捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女   作:ローリング・ビートル

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 田中あすか先輩の眼鏡無し、水着姿が素晴らしい!

 それでは今回もよろしくお願いします。


インディゴ地平線

 俺と戸部は海老名さんに連れられて、駅の近くの喫茶店に入った。正直、何を要求されるのだろうか、という不安と、戸塚が材木座と二人っきりでいる内に、何か変な事されるんじゃないか、という不安がない交ぜになっていた。

 

「あのさ……」

 

 海老名さんが重々しく口を開く。

 

「二人って最近一緒にいるけど、やっぱり……修学旅行の件があってからだよね」

「…………」

「…………」

「その……私……」

 

 おそらく、海老名さんから見れば、俺が戸部に彼女や葉山から依頼された事を話して仲良くしているようにも思えるかもしれない。たまに教室内での葉山グループを見ていると、必要以上の愛想笑いが見て取れる。だとしたら、これは俺のミスだ。さて、どうしたものか。どう彼女を言いくるめるか。

 

「あー、違うって!」

 

 考えていると、戸部がいつもの軽薄なノリで割って入ってきた。

 

「何つーかさ。俺、変わりたくなったんよ」

「戸部っち……」

 

 普段の戸部らしからぬ言葉に海老名さんは目を丸くする。運ばれてきたコーヒーにも気づいていないようだ。

 

「いや俺さ。何も自慢できるもんねーじゃん?今まではそれでいっかなーって思ってたけど、ヒキガヤ君見てたら、俺も変わりてーなって……」

「…………」

「だからさ。俺、ちゃんと変わって、海老名さんが心を開いてくれたら、もっかい告白する」

「戸部っち……私……待ってるとは言わないよ?」

「いいんだよ。ただ俺が変わりてーってだけだから」

「そっか……」

 

 彼女はこちらに申し訳なさそうな瞳を向ける。

 

「ヒキタニ君……ヒキガヤ君、ごめんね。奉仕部辞めたのって私のせいでしょ?」

「ちげーよ。生徒会入るから辞めたんだよ」

「……私も、変われるかな」

 

 海老名さんは目を伏せ、カップの中のコーヒーをしばらく眺めてから、しばし瞑目した。そして、数秒間閉じられた目がゆっくりと開き、こちらに向けられる。その目は少し潤んでいるように見えた。

 

「戸部っち……すぐには無理だけど……私も、少しずつ、変わっていくから」

「おーう」

 

 相変わらずの軽いノリだが、だからこそ、そこには戸部なりの気遣いが見て取れた。

 海老名さんは一息ついてから、何かを取り払ったかのような顔つきで、俺に向き直る。

 

「ヒキガヤ君、ごめんなさい」

「いや、謝られるような事は何もねえよ。俺が自分で決めた事だ」

「あ、ヒキガヤ君!そろそろ時間だべ!」

 

 戸部がスマホの画面を見せてくる。

 

「ああ、行くか」

「じゃあ、彼女によろしくね」

 

 唐突かつ衝撃的な発言に足がピタリと止まる。

 

「は?」

「いや、あんな公衆の面前で……ねぇ」

 

 海老名さんは、顔をじんわり赤く染めながら、からかうような笑顔を見せてくる。まあ、そりゃそうだ。戸部にも見られてるわけだし、他の誰にも見られていない保障などどこにもない。

 

「まあ、あれだ……黙っててくれたら助かる」

「了解。じゃあ私はここで友達を待ってるから」

「おーう。そんじゃ海老名さん、また学校で!」

「うん、またね。戸部っち、ヒキガヤ君」

「行こうぜ!ヒキガヤ君」

「あ、ああ……」

 

 こいつ、案外かっけーじゃんか。軽いけど。

 さて、そろそろ戸塚を材木座から救い出して、花陽のアイドル姿を目に焼きつけますか。

 店の外に出ると、空の青さがさっきより澄み渡って見えた。




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