ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
夜の廊下を歩いていると、部屋のドアが勢い良く開かれた。
「ルビィちゃん!?」
部屋から出てきたのはルビィちゃんだった。ルビィちゃんはおれを見ると、おれの元へ走ってきた。ぽすっと柔らかい感触が伝わってきた。
「おねぇちゃぁん……!!」
「えっ、ちょっ、ルビィちゃん!?」
「ルビィ、怖い夢見たの……。怖くて起きちゃって、一緒に、いてくれる……?」
身体が震えている。そんなに怖い夢を見たのかな。おれはおれの服を涙で濡らす彼女の背中を叩いてあげた。
「大丈夫だよ、おれがそばにいてあげるから」
「うん、うんっ。ありがと、おねえちゃ――」
そこまで言ってルビィちゃんが顔を上げた。そしておれがダイヤさんでないことを知ると、顔が青ざめた。
「っ――」
ルビィちゃんが息を呑んだ。まずい。このままだと大声で叫ばれてしまう。おれは慌てて口元で人差し指を立てた。
ルビィちゃんもそれを理解したのか、口元を塞いだ。
「ちょっと落ち着くトコ行こうか」
おれの提案にルビィちゃんは口を塞いだまま頷いた。
「どう? 落ち着いた?」
「はい……」
ホテルの一階にあるバーでホットミルクを飲んでルビィちゃんは落ち着きを取り戻した。
「ごめんなさいかい先輩。先輩に迷惑かけて・・・」
「迷惑だなんて思っちゃいないよ。ただいきなりでびっくりしたけどね」
「あぅ……」
首をちぢこめるルビィちゃんが可愛らしくて、思わず頭を撫でてしまう。
「ふあぁあ?!」
ルビィちゃんはびっくりしたのか、変な声をあげてしまった。
「あ、ごめん。まだ慣れないかな?」
「い、いえ。今のはちょっとびっくりしただけです。先輩のことはもう平気です……」
おれのことはもう平気なんだ。それが嬉しくて、頬が緩んだ。
「じゃあさっきおれがびっくりした分、これでチャラってことで」
「もう、なんですかそれっ」
柔らかな笑みを見せてくれるルビィちゃん。やっぱりこの子の笑顔は可愛いなぁ。
「ルビィちゃんはああやって怖い夢を見るとお姉ちゃん、ダイヤさんのとこへ行ったりするの?」
おれの問いに彼女は小さく頷いた。
「お姉ちゃんはルビィがやってくると、ため息をつきながら『そんなとこにいないでいらっしゃいな』って言って一緒に寝てくれるんです。ルビィの背中を叩きながら、落ち着かせてくれて……」
嬉しそうな顔をするも、その顔を曇らせてしまうルビィちゃん。
「お姉ちゃんにはいっつも迷惑かけてるって思っちゃうんです……。それが申し訳なくて……」
「そんなことないと思うよ。ダイヤさん、すっごくルビィちゃんのこと大事にしてると思う」
前にダイヤさんと二人っきりで話した時のことを思い出した。
「「いつか、あの子が殿方を好きになって、素敵な恋をしてくれたらいいなって思ってますのーー」」
迷惑だと思ってるならあんなことは言ったりしないはずだ。
「ほんとう、かなぁ……」
「本当だとも。ルビィちゃんが気づかない所で、ダイヤさんは君のことを気にかけてるよ」
「そうだと、いいなぁ……」
ルビィちゃんは心配そうにマグカップに視線を落とした。
ミルクも飲み終え、ルビィちゃんの瞼が少し重くなり始めた。おれは立ち上がって彼女に手を差し伸べた。
「そろそろ、部屋戻ろっか」
「はい……」
少し返事も虚ろになりながらも、ルビィちゃんはおれの手を握ってくれた。小さくも柔らかい、女の子の手だった。
「あっ……」
ルビィちゃんは自分の部屋の前で小さく声を漏らした。視線の先にはドアのカードキーの差し込み口がある。瞳をうるうるさせながらおれを見つめてきた。
「せんぱい、どうしよぉ。ルビィ慌てて飛び出してきちゃったからカギ持ってないよ……」
「マジか……」
ふと、おれの部屋のカードキーをポケットから取り出した。視線をルビィちゃんに戻すと、どうしようどうしよう、と今にも泣き出しそうだった。そう、これは彼女を救うための致し方ない処置だ。何もやましいことはない。
「ルビィちゃん」
「はい?」
おれは自分の部屋のカードキーを彼女に見せた。
「今夜は、おれの部屋で寝ようか」
「お、お邪魔します……」
ルビィちゃんが恐る恐るおれの部屋に入って来た。
「何もとって喰いはしないよ。遠慮しないでおいで」
「はい……」
部屋を見渡してベッドを確認する。しまった。おれの部屋はシングルベッドしか置いてない。ソファがあるから、少し窮屈だけどおれはそこで寝るしかない。
「じゃあおれはこっちのソファで寝るから、ルビィちゃんはベッドで寝てな」
「そんな! 悪いです! ルビィがソファで寝ますから!」
「いや、女の子をソファに寝かせる方こそ悪いよ。おれのことは気にしないで」
「駄目です!」
頬を膨らませて抗議してくるルビィちゃん。なんかハムスターが頬袋を膨らませてるみたいで可愛らしいな。って今はそんなこと考えてる場合じゃない。
このまま意見が平行線のままではいつまで経っても寝られやしない。折衷案を出すしかない。
「つまり、残された案は一つだけだよ、ルビィちゃん。二人で同じベッドに寝るしかない」
「ピギッ!?」
ほら躊躇った。これなら最初に言ったおれのプランを押し通せーー
「ル、ルビィ、先輩となら、いい……ですよ……?」
「はい?」
おれの思考は停止した。
●●
少し小さめのベッドでルビィとかい先輩は二人、寝ています。わわ、男の人と一緒に寝るなんて初めてだよぉ。
「狭かったら言ってくれな。直ぐにでもソファで寝るから」
先輩はルビィのこと気遣ってくれてる。嬉しいけど、申し訳なかった。
「ぜったい、いいませんっ」
「はは、ありがと」
隣から聞こえる先輩の声。どうしてだろう、緊張しているはずなのにどこか落ち着く。部屋を飛び起きた時に先輩を間違えてお姉ちゃんと呼んじゃった時のことを思い出す。お姉ちゃんと先輩が似てるのかな? そんなはずないのに。
気になったついでに、先輩に聞いてみた。
「先輩は、どうしてルビィにここまで親切にしてくれるんですか?」
最初に会った時から、かい先輩はルビィが困ってる時に助けてくれた。どうして先輩はルビィにここまでしてくれるんだろう。
「んー、笑わないって約束してくれるか?」
「は、はいっ」
「妹みたいだから、かな」
「いもうと?」
「ああ。おれは一人っ子で、それでも幼なじみでもある千歌が甘えん坊で妹みたいに感じたこともあったけど、なんて言うのかな……」
言葉を選びながら先輩がこっちを振り向いた。
「千歌はあっちから甘えてきた時に相手するんだけど、ルビィちゃんは守ってあげたくなるっていうか本当の妹みたいに感じるみたいな……。あー、何言ってるんだおれはっ」
「ふふっ」
「わ、笑わないって約束しただろ」
「ご、ごめんなさいっ。でも、先輩が可愛くて……」
自然と笑いがこぼれてしまった。そっかぁ、先輩はルビィのこと妹みたいに思ってくれてたんだ。でも妹としか見られてないのかなって思うとちょっと悲しかった。
その想いを紛らわすように、身体を先輩に寄せた。
「る、ルビィちゃん!? その……」
「じゃあこの夜だけ、先輩がルビィのお兄ちゃんになって下さいっ」
「え、えぇ!?」
「それじゃあ、おやすみなさい、お兄ちゃん♪」
困惑するお兄ちゃんを余所に、ルビィは瞼を閉じた。
今はまだ、お兄ちゃんにとってルビィは「妹」なのかもしれない。でもいつか、それ以上になれたらいいなって思うの。
観念したのか、お兄ちゃんが背中を優しく撫でてくれた。温かくて、ルビィよりも大きな手。すっごく安心するな。
「お休み、ルビィ」
「大好きな」お兄ちゃんの声を聞いて、ルビィは意識を閉じた。
◇◇
翌朝。カーテン越しの窓からは小鳥のさえずりが聞こえる。おれは重い頭を抱えて上半身を起こした。
眠れなかった。こんなに女の子と密着して寝たことなかったからすっげー緊張してしまった。ルビィちゃんがしっかりと服を掴んでいるから寝返りは打てないわ、更にぎゅっとしてきて柔らかい感触がおれの理性を襲うわ、まあ殆ど一睡も出来なかった訳で。
視線をその張本人へと向けると安らかな顔ですやすやと寝息を立てている。そんな顔を見ていると不満を言えるはずもなく。つい、彼女の頭を撫でてしまった。
ダイヤさんは、ルビィちゃんと一緒に寝た後はこうやって撫でていたのかな。大事な妹を、愛でていたのかな。
そんなことを思っていると、ゆっくりとルビィちゃんの瞳が開かれ、まだ身体を起こした。
「うゅ……?」
「おはよう、ルビィちゃん」
おれが頭を撫でると、まだ寝ぼけているのかふにゃっとした笑顔で、
「おはよぉ、お兄ちゃん……」
と応えてくれた。
その後、自分が言ったことに赤面して、そんなルビィちゃんの頭を優しく撫でたのだった。
中間発表で一番下と言われりゃ、その推しの人はどんな気持ちになるのか、とか公式は考えるべきだと思ったりする。「ああ、この子はどうやっても今回は一番になれないな」ってどんよりとした気持ちになると思うんだ。
つーかそもそもセンター決めではなく、センターの順番を決める選挙なら皆幸せになれると思うんだ。最後は最後で美味しい役だしね。
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