ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
なんでこんなこと言うかって? 前書きに書くネタが無いんだよ。
「あれは……?」
夕飯も終わり、風呂に入り終えてスッキリしてホテルの廊下を歩いてた時のこと。突き当り廊下を歩く人影が見えた。後頭部から藍色のポニーテールが揺れている。
「果南ねえちゃん? どこ行くんだろ」
気になって後をつけることにした。
果南ねえちゃんはホテルの外に出ていた。少し広がった芝生の広場には望遠鏡が置かれていた。おれの気配に気づいたのか、果南ねえちゃんは振り返っておれに笑いかけた。
「かいも天体観測?」
「いや、おれは果南ねえちゃんのあとを追いかけただけで……」
おれが予想通りだったのか、おれの手を取る果南ねえちゃん。
「それじゃあせっかくだから一緒に星を見ていこ?」
「あっ、ちょっと!」
おれは彼女に手を引かれるまま、天体観測をすることになった。
「ここをこうしてっと……」
果南ねえちゃんが望遠鏡を調整している隣でおれは夜空を見上げた。ここらは明かりが少ないのでそこそこ星が綺麗に見える。
「そんなの無くても綺麗に見えるのに」
「まぁね。でもそれをこうやって拡大して見るとさ――」
手招く彼女に従い、望遠鏡から夜空を覗いた。望遠鏡から見える星はとても輝いて見えていた。
「ね、もっと綺麗に見えるでしょ?」
そうやって笑いかける果南ねえちゃんの顔がおれの横にあった。ち、近い。
「そ、そういえば果南ねえちゃんは星を見るのが好きだったよね」
「うん。広い空や海を見てると自分の小ささに気づいて、大抵のことはころっと忘れられるからね」
そうだった。この人は朗らかであんまり悩みとか持たない人だったよな。だからあんなに包容力があるのか。
「だからかな、あんまり物事を深く考えない性格になったみたい」
「そっか。じゃあこの海と空に感謝しなくちゃね」
「え?」
「だってさ、おれや千歌は果南ねえちゃんのいつでも受け入れてくれる優しさに触れてきて育ってきたようなもんだし。そんな果南ねえちゃんを育ててくれたその環境に感謝したいって思ったんだ」
「あはは、なにそれ」
果南ねえちゃんは笑っているけど、少し元気がないような笑い声だった。
「前まではこうやって星や海を見ていれば多少の悩み事とかはすぐにどっかへ行っちゃってた。でも――」
果南ねえちゃんは少し悲しそうな笑顔をおれに向けた。
「最近、星を見ても吹き飛ばない悩みができちゃったんだ」
●●
「悩み?」
「そう、簡単には解決出来ないみたいでさ」
かいが不思議そうに私を見上げている。そりゃそうだ。私がかいや千歌に悩んでいる姿を見せたことは一度もないんじゃないかな。
「それってどんな悩みなのさ」
「んー、かいには難しい感じのやつ、かな……」
言える訳がなかった。改めてかいのこと好きだってわかったはいいけど、かいは私のことをどう思っているのか。私が好意を寄せることで、かいに迷惑がかかるんじゃないのか。不安でたまらなかった。
「そっか」
かいはただそれだけしか言わなかった。
「聞かないの?」
「果南ねえちゃんが解決出来ない悩みなんだ、おれが聞いた所で解決出来ないだろうし。それに誰にも打ち明けることの出来ない悩みってのを持つのが人間だろ? 無理には聞かないよ」
果南ねえちゃんの力になれないのがちょっと悔しいけど、とかいは付け足した。ああ、結局心配させちゃったのかな。
「ありがと。ごめんね」
「こっちこそ、力になれなくてごめん」
かいが立ち上がり、夜空を見上げた。
「でもさ、おれはいつだって果南ねえちゃんの味方だよ。どんな悩みだって受け止めてやるさ。だから、どうしても辛くなったら打ち明けてくれよ」
かいは両手を広げて笑顔を向けた。これは、わたしがかいにやる、ハグ待ちの真似みたい。
そっか。いつの間にか、かいも大きくなってたんだね。昔はおんぶとかしたりしてわたしが支えてたけど、今度はかいがわたしを支えようとしてくれてるんだ。
「かいのクセに生意気っ」
「あでっ」
ぴしっとデコピンを食らわせてやると目をつむった。
「でも、ありがとね」
「どういたしまして」
空を見上げる私たちに、風が吹き抜けた。
◇◇
風が吹き抜けたとたんに、右目に違和感が現れた。風に巻き上げられた砂粒でも入ったのか、痛い。
「っ――」
目を押さえ、顔をしかめてしまう。果南ねえちゃんもおれの異変に気づいたのか、おれに近寄ってきた。
「かい?!」
「いや、大丈夫。目にゴミが入っただけだから――」
「大丈夫じゃないよ! ほら、見せて!」
「え、いや、あの!」
果南ねえちゃんが目を押さえるおれの手を剥がし、頬に両手をあててまぶたを下げた。
「んー……」
おれの視界全面に果南ねえちゃんの顔が広がる。大きな瞳におれが写っていて。おれの身体に緊張が走る。
「あの、果南ねえちゃん?」
「とりあえず吹いて飛ばしてみよっか。ふー…っ」
「!?」
彼女の唇から放たれた息がおれの眼球へ吹きかけられる。本当に効果があったのか、目への違和感が無くなっていった。
「どう? もう目、痛くない?」
「う、うん……」
「なら、よかった」
おれの視界いっぱいに広がる笑顔を見せてくれる果南ねえちゃん。それが魅力的で、おれはドキドキしっぱなしだった。
「ありがとう、果南ねえちゃん。あの……」
「ん? どうしたの?」
不思議そうに首を傾げる果南ねえちゃん。やっぱりこの状況の意味に気づいてないみたいだ。
「あの、その……」
「はっきり言いなさいっ。かいらしくないよ?」
「ち、近いんだけど……」
「――っ!?」
おれの指摘にやっと自分が何をしているのか把握した果南ねえちゃんは顔を真っ赤にしてぱっと身を離した。
「ご、ごめん! つい……」
頬に手を当てて顔を赤くしてる果南ねえちゃんが可愛くて思わず頬が緩んだ。
「もうっ。早く言ってよぉ……」
「ごめん。真剣な顔してたから、言い出せなくて」
「当然だよ。かいはわたしの――」
果南ねえちゃんはそこまで言いかけて、止まってしまった。視線が泳ぎ、どう言おうか迷っているみたいだ。
「果南ねえちゃん?」
「お、弟みたいなもんだから! 弟の不調を心配するのは当然だよ」
「そう、だね」
弟だから、の言葉が少し胸にチクリと刺さった。おれは、果南ねえちゃんに弟としか見てもらってないのかな。
待て。おれ、果南ねえちゃんにどう思ってもらいたいんだ? 弟か? それとも――
「かい?」
顔に出ていたのか、果南ねえちゃんが心配そうな表情を見せる。
「だ、大丈夫! ちょっと考え事してただけだから!」
「そう? なら相談に乗るけど?」
悩みの対象である本人に言えるわけがなかった。おれが言葉を濁していると、果南ねえちゃんは理解した様に言った。
「無理して言わなくてもいいよ。かいにもそういった悩みがあるんだね。私達似たもの同士だ」
「ホントだね」
互いに笑いあって、空を見つめた。
「かい、いつか私の悩み、聞いてくれる?」
「うん。おれでいいなら」
「ありがと、かい♪」
果南ねえちゃんの笑顔は、夜空の綺麗さも相まってより魅力的に見えたのだった。
●●
かいと別れて10分は経つはずなのに、胸のドキドキが止まらない。近づきすぎて顔を真っ赤にしたかいを思い出すと、こっちも頬が熱くなった。
もしかしてかいは、私のことを異性として意識してくれてるってことなのかな。かいも私のこと――
頬を叩き、その疑問を脳の奥にしまい込む。結論付けるにはまだ早い。
いつか、かいに聞いて貰うんだ。私の悩み、ううん、私の気持ちを。だから私もかいの悩みを受け止めて、ハグしてあげられるように頑張らなくっちゃ。その為にはどうすればいいのかな?
「また悩み事が増えちゃったかもな」
私は苦笑いしながらホテルに戻った。
今回のサブタイは僕が一番好きなアニメのED曲が元ネタ。
果南ちゃんと一緒に星を見たいです。皆も見たいよね?
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