ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
おれ達は三津シーパラダイスにいた。今日の水族館視察は三年生、鞠莉さんとダイヤさん、果南姉ちゃんだ。
「もぉー、ダイヤったらホントーに頭固いんだから」
「そうですね。流石のおれでも付き合いきれませんでしたよ」
「でも良かったのかな? ダイヤをあのまま置いてっちゃって?」
「果南、あの硬度10の『三津』トークを聞きたいの?」
左右から二人の会話が聞こえる。おれは違和感を無視しながらそれに耳を傾けた。
「それは……、うん、ムリだね……」
「でしょ? あんなカタブツはほっといてカイとのデートをEnjoyしましょ?」
「ってPVの為の見学でしょ? デートじゃないよ」
「どっちも同じ! せっかくカイと一緒なんだもん。楽しまなきゃNoよ!」
「それもそうだね。楽しんじゃおうか」
「あのー、お二人とも、楽しむのはいいんですけどね……」
ついにおれは我慢出来ずに口を開いた。
「ご両人、おれにくっつき過ぎです」
おれの両の腕に伝わる、大きくて柔らかな感触。これって二人の胸だよな? 何だ、二人しておれを誘惑しているのか?
「えー、だって言ったでしょ? これはデートだって」
「そーだよかい。細かいことは気にせず、楽しもっ♪」
果南姉ちゃんまで……。
「そもそもデートってのは男女二人でやるもんじゃないんですか?」
おれの質問に鞠莉さんがんー、と口元に指を置いて考える。
「ダブルデートってのがあるじゃない!」
「ダブルデートってカップルが二組いて成立するもんでしょ!」
「かいは、私とデートするの、嫌?」
果南姉ちゃんが悲しそうな顔でおれを見つめてきた。う、そんな顔されたら……。
「嫌じゃ……、ないです……」
ほら、こう答えちまうんだよ。
おれの答えを聞いて、鞠莉さんは笑っておれの右腕を引っ張った。
「イヤじゃないなら、楽しもーよ!」
「あ、ちょっと鞠莉、引っ張っちゃダメだよ!」
今度は反対側の果南姉ちゃんが左腕にぎゅっと抱きついた。うう、胸が……。
「もうちょっとかいのペースに合わせよーよ」
「果南ったら何言ってるの!! 時間は限られているんだから、じっとしちゃいられないの!」
「それはわかるけど落ち着いて~!」
鞠莉さんも意固地になったのか、ぎゅーっと右腕に抱きついてきた。両腕にたわわとした感覚がっ。
と、おれが年上の美人二人に引っ張られている時だった。
「破廉恥ですわよぉぉおお!!」
凛とした声が徐々に近づいてきていた。二人がびっくりして両腕を離したのでおれは声の主を見た。ダイヤさんがものすごい勢いで走ってきていた。
「わたくしを置いてきぼりにした挙句、更にはそんなふしだらなこと! この黒澤ダイヤ、容赦――きゃっ!!」
おれ達の目の前でどこからか飛んできたゴミ袋を踏んでバランスを崩すダイヤさん。
「危ないっ!!」
自然とおれの身体が動き、倒れようとする彼女を抱きとめた。
「あっ……」
「大丈夫ですかダイヤさん……」
「え、ええ……」
ダイヤさんは顔を赤らめながら答えてくれた。よかった、怪我が無くて。気のせいかダイヤさん、おれのことぽーっとしながら見つめていないか?
「ワーオ、ダイヤったらダイタン♪」
鞠莉さんの言葉に我に返ったダイヤさんは勢い良くおれの身体から離れた。
「ふ、二人共破廉恥ですわよ! 殿方の腕にそんなに身体を寄せて……」
「んー、フツーだと思うけど?」
「と言うか、直前までダイヤだってカイに身体を寄せてたじゃない?」
「そ、それは……」
二人の反論にダイヤさんは口を噤んでしまう。
「わたくし、だって……」
ダイヤさんは顔を赤くしながら視線を落として身体を震わせている。
「ワタシはカイのフィアンセだから、No Problemよ!」
鞠莉さんはおれの腕に更に身を寄せた。
「いや問題アリですよ! 勝手に決めないで下さいよ!」
「私はその、かいのお姉さんだし……?」
果南姉ちゃんまでもがおれにくっついてくる。お姉さんだからって、胸を腕にくっつける理由にはならないでしょ。
ダイヤさんは我慢の限界だったのか、大声で叫んだ。
「わたくしだってその、紫堂さんと夜の戦いをしましたもの! わたくしにも身を寄せる権利はあるでしょう!?」
「夜の――」
「戦い!?」
左右二人の視線がおれに集中する。
「かい!? それってどういうことなの?」
「教えてプリーズ!!」
案の定二人に問い詰められる。言った本人であるダイヤさんは両手で赤くなった頬を押さえている。
まさかダイヤさん、二人でレースゲームしたあの夜のこと言ってるんじゃ……。
「あの夜、紫堂さんは(ゴールに)行こうとするわたくしを攻めて……物凄いテクニックでしたわ……」
『イこうとするダイヤを攻めた!?』
二人の視線と、両腕にかかる圧力がさらに増した。このままではマズい。補足をしなくては!!
「二人共勘違いしてますよ。あの夜、おれとダイヤさんは――っ、手がぁあぁあ!!」
時既に遅し。果南姉ちゃんがおれの左腕をアームロックし始めたのだ。
「かーいっ、ちょっとお姉ちゃんとお話しよっか♪」
変化のない声色と張り付いた笑顔、それに恐怖を感じた。
「ヒドイわカイ! マリーとは遊びだったの!?」
「そもそも遊び以前におれと鞠莉さんは――あででっ!?」
アームロックの激痛に、うまく喋れない。おれが拷問に苦しんでいる間にも、ダイヤさんの説明は続く。
「更にわたくしが行こうとする所(アイテムボックスのある場所)を何度も何度も的確に……」
『イこうとする所を何度も何度も的確に!?』
どうしてダイヤさんは大事な目的語を省くのだろう。もしかしてワザとか?
と、思うおれを余所に、鞠莉さんが身体を震わせていた。
「カイ……っ、このウワキモノー!」
パァン、と音をたてて彼女がおれの頬をひっぱたいた。音は大きいものの、痛みはそんなになかった。もしかして鞠莉さん、手加減してくれてる?
が、もう一方のお姉さまは手加減などしてくれるはずもなく。
「かーいっ! そんな子に育つなんて、お姉ちゃん悲しい、なっ!!」
「いででっ、そ、それ以上はいけない! 左腕が変な方向にぃぃい!」
その後ものダイヤさんの意味深な発言を真に受けた二人からの責を受け、おれは悲鳴をあげ続けたのであった。
先輩方三人の会談により、一人30分おれとデートすることで手打ちとなった。ちなみにおれの発言権は無く、三人とのデートに臨むことになったのだが……。
「……」
「あのー、果南姉ちゃん?」
おれの呼びかけに果南姉ちゃんは少し頬を膨らませてそっぽを向いた。まずいなぁ、完全に拗ねちゃってるよ。こうなった彼女は機嫌が直るのに時間がかかるんだよなぁ。
「さ、30分と時間が限られてるしさ、いこ?」
「別に、私は二人に乗っかっただけだし、かい一人で行けば?」
「そんなこと言わずに……」
成り行きとは言え、果南姉ちゃんとの二人っきりの時間が出来たんだ。喧嘩したままじゃイヤだ。
「ダイヤさんの言葉はあれ、嘘だからね? いや、嘘っていうか変に言ってただけで……」
「私を誘わずにダイヤとゲームしてたんじゃない」
誘ってくれたっていいじゃない、と膨らんでいた頬を更に膨らませる。いつもの落ち着いた彼女からは想像できない、ちょっと子供っぽい姿。拗ねた時だけに見せる、もう一つの彼女の顔。久々に見たそれに、思わず頬が緩む。
「な、何笑ってんのさ!」
「いや、別に。どうしたら許してくれる?」
こうなった時の対処は覚えている。こうやって聞くと、果南姉ちゃんはこう答えるんだったな。
「手、繋いでよ……」
「はいはい」
「はいは一回!」
おれは差し出された手をきゅっと握ってやる。伝わってくる、すらりとした、女の子の手。
「あっ……」
果南姉ちゃんから声が漏れた。うわ、おれ果南姉ちゃんの手を握ってるんだ。最後に握ったのは、小学校高学年位だったからあの頃と全然違う。改めて、彼女が異性だってことを意識させられ、どきどきと脈動した。
それは果南姉ちゃんも同じなのか、頬を赤くしておれを見つめていた。
「久々に握ったな、かいの手」
「そうだね、久々だったね。で、感想は?」
「んー、なんというか……」
繋いでいない方の手を頬に当てて考えるそぶりを見せる。少し考えるとにかりと歯を見せて笑った。
「男の子の手って感じかな」
「なんだよそれ、おれが今までそうじゃなかったみたいに」
「成長したってことだよー!」
そう言うと彼女はおれの手を引いた。
「ちょっ、果南姉ちゃん?」
「ほらっ、ボサっとしないの! 30分は短いんだから!」
「それおれが先に言った!」
「なにー!? 聞こえないぞー!」
よかった、元の果南姉ちゃんに戻ったみたいだ。おれは手を引かれるまま、彼女とのデートを楽しむことにした。
色んな水槽を眺めながら果南姉ちゃんと歩いていると、装飾品を売っている露店を冷やかすことにした。
「ねーかい、これなんてどうかな?」
彼女が取り出したのは、金色のイルカのイヤリング。それを両耳にあてがっている。おれの前でハシャぐ果南姉ちゃんはとっても新鮮だった。
「お、いいんじゃない? 果南姉ちゃんイルカ好きだねぇ」
「うん。あの流線型で泳ぐのに特化したフォルムが最高なんだよねー。それに可愛いし、こっちの言うこと理解してるみたいだし!」
熱弁する姿が可愛らしくて、頬が緩んだ。そうだった、好きなものに関してはすっごい喋るんだよな。
「そのイヤリング、ちょっと貸して」
彼女は素直におれの言うことを聞いてイヤリングを手渡した。おれはそれを店のおじさんに渡した。
「すみません、これつつんでもらいます?」
あいよー、とおじさんは奥へと引っ込んでいった。それと同時に果南姉ちゃんが飛び出してきた。
「ちょっとかい!? 別に買わなくてもいいんだよ! 似合ってるかなってかいに見て貰いたかっただけだし!」
「十分似合ってたよ。それにこれはさっきのお詫びも兼ねてるし。受け取ってくれると、嬉しいな」
「かい……」
お待ちーと、おじさんがイヤリングの入った袋を渡してくれた。なんだか妙にハートとかが多い包みだな。
「お二人さんカップルだろ? おまけしといたよー」
おじさんの気遣いに苦笑いがこぼれた。それを受け取った果南姉ちゃんは顔を赤くしながらはにかんでくれた。
「かい……、ありがとっ」
それは、今日一番の笑顔だった。
「果南ったらずーるーい!!」
そんな中突然鞠莉さんが叫びながらおれ達に突進してきた。
「うわっ、鞠莉?」
「デートは30分と決めてましたけど、物を貰うなんてのはルール違反ですわよ!」
「ダイヤまで? そもそもそこまで細かいルール決めてなかったじゃん!」
果南姉ちゃんを責め立てた二人の視線がおれに向けられる。変なことを言ったら大変なことになるなこりゃ。
「わかりました、お二人にも何か買いますから」
その言葉にダイヤさんと鞠莉さんの顔がぱあっと輝いた。
ルール追加。おれこと紫堂櫂はデート相手に何かを買ってあげること。
もつかな、おれの財布。
「んー、カイー!! 次はマリーの番だよー!」
その後すぐに時間になったので鞠莉さんとのデートに切り替わった。そうなるや否や、彼女はおれに抱きついてきた。
「うわっ、鞠莉さん、くっつきすぎですって!」
「えー? 30分限定とは言えワタシは今カイのコイビト、Girlfriendだもん! カップルなら抱きついてもいいでしょ!」
そう言って唇をおれの方へと寄せる。
「抱きつきはまだしも、キスは駄目ですって!」
「それじゃあいつもと変わらないじゃなーい!! この30分はトクベツなの! いつもと違うアナタとの時間を過ごしたいのー!」
そこまで言ってくれるのか。鞠莉さんの真っ直ぐな好意が嬉しかった。それにおれも応えてあげないと。
「わかりました。じゃあこの30分だけおれは鞠莉さんの恋人です」
「やっとわかってくれたのねカイ! それじゃあーー」
彼女の台詞を遮り、彼女を思いっきり抱きしめた。その瞬間に彼女の体温が上昇するのを感じた。
「じゃあ、デートを始めようか、鞠莉」
「っ!?」
今このときだけ呼び捨てで名を呼んでやる。ぼっと顔が赤くなるのを感じながら身体を離し、彼女の手をぎゅっと握った。
「い、いきなりは反則よ、バカ……」
小さな、それでいて可愛らしい呟きをおれは内心ドキドキしながら聞きながら、彼女の手を引いて歩き始めた。
「うわーおっきい!」
彼女と眺めているのは大きな水槽。そこには大小様々な魚達が優雅に泳いでいる。おれ達は座ってその魚達のダンスを見つめていた。
「本当だ、壮観だね」
「これだけ大きな水槽ならこれをバッグに踊るってPVもありかも知れないわね!」
「え、PV?」
おれの言葉に鞠莉さんは呆れた顔を見せた。
「もう、忘れちゃったのダーリン? ワタシ達PVの為にここに来てるのよ?」
「ああ、そうだっけ。すっかり忘れてたな。っていうかダーリンって……」
おれの指摘に彼女はふふーん、としたり顔をする。
「だってワタシ達、30分限定の恋人なんでしょ? カイがワタシを呼び捨てするなら、ワタシだってアナタを特別な呼び方してもいいでしょ?」
「それは、まあそうかもしれないけど……」
「でしょ? んー、ダーリンッ♪」
心底嬉しそうな顔をしておれの腕に抱きつく鞠莉さん。彼女が嬉しそうなら、まあいいか。
「それにしても大きな水槽だな。ジンベエザメも泳いでるな」
「あの子、中々シャイニーな感じに可愛いわね。よーし!」
鼻息荒く鞠莉さんが立ち上がった。あ、なんかいやな予感。
「あの子、ワタシのホテルで飼う!」
「いやムリでしょあれは!」
どれだけ大きいと思ってるんだ。
「大事なことはねダーリン。出来るか出来ないかじゃない、やるかやらないかなのよ!」
「それ千歌の台詞! これはそのレベル超えてるって!」
「やだー! 飼うったら飼うのー!」
「代わりにジンベイザメのぬいぐるみ買ってあげますから、我慢してください!」
「え、本当に!? Really?」
ぴた、と鞠莉さんの駄々が止まった。おれが頷くと嬉しそうにおれを抱きしめた。
「やったぁ♪ カイ、Thank you♪」
その後、お土産コーナーでジンベイザメのぬいぐるみを買い、彼女に渡した。
「ありがとう、カイ! ワタシこれを大事にするね!」
「ええ。そうしてもらえると嬉しいかな」
「初めてカイから貰ったpresent~♪」
嬉しそうにそれを抱きしめる、鞠莉さんが可愛らしかった。
最後はダイヤさん。なのだが、彼女は変にそわそわしていた。
「どうしました、ダイヤさん?」
「い、いえわたくし、殿方のデートなんて初めてで・・・。いえ同性の方ともしたことはなくってよ!」
慌てて訂正するダイヤさん。その慌てようが可愛くて頬が緩んでしまう。やっぱりルビィちゃんのお姉ちゃんなんだな。
「って、何を笑ってるんですの!?」
「いえ、何でもないですよ。どうします? デートをやめるってことも出来ますけどーー」
「それはイヤですわ!」
おれの言葉を大きな声で遮るダイヤさん。おれがびっくりしていると顔を赤らめてそっぽを向いて小さく呟いた。
「わたくし、果南さんや鞠莉さんのデートを遠目からずっと見ていましたのよ? わたくしだけなしだなんて寂しいじゃない・・・」
「それもそうですよね。よしっ」
おれは彼女の手を握った。意外に小さな手がすっぽりとおれの手の中に収まる。
「ちょっ、紫堂さん!?」
「じゃあこの30分、めいいっぱい楽しみましょう!」
デートが初めてだってんならおれがリードしてやればいい。おれだって本物のデートなんてしたことないけど、さっきまで二人分のデートっぽいものを経験してるわけだし、少しぐらいは彼女よりデートがなんたるかはわかるはずだ。
「まずダイヤさんは何を見たいですか?」
「わ、わたくしが見たい物ですか? それこそ紫堂さんがーー」
「おれが見たいものじゃなくて、ダイヤさんが見たい物でいいんですよ! おれは、あなたが見たい物を一緒に見たいから」
「紫堂さん・・・」
ダイヤさんは顔を赤くしながらもにっこりと微笑んでくれた。
「じゃあペンギンで・・・」
「わかりました。時間もないことだし行きましょう!」
おれは彼女にムリをさせない程度の速度で歩き出した。歩いているうちに慣れてきたのか、ダイヤさんは腕を組むようになり、体重をおれに預けてくれるようになった。
「ペンギンはいいですわね。見てると癒されますわね」
おれ達はペンギンがたくさんいる島の近くにあるベンチから、ペンギン達を見ていた。ペンギン達が気持ちよさそうに泳いでいたり、ひょこひょこと歩いている。
「ダイヤさん、ペンギン好きなんですか?」
「鳥類でなら一番好きかもしれませんね。歩いてる姿とか可愛らしいじゃありません?」
「ああ、そうかも。じゃあ哺乳類では?」
「んー、小さい犬とかいいですわね。昔は犬のパジャマを着たルビィが可愛くーー何でもありませんわ」
途中で切ったけど、ルビィちゃんのこと言ってたな。やっぱりダイヤさんはルビィちゃんのこと大事に思ってるんだな。おれは聞かなかったことにして、次の質問を切り出した。
「爬虫類なんかではどうです?」
「爬虫類はちょっと・・・って、わたくしばかりが質問に答えてばかりではありませんか!」
ダイヤさんが少し不満げな顔をする。
「今よりももっとダイヤさんのこと知りたいなーって思ってたんですけど・・・。イヤでした?」
おれの言葉に顔を赤らめて視線を逸らすダイヤさん。
「い、イヤではないけれど、わたくしばかり質問を受けて不公平っていうか・・・」
そうだ、と思いついたのか、ダイヤさんが距離を縮めた。
「今度は紫堂さんがわたくしの質問に答えて下さる?」
「お、おれですか?」
「ええ。紫堂さんがわたくしのことを知りたいのと同じように、わたくしだって貴方のことをもっと知りたいのよ?」
少し得意げな顔をおれに向けてくる。おれにここまで真っ直ぐに興味を持っていると言ってくれるのが嬉しかった。
「いいですよ。答えられる範囲であれば何でも答えますよ」
「では遠慮なくいかせてもらいますわよ。紫堂さん、貴方は好きな人はいるのかしら?」
「ぶっ!?」
予想してなかった質問に、むせてしまう。いきなりそこ聞くか?!
「い、いやあの、ダイヤさん? いきなり直球すぎやしませんか?」
「わたくし、気になることは放っておけない質ですから。それで、どうなんですか?」
ずい、とおれの方に向かってくるダイヤさん。こりゃ答えるまで解放してもらえそうにないな。
「そ、そうですね……。いないと言ったら嘘になるのかな……」
「はっきりとおっしゃいな」
はっきりって言われても……。Aqoursの皆と一緒にいることが多くなって、女の子ってのをイヤでも意識するようになった。ドキドキすることも多くなった。だからーー
「いますね、好きな人は」
まだ誰のことが好きかどうかなんてよくわからない。でもダイヤさんを含め、あの9人の誰かを意識していることは確かだった。
「そ、そうですか……」
安心したのか、それでもどこか不安げな表情をしてダイヤさんは身を退いた。よかったこれで――
「それでは、誰のことが好きなんですか?」
「いやそれ聞いちゃう!?」
そこまで聞かれるとは思わなかった。まだおれ自身誰が好きなのかわからないってのに。
「わたくしは質問に答えましたわよ! ですから紫堂さんも答えなければ不公平ですわ!」
「お、おれは・・・」
脳内に皆の顔が浮かぶ。皆魅力的で、何度もドキドキさせられた。おれは、誰のことが好きなんだ?
なんて考えていると、目前のその一人から言葉を投げかけられた。
「さぁ! 答えて下さいな!」
視界いっぱいに広がる、ダイヤさんの顔。整った顔が鼻先近くまで接近していて、おれの返答を待っている。
「あ、あのダイヤさん?」
「なんですか!?」
少し鼻息荒くおれを見つめてくる。どうやら質問に夢中で気づいてないみたいだ。
「その、近いです……」
下手すると、そのままキスしてしまいそうな距離だ。おれの指摘にダイヤさんは間近で顔を赤らめた。そして縮こまるかのようにゆっくりと顔をひっこめた。
「し、失礼しました……」
顔を真っ赤にして視線を地面に落とすダイヤさん。おれも心臓がドキドキして次に喋る言葉が見つからなかった。
そんな中、きゅるる、と鳴き声がおれ達の目の前で聞こえた。そこに視線を向けると、ペンギンが一羽、こっちを見ていた。ダイヤさんもそれに気づいたみたいだ。
「ペンギン?」
「ですね。あ、なんだかこのペンギン、ダイヤさんにそっくりだ」
「わたくしに!? どこか似てるっていうんですの?」
「ほら、口元」
指さした嘴の近くには黒く小さな点がぽつりとあった。そしておれは自分の口元を指した。
「ダイヤさんの口元のほくろにそっくりじゃありません?」
「ああ、そういう……。これ、やっぱり気になります?」
ダイヤさんが口元のほくろを触った。気にしてたのかな。
「いいと思いますよ、それ。なんというかその、少しエロくて……」
「エロっ!?」
再び顔を赤らめるダイヤさん。そして小さく呟いた。
「破廉恥ですわよ……」
「す、すみません……」
おれも自分が言ったことの意味を知って、顔が熱くなった。
「って、どうしてここにペンギンがいますの!?」
「確かに。っていうか脱走じゃないですか!?」
おれ達がそんな疑惑を向けているのを感づいたのか、ペンギンはぺちぺちと走り去って行った。
「まずいですわ! 追いかけますわよ!」
「え、ちょ、ダイヤさん!?」
おれが言うよりも早く、ダイヤさんは駆けていった。おれも慌てて彼女の後を追ったのだった。
「よくよく考えれば、係の人に言えばいい話でしたわね……」
「そ、そうですね……。もうちょっと早く気がつけばよかった」
おれ達は足取り重く館内を歩く。時計を見ればもう少しで30分経過するな。
「あ……」
隣のダイヤさんの足が止まった。彼女の視線の先には、ぬいぐるみが置いてある売店があった。
「ペンギン……」
そう小さく呟くのをおれは聞き逃さなかった。
「ちょっと寄っていきましょうか」
彼女は無言で頷くと置かれているペンギンのぬいぐるみを手に取った。
「ダイヤさん、ペンギン大好きなんですね」
「ええ、世界で2番目に」
「じゃあそれを買いますか」
「いいんですの!?」
年上の女性とは思えないぐらい可愛らしい笑顔を咲かせるダイヤさん。こんなステキな笑顔が見れるなら、財布が軽くなってもいいか。
「ありがとうございます紫堂さん。大切に、しますね……」
顔を赤らめ、うっとりとした表情でぬいぐるみをぎゅっとするダイヤさんに眼が離せなくて。
「ダイヤさん」
「はい?」
どうしてだろうか、さっきの質問に答えなきゃいけないような気がした。
「おれはまだ、誰が好きなのか、そもそもそれが好きって感情なのか、自分でもよくわかってません。でも――」 皆と過ごしてきた短いかもしれないけど、大切で、楽しい思い出が脳裏を過る。
「ダイヤさん達、Aqoursの皆がかけがえのないモノだってことは、はっきりと言えます」
「そう、ですか」
ダイヤさんは顔を赤くしたまま、柔らかな笑みを浮かべると、小さく呟いた。
「わたくしにも――が、あるのですね?」
小さくて途中が聞こえなかったけど、彼女は満足そうな顔をしていた。
「あ、そうだ。ダイヤさん。最後におれからも一つ質問いいですか?」
「なんですか?」
「ペンギンが世界で2番目に好きって言ってましたけど、一番好きな物はなんなんです?」
それを聞かれたダイヤさんは、少し悪戯っ子っぽく笑うと、おれの腕に身体を寄せた。
「教えてあげませんっ」
それから果南姉ちゃんと鞠莉さんが来るまで、おれ達は30分限りのデートを満喫したのだった。
さて、ダイヤさんは何と言ったんでしょうねぇ? それは彼女のルートに入ってからのお話ということで。
投稿が遅れて申し訳ありません。一人一人のデートも追加で書いていたので時間がかかりました。
一人に焦点当てるだけなら二三日で出来るんだけどね。
ご意見ご感想、企画へのお便りお待ちしてます。
出来れば企画は10月末日には企画回を投稿したいので応募待ってます!