ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
俺「やりました、やったんですよ必死に! 手札とパワー、ダメージ管理と情報量が多大すぎるんですよ! いまやっと互いにグレード2ですよ!俺にどうしろっていうんですか!」
櫂「いや、小説書けよ」
やっと書きたかった梨子ちゃんとのイベント。
「千歌の奴、どこいったかな・・・」
おれは千歌の家である旅館内をさまよっていた。ダイヤさんが曲のことで相談したいことがあるらしい。
「いるとしたら、ここか?」
おれは千歌の部屋の前に足を進めた。早く千歌の奴を見つけないと、おれがダイヤさんに睨まれちまう。
「千歌、いるか? ダイヤさんが呼んでーー」
そう言っておれは千歌の部屋の戸を開いた。が、そこにいたのは千歌ではなかった。
「ーーっ!?!?」
そこにいたのは桜内さんだった。しかもタイミング悪く着替え中だったようだ。今の彼女は上下の下着だけの姿だったのだ。彼女らしい桜色の生地に、ワイン色のちっちゃなリボンが上下両方につけられていて、とても可愛らしかっーー
「いっ、いやぁぁぁぁあ!!」
彼女の悲鳴と共に、ぬいぐるみやら枕やらがおれの顔面へと吸い込まれていった。
●●
「あ、梨子ちゃん!」
「曜ちゃん・・・」
ダンスの練習も終え、休憩に入った時。私は梨子ちゃんを見つけると彼女の隣に座った。
「どうしたの、曜ちゃん?」
「梨子ちゃんさ、櫂と何かあった?」
「えぇ!?」
梨子ちゃんは身を震わせて驚いた。やっぱりなんかあったみたいだ。
「何かあったっていうか、その、あの・・・」
顔を真っ赤にしてあたふたする梨子ちゃん。櫂のやつ、なにやらかしたのやら。
「何があったかこの曜ちゃんに話してみてよ? 私が櫂をビシっと懲らしめてあげるからさ!」
私の言葉に少し安心したのか、梨子ちゃんはことの詳細を説明し始めた。
「き、着替えを覗かれたぁ!?」
「よ、曜ちゃん! 声が大きいよぉ!」
私の大声に、何人かが振り返った。おっといけないいけない。身を屈め、小さな声で梨子ちゃんとの会話を続ける。
「ホントに? ホントに覗かれちゃったの?」
梨子ちゃんは顔を真っ赤にして頷いた。
「櫂の奴!」
思わず立ち上がって拳を握った。私だって、覗かれたことないのに。いやいや、覗かれたいって思ってるわけじゃないけど!
「紫堂くんは悪くないの! 全く悪くないわけじゃないけど・・・」
梨子ちゃんの話によると、櫂はすぐさま謝ってきたみたいだった。でもーー、
「どうしてすぐ謝ってるのに、許さないの?」
「うーん、なんていうか・・・」
頬を掻いて視線を空へと向ける。櫂とのやりとりを思い出したのか、少し眉を顰めた。
「覗かれたことは、すぐに謝ってくれたからいいの。でも・・・」
「でも?」
「つまんないことなんだけどね、紫堂くんずっとわたしのこと「桜内さん」って呼ぶの。それが・・・」
「それが許せないってこと?」
梨子ちゃんが頷いた。そっか、ここのメンバーのほとんどは櫂に名前で呼ばれてるもんね。梨子ちゃん、それがちょっと不満なのかな。
「変かな? こんなことで怒ったままなんてーー」
「全然変じゃないよ!」
「え?」
「そういうことならこの渡辺曜にまかせなさーい!」
私はそう言うと、スマホを取り出した。
◇◇
「本当か、曜?」
おれが桜内さんへの謝罪に失敗して何時間経っただろうか。突然曜から電話が来た。どうやら彼女によると桜内さんはおれと千歌が初めて彼女と会ったあの桟橋にいるらしい。
「うん。また曲のヒントが欲しいからってさっき出て行ったよ」
そうか。ならそこでもう一回謝ろう。誠心誠意の謝罪なら許してくれるはず!
「櫂、梨子ちゃんにちゃんと謝るんだよ? 事故とは言え、覗きは犯罪なんだからね」
「桜内さんに、聞いたのか?」
「まぁね。このことは皆には言わないであげる。 さ、早く行った行った!」
「サンキュー!」
おれは通話を切ると、走り出した。
●●
「・・・・・・」
私は廊下で一人、通話の切れたスマホを見つめていた。そして少し強くそれを握りしめた。
「なにやってんのかなー、私」
放っておけばいいのに。これ以上誰かと櫂の距離が近くなることを望んではいないはずなのに。それでもなんとかしようと行動しちゃったのは、梨子ちゃんと櫂が、それ以前に大切な友達だからだ。
そう思って行動したはずなのに。いざ行動した後に少し残っちゃう後悔。私ってイヤな子だ。
「どうしたの、曜」
ふと優しい声がかけられた。その方へと視線を向けると、果南ちゃんがいた。
「果南ちゃん・・・」
「何か、辛そうな顔してるよ?」
私が何も言えないでいると、果南ちゃんは両腕を広げてきた。
「おいで、ハグしてあげる♪」
昔はイヤなことがあると、よく果南ちゃんにぎゅってしてもらったっけ。私は何も言わずにそこに吸い込まれるかのように彼女に抱きついた。
「よしよし、曜も甘えんぼだね」
「ごめん、果南ちゃん。私ーー」
「言いたくないなら言わなくてもいいよ」
それが嬉しくて、涙が出ちゃうな。でもなーんか悔しいな。恐らく梨子ちゃんと仲良くなってるであろう櫂を、ぎゃふんと言わせてやりたい。そんないたずら心がむくむくと膨らんだ。
「あのね、果南ちゃん。櫂の奴がねーー」
◇◇
いた。本当にいた。夕日が沈もうとして、空が暗くなり始めた、初めて会った時と似たような時間帯。桜内さんは出会った時と全く同じ場所に立っていた。
「ここ、本当に綺麗な場所だよね」
おれに気づいたのか、桜内さんは振り返らずにしゃべり始めた。
「初めてここにいた時は案が浮かばずに煮詰まってたから、ここの景色に気づけなかった。紫堂くんたちに出会えたおかげだね」
「おれは何もしてないさ。千歌がそうさせたと思うぞ。千歌が桜内さんを変えたおかげで、ここの景色に気づけた。そういうことなんじゃないかな」
「そうかなー?」
「たぶんそうさ」
そして途切れてしまう会話。ただ波の音がおれ達の間を駆け抜けてゆく。謝るなら今しかない! おれは彼女に向き合い頭を下げた。
「桜内さん、ほんっとうにごめん! 覗くつもりじゃなくってーー」
ぽこっ。
小さく、それでいて弱いげんこつがおれの頭へと振り下ろされた。
「桜内さん?」
きょとんとしているおれに桜内さんは笑いかけた。
「これはその覗きの分。でもまだ許してあげませんっ」
「じゃあどうしたらーー」
「名前」
「え?」
「わたしのこと、これからは名前で呼んだら許してあげますっ。前々からわたしだけが名字呼びなのはずるいと思ってたの」
「そんなことで、いいのか?」
おれが首を傾げていると、桜内さん少しむくれた顔ではびしりとおれに指を突き立てた。
「紫堂くんにとってはそんなことでも、わたしにとっては大事なことなのっ。出来る?」
「で、出来ないことはないけど・・・」
なんか、改めて名前を呼ぶってのは緊張するな。
「り、梨子、さん・・・」
まだ彼女の不機嫌そうな顔は直らない。
「千歌ちゃんや曜ちゃんは呼び捨てでしょ?」
「わ、わかったよ。り、梨子。これでいいだろ?」
「もう一回」
「梨子」
その言葉に満足したのか、梨子は笑顔を向けて両手を合わせた。
「はいっ。オッケーです♪」
その笑顔が沈みゆく夕日に照らされて、魅力的だった。なんか彼女にずっと主導権握られっぱなしだな。いやもとはおれが原因なんだけど。だからこんな提案をしてみることにした。
「じゃあさ、梨子もおれのこと呼び捨てにしてくれよ」
「えっ!?」
おれの提案が予想外だったのか、驚きの表情を見せる梨子。気のせいか、夕日よりも真っ赤な顔をしてないか?
「そ、それは、その・・・」
「櫂ちゃんのえっちー!」
梨子が戸惑っていると、突然誰かの声が響いた。視線をそこへ向けるとオレンジ髪の元気娘がおれめがけて突進してきた。
「ち、千歌ちゃん!?」
「櫂ちゃん! だめだよ! 梨子ちゃんが可愛いからって着替えを覗いたりしちゃ!」
「ち、ちがっ! あれは事故だってーー」
「言い訳は聞く耳ありませんわ!」
おれの言葉を遮る、凛とした声。そちらへと視線を向けるとダイヤさんがすごい剣幕でにらみつけていた。
「紫堂さん、貴方はそんなことする人ではないと思ってましたのに、見損ないましたわ!」
「カイったらひどいわ! そんなに着替えがみたいならワタシが見せてあげたのにー!」
「鞠莉さんは黙ってて下さいます?」
「櫂先輩、そんな人だとはルビィ思ってなかったです・・・」
「ふむふむ、紫堂先輩は覗き魔と・・・」
「ヨハネのリトルデーモンにあるまじき行為だわ、シドー! 今ここでゲヘナの焔で焼かれるがいいわ!」
「かい、流石に覗きはいけないと思うよ?」
どうやらAqoursのみなさんどうやら勢ぞろいのようで。でもなんでここに?
ふと視線を曜へと向けた。おれの視線に気づくと曜はぺろっと舌を出した。あいつ、おれを売ったな!?
「そんな櫂ちゃんにはお仕置きだー!」
千歌の鶴の一声に、襲いかかる8人の美女。おおう、これが桃源郷か。ってそうじゃない!
「り、梨子! 皆の誤解を解いてくれ!」
梨子に助け船を求めるが、彼女は申し訳なさそうにちょっと不器用にウィンクした。
「ごめんね、紫堂くん♪」
その後おれはめちゃくちゃ滅茶苦茶にされた。あとで梨子が誤解を解いてくれたけど、一日近くメンバーからは距離を置かれましたとさ。
●●
ごめんね紫堂くん。まだあなたのことは名前では呼べません。あの後、一人で呼び捨てにする練習をしたんだけど、すっごく恥ずかしくて出来なかったの。だから、名前で呼ぶのはあなたへの気持ちを伝えてから。あなたがわたしの気持ちに応えてくれたときにとっておきます♪
前半が曜ちゃん、後半が梨子ちゃんメインになってしまった。なんだこれ。なぜここまで曜ちゃんが出てくるようになった? 一番混乱しているのは作者自身かもしれない。櫂と曜の距離がすっげー近い。家も隣同士だからかな。櫂にとって一番相談や話しやすい相手なのかもしれない。
そしてこれは完全に失敗だったのかもしれないけど、「櫂」と「曜」、漢字が似てるからたまに混乱するんだよなぁ・・・
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