ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「ったく曜の奴……」
いつも自転車を停めている場所に自転車がない。朝起きてスマホを見ると彼女からメールが届いていた。
『ごめん! 水泳部の朝練出るから自転車借りるね!』
多分千歌達にも連絡してあるんだろうな。桜内さんと二人だけで話したいこともあるだろうし、迎えに行かなくてもいいか。俺は簡潔にメールを返すと学校への道を歩き出した。
何時もとは違って景色が遅く流れる。たまには歩くのも悪く無いかな。
でも、新しい発見ってのは、そんなにいいものだけじゃないわけで。
「キミぃ、中々可愛いなぁ。ちょっとオレらとあそぼ~よ」
「え、あ、あのぉ……」
「オドオドしてるのもまたいいねぇ。悪いようにはしないからさぁ」
おいおい、こんな朝っぱらからナンパかよ。女の子一人に対して五人が彼女を囲っている。
「こ、困ります……、ルビィ、今から学校に……」
「へぇ、ルビィちゃんって言うんだぁ。学校なんかさぁ、休んじゃえばいいじゃん」
自らをルビィと名乗る赤髪の少女はその瞳に薄っすらと涙を浮かべる。そんな様をナンパ男子共は面白がっている。
俺には全く無関係なことだけど、目の前で泣きそうな女の子を放って学校に行けるほど俺は出来た人間じゃない。相手は五人、全員男。上手くいくことを神様に願おう。俺は意を決して彼女に近づいた。
「ごめんね、待たせちゃったね」
あ? と俺にメンチ切る連中を無視して彼女の肩に手を置く。
「ぇ?」
うるうるとした翡翠色の瞳が俺を見つめる。俺にまかせて、と軽く目で伝える。
「いやぁ、妹がすいませんねー。こいつ、俺がいないとすーぐ迷子になっちゃいまして。さ、学校まで送るよ」
そのまま不良どもに背を向け、歩こうとする。が、俺の肩を不良の一人が掴んだ。
「ちょっと待ちなよお兄さん、彼女はオレらが無事送り届けてやっからよぉ、お兄さんは一人で学校行きなよ」
まあそうなるよな。俺は笑顔を崩さずに振り返る。
「いえいえ、お気遣いなく。これが毎朝の日課ですから」
俺の言葉に不良連中の怒気が俺に叩きつけられる。行動するなら今だな。この、五対一という圧倒的不利な状況を覆す、たった一つの冴えた手段を。
「減らず口はいいからよぉ、いいからこっちに――」
「っ――!!」
すると俺は彼女の肩を強く抱き、足に力を込めて大地を蹴った。
「逃げるぞ!」
「ぇえ!?」
女の子は俺の言葉に従うまま、走りだした。とっさの行動に、不良たちはワンアクション遅れて追いかけ始めた。
「待てやコラ!」
「逃げきれると思うなよ!」
「捕まえて袋叩きにしてやんぞ!」
一目散に俺たち目掛けて怒号が押し寄せる。この子の肩を抱いて走ってもいずれは追いつかれる!
「ちょっとゴメンね!」
「ふぇ?! きゃあ!!」
一瞬だけ止まり、彼女を担いで走りだした。うん、これならさっきよりはスピードは出るな。
「このまま逃げ切るぞ!」
それから俺は彼女をお姫様抱っこのまま、不良たちを撒くまで走り続けた。逃げ続けている間、彼女は俺の右手をぎゅっと握り続けた。
「ここ、まで、来れば……もう、大丈夫だろ……」
後ろから不良の気配がしなくなったので彼女を下ろした。流石に人間一人担いで走り続けるともうクタクタだ。気がつけば俺があんまり来ない区域まで来てしまった。俺たちの目の前には大きな和風のお屋敷が建っていた。
「あ、ここ、ルビィのお家……」
「君の、家か……。ゴメンね、これじゃ完全に遅刻だよね……」
制服からして、千歌たちと同じとこだってのはわかってたはずなんだけどな。我ながら判断が甘かったか。
「いえ! 助かりました! 本当に怖くて……」
また彼女の瞳に涙が溜まる。俺は慌てて左手で彼女を撫でる。
「泣かない泣かない。もう逃げ切ったんだから良しとしようよ」
「そ、そうですね。ルビィ、何時も泣き虫で……」
「無事で何よりだよ。じゃあ俺はこれで……」
彼女から離れようとするとぐっと止められた。ああ、そう言えば逃げている間、ずっと握っていてくれてたんだっけ。必死に逃げてきて、まだ繋いでいることを忘れてた。
「――」
そのことを彼女も認識したのか、繋がれた手と手をじっと見つめたと思った瞬間、彼女の顔が真っ青になった。
「っ――!!」
そして至近距離から響く悲鳴。それは言葉に出来ない程の高音で、走って疲れ果てた俺の身体のバランスを崩すのは容易かった。
「っぁ!!」
朦朧とする意識の中、頭部に物理的な衝撃を受ける。彼女の、驚きに目を丸くする表情を最後に、俺の意識は身体から切り離された。
ちょっと意表をつきたいのでルビィのデッキは決まりましたが、ちょっと公表は避けようと思います。つーか黒澤姉妹にはジュエルナイト型ロイパラ使ってもらうのは安直かな。