ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「それじゃあ今日の練習はここまで! おつかれさまー!」
千歌の声で今日の練習はお開きとなった。他のメンバーもお疲れさまでしたー、と宿へと戻っていく。
「あの、紫堂くん……」
おれも荷物を片づけ旅館へと足を向けようとしたその時、声をかけられた。
「あ、さくらう――」
おれが名字を呼ぶと彼女の顔がしかめっ面へと変化する。
「――っ、梨子。どうした?」
「うんっ」
しかめっ面を解き、おれの方へ駆け寄る梨子。すると今度は申し訳なさそうな表情を見せた。
「あのね、変なお願いかもしれないんだけど、旅館に入るまでそばにいて欲しいの!」
「え?」
どういうことだ?
「ほら、入り口近くにいるじゃない。あの――」
そう言って梨子が指さす先には犬小屋があった。その前には千歌が飼っている犬、しいたけが寝ていた。
「そっか、しいたけが苦手だったんだよな」
「うん。どうもあの犬はちょっと……」
しいたけがおれ達に気づいたのか、こちらに視線を向けた。その視線にひっと息を呑むと梨子はおれの背中に隠れた。しいたけはこちらに興味を無くしたのか、首を地面に落とした。それでも梨子は怯えた表情を見せる。
「だめ、……かな?」
そんな表情見せられたら、断れるわけないじゃないですか。
「お、おれの背中でいいなら、良いぞ……?」
「あ、ありがとう……」
かくして梨子はおれの背中に隠れながら旅館へと歩き出した。旅館へと、犬小屋へと近づく度に梨子のおれのシャツを握る力が強くなった。
「うぅ、目を付けられませんように、吠えられませんように……」
が、そんな彼女の願いも空しく、しいたけはおれ達を再び視界に捉えた。
「ひっ……!」
梨子の身体が強ばり、怯えた目でしいたけを見た。当のしいたけはそのままおれ達の方へとしっぽを振りながら近づいていく。
「うぉふっ!」
そして一声吠えた。それと同時におれの身体は二方向からの悲鳴と抱擁を受けた。
「きゃあぁぁ!?」
「ぴぃぎぃぃぃ!!」
おれの視界にはワイン色の髪と、薄い朱色の髪。梨子はわかるとして、どうしてルビィちゃんまでいるんだ?
「ちょっと二人とも、落ち着いてくれ! とりあえず離れるぞ!」
その後も悲鳴をあげる二人の抱擁を受けながら、おれは犬小屋から離れた。
「梨子はわかるとしてーー」
犬小屋から離れた場所でおれは二人の女の子に向き合った。
「どうしてルビィちゃんまでいるんだ?」
「じつはルビィも犬が苦手で……」
ルビィちゃんは肩をちぢこませ、涙目でおれを見つめてくる。
「櫂先輩の後ろについていけばだいじょうぶかなって思ったんですけど…、やっぱり怖くて……」
「もう大丈夫だからね、ルビィちゃん?」
梨子がルビィちゃんの頭を撫でる。ルビィちゃんははい、と小さく呟いた。
「にしても、そんなに怖いかね。しいたけ?」
視線をしいたけに向けると、しっぽを振ってこっちを見ている。相手してもらえないのか、少し寂しそうな表情をしてる。
「多分しいたけは、遊んで欲しいだけなんじゃないか? なぁ、しいたけよ?」
おれはしいたけに近寄り、腰を落とした。しいたけはそれを肯定するかのように吠えた。
「ほらな、やっぱりそうなんだよ。怖がることないって」
おれがしいたけを撫でてみるも、二人は恐れているのかあまりいい顔はしない。
「ホント、かな……?」
「うぅ、先輩が言うなら信じたいけど……」
おれは二人に手を伸ばし、問いかける。
「二人とも、おれを信じる?」
その言葉に揺れ動く二人。真っ先に足が動いたのは意外にもルビィちゃんだった。
「櫂先輩が・・・、そう言うなら……」
恐る恐る近づき、しいたけとの距離を縮めていく。しいたけの息が届く範囲まで近づくと、少し怖じ気付く。
「ぴぎっ!」
それでも視線をしいたけへと向け、震える手でしいたけの頭を撫でた。しいたけは吠えることもなく、ただ嬉しそうにはっはと息を吐いた。
するとルビィちゃんの表情はぱぁっと輝いた。
「やったっ……、櫂先輩! ルビィ、出来たよぉ!」
嬉しそうに跳ねるルビィちゃん。おれもつい嬉しくて彼女の頭を撫でてしまった。
「ふぁあ……、せ、先輩……?」
顔を真っ赤にするルビィちゃん。しまった、また叫ばれちゃうか?
が、彼女は叫ぶことなく少しとろんとした表情でおれを見ている。
「ご、ごめん。よく出来ましたー、みたいな感じでつい……」
「い、いえ! その、嬉し、かったです……」
顔を赤らめるルビィちゃんが可愛らしくて、ついもう一度頭を撫でる。
「えへへ……」
何この小動物。何度も撫でたくなるような感情が沸き上がってくる。ルビィちゃんも嬉しそうに笑ってくれるのでなでなでのやめどきがわからなくなる。
「あ、あの、紫堂くん!」
突然梨子の声が耳に入ったのが幸いしてそれをやめることが出来た。少し残念だったけど。
「梨子?」
「わ、わたしも、しいたけを撫でて、いいかな?」
「あ、ああ。どうぞ?」
別におれの許可なんていらないだろうに。おれが許可すると梨子は恐る恐るゆっくりとしいたけへと近づいていった。
「うぅ、怖いけど……、でもっ!」
何とかしいたけの元へとたどり着き、梨子の手がしいたけに触れた。しいたけはくぅんと鳴くと嬉しそうにしている。
それを見た梨子は嬉しそうに表情を輝かせるとこっちを向いた。
「っ!! 紫堂くん! わたし、やれたよ!」
「あぁ、やったな!」
おれが言葉をかけるが、梨子はどこか物欲しそうな顔をしている。どうしたんだろ?
「梨子、どうかした?」
おれの言葉に顔をしかめる梨子。おれが困惑していると、ルビィちゃんが耳打ちしてきた。
「もしかして梨子さん、頭を撫でて欲しいんじゃないですか?」
ああ、そういうことか。あんまりそういうことを梨子が求めてくるとは思わなかった。申し訳ないと思いつつ、おれは彼女の頭を触れた。
「――っ♪」
梨子は嬉しそうに目を細めている。ワイン色のさらさらとした髪のさわり心地がなかなか良くて、梳くようになで続けた。
「ありがとう、紫堂くん♪」
彼女の満面の笑顔に、言葉を失って。梨子に声をかけようとして、おれの言葉を咳払いが遮った。
「あの、いつまで戻らないつもりですか?」
声の主は笑顔を張り付けたダイヤさん。そして一気に顔が青ざめるおれと梨子とルビィちゃん。
そしておれ達は三人仲良く、ダイヤさんの説教を受ける羽目になりましたとさ。
スレにあった言葉、「しいりこ要素しつけーよ」。しつこすぎてやめてやれという声もあったようで。しいたけとの和解(?)というエピソードを作ってみました。犬を怖がってそうなルビィちゃんも添えてみました。櫂に頭を撫でられるってことに抵抗がない時点でルビィちゃんもう櫂にかなり懐いていることになるな。
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