ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 閑話休題なお話。二年生編です。


48話 バランスとキュビズムと

「ち、千歌……。う、動くぞ……」

「だ、ダメだよ櫂ちゃん……。今、動いたらぁ……」

 千歌の部屋、おれは肩を震わせる。千歌もおれを涙目で見ている。

「いや、これ、動かないでいるの、キツすぎっ……」

「あっ、あっ、櫂ちゃん――」

「もうっ――」

 

 そこでおれはバランスを崩し、ずっと上げてた片足を床に下ろした。そしてブーイングの声が上がった。

「あー!! もうダメじゃんか櫂ー!」

「そーだよ櫂ちゃん! 被写体が動いちゃデッサンにならないよー!」

「そうは言うけど二人共、あのポーズは紫堂くんにはキツいでしょ……」

 二人してぶーたれる千歌と曜を見て、梨子は苦笑いした。うん、苦労を理解してくれる人がいてくれるだけで気が楽になるな。おれは肩を鳴らして腰を下ろした。

「夏休みの宿題のデッサンなら互いを描けばいいだろ? おれを被写体にすることないんじゃないのか?」

「いいでしょべつにー!」

「そーだ! 被写体が喋るなー!」

「わたしも、紫堂くんを描きたいなーって思ってたから……」

 千歌や曜はもちろん、梨子までもがおれを描きたいみたいだ。

「気持ちは嬉しいけどさ、あんなポーズはキツいって。五分ももたないぞ?」

 片足上げてじっとしてるって地味に難しいんだよな。合宿でこいつらと一緒に身体を鍛えておけばよかったかな。

「確かに紫堂くんきつそうだったよね。ポーズ変える?」

「駄目だよ梨子ちゃん! 芸術家たるもの一度決めたポーズで描かないと!」

「芸術家?」

「あっ」

 突然曜が言葉を漏らすと少し申し訳なさそうな表情をした。

「どうした曜?」

「あー、えっと……、怒らない?」

「内容次第かと」

 曜は視線をそらしながらスマホを取り出した。

「スマホで写真撮ってそれを見ながら描けば良かったんじゃないかなーって……」

「「あ・・・」」

 千歌と梨子の声が重なって響いた。

 

 千歌の部屋でおれはじっと三人の絵が出来るまで待っていた。写真も撮ったから被写体である必要もなくなったから帰ろうとしたのだが、「せっかくだから出来た絵を一番に見て欲しい」と言われたのだ。

「できたー!」

 そうして待つこと十数分、千歌が元気よくぴょんと跳ねた。そして作品を先生に見せるかのようににこにことスケッチブックを差し出した。

 

ーSide千歌ー

 よぉし、出来たぞー! 両側を見渡すと、曜ちゃんと梨子ちゃんはまだみたい。ちかが一番乗りだね。真っ先に櫂ちゃんに見て欲しくて一生懸命に描いたこの絵、櫂ちゃんは誉めてくれるかな?

 うきうきしながら絵を見せると、櫂ちゃんは笑った。けど、それはなんか苦笑いって感じで。

「千歌、お前やっぱり絵下手だなぁ」

「えー!? 一生懸命描いたのにぃ……」

 しゅん、と落ち込んでると、ぽふっと頭に手を置かれた。昔も落ち込んでたりしてるとこうやって頭を撫でてくれたっけ。そんな懐かしい感覚が身体をぽっと温かくしてくれる。

「でも、一生懸命な気持ちみたいなモンは伝わったぞ。美術の宿題としては駄目かもしれんが、おれは嫌いじゃないぞ」

「えへへ……。ありがと、櫂ちゃん」

 その言葉が嬉しくて、頭を撫でてくれるのが嬉しくてにこにこしちゃうな。

「じゃあその絵は櫂ちゃんにプレゼントってことで!」

「え、いいのか?」

「うん! 櫂ちゃんがもらってくれると、千歌とっても嬉しいな!」

「でもさ千歌ちゃん」

 曜ちゃんが私に近づいてそっと耳打ちした。

「それじゃあ美術の宿題どうするの? 未提出って訳にはいかないでしょ?」

 あっ、そうだった……。

「ごめん櫂ちゃん! 返却してもらった時にあげるから、今は千歌に返してくれる?!」

「はいはい」

 櫂ちゃんはまた苦笑いすると、絵を返してくれた。

「良い評価もらえるといいな」

 優しい雰囲気で言われるのが嬉しくて、私も元気よく返事した。

「うんっ!」

 やっぱり、千歌は櫂ちゃんのこと大好きなんだなーって思いました。

 

 

ーSide梨子ー

 よし、これで大体完成かな。あとはもうちょっと細かい部分を……。

「おぉ、梨子ちゃん凄いねぇ」

「きゃあ!?」

 集中してたせいか千歌ちゃんに気づけず、声に驚いてしまった。驚いて彼女に抗議の視線を送った。

「ち、千歌ちゃん!」

「ご、ごめん梨子ちゃん。そんなに真剣だと思わなくて……。でも梨子ちゃんすっごく上手だね!」

「お、出来たのか?」

 そんなわたし達に気づいたのか、紫堂くんが近寄ってきた。

「見てもいいか?」

「う、うん。あともうちょっとだけど」

「どれどれ……」

 紫堂くんはわたしの隣に腰掛けると、顔を寄せてきた。

「し、紫堂くん!?」

「ん? どうかしたか?」

「どうもしてないけどぉ……」

 すぐ隣には紫堂くんの顔がある。近い、近いよぉ……。

「うわ、すっげえ上手いな。これホントにおれか? 気のせいか妙にきらきらしてる気がするけど……」

「そ、それは……」

 当の紫堂くんはそんなこと気づきもせず、わたしの絵を見て誉めてくれている。嬉しいけど、恥ずかしいよぅ……。

 と、少しもじもじしていると、紫堂くんと視線が合った。彼の瞳がわたしを見ている、そう思うだけで体温が上昇する気がした。紫堂くんも自分の状態に気づいたのか、慌てて距離を離した。

「ご、ごめん! ちょっと近すぎたな」

「ううん!! 別に……」

―嫌じゃなかったから―と口に出しそうになって、口を噤んだ。紫堂くんは顔を赤くしながら視線を逸らしている。

「お、櫂ってば顔が真っ赤だぞー? もしかして梨子ちゃんのミリョクにメロメロになったのかな?」

「よ、曜ちゃん!」

「うっせーぞ曜……。そーいうお前は出来たのかよ?」

「あともうちょっとだもーんっ」

 曜ちゃんのからかいに真っ赤な顔のまま反論する紫堂くん。そんな二人の関係を、少し羨ましいなと思う自分がいました。わたしも、ああやって冗談言い合えるようになれたら、それ以上の関係になれたらって。でもわたしは地味だし、彼に釣り合わないって思ってた。でも今顔を赤くしてる紫堂くんを見て、もしかしたらわたしにもチャンスが? って思っちゃいます。それじゃあ、わたしももうちょっと頑張っちゃおうかな♪

 

 

ーSide曜ー

「よーっし、これで出来上がりっと!」

 鉛筆を動かす手を止め、出来上がった絵を見る。うん、上出来。

 私の絵の完成に真っ先に千歌ちゃんが食いついた。

「お、曜ちゃんの絵見せてー!」

 千歌ちゃんに続いて櫂もこっちにやってきたので、スケブを二人に渡した。そして次の瞬間、感嘆の声が聞こえてきた。

「おぉ、曜ちゃんも上手だねぇ」

「あぁ。ん? ここ……」

 櫂が気づいたのか、右耳辺りを指さした。

「ここがどうかしたの紫堂くん?」

「実はさ、おれ右耳に小さなほくろがあるんだよ。ほら」

 そう言って櫂は自分の耳を見せた。梨子ちゃんはほんとだー、と驚いていた。

「曜ちゃんすごいね! 私も今まで気づかなかったよ!」

「おれも驚いたぞ。こんな小さいやつ、気づかれてないかと思ってた」

「えへへ。長い間お隣の幼なじみやってるからねー」

 だって、当たり前だもん。大好きな櫂のこと、ずっと見てたから。そーいう細かなとこ、覚えちゃったもん。

「小さい頃から一緒にいるからね。小学生低学年までは一緒にお風呂入ってたし」

 なんて、言える訳なくて、冗談混じりに言ってしまう。うわ、幼い頃お風呂入ってた頃の思い出が蘇ってきて、恥ずかしくなってきたよぅ。

「おま、曜! んな恥ずかしいこと言わんでいい!」

「あ、櫂ちゃん顔まっかー!」

「千歌ー!」

 櫂は恥ずかしさを誤魔化そうと千歌ちゃんの頭をぐりぐりする櫂。手加減してるのか千歌ちゃんも笑いながら、痛いよ櫂ちゃんー、とじゃれ合っている。

 そんな二人がちょっとだけ羨ましかったり。私もああやって千歌ちゃんみたいに気軽に触れ合えたらなって。いざ近づこうとすると、気がついたら軽口や冗談言い合ったり、からかったりしてる。それ以上の関係になるのが少し怖くて、それ以上の行動を躊躇っちゃう自分がいる。不甲斐ないな、私は。

 でも、いつか。いつかこの気持ちを伝えたい。だから、そんな勇気が出るまでもう少し待っててね、櫂。

 

 

○○

 そうして三人のデッサンが完成し、そのまま解散という流れになる時だった。

「そうだ、せっかくだし、紫堂くんの絵も見てみたいなぁ」

 梨子の一言がおれ達三人を凍りつかせた。

「り、りこちゃんそれは――」

「櫂に描かせるのはちょっと……」

 幼なじみ二人が目を泳がせる。おれも出来るなら描きたくないけど……。

「なぁに? 紫堂くんは絵が苦手なの? わたし、もうちょっと紫堂くんのこと知りたいなーって……」

 興味と恥ずかしさを混ぜた表情でおれを見つめる梨子。そんな顔されたら、断りにくいじゃないか……。

「い、いいけど。ホントに下手だからな?」

「大丈夫、笑わないから。描いてみて♪」

 笑うとかそんなレベルじゃないんだけどなぁ……。

 

「ど、どうぞ……」

 恐る恐る出来上がった絵を梨子に差し出した。

「どれどれ――」

 笑顔でそれを受け取った瞬間、梨子の表情が固まった。そして肩を震わせながら笑顔を作る。

「こ、個性的な絵だね……」

 知ってるよ、その感想は下手というのをオブラートに包んだ表現だって。梨子の瞳には雫が溜まっていった。そして黙って見守っていた千歌と曜もおれに批難の視線を向けた。

「櫂ちゃん、人のこと言えないじゃん!」

「そうだよ! だれがピカソの泣く女を描いてって言ったんだよー!」

「う、うるせー! 何を隠そう、おれはキュビズムの芸術家目指してんだよ!」

「何それ! 千歌初めて聞いたよ!」

「言い訳するなー!」

「いいの二人共、描いてって頼んだのはわたしだから……」

 涙目のまま、幼なじみ二人を落ち着かせようとする梨子。それを見て更に二人の視線が尖る。

「あー、櫂ちゃんが梨子ちゃん泣かしたー」

「泣かしたー」

「あー、はいはい、おれが悪うございましたよ!」

 

 この後、何とか梨子の涙を止めて、おれ達四人の写生大会は終わったのだった。

 もう少し、絵の勉強しようかな。

 




 ジングルベルが止まらないのドラマパートを聞きました。むしろこっちが楽しみだったのですが、感想は……。
 うん、まぁ、いいんじゃないかな。最近キャラのイメージとかに俺が敏感になってるだけかもしれないし、もう一度聞いたら面白く見えるはず。はず……。

 ご意見ご感想、企画へのお便りお待ちしてます。

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