ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 どんなに感動的なドラマがあろうと、彼女達を泣かせたのなら、あんたはおれの敵だ。

 今回は主人公である櫂くんのキャラ崩壊の恐れがあります。ご注意下さい。王様ゲームだからね、仕方ないね。


33話 王様ゲーム:9人斬りの男

「それじゃ8番の人、ルビィのことハグして下さい!」

「はいはーい」

 王様であるルビィちゃんの命令に果南ねえちゃんが近づき抱きしめた。

 命令した本人であるルビィちゃんは抱きしめられると声を漏らした。

「ふぇぁ……」

「よしよし、みんな本当に私にハグされたいんだね♪」

 これで何回目だろうか、果南ねえちゃんがハグするところを見るのは。ダイヤさんとの一件があって以降、王様になった人は全て自分をハグするようにとの命令をするようになった。そして気のせいか皆の視線がおれに向いていた。そしてそのしわ寄せなのか、ハグする役は果南ねえちゃんが引き受けていた。まさか、みんなダイヤさんみたいにおれにハグしてもらいたいのか? まさかそんなわけないよな。

 と、考えながらも次の王様が決定した。

「Oh、次のKingはマリーね!」

 鞠莉さんが立ち上がって周囲を見渡す。そしておれの方を見るとふふんと笑った。

「さっきからおんなじ命令ばかりでつまらないわね。だから――」

 おれを指さし、おれに向けて命令した。

「カイ、あなたにはワタシ達全員に愛の言葉を囁いてもらうわ!」

「はぁ!?」

 鞠莉さんの名指しの命令に周囲がざわつく。おれが全員に愛の言葉を囁くだと?

「ちょっと待ってくださいよ鞠莉さん。流石にそれは……」

「あれぇ、王様の命令は絶対だよカイ?」

「というか、そもそも番号で指名して下さいよ。名指しの命令は無効で――」

「じゃあ3番」

 その言葉を聞いた瞬間、おれは背を向け部屋を飛び出そうとしていた。

「駄目だよ櫂ちゃん!」

 次の瞬間、千歌からのタックルを受け、倒されてしまった。おれの握っていた3番の紙がひらりと落ちた。千歌はおれが逃げないようにと腰辺りにくっついている。おれの腰に千歌の胸の柔らかさが襲う。

「ちょっ、千歌! 離せって! 当たってるから、腰に!」

「離さないよ! 王様の命令は絶対なんだから!」

「例え王の命令でも聞けんものは聞けん!」

「おーじょぎわが悪いよ櫂ちゃん! 皆待ってるんだから!」

「え!?」

 視線を皆の方を向けると、皆少し顔を赤らめたりもじもじとしている。命令をした鞠莉さんも余裕のある笑みをしているが、ちょっと顔が赤かった。そんなに皆おれに愛の言葉を囁かれたいのか? いいでしょう。この紫堂櫂、女の子の期待は裏切れない男。とばしてやるぜ、イカした言葉を。そしてその第一目標は千歌、お前だ!

 心の奥底に眠るスイッチを入れ、優しく千歌に微笑むと彼女の三つ編みに触れた。こうすると千歌はびくっとして大人しくなる。

「ふぇっ!?」

 頬を赤らめる千歌の顔に近づき、囁いてやる。

「あんまり五月蠅いと、お前をみかんみたいに剥いちまうぞ?」

「えっ、えぇぇぇえ!?」

 千歌は顔を真っ赤にして焦点を失い、その場にこてんと力つきた。なるほど、こうやって落としていけばいいんだな。

「千歌ちゃん? 大丈夫?!」

「千歌ちゃん、気をしっかり!」

 千歌を心配してか、曜と梨子が駆け寄ってきた。つぎは君たちの番だ。

「曜!」

「はっ、はいぃ!?」

 曜の手を取り、見つめてやる。するとみるみる曜の顔が赤くなっていく。そこに間髪入れずに甘い言葉をぶち込む。

「いつか、おれと一緒に未来と言う大海原をヨーソローしてくれないか」

「みっみ、未来の大海原!? それって、それって・・・」

 頭の中がオーバーヒートしたのか、目を回して倒れ込んでしまった。視線を梨子へと向けると彼女は後ずさりした。が、後ろは壁。退路を断たれた彼女の顔のそばにドンと少し大きめの音を立てて手をあてた。いわゆる壁ドンというやつだ。

「し、紫堂くん?」

 彼女の表情から怯えがにじんでいる。怖がらせちゃったかな。顔を耳元に近づけると、びくっと反応して目を瞑った。

「おれ、もっと梨子のピアノが聞きたいな。二人っきりで」

「ふふ、二人っきりでぇ!? それって、その、あの……はぁ……」

 顔を真っ赤にしてそのままへたり込んでしまった。

 それと同時にのしかかる口説いたことへの罪悪感。仕方ないじゃないか、王様の命令なんだし。おれは悪く無い。

「ついに目覚めたのね、シドー!!」

 善子が立ち上がり、それっぽいポーズをとった。愚かなり津島善子。出てこなければやられなかったのに。

「待っていたわよ、アナタの覚醒を。今こそ共に堕天を――」

「ヨハネ」

 善子の言葉を遮り、一気に距離を詰める。そのすらりとした鼻を軽く撫でてやる。

「ひゃうっ!?」

 びっくりしたのか、びくりと身体を震わせる。そこに間髪入れずに言葉を流し込む。

「堕天使ヨハネよ。我に従え。さすれば貴様を快楽をもって昇天させてやろう」

「しょ、昇天!? シドーに……昇天……」

 善子はその場で倒れこんでしまった。これで四人目。

 視線を残りの一年生に向けると、花丸ちゃんの後ろに怯えるルビィちゃんがいた。

「か、櫂先輩……」

「ル、ルビィちゃんはまるが守るずら!」

「花丸ちゃん、怯えることはないんだよ」

 花丸ちゃん達の前にしゃがみ込み、顎をくいっと持ち上げる。

「ずら?!」

「花丸ちゃんは聖歌が得意だったね。クリスマスとかに聞いてみたいな、聖歌。その後は、解るよね?」

「えぇえぇ!? 二人っきりの教会での聖歌……。そしてまるとせんぱいは……、はわわ~」

 そこから先の展開を妄想したのか、ふにゃふにゃになる花丸ちゃん。その後ろで身体を震わせるルビィちゃんの頭を撫でる。

「ピッ!?」

「怖がらないで。おれは怯えてる顔じゃなくて、ルビィちゃんの笑ってる顔が見たいんだ。ほら、笑ってごらん?」

 おれの言葉にちょっと不格好に笑うルビィちゃん。笑顔には遠いかもしれなかったが、優しく頭への愛撫を続ける。

「ふぇあぁ……」

「これは、その笑顔のお礼だよ」

「はうぅ……」

 ルビィちゃんは顔を真っ赤にするとそのまま目を回してぱたりと倒れてしまった。目を回す様も可愛いな。

「紫堂さんっ……よくもわたくしの可愛いルビィを誑かしてくれましたわねっ!」

 ダイヤさんがつかつかとおれに歩み寄り、怒りを露わにしてくる。おれはにこやかな笑顔でそれに対応する。

「何言ってるんですか、ダイヤさんだって可愛いじゃないですか。そんなに怒ってちゃ、可愛い顔が台無しですよ」

「かっ、可愛いっ!?」

 顔を赤らめるが、ダイヤさんは気丈に振る舞おうとする。

「そ、ソレくらいの口説き文句ではわたくしは落ちませんわよ! 安い女だと思わないで――」

 ぷいっとそっぽを向いた瞬間を狙い、距離を詰めて彼女の手を握った。

「安い女だと思ったことは一度もありませんよ。ダイヤさんはいつも美しくて、でも可愛い所もある魅力的な女の人だと思ってます」

「――っ!?」

 耳まで真っ赤になって視線をおれの方へ戻してきた。おれは微笑んで、トドメと言わんばかりに囁いた。

「また、ハグしてあげましょうか?」

「――はぁ……」

 その言葉を聞いた途端、力を失ったように倒れるダイヤさん。

「おっと」

 おれは崩れ落ちる彼女をお姫様抱っこのような形で抱きとめ、そのまま床にゆっくりと下ろした。

 残された二人が何か小声で会話をしていた。

 

「ちょっと鞠莉、これちょっとマズいんじゃない?」

「まさかカイがここまでやるとは……、カイ、恐ろしい子っ!」

「ふざけてる場合じゃないよ! このままじゃ私たちも……」

「よし、果南、行ってらっしゃい!」

「なんで私なのさー!」

「果南のハグパワーでカイを大人しくさせちゃうの!」

「あー……、なるほど。やってみようかなぁ」

「(出来るんだ……)頑張って果南! 骨は拾ってあげるから!」

「それ私が死ぬの確定じゃんか! もぅ……、こらっ! かーいっ!」

 

 果南ねえちゃんが少し怒ったような表情で腰に手を当てておれを見つめている。

「さっきから黙って見てれば、やり過ぎだよ? お姉ちゃん怒るよ?」

 ぷんすかと擬音出来そうな表情をしている果南ねえちゃん。昔そうやって叱ってきたっけ。おれは悲しそうな顔をして彼女に近づいた。

「ごめんね、果南ねえちゃん。これは王様の命令なんだ。それに果南ねえちゃんもちょっとは期待してるんじゃないの?」

「っ、そ、それは……」

 ちょっと顔を赤くしておれから目を背けた瞬間を見計らって彼女を軽く抱きしめた。それだけで果南ねえちゃんの動きがビクッと止まった。

「う、うわっ!?」

「こうやってハグするのは久々だね、お姉ちゃん」

「お、おね、お姉ちゃん!?」

 昔呼んでいた名前で呼ぶとさらに反応する。衣服越しに体温が上昇しているのがわかる。あともうひと押しだ。自分が出来る限りの笑顔を向けた。

「お姉ちゃん♪」

「あっ……」

 果南ねえちゃんは一声上げると、ふにゃふにゃになってしまった。残すは一人。おれは鞠莉さんの方を向いた。

「よ、よくやったわカイ! さぁて次の王様を決めなくちゃ――」

「ダメですよ、鞠莉さん」

 彼女の肩を抱き、じっと見つめる。鞠莉さんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。

「あ、あんまりまじまじと見ないでよ……」

 珍しくしおらしくしている鞠莉さんが可愛らしくて。

「どうして? こんなに美しい顔、ずっと見たくてたまらないですよ」

「あぁん! だ、だめぇ!」

 鞠莉さんは肩を震わせてその場に座り込んでしまった。当たりを見渡せば顔どころか耳や腕まで真っ赤にした9人の女の子達が地に伏している。その様を見て、おれの理性は帰還した。

 

 

「そ、それじゃあ皆落ち着いてきたみたいだし、次いくよー……」

 それから十分後。皆の調子が戻ってきた所で王様ゲームは再開された。おれは体育座りで肩を震わせていた。

「おれは悪く無いおれは悪く無い……」

「もう解ったから、櫂ちゃん」

「そうだよ、鞠莉さんの悪ふざけが過ぎたんだから」

 同い年の幼馴染二人が両側から慰めてくれる。それだけでも大分心が救われるってもんだ。

「で、でもすごかったね、曜ちゃん……」

「う、うん……」

 二人の緊張した声が聞こえる。仕方なかったんだ。王様の命令で仕方なく言ったんだ。おれは悪く無い。

「でもさ櫂。あれは、あの言葉は命令されたから言った冗談だから、私たちは気にしてないよ? だからそんなに落ち込まなくたってダイジョーブだよ!」

 曜がおれを元気づけようと肩を叩いてくれた。でも、冗談なのかと言われるとそうじゃないと思う自分がいた。

「冗談、じゃないかもしれない……」

『え?』

 曜と千歌の声が重なって聞こえた。しまった、声に出てしまったみたいだ。

「櫂、ちゃん……?」

「櫂、それって……」

 とたんに頬を染める幼馴染二人。そんなおれ達に紙の入ったボックスが回ってくる。

「さ、次のゲームを始めようぜ! 次は誰が王様かね~」

「う、うん! そうだね!」

「は、早く決めちゃおっか!」

 おれ達は慌てて箱から紙を引いた。

 

「さーて、次いくわよー! 王様だーれっだ!」

 その言葉におれは無言で立ち上がった。宴会場の上座まで歩き、皆を見下ろしながら『王』と書かれた紙を見せびらかした。

 

「待たせたな皆」

 

 「王の紙」を見た瞬間、おれの心は今までにない加虐心に支配された。あれだけおれは恥ずかしい台詞を言わされたんだ。お返しするには丁度いい。

 

「おれがキングだ」

 

 ここからおれの、反逆が始まる




 9人分の口説き文句とか難しすぎる。女の子からの魅力的な台詞は「俺がどう言われたら嬉しいか」をベースに作れるけど、「女の子がどう言われたら嬉しのか」がベースになるであろう男からの口説き文句を作るのは本当にムズいです。
 皆さんの満足のいく出来であることを願います。
 あと、花丸ちゃんの櫂に対する呼び方を今後「紫堂せんぱい」と変更させて頂きます。ルビィちゃんも先輩呼びなので少しでも区別しておきたいので。

 ご意見ご感想、企画のおたより、お待ちしてます。

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