎたわたくしに責任はありますもの」

「でも――んむぅ!?」

 続けようとしたおれの口を、ダイヤさんの唇が塞いだ。瞬間に流れてくる、甘美な感触。彼女は即座に唇を離すと顔を真っ赤にしながらもおれの唇に指を添えた。

「もう、黙って? せっかくの記念日が台無しでしょ?」

「あ……」

 周囲に耳を澄ませば除夜の鐘が鳴り響いている。時計を見るともう今日は2017年1月1日。新年だ。

「せっかくの新年。もう水に流しましょ?」

「そう、ですね。それに――」

「きゃ――っ」

 ダイヤさんを抱きしめてその唇を奪う。不意打ち気味だったからか、彼女は小さく悲鳴をあげた。そうして十数秒間キスをしていただろうか、唇を離すとダイヤさんを見つめた。

「誕生日おめでとう、ダイヤさん。今年も一緒にいましょうね」

「もうっ、ズルいです紫堂さん。不意打ちなんて……」

「不意打ちはお互い様でしょ? じゃあキスします、って言えばいいですか?」

 おれがにやりと笑うとダイヤさんは頬を染めた。

「ばか……」

 そのまま目を閉じたのを了承の意味と捉え、唇を重ねた。すぐに唇を離して互いに見つめ合っていると、とろんとした表情で微笑むダイヤさん。

「わたくしのお願い事は、もう叶いましたわ」

「え?」「叶ったって言うよりも、今も叶っている最中と言うべきかしら?」

「それって――」

 おれが彼女の願い事を理解した瞬間、ぎゅっと腕に抱きつかれた。

「さ、甘酒を飲みにいきましょ? もちろん、紫堂さんのおごりで、ね♪」

「あ、覚えてました?」「当然です。デートに遅れてきたことはそれでチャラにしてあげますっ」

「えぇ、五分の遅刻くらい見逃してくれても……」

「お黙りなさい。五分でも遅刻は遅刻。このわたくしを待たせたことに変わりありませんから」

「はいはい、仰せのままに、お嬢様」

「『はい』は一回でよろしくてよ!」

 なんて言い合いしてるとどこか可笑しくって、互いに見つめ合って笑い合う。

「紫堂さん、今年もわたくしは負けるつもりはありませんからね? 覚悟しておいて下さいましね?」

「そっちこそ、負けたからってもう一回って挑まないで下さいね?」

「あら、何のことかしら?」

 嬉しそうにおれの肩に体重を預けるダイヤさん。その表情が可愛らしくて、寒いはずなのにおれの身体はぽかぽかしているのだった。

 

 新年、おれは彼女とどんな風に過ごすことになるんだろう。どんな楽しいことが待ってるんだろう。ダイヤさんと一緒にそれを体験して、一緒に笑い合えたらいいな。

 

 おれは少し彼女に体重を預けて彼女の知ってる甘酒を出してくれている店へと歩くのだった。




 改めまして、新年あけましておめでとうございます。そしてダイヤさん誕生日おめでとう!
 Gマガ読んでて好きな異性に対してはけっこうさり気なく寄り添ってくるタイプだと読み取れたのでちょっとちゃっかり者な面を出してみました。ダイヤさんと櫂くんがここに至るまで書いてあげるのが作者たる私の使命ですね。

 それでは皆様、今年もお付き合いくださいませ。

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