ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 恋アク一年生編の前のお話です。鞠莉さん、何か歯ギター出来そうなイメージ。パンクなロックが好きみたいだし。


44話 ロックオン・キス

「あれ、鞠莉さん?」

 ふといつもミーティングしている場所を通りかかると、鞠莉さんが思案顔で紙とにらめっこしていた。彼女はおれの気配に気づいたのか、笑顔を向けてきた。

「あら、カイ♪」

「何をしてるんですか?」

 おれが彼女の隣に座ると、紙をおれに見せてきた。紙には浦ノ星女学院の校庭やら港やら広い場所が可愛い文字で書かれていた。

「ライブの場所を何処にするかを考えているの。どこもこれって決まらなくて……」

 ボールペンを唇に当てて、うーんと悩む鞠莉さん。そんなに悩むことなのかな。

「浦ノ星のスクールアイドルなんだから、自分たちの学校でやるもんじゃないんですか?」

「それじゃ在り来り過ぎてNoよ!」

 ずい、とおれの方へ身体を寄せる鞠莉さん。

「スクールアイドルだからって自分の学校でやるのはおーどー過ぎて面白くないわ! もっとインパクトのあるライブにして、もっと私達の事を覚えて貰わないと!」

「それで、ライブ会場の候補をあげてた訳ですか」

「ねぇ、カイはどう思う?」

 席を近づけ、おれに意見を求めてくる鞠莉さん。さらりとした金髪がおれの肩にかかる。いいシャンプーを使っているのか、ふわりと甘い香りが広がる。

「じゃあこの港の魚市場とかは? 中々広く使えそうですけど、っていうか漁港をライブとかに使えるんですか?」

 おれの質問に鞠莉さんはふふん、と猫の様に可愛らしい口をした。

「カイ、ワタシを誰だと思ってるの? 小原の家の力を使えばラクショーよ?」

「そ、そうですか……。っていうか家の力を使うってスクールアイドル的にアリなんですかね?」

「さぁ? そこはうちはウチ、よそはヨソってとこで!」

 そんなもんなのかね。まぁ盛り上がらなくて失敗するよりかはマシか。

 しかし鞠莉さんは思案顔を解かない。

「でもホントに魚市場でライブするアイドルってどうよって思うのよねー。何というか魚臭いイメージしない?」

「あー……。解らなくはないような……」

 魚市場のマスコットキャラで終わってしまいそうな気がするな。

「じゃあ砂浜はどうですか? 広いしお金もそんなにかからないし」

「それも考えたんだけど、逆にお金がかからな過ぎてインパクトに欠けるのよねぇ。水族館はPVで使うから今回はナシだし。もうぜんっぜん決まらないのよぉ!」

 頭を抱える鞠莉さん。普段はおれを誘惑して、どこかフザケてる印象だったけど、真剣に考えているんだな。

「んー? なーに? マリーの顔をまじまじと見て?」

「いえ、鞠莉さんって意外にもAqoursのことよく考えてるんだなーって」

 おれの言葉に鞠莉さんは顔をしかめた。

「ナニそれ? それってワタシがいつもフザケてるって言いたいの?」

「いやそういう訳じゃ! 鞠莉さん、いっつもおれを誘惑してくるし、この間もダブルデートとか提案してくるし、その、何て言うか――」

 おれが慌てて説明をしようとしていると、、おでこにぺちりと衝撃が走った。視線を彼女に戻すとふふっと笑う鞠莉さんがいた。

「もう、ジョーダンよ。そんなに真に受けないでよ」

 鞠莉さんはおれから少し離れるとメモに視線を落とした。

「千歌っちに誘われて、最初はえーって思ったわ。ワタシはロックでパンクな曲が好きだったし、アイドルみたいな曲は合わないんじゃないかって」

 すぐさま顔を輝かせて鞠莉さんは興奮気味に続けた。

「いざ聞いてみたら『何このシャイニーなの?!』って思ったの。意外とハマっちゃって気がついたら好きになってた。食わず嫌いだったみたいね」

「やってみたら意外と自分に合ってたとかよくありますからね」

「うん、こんなに楽しい物があったなんて知らなかった。気がついたらワタシもスクールアイドルの虜になってたのかも。で、その大好きなスクールアイドルの為に、ワタシの持てる力を持ってAqoursを盛り上げていきたいって思ったの。ビジネス感覚は一番あると思ってるから!」

「そうですか。鞠莉さんがスクールアイドルのこと、Aqoursのこと好きになってくれてよかった」

 最初誘われたことを話してくれた時はそんなに乗り気じゃないように見えたもんな。鞠莉さんの中でそんな風に感じ方が変わってくれて、嬉しいおれがいた。

「でもね、ワタシが一番好きなのは……」

 ちょっと艶っぽく笑うと鞠莉さんは距離を詰めてきた。おれは逃れようとチェアから少しムリな体勢になる。

「カイ、アナタなのよ? スクールアイドルとして踊ってるマリーを一番見て貰いたいのは……」

 更に近づいてくる鞠莉さん。おれは反射的に彼女から離れようとしてしまう。そりゃ鞠莉さんは美人だし可愛いとこだってあるけど、おれ自身彼女のことが好きなのかどうかまだよくわからない。好意を向けてくれるのは嬉しいけど、それにまだ応えられない自分が申し訳なかった。

「鞠莉さん、あの――」

 何か言おうとした時だった。体を支えてた手が滑って後ろに滑った。身を寄せてる鞠莉さんも巻き添えで。

「きゃっ!」

 小さな悲鳴を聞きながら背中を軽く打ち付けた。座高の低いチェアだったからそんなに痛くはなかったけど、その後の体勢がマズかった。

「……」

「……」

 二人して黙ってしまう。鞠莉さんがおれに覆い被さる感じになったのはまだいい。しかし倒れようとする鞠莉さんを支えようとしてとっさに出したおれの左手は彼女の右の胸を掴んでしまっていたのだ。

「えっち」

 少し顔を赤らめて鞠莉さんが小さく呟いた。

「ごご、ごめんなさい! すぐに――」

「いいよ? カイがシたいなら」

 顔を赤くしながらも余裕のある表情で彼女は真っ直ぐおれを見つめてきた。鞠莉さんの右手がおれの左胸に添えられる彼女の柔らかな手の感触が伝わり否が応でも心臓の鼓動が早鐘のようになる。

「ふふっ、すっごいドキドキしてるね。ワタシのこと、そういう対象として見てくれてるのね。嬉しいな・・・」

 そのまま彼女の顔が近づいてくる。断らないと。まだおれと鞠莉さんはそういう関係じゃない。そうなる前にシてしまうの筋ってのが通らない。でもおれの口からは何も出なくてーー

「えいっ」

 再び額に伝わるぴしりとした痛覚。鞠莉さんはいたずらっ子っぽく笑っていた。 

「ジョーダンだよっ。もうカイったら本気にし過ぎ!」

 そう言って鞠莉さんはおれ身体を離すと立ち上がった。

「あー、楽しかった! やっぱりカイと遊ぶと楽しいわねー!」

「ちょっ、おれの事からかってたんですか!?」

 反論しようとおれは立ち上がった。ヒドイなぁ。このおれのドキドキを返してもらいたいよ。

「じゃあ、カイの純情をもて遊んだお詫びとして――」

 顔を近づけ、頬にちゅっと小さな吸引の音が響いた。おれ、頬にキスされた!?

「これで許してね♪」

 おれが何かを言おうと口を開けたが、彼女はひょいとおれから距離をとって部屋から出た。

「それじゃワタシ、これから自主練するから! チャオ~♪」

 そのまま鞠莉さんは去ってしまった。部屋には顔を赤くして立ち尽くすおれ一人。左手にはさっき彼女の胸を触った、柔らかな感触がまだ残っていた。

「ッ!! お前はもっと落ち着けよ!」

 おれは下半身の熱り立つ自分を叱った。

 

 

●●

 うわ、どうしよう。まだカラダが熱い。心臓もドキドキしてる。

 さっきバランスを崩してカイを押し倒しちゃった。それでカイにワタシの胸、触られちゃった。

 嬉しかったのと同時にこのドキドキを知られちゃったらどうしようって思っちゃった。触られたのが右の方で良かった。

 でもカイのハートもすっごいドキドキしてたな。やっぱりワタシのことを意識してくれてるからだよね? だったら嬉しいなぁ。

 ねぇカイ。マリーはアナタのことを愛してます。今はまだカイはワタシの気持ちに応える準備が出来てないのかもしれない。ワタシにまだ振り向いてないのかもしれない。でも、いつか振り向いてもらうから。改めてアナタにロックオンしたの。あのキスはそれも兼ねてるの。だから、覚悟しててよね、カイ?




 鞠莉さん、デコチューからほっぺチューに変化。さあ櫂の唇にチューするのはいつになりますやら。

 ご意見ご感想、企画へのお便りお待ちしてます。

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