ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 王様ゲーム編へ突入です。
 美しいダイヤさんを黒くゲスい笑顔で汚すか、真っ赤なテレ顔で乱れさせる、どっちがマシなのかね?


32話 王様ゲーム:乱れダイヤ

●●

 旅館『十千万』での合宿を終え、わたくし達は互いを労うために打ち上げをしている時のことでした。

「王様ゲーム!!」

 鞠莉さんの一言に皆さんが感嘆の声をあげている。王様ゲーム? 何でしょうか?

「ルールをイマイチ理解してなさそうな顔をしてるダイヤに改めて説明するね!」

 そんなわたくしの顔を見て鞠莉さんがルールを説明してくれました。1~9の数字と『王』と書かれた紙をランダムにシャッフルし、一人一枚引いて『王』を決める。そして『王』は番号を持った方々に一つだけ命令することが出来る。それを何回も繰り返すゲームだそうですね。

「ルールは把握しましたわ。それで、どうすれば勝ちなんでしょうか?」

「いやダイヤさん、このゲームには勝ち負けはないんですよ」

 わたくしの隣に座っていた紫堂さんが声をかけてきました。

「勝ち負けがない? それではゲームとして成立しないじゃないですか!」

「簡単に言えば余興って奴ですよ。肩の力を抜いて、楽しんだらいいと思いますよ?」

「肩の力を、抜く……?」

「そうです。ダイヤさん、練習では皆を引っ張ってくれてましたから。思いっきり羽根を伸ばしたっていいんですよ」

「それも、そうですわね……」

 どうしてでしょう、紫堂さんには随分とあっさり従ってしまう自分がいる。

「じゃあ早速始めるわよー!!」

 鞠莉さんの一言で紙の入った箱が回される。皆がそこから1つずつ紙を取り出していく。全員に紙が行き届いた所で鞠莉さんが叫んだ。

「おうさまだーれっだ!!」

「はーいっ!!」

 そう言って出てきたのは曜さん。敬礼のポーズをしてわたくし達を見渡す。

「それじゃあ曜、王様としての命令をしてちょうだい!」

「ヨーソロー♪ うーん、どうしよっかな~」

 意地悪く笑ってわたくし達を吟味する様に見渡す曜さん。そして何かを思いついたのかにやりとした。

「よーしっ、3番と5番の人はコントをすること!」

「3番…、わたくしですわ!」

 紙に書かれていた番号と一致したのでわたくしは手を上げた。5番は誰かしら……。

「ピギっ、お姉ちゃんと……?」

 5番の紙を持っていたのはなんとルビィ。内心驚いていると千歌さんが囃し立てました。

「おお、ここでまさかの姉妹漫才だ! すごいすごい!」

 千歌さんの言葉に他の皆もはしゃぎだす。どうしましょう、コントなんてやったことないのに。しかも妹のルビィとだなんて。

「お、お姉ちゃん、どうしよ……」

 心配そうにわたくしの方を見るルビィ。わたくし達姉妹はそういったモノには疎いのですよ? 命令を変えてもらえないかしら。

 そう言おうとした瞬間、曜さんが意地悪そうな顔で言った。

「ダメだよダイヤさん、王様の命令は絶対だから♪」

 くっ、先を読まれていました。こうなったらやるしかありませんわね。見せてあげましょう、黒澤姉妹の力を!

 軽くルビィと打ち合わせをし、全員の前に立つ。まだルビィはおどおどとしている。ここはお姉ちゃんとして、わたくしがボケて、ツッコんで貰わないと。

「隣の家にかごっ――」

 変に言い方を間違えた瞬間舌に伝わる痛み。噛んだ。皆さんの前で。わたくしが口を抑えていると、ルビィが慌てたように手をびしりと当てた。

「な、なんでやねんっ」

 そして訪れる沈黙。皆が顔を見合わせている。そんな沈黙を破ったのは紫堂さんだった。

「よ、よーし、これで曜の番は終わったな。次の王様決めようぜ」

 紫堂さんの声に皆従うように紙を箱の中に戻し始めた。わたくしが元の場所に戻ると、彼はお茶の入った紙コップを差し出してきた。

「お疲れ様です……」

「わたくし、とっても恥ずかしい思いをしましたわ……」

「まぁ王様ゲームってのは互いに恥の見せ合いみたいなもんですから。そんなに気合を入れなくていいんですよ」

 もう少し楽しみましょ? という彼の言葉を聞きながらお茶を飲む。冷えたお茶が恥で暑くなった身体を冷やしてくれる。

「それじゃ次、いっくよー!」

 曜さんの合図で再び箱が回され始める。紫堂さんは箱をわたくしに回しながら笑顔を向けた。

「まあ自分に役が回らないことを祈りながら、誰かを笑ってやればいいんですよ」

「そういうものなのでしょうか……」

「そういうもんですよ」

 わたくし達の会話を余所に、次の王様が決まったみたい。

「よーし、次の王はこのヨハネよ!」

 善子さんの声が響いた瞬間、紫堂さんの顔が一瞬強張った。

「紫堂さん?」

「だ、大丈夫。確率は9分の1、そうそう簡単には――」

「それじゃあ7番の人! このヨハネと一緒に堕天しよ♪」

 その言葉を聞いた瞬間、紫堂さんの顔から表情が消えた。彼が握っている紙を見るとそこには「7」の数字が。

「紫堂さん……」

「ダイヤさん……」

 紫堂さんは悟ったような顔をしてわたくしを見つめてくる。いつもとは違う表情に少しドキリとして。

「番号、交換しません?」

「駄目です」

 そんな彼が少し可笑しくて、思わず頬が緩んだ。

 

 

 ◇◇

 まさかピンポイントに番号を当ててくるとは思わなんだ。おれが王様である善子の前に立った。当の本人は本当に当たると思わなかったのか、嬉しそうな顔をしている。

「やった♪」

 小さくそう呟く彼女が可愛らしくて、まあこういうのに乗ってやるのも悪く無いと思えた。

「じゃあシドー、ヨハネと少し打ち合わせよ!」

 そう言って彼女はおれの手を引いて宴会場から出た。

 

「全てのリトルデーモンよ!」

「我が軍門に下れ!」

 それから数分後。おれと善子は黒いマントを羽織って皆の前に立った。皆の反応はもちろん沈黙。そりゃそうだよね。

「ぷふっ」

 が、その沈黙を破るように誰かが吹き出した。声の方向を向くと、ダイヤさんが口元を抑えて身体を震わせている。

「くくっ……」

 そして堰を切ったように笑い出した。それに釣られて他の皆も笑い出す。

「もう! 皆して笑うことないじゃないのよ!」

「善子ちゃん面白いずら!」

「善子ゆーなっ!」

 善子は頬を膨らませるが、おれとしては助かった。笑われた方が逆にいい。

 善子の王政は終わりを告げ、おれは元の場所に戻った。

「ダイヤさん、ありがとうございました。あそこでわざと笑ってくれなかったら心が崩壊しかけてましたよ」

「ぷふっ、くくっ……、え?」

 ダイヤさんの瞳には涙が溜まっていた。呼吸が荒く、肩で息をしている。まさか、本当にツボだったのか?

「ごめんなさい、本当に可笑しくて……」

 涙を拭いながら謝るダイヤさん。普段あんまり見ない彼女の笑顔におれの頬も緩んだ。

「それだけ面白がってもらえたのなら、何よりですよ。ダイヤさん、あんまり笑わないから」

「そうかしら? そう言えば最近あんまり笑うことなかったかもしれませんわね」

「もっと笑顔を見せましょうよ。ダイヤさんの笑顔、とっても魅力的ですよ」

「えっ!?」

 ダイヤさんの頬が赤く染まり、こちらを見つめてくる。おれ自身も何を言ったのか理解して体温が上昇する。

「い、いや、あのね! アイドルって笑顔も魅力の一つでしょ? それだけの笑顔を持ってるなら生かさない手はないでしょ?」

「そ、そうですわね! わたくし、素材がいいですもの!」

 互いに視線を逸らしてしまう。おれすっげー恥ずかしいこと言ってたんだな。視線をそろそろと戻すとダイヤさんとばっちり合ってしまった。再び恥ずかしくなって、また視線を逸らした。そんな様を見ていたのか、曜が声をかけてきた。

「二人ともー! イチャついてないで、次始めるよー!」

「なっ!? イチャついてなんていませんわよ!」

 ダイヤさんの抗議を余所に再び紙が回され、次の王様が決定する。

「お、今度は私が王様だ」

 手を上げたのは果南ねえちゃんだった。おれは自分の紙を見て、番号を把握する。6番か。

「そうだな~、いつもはわたしがハグしてばっかだからなぁ。1と6の人同士でハグしてもらおうかなぁ~」

「それじゃあ1と6の人、手を上げてー!!」

 鞠莉さんの声に従い、おれは手を上げた。そしてもう一方のペアを確認した。

「え?」

 そのペアが驚きの声をあげた。相手はおれの隣、ダイヤさんだった。

「ちょっと果南さん! こ、こんな破廉恥な命令は無効にしてくださいな!」

 ダイヤさんは立ち上がり、王様である果南ねえちゃんに食って掛かる。果南ねえちゃんはあははと笑いながら頬を掻いた。

「あー、確かに誰かにハグしてもらうようにすればよかったかもなぁ。でも命令しちゃったし、仕方ないかな~」

「仕方ないってこんなっ……」

 顔を赤くしておれの方を一瞥するダイヤさん。ダイヤさん、これは仕方ないんだ。王様の命令は絶対なんだし。でも、ダイヤさんが心底嫌なら諦めるしかない。ちょっと悲しい気もするけど。残念とは思っていない。思ってない。

「ダイヤは、かいとハグするのはいや?」

「い、嫌ではありませんけど……、そ、そんな将来を決め合った仲ならまだしも……」

「ダイヤ! 嫌じゃないならやっちゃいなよ!!」

 鞠莉さんの一言に周囲も『ハーグ! ハーグ!』と煽り立てる。折れたのか、ダイヤさんは叫んだ。

「あー、もうっ! わかりましたわよ! 紫堂さん! いつまでそこにつっ立っているんです? 早くわたくしをハグしなさいな!」

「は、はい……」

 皆の輪の中心におれ達は立ち、互いに向き合う。

「本当に、いいんですね?」

「どんと来いですわ!」

 おれは緊張しながらも彼女に近づき、そっと優しく抱きしめた。

「はぁっ……」

 おれの手が触れた瞬間にダイヤさんから声が漏れ、彼女の体温が上昇した気がした。

「ダイヤー、ダメだよー。ハグってのは互いに抱きしめて成立するんだよー」

 果南ねえちゃんの声に、ダイヤさんは慌てて身体を震わせた。

「わ、わかっていますわ! ――っ!!」

 ダイヤさんの両腕がおれの背中で交差する。そして密着するようにダイヤさんの方へ引き寄せられた。胸元に彼女の柔らかさと心臓の鼓動が伝わってくる。

「だ、ダイヤさん? 大丈夫ですか?」

 彼女の耳元でそう呟くと、彼女の身体に何かが奔ったように感じ取った。

「ひゃっ!! 耳元で喋っちゃ、だめぇ!!」

 いつもの毅然としたダイヤさんからは想像出来ない、甘く、艶をもった声色。流石にこれ以上はマズいと思い、彼女から身を離した。

「はい、ハグしたからこれでいいだろう! つ、次の王様を決めるぞー!」

 ふらふらと足が覚束ないダイヤさんを支えながら元の場所へと戻った。

「紫堂さん……」

 肩で息をしながらダイヤさんはおれにだけ聞こえるような音量で語りかけてきた。

「どう、でしたか? わたくしの、ハグは……?」

 未だ艶が抜け切らない彼女の表情に平静を装いながら笑顔で答えた。

「えぇ。とっても良かったですよ――」

 そこまで言っておれの体温は急上昇した。良かったってなんだよ! なんだか淫乱な響きがするぞ。もう少しいい答えたかがあっただろう!

 おれが後悔していると、ダイヤさんはにこりと笑ってくれた。

「当然です、素材がいいですから」

 

 

 だけど、この時のおれは知らなかった。これは、この王様ゲームの始まりに過ぎ無かったと。

 




 王様ゲーム、もといダイヤ回でした。入って来てしまった情報に、ダイヤさんが真っ黒な笑顔をしたというのを聞いて、一日書けませんでした(でも翌日には書いてたけど)。相当ショックだったみたいです。
 雑誌、ドラマCDと彼女は他のメンバーに対する呼び方が違かったりするので、「どのダイヤさんを書けばいいのだろう」とかなり迷っています。これから打ち解けていく感じでいいのかな。


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