ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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「最後まで望みを捨てなかった者が勝つ」「作り続けた奴が勝つんだよ」
 この台詞を胸に、これからも書いていきます。


50話 香水とお茶会と

「あら、紫堂さん」

「あ、ダイヤさん」

 昼過ぎの淡島への連絡船に続く桟橋で、おれはダイヤさんと出会った。

「紫堂さん、本日は来て下さってありがとうございますわ」

「いえ、そんなお礼を言われる程のことじゃないですよ」

 ダイヤさんに顔を上げるように促す。その表情はまだ何か言いたげで――

「ここでだべってるのもあれですし、もう行きましょうか」

「それもそうですわね」

 おれ達は連絡船へと足を運んだ。

 

「しかしいきなり鞠莉さんの家、っていうかホテルでお茶会に誘われるなんて思ってもなかったですよ」

「鞠莉さんはいつも突然言い出しますからね」

 そう、おれ達は鞠莉さん主催のお茶会に誘われて淡島へと行くことになったのだ。鞠莉さんと果南姉ちゃんは淡島に住んでいるからいいとして、おれとダイヤさんは連絡船に乗らなくてはならなかったので桟橋前で待ち合わせをすることにしたのだ。

 改めて横で歩くダイヤさんを見る。気のせいかいつもよりも綺麗に見えるし、服もどこか良いものに見えた。しかもどこか甘い香りがする。香水でもしてるのかな?

「どうかしまして?」

 おれの視線に気づいたのか、首を傾げるダイヤさん。その様がまた綺麗で、ぷいと視線を逸らしてしまった。

「な、なんでもないですっ」

「? そうですか……」

 これはお茶会の為におめかししただけなんだ。おれはそう思うことにすると足を速めた。

 

「さ、どうぞダイヤさん」

 連絡船に先に乗ったおれは彼女に手を差し出した。すると彼女は少し苦笑いしてその手をそのままに船に乗り込んだ。

「大丈夫ですわよ。これくらいの船の揺れで体勢を崩す程、柔じゃありませんから」

「そ、そうですか」

 おい、どうして内心がっかりしてるんだおれ。そう自問していると、連絡船は動き出した。揺れにお気をつけ下さい、と船長さんがアナウンスした時だった。

「きゃっーー」

「おっと」

 少し大きく船体が揺れると、ダイヤさんがバランスを崩した。おれはとっさに後ろから彼女の肩を受け止めた。

「あ、ありがとうございます……」

 顔を赤らめながら後ろを向くダイヤさん。その表情におれの心臓はドキドキしっぱなしで。照れ隠しで彼女をからかってしまう。

「これくらいの船の揺れで体勢を崩す程――、何でしたっけ?」

 それを聞いた彼女の表情は少し拗ねたように見えた。

「い、意地悪ですわ……」

 もっときっとした表情でおれを睨むかと思いきや、俯いてしまった。予想外の反応におれが何も言えないでいると、彼女はちょっと悪戯っぽく微笑んだ。

「そろそろ座りましょう? またバランスを崩すといけないから、紫堂さんに掴まってますね♪」

「あ、は、はい……」

 淡島に着くまで、ダイヤさんはおれの腕にずっと寄り添っていた。

 

 

「んで、ダイヤは何してるの?」

 迎えに来てくれた果南姉ちゃんの開口一番の言葉はそれだった。ムリもない。おれの隣にいるダイヤさんはおれの腕に自分の腕を絡ませているのだから。

「どうしてか最近のわたくしはよくつまづくことが多いんです。ですから紫堂さんに支えて貰おう、との考えですわ」

 これは仕方なくですわ、という彼女の表情はどこか嬉しげで。そんな顔されるとおれも断れなかったのだ。

「という訳なんですハイ……」

 苦笑いするおれをふーん、と睨む果南姉ちゃん。ふっと息を吐くと笑顔をおれ達に見せた。

「いーよ、それで。さ、鞠莉が待ってるからいこっ」

 彼女はそう言うと、空いているもう一方のおれの腕に寄り添った。

「え、ちょ、果南姉ちゃん?」

 戸惑うおれを余所に、果南姉ちゃんはおれに重心を預けた。

「どうしてか私も今日妙にころびかけるんだよねー。だからさかい、わたしも支えてくれる?」

 だめ? と首を傾げておれを見つめる。う、おれは彼女のそんな表情に弱いのだ。普段頼ってこない彼女からのお願いは、おれの首を縦に頷かせた。

「ちょっと果南さん! 紫堂さんが困っているではありませんか! 転びやすいという見え透いた嘘は駄目です!」

「嘘じゃないもーん。かい、かいはお姉ちゃんのこと信じてくれるよね?」

「どうなんですか紫堂さん!?」

「かーい?」

「う・・・、おれのことはいいから早く行きましょう! ね!」

「……」

「……」

 二人のお姉さまから睨まれながら、おれは淡島ホテルへ足を動かすのであった。

 

 

 そうしてホテルへの道を歩いていると、ドドッドドッと大きな音が近づいているのが聞こえた。しかもその音はどんどんおれ達に向かってきているのだ。不安になったのか、ダイヤさんのおれの腕を抱く力が強まった。

「し、紫堂さん、これは?!」

「いや、おれも知りませんよっ」

「あー、これってまさか……」

 音の正体が解っているのか、苦笑いする果南姉ちゃん。それでも何故かおれの腕に更にぎゅっと抱きつく。果南姉ちゃんの大きな柔らかさとダイヤさんのそこそこな柔らかさがーーってそんなこと考えてる場合じゃなくて! 

「ハァーイ、Everyone♪ってどうしたのそんなに怯えた顔して?」

 その轟音と共にやってきたのは鞠莉さんだった。馬に乗った彼女はおれ達を不思議そうに見下ろしていた。

「ま、鞠莉さん! なんてものに乗ってるんですか?」

「馬だよ? この子はね、相棒のスターブライト号♪」

「いや、どうして馬で来るんですか! びっくりしますよ!」

 おれとダイヤさんの指摘に鞠莉さんは首を傾げた。

「どうしてって、みんなをお出迎えするならハデな方がいいかなって思っただけなんだけどなー?」

「鞠莉のことたからそんなことだろうと思ったよ」

 苦笑いする果南姉ちゃんに釣られて、おれも笑顔がこぼれた。そうだ、こうやって突拍子もないことをするのが鞠莉さんなんだよな。相も変わらず奇想天外な人だ。

「それで、ダイヤと果南はどーしてカイの腕にくっついているの?」

 鞠莉さんが目を細めておれ達を見つめる。マズい、このままじゃ鞠莉さんもおれにひっつくんじゃ――

「あ、あのこれには――」

「まあいいわ。それじゃマリーの後ろについてきてね♪」

 鞠莉さんは特に気にすることなくおれ達に背を向け、馬を歩かせた。その行動が意外と感じたのはおれだけでなく、ダイヤさんと果南姉ちゃんも首を傾げていた。

 

 

「さ、ここがマリーの部屋よ。ゆっくりしていって頂戴♪」

 この部屋に通されるのも、何回目だろうか。この淡島ホテルのオーナーたる人物の部屋はやっぱりこじんまりとしていた。

「やっぱりこの部屋なんですね。オーナーなんだからもう少し大きな部屋にしたらいかがかしら?」

 ダイヤさんが部屋に入るなり、そう呟いた。そんな彼女の言葉を鞠莉さんは「チッチッ」と舌を鳴らしながら指を振った。

「ワタシはオーナーであって、お客様じゃないのよ? ワタシにスイートルームを割く余裕があるならお客様に提供したいのよ」

「鞠莉さんって意外と周りのこと考えたりしてますよね――いででっ」

「意外はヨケイよカイ?」

 鞠莉さんは笑いながら頬を抓った。そんなおれ達を余所に、果南姉ちゃんが部屋に置かれたベッドに飛び込んだ。

「それでも立派な部屋だよねー。一人で生活するには問題ないと思うし」

 そのままはしゃぐようにベッドの上で跳ねる果南姉ちゃん。胸元も揺れているなんて口が裂けても言えない。

「さぁて、Tea Partyの準備に取りかかるわね。カイ、ちょっと手伝ってくれる?」

「おれ、ですか?」

「鞠莉さん、わたくしたちもお手伝いしますけど」

「アリガトね。でもちょっと男手がいるから、二人はそこでくつろいでて♪」

 はーい、と返事する果南姉ちゃんの声を聞きながら、おれは鞠莉さんと一緒に部屋を後にした。

 

 

「さて、さっきのアレはどういうことか説明してもらおうかしら?」

 ビスケットやらチョコレートなどのお菓子を乗せたワゴンを押していると、鞠莉さんは突然口を開いた。

「さっきのアレ?」

「トボケないでよ。さっきダイヤと果南がアナタにぎゅっとくっついてたじゃない」

 鞠莉さんが少し頬を膨らませておれを睨んでいる。もしかして、ヤキモチ妬いてるのかな。いつも破天荒な彼女とは思えぬ表情が可愛らしかった。

「ああ。そのことですか。あれはーー」

 おれは鞠莉さんに会うまでの過程を説明した。それを彼女は少し不満げに聞いていた。

「ズルい」

「え?」

「ダイヤと果南だけズルいー! ワタシだってカイに抱きつきたいのにー!」

 両腕をぶんぶんと駄々っ子の様に振る鞠莉さん。さっきからおれは彼女のわがままっぷりに戸惑いっぱなしだ。

「ええ!? そう言われましても……」

「ずーるーいー!」

 ホテルの廊下で駄々をこねる鞠莉さん。このままじゃ泊まっているであろうお客さんやダイヤさんたちにも聞こえかねない。

「わかりましたよ! じゃあ鞠莉さんもどうぞっ」

 おれは覚悟を決めて足を止めると、彼女の前に身体を差し出した。

「え?」

「ダイヤさん達だけがやったのが不公平というのなら、鞠莉さんも抱きついて、いいですよ?」

 言いながらおれは何を言ってるんだと訳が分からなくなっていた。でもこれで鞠莉さんの不満が解消されるならそれでいい。

「ホントに? ホントにカイをぎゅってしていいの?」

「ぎゅっとするだけなら。キスとかは駄目ですからーー」

「カイー!」

 おれの説明を最後まで聞かず、鞠莉さんはおれに抱きついた。おれの真っ正面から彼女の抱擁を受ける。胸元に伝わる、彼女の柔らかい感触。

「おぉう、まさか正面から来るとは……」

「一回は一回だもん♪ ここからでも問題ないでしょ?」

「ま、まぁ問題ないですけど……」

「ふふ、こうやってぎゅっとしてみたかったの……」

 心底嬉しそうな声を聞いて、少しドキッとして。それだけおれのことを好いていてくれることに嬉しさを感じて。思わずその肩に手を置こうとした時ーー

「こちょこちょこちょーっと」

「うひゃっ!?」

 両脇をくすぐられ、素っ頓狂な声をあげてしまう。そんなおれの様を鞠莉さんは満面の笑みで見ている。

「変な声ー!」

「ちょ、鞠莉さん、くすぐりは反則ですよ」

「だってカイがくすぐりナシって言ってないから」

「フツーくすぐりませんよ!」

「そう? ま、カイをHug出来たからこれでさっきのことは無かったことにしてあげる。さあ、早く戻りましょ!」

 鞠莉さんは機嫌良くおれから離れると部屋へと歩き出した。

「鞠莉さん! 待って下さいよ!」

 おれはそんな上機嫌な彼女の背中を追いかけたのだった。離れた時、少し惜しいと思ったのはおれだけの秘密だ。

 

 

「おかえりなさい。ずいぶんと遅かったのですね?」

 部屋に戻るとダイヤさんがそう聞いてきた。

「いえ、少し手間取りまして……」

「ちょっとお菓子の準備があってね♪」

 そう言うと鞠莉さんはクロッシュを取り、更に乗せられたお菓子を見せた。

「こ、これはプリンじゃありませんか!」

 ダイヤさんの表情がきらきらと輝き、身を乗り出した。頬が紅く染まり、興奮していることを示している。

「えぇ。ウチのシェフに頼んで作って貰ったの。ダイヤが喜んでくれるって思ってね♪」

「わたくし、プリンが大好物ですの! ですからーー」

 そう言うとダイヤさんはおれ達の視線に気づくと少し恥ずかしそうに縮こまった。

「す、すみません。少し興奮しすぎました・・・」

 その様が可愛らしくて、おれと果南姉ちゃんの頬が緩んだ。それは鞠莉さんも同じみたいで。

「いいのよ。待っててね、今紅茶を淹れてくるから」

 鞠莉さんがおれ達に背を向け姿を消すとダイヤさんが口を開いた。

「わたくし、今まで鞠莉さんは突拍子のないことばかりする人だと思ってました。ですがその見解は改めなくてはならないみたいですね」

「なんだかんだでメンバー皆のことをよく見てますよね」

「それが鞠莉だよ♪」

 ベッドから立ち上がった果南姉ちゃんがチェアに腰掛けた。

「普段はおちゃらけて破天荒だけど、見てる時はちゃんと見てくれてる。それが鞠莉の良い所なんだよ」

 その破天荒が結構凄いけどね、と果南姉ちゃんが苦笑いする。そう言えば鞠莉さんはおれに好意を寄せているけど、おれのどんな所を見て好きになったんだろ?

 そう彼女のことを考えていると、顔が熱くなっていた。

「んー、どうしたのかい? 顔真っ赤だよ?」

「えっ、そ、そんなことないよ!」

「どこから見ても真っ赤ですわよ。もしかして、鞠莉さんのこと考えてたんですの?」

「えっ!? どうしてそれを?」

「ふふっ、女の勘、です♪」

「っていうかかい、バレちゃってるけど?」

「あっ!」

 なんて三人でわいわいと騒いでいると、紅茶を持った鞠莉さんが戻ってきた。

「なーに、三人で盛り上がっちゃって。マリーも混ぜて欲しいわね!」

 それからおれ達四人はプリンなどのお菓子を囲んで、お茶会を楽しんだ。ホテル特製のお菓子はどれも美味しかったし、ダイヤさんや果南姉ちゃん、鞠莉さんの笑顔が見れて、おれもそれが嬉しかった。

 

 

「今日は楽しかったですわね」

「ええ。時間が経つのも忘れてましたよ」

 それはオレンジ色に染まり、陽が海へと沈みかけていた。

「こんなにおしゃべりしたのも、あんなに笑ったのも久々かもしれませんわね。プリンにはしゃいだり、大笑いしたりして少し恥ずかしいですけれど」

「いいんじゃないですか。友達に、仲間にそんな姿を見せたって。その方が鞠莉さん達だって嬉しいはずですよ」

「紫堂さんは?」

「おれ、ですか?」

 その質問に足を止めた。ダイヤさんも足を止めて俯いている。

「紫堂さんも、そんなわたくしの一面を見て、嬉しいって思ってくれますの?」

 そんな彼女の背中から、夏にしては少し冷たい風が吹き抜けてきた。

 

 

●●

「そりゃ嬉しいですよ。ダイヤさんの、友達の知らなかった一面を見れるのは」

 友達、と言う言葉に少し胸が痛んだ。紫堂さんはわたくしのこと、友達としてしか見ていないってことだから。

「そう、ですか」

 笑顔を張り付け、自分の気持ちを悟られないようにする。そのまま彼と並んで歩き始めた。風が冷たいせいかしら、少し涙が出ますわね。

「でもプリンってはしゃぐダイヤさんの笑顔、とっても魅力的でしたよ。いつもの落ち着いた微笑みとは違っていて、可愛らしかったです」

 その言葉にきゅんとしてしまう。嗚呼、どうしてこの方の言葉はわたくしをときめかせてしまうのだろう。

「あ、ありがとうございます……」

 視線を自分の足に落としてしまう。そしてどうして「嬉しい」と感じてしまうわたくしがいるのでしょう。

「あ、えーと、その、ダイヤさんーー」

 しどろもどろな彼の言葉に顔を上げると、紫堂さんは少し顔を紅くしていて。

「どうかしまして?」

「ついでに言いますと、今日のダイヤさん、すっごく綺麗でした、よ?」

「綺麗?」

 反芻されて頬を掻く紫堂さん。照れてる彼の顔、少し可愛いわね。

「お茶会だからか今日、おめかししてきたでしょ? 香水までつけてきて。今日会った時、ちょっとドキッとしましたよ」

「っーー!」

 見てくれてた。本当は紫堂さんにもっとわたくしを見て貰いたくて。出来る限りのおめかしをして、普段はつけない香水までつけて。今まで言って貰えなかったから見てくれてないのかと思ってた。

「え、ええ。お茶会に招待されたんですもの、それらしい格好をしなくてはと思いまして」

「真面目ですね。もうちょっとラフな格好でも良かったのに」

「紫堂さんは、そっちの方が良かったですか?」

 わたくしの問いに、彼は笑顔を見せた。

「でも、ダイヤさんらしくていいと思いますよ」

 やっぱりわたくしはこの方のことを好きになってしまったのね。彼の一言一言で嬉しさを感じるわたくしがいますもの。

 今はまだ、彼はわたくしのことを仲間や友人と思ってるかもしれない。でも生憎ですがわたくしは負けず嫌いですの。いつかわたくしに振り向いてもらいますから。お覚悟の程、よろしくおねがいしますね? 紫堂さん♪




 最近どうもオチを考えてない状態で執筆することが多い。仕事が忙しいから? 最近のサンシャイン事情に俺自身のモチベーションが低下しているから?
 なんて言い訳なんてしてる場合じゃない。もっと皆さんに満足して頂けるよう、精進します。

 次からは学校編。一人一人とイチャコラしますよー!

 ご意見ご感想、企画へのお便り等よろしくお願いします。

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