ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁   作:伊崎ハヤテ

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 鞠莉&果南回です。何故か二人はセットで回を組んでしまいがち。反省すべき点かもしれません。


26話 夜這いとハグと

 白い光が瞼を透過して、意識が目覚めた。外からはちゅんちゅんと鳥のさえずりが聞こえてきて、今が朝だと告げている。そろそろ曜の奴が起こしに来るんじゃないかと思ったが、ここは千歌の旅館。おれは一人部屋を用意されているんだった。合宿が始まってからあいつは一度も起こしに来なかったじゃないか。仕方ない、起きるか。

「……」

 瞼を開け、まず広がるのは、寝顔だった。さらさらした金髪がその人の頬から垂れ下がっている。

「んっ……、すぅ……」

 悩ましげな声をあげ、身じろぎする彼女。おれは目を瞑り、身体を反対側へとねじった。うん、これは夢だ。どうやら昨日の疲れが残ってたみたいだな。でなければこんなーー、小原鞠莉さんがおれの布団で寝ているはずがない。意識を壁時計の秒針の音に集中させ、時間を計る。よし、これだけの時間が経てば夢だって覚めるはずだ。目を開けて、後ろを振り返れば彼女はいないはずーー

「カイ、Good Morning♪」

 夢じゃなかったね。

「うわぁぁああ!?」

 思わずびっくりして大声をあげ、壁まで後退してしまう。そんな様を鞠莉さんは少し拗ねた顔で見ていた。

「もう、人をバケモノみたいに見ないでよ」

「寝起きにいないはずの人がいたらびっくりしますよ!」

「どうしていないって思ったの?」

「ていうかそもそもどうしておれの部屋にいるんですか!?」

 鞠莉さんはうーん、と言葉を選ぶように視線を天井へと向け少し考えると、笑顔で答えた。

「夜這い?」

「襲う気満々じゃないですか!」

 つーかもうとっくに朝だし!

「そんなことはともかく、せっかくのMorningなんだから早く起きましょ!」

 そう言って鞠莉さんはおれから毛布を引っ剥がした。そして彼女の視線はおれの下半身へと向けられた。

「カイ、これはナニかなー?」

「うっ……」

 仕方ないでしょう。これは朝の生理現象でもあり、起きがけに鞠莉さんみたいな美人さんの寝顔が近くにあったんだ。こうなるのは不可抗力だ。

「言わなくても問題Nothingよカイ。オトコノコってこうなるものだって聞いてるから。なんならワタシが――」

「ワタシが――なんですの?」

 鞠莉さんの後ろから響く、凛としていてドスを含んだ声。そして彼女の頭を鷲掴みする手。

「んまぁりさん、あなた何をしてらっしゃるのかしら……?」

 ダイヤさんが笑顔を崩さずに鞠莉さんを威圧している。威圧もなんのその、鞠莉さんは笑顔で答えた。

「夜這い!」

「よばっ……、違うでしょう! 夜這いというのは本来夜に異性の床に忍び込んでーー」

「ちょっと、ダイヤ!! 趣旨がズレてる!」

 ダイヤさんを制して松浦先輩が二人の間に割って入ってきた。

「ごめんね、かい。朝から騒がしくて。鞠莉に何かされなかった?」

「いえ、何も・・・」

「ワタシはカイをスッキリさせようと――」

「貴方は黙っていて下さいます!? 紫堂さん、朝から失礼しましたわ」

 ダイヤさんは鞠莉さんの首根っこを掴むと、そのまま引きずっていった。

「カイー♪ チャオー♪」

 引きずられてもなお、鞠莉さんは笑顔で手を振っていた。

 

 

●●

 朝の練習が終わり、少し自由な時間が出来た。私は足を入念にマッサージしてる鞠莉の隣に座った。

「もう、ダイヤったら頭がダイヤモンドみたいに固いんだから。硬度10ねアレは」

 鞠莉はあの後、一時間ほど正座させられダイヤの説教を受けていたのだ。それでも尚ダンスの練習で動きが鈍らなかったのはすごいと思う。

「でも、あれは流石に鞠莉が悪いって思うよ私は」

「もう、果南までダイヤの味方?」

「だって決めたでしょ? 寝る時間になったらかいの部屋に一人で行ったりしないって。一番行きそうな千歌や曜、一年生だってこの約束守ってるんだよ? 三年生である私たちが守らなくってどうするの?」

「果南は甘いわ!」

 びしり、と鞠莉は指を突き立てる。

「え、甘い? わたしが?」

「というか他のみんなも甘いって思うの。この合宿はね、カイの争奪戦だとワタシは思うの」

「かいの、争奪戦?」

「Yes.ワタシの見立てが正しければAqoursの大半はカイを好意的な目で見ているわ」

「えっ、どうかなぁ・・・」

 周囲を見渡し、他の面々を見る。皆思い思いに休憩していて、その中にヤカンと紙コップを持ったかいが入っていってドリンクを渡している。本当にマネージャーみたい。いや、マネージャーなんだっけ。

「見てみなよ、ドリンクを渡された時の梨子の顔。あれはもう恋する女の子の顔よ?」

 そう言われて改めて梨子ちゃんの表情に注目する。練習のせいか、少し顔が赤くなっている。でも、かいを見る梨子ちゃんを見てると、練習の疲労が無くなっているようにも見えた。

「あー、なんとなくそうかもねー」

「ダイヤの硬度10な頭のせいであんなルール作られちゃったけど、ワタシはどんどんカイにアピールするつもりよ!」

「ダイヤに怒られないようにしときなよ?」

 私が苦笑いしながら言うと、ダイヤはずいっと私に顔を近づけた。

「果南も、どうしてカイにアピールしないの?!」

「私?」

 Yes、と鞠莉は頷いた。

「果南ってば意識してなかったの?」

「え、どういうこと?」

「この間のルビィのトレーニングの時も、一番険しい顔してたよ? すぐにそれを解いて喜んでたけど」

 私が、険しい顔を? ルビィに?

「一番果南がジェラシー感じてるんじゃないの?」

 嫉妬してる? 誰に? 他のメンバーに? 皆がかいと仲良くしてることを快く思っていない?

 ううん、と頭を振ってそれを否定する。かいは私たちのマネージャーを買って出てくれた。そんなかいが皆と仲良くしたっていいじゃない。

「改めて果南に言っておくね」

 ストレッチが終わったのか、鞠莉は立ち上がってちょっと不敵な笑顔を向けた。

「ワタシはカイが好き。これだけは誰にも譲れないわ」

「それを私に言って、どうするつもり?」

 鞠莉は不敵な笑顔を解いてあっけらかんと笑った。

「どうもしないよ。それを聞いて果南がどうするかは、果南の自由だよ」

 そう言うと鞠莉はかいの方へと駆けていった。

「カイ~♪ ワタシにもドリンクプリーズ!」

「はいはい、今渡しますよー!」

 かいがヤカンの中身を紙コップに注ぎ、渡す。それを鞠莉は嬉しそうに受け取っていて。それだけの光景のはずなのに、何故か内心穏やかじゃない自分がいた。

 表情に出てたのか、かいがこっちに気づいて歩いてきた。紙コップをかいが差し出してくれる。

「松浦先輩、お疲れ様」

 松浦先輩。かいが恥ずかしいからと人前で私を呼ぶ時の名前。その呼び方が少し胸にチクリと刺さって。

「あ、うん。ありが――」

 手が滑って取りそこねてしまった。そのまま紙コップは地面へと落ち、中身の麦茶は砂利に吸い込まれていった。

「あ、ごめんなさい。もう一回注ぐ――」

「ううん。もう、いいから――」

 何故かここに居たくなくて、その場から走ってしまった。

 

 あーあ、私って不器用だな、ホント。

 

 

◇◇

「あ、いたいた……」

 練習が終わった夕方。一人手すりに肘掛け海を見つめる果南ねえちゃんを見つけた。おれの接近に全然気づいていない。これはチャンスだ。

「それっ」

「冷たっ!?」

 頬に冷たいペットボトルをぴたりとつけてやると、案の定驚きの表情を見せる果南ねえちゃん。

「この間のお返しだよ、果南ねえちゃん」

「あはは、覚えてたんだ……」

 おれからペットボトルを受け取ると、ペットボトル越しから海を見つめる果南ねえちゃん。

「何かあったの?」

「え?」

「何か果南ねえちゃん、様子がおかしかったから」

 おれの言葉に驚きの表情を見せる果南ねえちゃん。

「気づいてたの? あんまり顔に出さないようにしてたんだけど……」

「メンバーの体調やコンディションを見極めるのが、マネージャーの仕事ですから」

 冗談めかして笑うけど、果南ねえちゃんは視線を合わせてくれない。彼女の言葉が突然吹いた風に溶けていった。

 

「皆の前ではそう呼んでくれないくせに……」

 

「え?」

「かいが悪いんだよ~。皆に優しくて、気がついたら皆の輪の中のほぼ中心にいてっ!」

 果南ねえちゃんがおれの後ろを取り、腕でおれの首を締めた。

「ちょっ、痛いって果南ねえちゃん!」

「なのに、私だけ先輩呼びで、寂しいんだからっ!!」

 強い締め付けの中に混じる、涙声。久々に会った時とおんなじだ。

「ごめん、また寂しがらせちゃったね」

「もう、かいのバカ……」

 こつん、と頭を寄せられる。おれは何が出来るだろう。頭をフル回転させて答えを導き出す。改めて彼女に向き合って、その瞳を見つめた。

「よしっ、これからは皆の前でも『果南ねえちゃん』って呼べるように努力しますっ!!」

「本当に?」

 少し潤んだ目でおれを見つめてくる果南ねえちゃん。その瞳にドキドキして。

「は、恥ずかしがらずに、善処します……」

 こんなおれの頼りない返事でも、果南ねえちゃんは笑顔を見せてくれた。

「もうっ、かいのばか!」

 

 

 ●●

「果南、何かいいコトあったんじゃない?」

 翌日の練習の合間、鞠莉が私に聞いてきた。

「あはは、解っちゃった?」

「わかるよ。ワタシ、果南のストーカーだもん」

「何それ」

「ジョーダンよ。動きで解っちゃった」

「私、そんなに解りやすいかな?」

 靴を結び直し、勢い良く立ち上がった。うん、今ならもう一セット踊れそう。

「鞠莉、私なんとなく解っちゃった」

「何が?」

 彼女の問いに笑顔で応えた。

「おーっしえない!」

「自分で言っておいてソレ!?」

 戸惑う鞠莉を余所に、かいの元へ向かう。昨日と同じ様に、紙コップを配っていた。

「かーいっ、私にも頂戴♪」

「はい、まつう――」

 かいはそこまで言いかけて私と周囲を見た。皆かいをにやにやと見ている。かいは顔を赤くしながらコップを差し出した。

「どうぞっ果南先輩っ!」

 なんだそれ。善処した結果がそれ? でもまぁ許してあげます。

「うんっ、ありがと!」

 お礼にハグしてあげるとかいはもちろん、千歌たちも慌てる。

「ちょっ、かか、果南ねえちゃん!?」

「わぁ、果南ちゃんだいたーんー!!」

「ちょっ、果南ちゃん?」

「果南…、あなたまで……」

 

 昨日かいと話してわかったこと。わたしは、気軽にかいに触れ合える皆にちょっとだけ嫉妬してたってこと。そしてわたしもかいのことが好きなんだってこと。

 

 わたしは今まで触れ合えなかった分、かいを思いっきりハグした。




 鞠莉回のはずが果南回にシフトしてしまった。どうしてこうなった。
 私事ではありますが、少し旅行に行ってまいります。その間投稿は止まってしまいますが、原稿を書き溜めておこうと思います。ですから、気長にお待ち下さいませ。

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