捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
「あ、比企谷君。ちょっといいかな」
「……おう」
生徒会副会長の本牧が話しかけてくる。ここ最近は、特に珍しくもない出来事だ。とはいえ、話す内容は生徒会活動がほとんどだが。
本牧はまだ幾分、遠慮の残る口調で話を切り出す。
「次の定例会議なんだけど……」
「ああ」
今は生徒会庶務をやっていて、さらにどこから漏れたのか、国語の成績が学年1位という事もある程度知られているせいか、クラス内での何かが変わった気がする。その何かは気のせいではなく、かといって説明もできない。
俺達は必要最低限のやりとりで、会議の日時と内容の簡単な打ち合わせを済ませた。
「それじゃ、よろしく」
「ああ」
本牧は颯爽と階段を降りていった。案外、書記さんとデートかもしれない。あの二人、隠してるようでわかりやすいし。
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「ヒッキー」
下駄箱まで歩いていると、今度は由比ヶ浜が声をかけてきた。だがいつもの緩い感じはなく、シリアスさを滲ませた表情をしている。
「どした?」
それには気づかないふりをして、平静を装いながら返事をした。
「ちょっといい?」
その声音の持つ固い空気からして、どうやら断れる空気じゃないようだ。
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図書室の人気のない場所まで行くと、由比ヶ浜は鞄から何かを取り出す。
「あの……これなんだけど」
何やらパンフレットらしき冊子を、開いて見せてきた。そのページを訳も分からぬまま覗き込む。
「ん?…………は!?」
目の覚めるような気持ちで、開かれたページの片隅を、もう一度確認の為に見返す。
そこには、この前の結婚式場でのイベントの後に撮影された写真が載せられていた。
……そういやすっかり忘れてた。
「うちのお母さんが、知り合いの結婚式に行った時にもらってきたパンフレットなんだけど……あの……これって……ヒッキーだよね?」
髪形もセットされて、普段着ることのない服を着ているので、ただのクラスメイトとかならば分からなかったかっただろう。それに、このパンフレットは利用客にしか渡さないらしいから、知り合いの誰かに見られる可能性は限りなく低いと思ってた。まあ見られても色々と言い訳はできるのだが……
「ああ…………」
由比ヶ浜は質問の形式をとってはいるが、何かについての確信があるようだ。なら誤魔化す時間が勿体ない。だからここは肯定して、由比ヶ浜の言葉を待つ。こういう事をいたずらに言いふらす奴ではないので、そこは安心している。
「もしかして……付き合ってるの?」
「……ああ」
「……そっか」
由比ヶ浜は俺の言葉を確認するように、パンフレットの写真に目を落とす。その目に憂いの影を見た気がした。
「知り合いだったの?」
「2年に上がる前だ」
「……じゃあ、私より早いんだね」
実際には、由比ヶ浜とは入学式で出会っているが、その頃は知り合ってはいない。だから、その言葉は正しいのだろう。
由比ヶ浜は窓の外に目をやり、ぽつりと呟いた。
「ヒッキーが花陽ちゃんと、か……なんか不思議」
「俺もそう思ってる」
「でも、最近変わったもんね……ヒッキー前よりずっとかっこいいもん」
「…………」
ストレートにそう言われると、どう反応していいかわからない。きっと言われ慣れてないからだろう。
「ヒッキーが変わったのって、花陽ちゃんのため……なんだよね」
「……ああ」
由比ヶ浜は顔を伏せ小さく「そっか」と呟き、パンフレットをパタンと閉じる。
そして、すぐに顔を上げ、朗らかな笑顔を見せた。
「ヒッキー、おめでとう」
「……ありがとう」
「あ、別に誰にも言ったりしないから!私、口固いから!」
「……知ってる。それよか部活はいいのか?」
「あ、やば!ゆきのんに怒られる!」
そう言ってバタバタと鞄を持ち、駆けだしていく。
「ヒッキー、じゃあね!また明日!」
「……ああ、じゃあな」
由比ヶ浜は振り返る事なく廊下を走り、角を曲がったので、その背中はすぐに見えなくなった。
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