ラブライブ!サンシャイン!! Another 輝きの縁 作:伊崎ハヤテ
「あ、かーいっ!!」
学校からの帰り道、曜は俺に気づくと手を振ってきた。彼女の脇には俺の自転車。曜の奴、また自転車借りていったんだよな。
「お前な、俺の自転車借りるならもっと早くに連絡しろよ」
「だって、櫂が起きるのが遅いんだもーん」
舌をちらと出す曜を見て、それ以上俺は言及する気が失せてしまった。
「まあいい。そういや千歌は?」
「んー、『今日は一人で帰るから曜ちゃん先帰って』だってさ。どうしたんだろ?」
ふと、昨晩の事を思い出した。もしかして恥ずかしくて俺に顔を合わせられないのか? まさか、千歌に限ってそんなことないか。
「んじゃ櫂、一緒に帰ろ!」
そう言うと彼女は自転車の後部に腰掛けてサドルを叩いた。
「たまには曜が漕いでくれよ」
「いーじゃん、私水泳部の練習で疲れてるんだからさー!」
ジタバタと足をバタつかせる曜。こいつ、俺の前だけすっげーわがままになるんだよな。
「はいはい、では出発しますよ、お嬢様」
「うむ、良きに計らえ。ヨーソロー!」
「お嬢様なのか船長なのかハッキリしろよ」
俺はペダルに力を入れて漕ぎだした。
もうこの時間になると下校時間な訳で。制服の女子高生がまばらに通学路を歩いている。そんな中俺たちは二人乗りの自転車で突っ切っている。女子生徒からの視線を感じる。二人乗りで帰ることもあれば、三人で歩いて帰ることもしてるから視線はあんまし気にならなくはなった。でも千歌との一件があったせいか、今日は妙に意識してしまう。俺は後ろの曜に問いかけた。
「曜はさ、二人乗りで下校とかに抵抗とかないのか?」
「ん? どうして?」
「どうしてって、学校で変な噂とかされたりしないのか?」
「んー、確かにうわさ話になったことはあるかな」
やっぱりあるんだ。花の女子高生ですものね。恋バナの一つや二つくらいしますよね。
「でも、何度もこうやって帰るとこ見られ続けたら皆慣れちゃったみたいでね、もう今では櫂はお迎えの馬車みたいに思われてるよ」
「確かに他人から見ればそうかもしれないな」
「それとね、櫂は千歌ちゃんとも一緒に帰ることあるじゃない? そのせいか、浮気者の馬車って呼ばれてたりするよ~」
「はぁ?!」
流石にそれは洒落にならん。
「んー、そんな噂が立つならもうこれ辞めようかなぁ」
「えー! イヤだよ!」
俺の言葉に曜が身を寄せてくる。
「どうしてだよ? お前らには迷惑かけないだろう?」
「だって……」
曜はぽすっと俺の背中に顔を埋めた。何か言っているようだが、聞き取れない。
「とにかく! イヤだよ! 迎えに来てよー!」
「うわっ! 後ろで暴れんな!」
俺はグラついた自転車の軌道を何とか戻しながら帰り道を走った。
そんなこんなで家までたどり着いた。俺と曜の家は隣同士で、よく昔は遊びに来てたな。今でも俺を起こしに来るけど。
「あー、喉乾いたなぁ。櫂、なんか飲み物買ってきてよー」
「俺はお前のパシリじゃないっての」
「いいからぁ~はーやーくー!」
駄々をこねる曜にため息をつきながらも俺は近くの自販機へと足を向けた。最終的には従ってしまう自分が少し情けないような、でも何故か嬉しいような。
「ほれ、カルピス」
ペットボトルを投げ渡すと、曜は嬉しそうにそれを喉に通した。
「ぷはぁ~、おいし~♪」
「それならなにより」
しかし俺も二人乗りしたせいか、少し喉が渇いたな。何か買ってくるか。
「櫂」
ほら、と曜がペットボトルを差し出してきた。
「櫂も自転車こいで疲れたでしょ? 飲んでいーよ」
「あ、あぁ……」
ちょっと待て。これって間接キスだよな? あいつ、コレに口付けたよな?
視線が曜の唇へと向いてしまう。水分をとったせいか、潤った唇はリップを塗ったように程よく光を反射している。それが妙に色っぽくて。微かに手が震え、心臓の音がドクドクと木霊する。飲んじゃう? 飲んじゃうのか俺?
「なーんちゃって! はい時間切れ~」
俺がいざ飲もうとすると曜はそれを奪い取り、カルピスを飲み干してしまった。からかいやがったなこいつ!
「もういい。自分で買う」
俺は肩を落として再び自販機へと向かった。残念だなんて思ってない。思って、ない……。
「あ」
後ろで曜の声がスマホのバイブ音と共に聞こえた。俺はそれを無視しながら飲み物を選ぶ。
「ねぇ、櫂」
「んー?」
気のない返事で返す。今日は緑茶でも飲もうか。
「お父さんとお母さん、今日帰ってこれないって」
「は?」
そう言うと彼女はにこりと笑顔を向けた。
「だからさ櫂、今日櫂のウチに泊まらせて?」
ガコン、と自販機が緑茶を落とした。俺はそれを拾わず、ただ曜を見つめていた。
絶対曜ちゃんは好きな子には積極的にからかうけど、内心すっげードキドキしてるタイプだと思う。てゆーかそんな彼女が見たい。そんな曜ちゃんとの薄い本、期待しています。