ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「それじゃ、いっくよー!」
千歌がロウソクに火を着けた途端、皆がそれぞれ持った花火をそれに近づけた。
そして放たれる赤や緑、黄色といった火花。それに映える彼女達の顔が綺麗で、直視するのが照れくさかった。
「何を黄昏れているのよ、シドー」
そんなおれに声をかけてくれたのは、善子だった。
「いや、別に。こんな大勢で花火やるのは久々だった気がしてさ」
皆が綺麗だったから、なんて恥ずかしくて言えなくて、誤魔化す様におれは彼女に笑いかけた。そんなおれの誤魔化しに気づいているのかいないのか、善子も微笑みで返してくれた。
「そうねぇ。もしかしたらヨハネは初めてかもしれないわね。皆で花火なんて」
「そうなのか?」
「リトルデーモンを召喚する時に一人でやったりしたわね――って何その『寂しい青春してんな』って顔は!?」
「い、いやしてねーし!」
思ってたけど。善子はため息をつくが、微笑んだ。
「それに、青春ってのはこれからじゃないの?」
「ああ、そうかもな」
彼女は1年生だ。まだまだ始まったばかりだもんな。
「そ、それに、シドーとのせ、青春だってこれからなんだから……」
その言葉に一瞬ドキッとして。
「善子、今の――」
「わーっ!! 今のナシナシ!」
善子は顔を真っ赤にして首を横に振った。
「はぁ、らしくないわね。このヨハネとあろうものが……。そうだシドー、ちょっと付き合ってよ」
「付き合うって何に?」
善子はにやりと笑うと手持ち花火を数本見せつけた。
「花火って言ったら、アレでしょ?」
「そして滅ぶ。人は、滅ぶべくしてなぁ!」
「そんなアナタの理屈!」
「それが人だよ、善子!」
「違うっ! あと私はヨハネよっ!」
善子が持つ花火の突きを後ろに下がってかわす。お返しとばかりに花火で斬りかかるが、彼女はひらりと舞う様に避けた。
「それが誰にわかる! わからぬさ!」
「何をしていますの?」
おれ達がチャンバラ即興劇をしていると、呆れた声が聞こえてきた。
「ああ、ダイヤ。これは、儀式よ。ヨハネとシドーの戦いの儀なのよ!」
「戦いの儀だろうとなんだろうと、危ないじゃありませんか! 誰かにぶつかりでもしたらどうするんですか!」
「す、すいません……」
おれが謝ると、ダイヤさんはおれの方を見て、ため息をついた。
「全く、善子さんはともかく、紫堂さんはもっと常識のある方だと思ってましたのに……」
おれは笑って誤魔化した。善子とこうやって馬鹿やってるのは楽しいからな。嬉しそうな顔してる善子を見てると、どうしても乗ってしまうわけで。でもそんなこと本人には言えないけど。
「ダイヤさんもそう怒ってないで。普通に花火を楽しみましょ?」
「そ、それもそうですわね」
残っている花火を渡し、火を着けてあげる。音を立てて燃える花火をダイヤさんは儚げに見ていた。
「綺麗ね……」
うっとりと見ているダイヤさんの横顔はとても綺麗で。思わず見とれていたのか、ダイヤさんが不思議そうにこっちに視線を向けた。
「どうしました?」
「い、いえ……」
おれがしどろもどろしていると彼女は微笑んだ。
「うふふ、もしかしてわたくしに見惚れていたのですか?」
ちょっと得意気にしているダイヤさん。いつもの美麗さとは反対にちょっと可愛らしくて、本当のことを言ってしまう。
「ええ。ダイヤさんと花火は本当に相性がいいですね。綺麗にダイヤさんが映えていますよ」
「っ! そ、そうですか……」
予想外の答えだったのか、ダイヤさんの顔が真っ赤になった。おれも恥ずかしくて顔の温度が熱い。しばし無言で燃え盛る花火を見続けた。
「あ、危ないずらー!!」
そんな沈黙を破ったのが花丸ちゃんの叫び声だった。声の方向を二人して振り向くと、燃える円形の物体がこちらに突進してきているのだ。
「っ、どうしてわたくしの方を狙ってきますのぉぉ!!」
それはダイヤさんに狙いをつけたのか、逃げる彼女を追いかけた。そしてそれに続くようにルビィちゃんが追いかける。
「お、お姉ちゃ~ん!!」
一人残されたおれの隣に花丸ちゃんがやってきた。
「あれ、ねずみ花火?」
「そうずら。ルビィちゃんと面白い花火があるっていうから、遊んでたらあれが暴れだして……」
未だにダイヤさんはねずみ花火に追い掛け回されている。花丸ちゃんも面白かったのか、少し笑いが漏れている。
「せっかくだから、おれ達もやろうか。普通の花火で、ね」
「うん!」
花丸ちゃんは元気よく返事をしてくれた。
「紫堂せんぱいは不思議な人ずら」
二人で花火をしていると、彼女がそう呟いた。
「え? そうかな?」
「そうずら。思えば出会いのときから変だったずら。今考えれば本が返ってくるのを待てばいいだけなのに、まるのアドレスを教えることになって……」
「あー、あったな。そんなこと……」
あの時は彼女が了承してくれたからいいものの、あれはナンパとしても最低の部類なんじゃないだろうか。
「それこそ花丸ちゃん、断ってくれたってよかったんだぜ? あんな怪しい誘いだもん、断られたってキミは悪くないよ」
「全然問題ないずら。だってせんぱい、カッコ良かったから……」
「カッコ、良かった……」
おれの反芻に自分が何を言ったのか理解したのか、花丸ちゃんはわたわたと慌てだした。
「い、いやあの、面白い人だなーって思ったから! ぜんぜん、カッコいい人だなって思ってもないずら!」
そこまでハッキリ言われると落ち込んじゃうな。また地雷を踏んだと思った花丸ちゃんは更に慌てる。
「えと、あの……。あ! おらちょっと花火とってきますね!」
目をぐるぐると回しながら彼女は走り去ってしまった。何か、悪いことしちゃったかな。
おれは立ち上がると場所を変えた。
「たーまやー!!」
鞠莉さんが持ってきたであろう打ち上げ花火を見て、千歌が叫んだ。
「まさか鞠莉さん、打ち上げ花火を持ってきてくれるとは……」
「ホテルに電話したら持ってきてくれたんだって!」
「流石淡島ホテルのオーナー、やることが派手だな」
離れた所で打ち上げ花火に着火している鞠莉さんと果南ねえちゃんと目が合った。二人が手を振ってきたのでおれ達も手を振り返した。
「綺麗だね、花火」
そう呟く千歌の横顔が花火の光に映えて、いつもよりも綺麗に見えて。
「ああ、そうだな」
おれは彼女のその横顔に呟いていた。すぐに照れくさくなって、夜空に咲く大輪の花を眺めていた。
●●
千歌ちゃんと並んで打ち上げ花火を見る櫂の表情に私はドキドキしてた。花火に映えた幼馴染の男の子の顔はどうしてか魅力的に見えて。
――櫂のクセに……――
最近の私、櫂にドキドキさせられっぱなしだ。それがどこか悔しくて。
ちょっと仕返ししてやろうといたずら心がむくむくと湧いてきて。
「ねえねえ千歌ちゃん」
小声で千歌ちゃんを呼び、思いついたことを伝えた。千歌ちゃんも面白そうだねぇとそれに乗ってくれた。
私達はこっそりと他のメンバーに伝え、準備を進めた。
打ち上げ花火が終わって、櫂はそれでも海を見続けていた。仕掛けるなら今しかない。私は皆に目配せした。
「かーいー!!」
「んー?」
『せーのっ!』
私の声に櫂が振り向いた瞬間、皆で持っていたねずみ花火に火を着けて、櫂に目掛けて投げつけた。ねずみ花火はすごい勢いで回転しながら櫂向かって走っていく。それを見た櫂は慌てて走り出した。
「おまぁえらぁあぁ!! おぼぉえてろよぉぉ!!」
必死に逃げる櫂が可笑しくって。私は涙が出るくらいに笑ったのだった。
◇◇
「ったく、酷い目にあったぞ……」
おれはボロボロになりながら皆の元へと戻ってきた。
「あっ、櫂おかえりー!」
「おかえりー! じゃあねえよ。おれがどんな大変な目にあったと思ってんだ」
「まぁまぁ櫂ちゃん。皆で線香花火やろーよー!」
千歌に差し出された線香花火を受け取り、火を着けた。ちりちりと小さく音をたてる線香花火を見ていると、先程までの怒りも無くなった。
「まあでも、楽しかったかな……」
ふとこの合宿で起きた出来事を思い出す。皆の色々なことを見ることが出来た、いい思い出だったと思う。
「これでこの合宿も終わりだなー」
そう思うとちょっと寂しい気がして――
「あ、紫堂さん。そのことなんですが、まだ合宿は終わりませんよ?」
「え?」
おれの線香花火の火の玉がぽとりと落ちた。
「三日後の休日をとった後、今度は淡島ホテルで合宿をやろうと考えてます。さらに新曲のPVの案を探しに水族館への見学も考えています」
その情報に思わず頭がクラクラしてきた。けど、不思議と嫌じゃなかった。Aqoursと、この9人とまた一緒にいられる。そう思うだけで嬉しかった。
おれ達の夏合宿は、これからだ。
僕ラブ13に行ってきました。そこでの感想は活動報告に載せておきますね。
今回はあんまりフラグが立ってない女の子メインにしておきました。テコ入れですかね。千歌ちゃんはちょっとしかないけど。今後のバランス調整が大変だ。
さて次回から舞台をホテル淡島に移ります。そこでもっと彼女達とのイチャイチャなものを書いていきたいです。
ご意見ご感想、企画へのお便り、お待ちしてます。