ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 シコってる回数は推しの梨子ちゃんよりも善子の方が多いんじゃないかと思う今日このごろ。お久しぶりです。

 ハロウィンってことで善子との外伝です。本編よりも更に後の話なのでご注意を。


Dream World:二人が愛すりゃ――

「沼津百鬼夜行祭?」

 その珍妙な単語を聞いて、思わず声が裏返った。おれの反応に善子はふっと笑った。

「そ。わたしの家の近くでやるのよ。知ってるでしょ?」

「ま、まあ内容だけなら……」

 コスプレして街を練り歩こうってイベントがあるってのは知っていた。東京でやっていたものらしいが、数年前から沼津でもやっていたらしい。昔の記憶が蘇るからとおれはスルーしていたが。

「衣装の参考に丁度いいかもな。それにデートにもなるし、見に行くか」

 そう、おれは縁あってこの津島善子と恋人関係にある。そこに至るまで、善子曰く様々な業(カルマ)を重ねてきた。まあ今語るべき内容ではないからこのことは置いておくとしよう。

「フッ、何を言ってるのシドー? ヨハネ達も参加するのよ!」

「はぁ!?」

 善子からの提案に再度声が裏返った。

「参加するのか!? おれも!? 何故に!? Why?!」

 おれの混乱を余所に善子は不敵に笑い、顔に手を当てた。

「フッ、知れたこと! かの地に堕天使ヨハネありと知らしめる為よ!」

「だからっておれが参加する理由にはならんだろーが。見ててやるから参加して来いよ」

 すると善子は頬を膨らませて地団太を踏んだ。

「やーだー! わたしはシドーと一緒に参加したいのー!ヨハネとルシフェルで沼津を支配したいんだからー!」

「そっちの名前で呼ぶな! あー、わかったよ。おれも参加する!」

「流石ヨハネのパートナー! わかってくれるって信じてたわ!」

 駄々をこねるのを辞め、すぐにいつものヨハネに戻る。我ながらこいつに逆らえないのが少し情けなかった。でもーー

「お前、おれが断れないと解ってただろ」

「うふふ♪」

 おれの問いに、無邪気に笑うこいつに従うのも悪くないなと思える自分がいた。

 

「またせたわね、シドー!」

 沼津駅改札で待っていると、善子がやってきた。

「お、善子。気合い入った衣装だな」

「ふふん、でしょう? この日の為に頑張って作ったの」

 そう言って彼女はその場でふわりと回ってみせる。ゴシック風味な服の背中から悪魔らしい羽が生えていて、悪魔っぽさが出ている。すらりとした足をガーター付きのニーソックスが覆っていて、そことなく色気を出している。

 うん、一言で言うなら「神様こんな子をおれの彼女にしてくれてありがとう」だ。

「どうしたの、シドー?」

 見とれていると、善子が不思議がって首を傾げた。無自覚なのがなんともまた可愛らしくて。

「な、なんでもない!」

 見とれていたと思われたくなくて、視線を逸らした。

「それにしても、参加することを渋ってたシドーがそんな格好をするとはねぇ……?」

 善子は嬉しそうにおれの格好を見る。

 おれは軽装な甲冑に身を包み、右目と左手を包帯を巻いた格好でその場に立っている。道中の電車ですっげー見られたぞ。「ママー、あれなにー?」「子供は見ちゃいけません」とも言われた。精神的にめっちゃくちゃ辛かったぞ。

「押入にこんな衣装が入っていてな。修復したら問題なく着れてな……」

 でも木の葉を隠すなら森の中、なのか沼津に着いても変な風に見られることも無かった。それはまあ、ありがたいかな。

 善子は肩を振るわせて俯いている。

「その、変だったか?」

 おれが心配そうに声をかけた瞬間、善子はおれに飛びついた。

「最高よシドー! ここまでスゴい魔装を持っているなんて! ヨハネ、嬉しい!」

 嬉しそうな顔でおれの頬に頬ずりする善子。彼女の体温が嬉しくて、頬が緩んでしまう。うん、こいつの笑顔が見れたから、道中の電車の中での視線とかどうでもよくなってしまうな。

「さぁて、この冥府魔道を共に歩こうか、ヨハネ!」

「ええ! 行くわよシドー!」

 おれ達はポーズをとると、魑魅魍魎が跋扈する魔都へと足を踏み出した。

 

 善子とのデート、もとい百鬼夜行の中を歩いていると屋台が並んでいる区画へと出た。綿飴や焼きそば、夏祭りなどに出てくる食べ物をコスプレで身を包んだ人々が売っている。その中でも一際異彩を放っているのがーー

「悪魔の眼球焼き?」

「なんだか面白そうね」

 二人でその屋台の方へと足を向けた。見た目はたこ焼きのそれと同じなのだが、イカスミでも生地に混ぜ込んだのかその球体は真っ黒だった。その上にちょこんと辛子を乗っけて黄色く光る瞳を再現している。

 その怪しげな風貌と名前の響きが善子のセンサーにヒットしたみたいで。

「シドー! あれ食べてみたい!」

「はいはい」

 おれは財布を出してそれを一つ注文した。後ろではーやーくー、と堕天使が騒いでいるが無視しておこう。

「ほい、お待たせ」

「ん、ありがと♪」

 おれから悪趣味なたこやきらしき物体を受け取ると、善子はそれにつまようじを刺した。そして中からあふれる薄ピンクの何か。それをこぼさないようにしながら彼女は口に眼球焼きを運んだ。

「あっ、おいしい!」

 善子がぱぁっと顔を輝かせる。どうやら悪シュミな外見に反して美味らしい。

「ほら、シドーも食べてみなさいよ」

 そう言うと善子はつまようじでそれを刺すとおれの口元に向けてきた。

「お、おれはいいって! 善子が食えよ!」

「いいからー! ほら、あーん!」

 仕方なくおれは口を開けてその黒いたこ焼きモドキを食べた。そして瞬時に言葉が漏れた。

「あ、旨い」

「でしょー!」

 噛んだ瞬間口に広がるつぶつぶとした食感。刺した時に溢れていたあれはたらこだったのか。それが上にちょこんと乗っていたからしと混じり合い、程良い刺激と塩味を生んでいる。そして生地も外は少しサクッとしていて中はふんわりと食感も心地よい。悪魔な見た目とは裏腹に、天使の様な美味。これはまさにー

「堕天使な味、だな」

「わかってるじゃないシドー!」

 善子は嬉しそうにもう一つおれに差し出した。

「いや、おれはもういいよ。残りは善子が食べなよ」

 おれの言葉に彼女は顔を赤らめながら、俯いた。

「わ、わたしだってもっとシドーと、こ、恋人らしいことしたいのよ……」

 これってデートだったよな。善子のペースに合わせ過ぎて本来の目的を忘れてた。なら、彼氏として恋人の要求に応えるとしますか。

「あ、あーん……」

 おれが口を開けてやると、善子はぱぁっと表情を輝かせておれの口内に眼球焼きを入れたのだった。

 

「シドー! 次はあれやろ!」

 善子が指さす先には小さなステージ会場らしき舞台があった。どうやら撮影スペースらしく、決めポーズと共に台詞を言わなきゃならないらしい。

「これこそヨハネのリトルデーモンを増やすチャンスよ」

「おれもやるの!? 恥ずかしいって!」

「なぁに? シドーったら恥ずかしがってるの?」

「何度もステージに出てるお前はいいかもしれんが、こちとらただの学生よ? アイドルでもなんでもないっつーの」

 イベントの雰囲気に乗ってるからいいものの、ただでさえ恥ずかしい格好してるんだ。それを誰かに晒して更には写真も撮られるなんて、恥ずかしくて死にたくなる。

「わたしは、シドーと思い出を作りたいのー!」

「思い出なら別の作り方もあろうだろうがー!」

「シドーは、わたしと写真撮られるの、いや?」

 しおらしい表情でおれを見つめる善子。こいつ、おれがその表情に弱いと知ってやってるな。ふん、甘く見られたもんだ。

「いやじゃ、ない……」

「じゃあ一緒にいこっ!」

 まぁ逆らえないんだけどね。

 こうしておれは善子に腕引かれながらステージの方へと歩いていった。

 

「まさかコンテストも兼ねていたとは……」

「おまけに優勝出来ちゃうなんてね♪」

 おれ達はステージを後にして並んで歩く。善子は優勝の景品であった丸っこい悪魔のぬいぐるみを抱き抱えている。

「しかしシドーも中々かっこいい台詞を言うのね」

「昔とったなんとやらってな」

 先ほどの光景が脳裏を過ぎった。

『堕天使ルシフェルが命ずる!』

『このヨハネのリトルデーモンになりなさい!』

 よくこんなおれ達二人で優勝出来たもんだ。会場の人、すっげーシャッター切ってたな。心なしか善子の方を向いてたような気がしたし。それだけ善子が可愛かったってことだよな。彼氏としてはすっごく嬉しい反面、ちょっと妬けてしまった。

「シドー? 何その『おれの善子をそんなに易々と撮るなって』顔は?」

「エスパーかお前は」

 自分の心の内を読まれておれは心底驚いた。善子は不敵に笑う。

「堕天使に不可能はないのよ。それにね――」

 ぬいぐるみを抱いたまま、おれの肩にぽすっと体重を預ける善子。

「津島善子は、アナタだけのリトルデーモンなんだよ?」

 その言葉が嬉しくて、彼女の肩を抱いた。そのままキスでもしようかと思って向き合おうとした時、周囲の建物の存在に気づいた。

「あれ、ここって……」

 建物からはえる看板には「休憩90分○○円」など「本日限定! コスプレしてきた方五割引!」と書かれている。ここってあれだよな。男女がそういうことをする場所だよな。どうやらカップルたちの列と一緒に歩いてきたせいか気づかずにここまで来てしまったみたいだ。

 善子もそれに気づいたらしく、顔を赤らめている。

「ああの、シドー? ここって……」

 おれは財布の中身を確認した。うん、入れないことはない。どうするおれ? ここで男になるか!?

 善子の方を見ると満更でもない表情をしていて。おれはどきどきしながら彼女の手を握ると――

「来た道を戻ろうか!」

 逃げた。うん、学校とかにバレて善子だけじゃなくて千歌達に迷惑をかける訳にはいかないもんな。それは善子も察してくれたみたいで。

「そ、そうね。ヨハネ達にはまだ早いかもしれないしね!」

 おれ達は半笑いしながらその場所を後にしたのだった。

 

「ご、ごめんなさいねシドー。わたし……」

「別に善子が謝ることじゃないさ。その、おれ達にはまだ早かった、それだけさ」

 沼津の駅前でおれ達は立っていた。時間はもう九時だ。名残惜しいがそろそろ帰らなければならない。おれは軽く善子を抱きしめてすぐに身体を離した。

「じゃあまた明日な。今度はフツーのデートしようぜ」

「シドー!」

「ん?」

 おれが振り向くのと同時に唇に当たる、柔らかな感触。それが唇だと理解するのに少し時間がかかった。

「今日は、これで許してね?」

 顔を真っ赤にして善子が耳元で呟いた。おれが何かを言おうとすると彼女は身体を離した。

「それじゃあねマイパートナー、シドー! お互い夜道には気をつけることね!」

 おれが何も言えない間に善子は走り去っていった。彼女の背中が小さくなっていく。おれはその恋人の背中に向けて小さく呟いた。

 

「ハッピーハロウィン、善子」




 やっと頭痛が治まってくれました。更新遅れてごめんなさいね。
 せっかくのハロウィンだし、なんか記念回書くかと思い書きました。僕が最初に書いた作品の主人公と、誕生日がハロウィンの翌日なので凛ちゃんを出そうかなと思いましたが、やっぱり辞めました。先代の残滓は、一切出さない。アニメの話を聞いて、そう誓ったから。その分善子とのイチャラブを書けたから良しとしますか。

 最近、公式や同じ二次創作作家さんからの供給が、自分の需要と噛み合ってねーなと感じる。俺が見たいのは、おれ君的存在に対しての彼女達の言葉なんだ。百合の様なカップリングやおれ君の重い設定じゃないんだ。
 ま、スルーして自分が書きたいもの書いていきましょ。

 ご意見ご感想、企画へのお便り、お待ちしてます。

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